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第15話:人生初めての試合

「ねえ、見て!城田君、スタメンだよ!」

「うん!本当だ!」

「おお、1年生最速レギュラーだ。」

「すご~い。」


 各チームの選手入場。白麟学園の選手で一番最後に出てきたのが城田君だった。


「本当にスタメン勝ち取るなんてすごいね。ねえ、美羽。」

「うん、本当に…。城田君、かっこいい…。」

「美羽、心の声漏れてるよ(笑)。」

「えっ!うそ!?恥ずかしい…。」

「もう、照れる美羽もかわいい。」

「ちょっと、ひなたちゃん、いきなり抱き着かないで~。」


「ねえ、美羽。」

「なに、凛ちゃん。」

「美羽って、その…。城田君と付き合ってるの?」

「えっ…。別に付き合ってるわけじゃない…。」

「そうなんだ…。じゃあ、まだ私たちにもチャンスはあるわけだね。」

「えっ…。うん…。私は別に…。その…。」

「でも、美羽はもう城田君とデートしてるから一歩リードだよね。」

「ちょっと、ひなたちゃん。別にあれはデートというわけじゃ…。」

「違うの?」

「違わ…ない、かな…。」

「そうなんだね。じゃあ私たちも負けてられないね。美月。」

「そうだね~。」

「その…、二人は城田君のこと…、好きなの?」

「もちろん。だって頭良くて運動神経もいいし、かっこいいと思うよ。」

「私もそう思う~。」

「美羽は城田君のこと、好きじゃないの?」

「えっ…、私は…」


 その時、ピィ!と試合開始の笛が鳴った。ボールは3年生の寺田先輩がジャンプボールを制して、うちのボールから始まった。


「とりあえず、いまは応援しよう。ねえ、美羽。」

「うん、そうだね…。」


 凛ちゃんの言葉で、自身の内に芽生えた不安。そして彼女の言葉で、その不安は大きくなった気がした。


―――――


 コートに入場した時、体育館がいつもより広く感じた。天井の明かりもいつもより眩しく感じ、思わず目を細めてしまった。

 初めての実戦ということで自身が緊張しているのは明らかだった。まだバスケを始めたばかりの初心者の私が、このメンバーでスタメンを勝ち取ったことは嬉しかったが、それはそれでプレッシャーだった。

 試合前、今井部長は「そんなに緊張せずに、いつも通りやればいい。」と激励してくれたが、「あ、そうですか。」と簡単に考えられるはずもなかった…。


 転生補正で基本的な身体能力や地頭の良さは上昇していることは間違いが、精神的な部分は変わっていない気がする。その証拠に、前世で未経験のことには対応力というか、臨機応変能力が乏しい気がする。まあ、それが一般の人生では普通のことなんだろうが…。変に前世の記憶と経験があると、そのあたりが曖昧というか変な気分になることがある。


 だから、この前桜井さんと出かけた時も、最初は緊張していた。当然、こういう部活での試合経験も、前世では味わったことがないため、いまも緊張し続けていた。


 そんな時、ふと2階の座席を見渡すと、桜井さんを見つけた。他に紺野さん、倉本さん、和知さんの姿もある。応援に来てくれたんだと、素直に嬉しく思った。普通こういう時は、「かっこいい姿を見せるぞ」と舞い上がるのかもしれないが、何故かその時は安心した。とりあえず自分にできることをやろうと思った。


 試合開始の合図が鳴って、ハッと我に返った。ジャンプボールは寺田先輩が制してくれた。さすがバスケ部一の高さを誇る寺田先輩である。


 とりあえず、試合前にミーティングした通り、マークを指示された敵チームの前に立つ。身長は同じぐらいだった。向こうは先輩だろう。何となく試合に場慣れしている印象を受けた。直後、こちら側の手にあったボールがカットされ、その選手にボールが渡った。敵チームのベンチから「鳥居先輩、いけー!」という声が聞こえた。


 鳥居は何とかこちらをドリブルで抜こうとする。こちらも必死でディフェンスに徹する。基本に忠実に。


 相手が左側から抜こうとした時、咄嗟に手が出て、気付いた時はボールを取り返していた。ボールを掴み、コートを見回すと、すでに武川先輩がゴール前に走り出していた。先輩をマークしていた選手は、それに追い付いていない。直感的に彼にボールをパスすべきだと感じた。ディフェンスに回った鳥居をフェイントで抜くと、そのままボールを一直線に武川先輩にパスした。先輩はそのまま、レイアップでチームの最初の得点を上げた。


―――――


 第1クォーターと第2クォーターの前半戦が終わり、スコアは40-22でこちらが有利に試合を進めている。私と鳥居がミスマッチなのか、相性が良くないのか、こちらが抜き、チャンスを作りやすいとわかった時、今井部長たちは、こちらにパスを渡すことが多くなった。それを私が捌き、武川先輩が得点に繋げるという流れができつつあった。


 現在はハーフタイム中。


「後半もこの調子で行くぞ。城田が上手い具合にチャンスメーカーになってくれるおかげで、全体的に攻めやすい。まだどこまで通用するのかわからないが、しばらくはこの流れで行く。監督何かありますか?」

「ああ、特にはない。今回ははっきり言って勝って当たり前の試合だからな。だけど、城田。もし行けそうなら、自分で攻めに行ってもいいからな。」

「はい、監督。がんばってみます。」

「よしっ!後半も行くぞー!」

「「「「「おうっ!」」」」」


―――――


「城田君、結構活躍してたんじゃない?ねえ、美羽。」

「うん。そうだね。」

「何かチャンスメーカーっていうの?彼が中心になって、試合が進んでいたみたい。」

「やっぱり、城田君って運動神経いいんだね。この試合のせいでまたファンが増えそう。」

「ねえ、凛。城田君ってやっぱり結構モテるの?」

「そうだよ、ひなた。結構ファンが多いんだよね。だって勉強も運動もできるし、男子の中でも大人っぽいし。聞いたところによると、先輩たちの間でも密かに噂になっているみたい。」

「そうなんだ。こりゃライバル多そうだね。」

「そうなんだよ~。書道部の部員からも『城田君ってどんな感じ?』って聞かれることあるし~。」

「そうなの?だって、美羽。」

「えっ、あ、うん…。」

「どうしたの?何か元気ないね。調子わるい?」

「いや、そんなことないよ。」

「そっか…。」

「あっ、そろそろ後半戦始まるよ。」


 凛ちゃんの声にコートを見る。だけど、せっかく彼の応援に来たのに、素直に応援できない自分がいて、少し戸惑いを覚えていた。


―――――


 後半戦、第3クォーターが始まった。こちらは前半戦と同じように、私にボールを集め、チャンスを作り出す作戦。私をマークする相手は変わらず鳥居という選手だった。


 それならと、何とかチャンスを作り、武川先輩にボールを回す。さすが、スコアラーということだけあって、先輩の得点決定率は高い。相手の守備の隙をついて、立て続けにゴールを決めていた。


 監督に言われた通り、私も自身で攻めてみた。相手はそれを想定していなかったらしく、ディフェンスが遅れていることは明白だった。そこをドリブルで駆け抜け、レイアップで決めた。これが自身初めての得点となった。


 その後も一方的にゲームは進んでいき、結果として82-41というダブルスコアでこちらが勝利して、自身初の試合は幕を閉じた。監督と部長からはお褒めの言葉を頂き、「次回も期待してるから、これからバシバシ鍛えていくぞ」と少し怖い言葉も頂いた…。


 何はともあれ、初めての試合で、大きなミスをしなかったことに安心した私であった。

読んで下さり、ありがとうございます。


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