第12話:桜井さんと映画へ③
映画編 完結です。
「ちょっと、他人の彼女に何してるんですか?」
トイレから戻ると、彼女が知らない男子に囲まれていた。全員金髪の男子。私たちと同年代くらいだろうか…。他人を見た目で判断するのは良くないことなんだろうが、あまりいい印象を持てない人たちだった。
その証拠に彼女はとても困惑しているようであり、怯えているようでもあった。おそらくナンパ目的で声をかけ、無理矢理連れていこうとでもしたのだろう。すでに男子の一人は、彼女の荷物に手をかけていた。
「誰だ?お前?いまいいところなんだから、邪魔するな。」
「誰って…。そこの彼女の彼氏です。とりあえず彼女から離れてもらえますか?」
「ああっ?彼氏だ?なんだお前?彼女の前だからって、いいかっこでも見せようとしてるのか?さっさと行かねーとひどい目に遭うぜ。」
ああ…、ラノベでもこんな展開あったな。だけどここまでテンプレ的なやつは初めてだ。正直言って面倒くさい。さすがに彼女置いて逃げるわけにもいかないので、ここは引き下がれない。
「彼女、嫌がってるでしょ?さっさとどこか行って下さい。」
「おいおい。こいつ、俺らの言うことがわかってねえみたいだぜ。なあ、どうするよ?」
「しょうがねえから、やっちゃう?こんな図体デカいだけのやつ1発KOでしょ。」
こんなところで騒ぎを起こして問題になると考えないのかね…。やだね、最近の若い奴は…。まあ、私も若いけど。
「おい、お前。これが最後だぜ。早くどこか行きな。」
「丁重にお断りします。」
「だってよ、じゃあ、これで死ねや!」
「だめっ!逃げて、城田君!」
真ん中の金髪男子から拳は繰り出されてきた。しかし、私はその手首を掴み、力強く捻った。転生補正の効果なのか、こういう時も運動神経が役に立つらしい。もしかして、喧嘩したら強いのかな。まあしないけど…。
「いててててて!てめえ、何すんだ!」
「何って、先に手を出したのはそっちでしょ?」
「おい、お前ら助けろ!」
その言葉に右手にいた金髪男子が向かってくる。私は手首を捻っていた男子を、そのままそいつに投げ返し、そのまま激突された。二人はその衝撃で床に倒れ込む。左側の男子を見ると、それにビビったのか、我先にと逃げようとした。
「おいっ!荷物は置いていけっ!」
「は、はいっ!」
私の恫喝にビビり、彼は真っ先に逃げ出した。それを見た、他の二人も一目散に逃げ出した。さすがに「覚えておきやがれっ!」的なことは言われなかったけど…。
彼らに落とされた荷物を拾い上げ、怯えていた彼女に近付く。
「桜井さん、ごめんね。ひとりにさせて…」
そう言い終える前に、彼女が私を抱きしめてきた。自分の胸の中で震えている。私は彼女の背中をそっと抱きしめた。
「本当にごめんね。怖かったよね…。」
「うん…、とても怖かった。だけどね、城田君が来てくれてとても安心した。」
彼女は顔を上げて、少し笑みを浮かべてそう答えた。まだ瞳には涙が溜まっていた。私はその涙を右手でそうっと拭いた。
「もう大丈夫だからね。」
「うん。ありがとう。城田君、とてもかっこよかったよ。」
「そう?」
「うん。それに私のことを『彼女』って言ってくれたよね?」
「えっ…!いや、それは言葉の綾というか、何というか…。」
「もうっ、そんなに否定しなくてもいいじゃない。」
「いやっ…。桜井さん嫌かなと思って…。」
(ううん、嫌じゃないよ…。)
「えっ!何か言った?」
「ううん。大丈夫。何でもない。」
「そうか。それよりも、そろそろ離れようか…。何か目立ってるっぽい…。」
「えっ!?あっ!ごめん。」
「いや、大丈夫。」
彼女は謝りながら、私から離れた。彼女は目立ったのが恥ずかしかったのか、もしくはまだ怖いのか、その頬は赤くなっていた。だけどその笑顔から察するに、恐怖心は払拭されたようだった。
「今日はもう帰ろうか…。また絡まれても厄介だし…。」
「…そうだね。気付いたら、もういい時間なんだね。帰ろうか…。」
帰り道は特にお互い話をすることはなかった。だけど、それは何も二人でいるのがつまらないというわけではない。お互いにさっきまで抱きしめ合っていたことに、今さらながら恥ずかしい気持ちになり、何を話せばいいかわからなかったのだ。
「送ってくれてありがとう。今日は楽しかった。」
「ううん。俺も楽しかった。また休み明けに学校でね。」
「うん。ねえ、城田君…。」
「なに?」
「えっとね…。また、こうやって一緒にお出かけしてもいい?」
「うん、もちろん。いつでも行こう。」
「うん!!ありがとうね。じゃあ、またね。」
「うん。じゃあね。」
私は彼女を無事に見送り、帰宅の途についた。
―――――
今日は朝からそわそわしていた。ううん、昨日から落ち着きがなかったと思う。お母さんからも「そんなにそわそわしてたら、彼に笑われるわよ。」って言われた。
今朝はお母さんにも手伝ってもらって、身支度を整えた。お母さんから「うちの娘をこんなに可愛くするのは、どこの誰かな~。」とからかわれ、朝から顔が熱くなってしまった。
少し早めに待ち合わせ場所に向かうことにした。やっぱり早く彼に会いたいと思っていたのだろう…。だけど、すでに彼が待っていた。後姿で彼だってわかる。待たせちゃったかなと、ちょっと不安になった。
「城田君、お待たせ。ごめんね、待たせちゃったかな…?」
そう言うと、彼は振り返ってしばらく黙り込んでいた。何も言わないから、今日の恰好がおかしいのかと少し不安になった。だけど、彼はとても可愛いと褒めてくれた。いきなりのクリティカルヒットで頬が赤くなるのを感じた。こんなんで、今日は大丈夫かなとちょっぴり不安でもあり、楽しみな気持ちになった。
移動中の電車の中でも、彼は何も話さなかった。私から何か話しかけようとしたけど、こういう時に何を話せばいいのかわからなかった。気付けば「もしかして、つまらない?」と訊いていた。
だけど、彼は緊張していただけだった。私と同じだった。彼は正直に「女の子と二人きりで出かけるのが初めて」と言ってくれた。私も同じだからと言うと、お互いに笑みがこぼれた。彼の初めてのお出かけ、ううん、デート相手になれて、とても嬉しかった。その時の彼の笑顔がとても優しそうだったのが印象的だった。
映画を選ぶ時の彼はやっぱり優しかった。私の好みに合わせようとしてくれた。実は彼の観たいものでとは言ったものの、本当は恋愛映画が観たかった。映画自体も面白いと聞いていたし、何よりもデートで一緒に恋愛映画を観ることに憧れていたから。
私の要望通り、恋愛映画を観ることになったけど、券を購入する時にドキッとした。彼が「カップル割にしない?」と言ってきたからだ。カップル割の存在は知っていた。料金が安くなり、座席も二人でひとつのソファーになるという、カップルには適した座席だった。だけど、さすがに私もそれを指定するのは勇気が必要だった。だけど、それを彼から提案してきたのだ。彼は私が嫌がっていると思い、普通の座席を購入しようとしたが、その手を止めて、「私もそれがいい」と勇気を出して答えた。その時の彼の表情が嬉しそうに見えたのは、決して幻想であってほしくなかった。
映画も終わり、二人で買い物に行った。彼の服選びのセンスは少し偏っていたけど、それはそれで可愛らしいと思った。私の服選びの時は、「似合う」と「可愛い」しか言ってなかったけど、正直に嬉しかった。
買い物の後でアクシデントがあった。私が知らない男子に声を掛けられたのだ。声を掛けられたってもんじゃない。あれは絡まられたという方が正しい。たぶんこれがナンパというものだろう。金髪で私よりも大きい男子たちに囲まれてとても怖かった。もう泣きそうだった。
だけど、そんな時、彼が助けに来てくれた。しかも私のことを「自分の彼女」と言って…。男子たちは彼を威嚇したけど、それに一歩も引き下がることはなかった。殴られそうになったけど、それをさらりと躱して、気付けば男子たちは逃げ出していた。
彼から「ごめんね」と言われた瞬間、今まで我慢していた気持ちが溢れだしてきて、気付けば彼に抱き着いていた。いま思い出しても赤面してしまう。彼は「もう大丈夫だよ」と言ってくれた。それがどれだけ私に安心感を与えてくれたか…。
帰りは特に会話がなかった。私も自分の抱き着いたという行動が、とても恥ずかしくなってしまった。はしたない人だと彼に思われていなければいいな…。
彼は自宅まで送ってくれた。その時私は勇気を振り絞り、「また一緒にお出かけしていい?」と彼を誘った。彼が迷うことなく「もちろん」と返答してくれたことが嬉しくもあり、ほっと安堵もした。
彼と別れた後、お母さんから「顔が赤いわよ」とからかわれたけど、そんなことは気にならないぐらい、今日は最高の思い出になった。彼とならこの最高が何度も更新できそうな気がした。それを思うと、休み明けの学校が楽しみでならなかった。
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