第11話:桜井さんと映画へ②
「2回目の初恋~もういちど君に恋したい~」
恋愛に全く興味がなかった高校生、佐久間 雄一が、ある日たまたま通学で使う電車の中で出会った女子高生、遠藤 桜に出会い一目惚れして恋に落ちる。
それから、雄一は桜のことは一時も忘れることができず、勇気を出して桜に声を掛ける。そこから二人の交流は始まる。通学の時だけ、電車の中だけ、という限られた空間で。
ある暑い日、学校の夏休みに入る前日、彼は桜にデートを申し込む。桜は最初戸惑いつつも、彼の率直さに魅かれ、その申込を受け入れた。すでに二人の間には友情以上のものが芽生えようとしていた。
デートのOKをもらった彼は、喜び勇んで帰宅の途についた。しかし、そこで自動車事故に遭遇してしまう。幸い、命には別条はなかったものの、彼はそれまでの記憶を失くしてしまう。桜のことも、彼女に恋をしていたことも。
彼は桜のことを思い出そうとする。彼女にもう一度、恋をするために…。
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最初はカップルシートで緊張してしまい、映画に集中できなかった私だが、いつの間にか内容に入り込んでしまっていた。よくあるポップコーンを取ろうとしたら、彼女と手が触れるみたいなイベントもなく、思った以上に映画に集中することができた。
エンディングで少し涙ぐんでしまったが、ふと、となりの彼女を見ると、目をハンカチで押さえていた。
「よかったね、映画。最後感動して泣いちゃった。」
「俺も感動した。やっぱり桜井さんに選んでもらってよかった。」
「ううん。城田君にも気に入ってもらえて安心した。ねえ、これからどうする?」
当初の予定(ラノベからの知識による)では、この後、カフェにでも入って、お互いに映画の感想を言いながら、話を弾ませるという予定だった。しかし、ここで問題が発生。映画鑑賞中、ずっと飲み物を飲んでいたので、カフェに入る気分になっていないことだ。おそらく彼女もそうだろう。どうするか…。
「そうだね…。まだ時間もあるから、せっかくだからお店を見て回る?」
「うん。全然いいよ。何か見たいお店があるの?」
「ああ…、それが特にないというか…。桜井さんはこういう時どこに行く?」
「私?そうだな…、服とか靴を見にいくかな…。あと本も好きだから、本屋とかかな…。」
「なるほど…。」
「そういえば、城田君って、私服とかはどうしてるの?」
「私服?そういえば買った記憶ないな…。家にある服を適当に着てる感じ。そんなに外出しないし。部活の時は制服だしね。」
「そうなんだ。じゃあ、せっかくだから城田君の服を見にいこうか…。どう?」
「えっ、いいの?俺の服なんて見ても面白くないと思うけど…。」
「ううん…。その…、城田君…、かっこいいから、何でも似合いそう…。」
「えっ…。マジ?俺かっこいいかな…。初めて言われた気がする。」
「いやいや、結構女子から言われているよ。その辺はやっぱり鈍感なんだね…。」
「いや、それを言ったら、桜井さんだって…。可愛い、」
「もう、そんなストレートに可愛いって言わないで。照れちゃうよ。」
「あっ、ごめん。つい本音が…。」
「もう、城田君のそれって計算してるの?もしくは天然なの?さっ、早く行こう!」
「あっ…、うん。」
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「このシャツなんでどうかな…。色も薄いからこれからの季節にいいし、爽やかな印象を持てるかも…。」
「おお…、そんなこと考えたこともなかった。」
いま私たちはショッピングモールにある有名な衣服店にいる。全国展開しており、値段もリーズナブルで、種類も豊富…らしい。すべて桜井さんからの情報である。
「城田君は服選びで何を重視してるの?」
店に入った時、彼女そう訊かれたので、こう答えた。
「えっと…、サイズ?」
「……、もう大丈夫。ここは私に任せてほしいな。」
「あっ…、お願いします。」
ということで現在に至る。
「じゃあ、これとこれ、あとこれも試着してね。」
「えっ…、これ全部?」
「そうだよ。全部似合うとは思うけど、念のためにね…。」
「服選びって、こんなに大変なの…?」
「もう中学生なんだし、身だしなみも大切だよ。それとも、他に気になるものがあった?」
「いや、ないです…。」
「じゃあ、これね。」
「あっ…、はい…。」
前世でも自分が着る服には無頓着だった。仕事の時は作業着だったし、休みにデートする相手もいなかったから、最低限の私服しか持っていなかった。今日の服も、家にある私服で一番新品そうなものを選んだだけだ。当然自分で買ったものではなく、両親が買い与えてくれたものだ。まあ、両親のセンスが良かったのか、彼女には特に突っ込まれなかったけど…。だけど、そうか…。これからは身だしなみも大切にしなきゃいけないのか…。勉強になるな。
結局、その後も試着は続き、5着の中から2着を選んで購入した。何か女の子に服を選んでもらうイベントなんてなかったから、とても新鮮だった。
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「ねえ、城田君。こっちとこっち、どっちがいいと思う。」
「……。どっちも似合うよ。」
「もう、城田君たら、さっきからそればっかり。」
「ごめん。でも本当に可愛いから…。」
「ふふふ。うそ、ごめんね。でも褒めてくれてありがとう。」
男子の服を見れば、当然女子の服を見る流れになりまして…。現在は彼女の服を見るため、女性専門の衣服店に着ている。こんな店に入るのは、当然初めての経験なので、緊張してそわそわしてしまった。
最終的に彼女は私が選んだ水色のワンピースを購入した。「城田君の好みがわかって良かった。」と言ってくれていたので、とりあえずOKとしよう。
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「私の分まで荷物持ってくれてありがとう。疲れてない?」
「全然大丈夫だよ。こちらこそ服を選んでくれてありがとう。絶対自分じゃ選べなかった自信がある。」
「ははは。何その自信。どういたしまして。」
「そういえば、喉乾かない?どこか小休止してから帰ろうか。あまり遅くなってもご両親が心配するだろうし…。」
「そうだね。じゃあどこかカフェにでも入ろうか。」
「うん、そうだね。あっ、でもごめん。先にトイレに行っていいかな。そこのベンチにでも座って待ってて。」
「うん、わかった。じゃあ荷物番してます。」
「ははは。ありがとう。」
何か楽しいな。こういう機会は前世では全くなかったから、とても新鮮な気持ちだ。彼女がとてもいい子だというのもあるけど。これも転生補正のおかげかな。また一緒に出掛けられたらいいな…。
そんな思いを抱きつつ、トイレを済まし、彼女のもとに戻ると、異変が起きていた。彼女のまわりに複数の男子がたむろっていたのだ…。
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今日は楽しかったな。最初は少し緊張したけど、それは彼も同じだったみたいで、そのことがちょっと嬉しかった。私のことを何回も可愛いって褒めてくれたのも嬉しかった。直球過ぎる気もするけど、それが彼のいいところでもあるかなと思う。この後はお茶して帰るだけか。楽しい時間はあっという間に過ぎるな…。
「ねえねえ、彼女。いまひとり?」
「えっ?」
そんなことを考えていた私は、急に現実に引き戻された。ふと顔を上げると、知らない男子3人が私を見下ろしていた。全員が金髪で、見るからに単に道を尋ねるために声を掛けたわけじゃなさそうだった。
「おい、いきなり声掛けんなよ。ビビっちまうだろ?」
「まあ、いいじゃねえか。彼女、見た感じ、俺らと同じ中学生ぐらいだろ。ちょっと声掛けるぐらいいいじゃねえか。」
「そうだぜ。ねえねえ、彼女、俺らと遊びに行かない?一人なんでしょ?」
「い、いえ。人を待っているので…。」
怖い。どうしよう…。
「ええ、いいじゃん。そんな奴放っておいて、いこうぜ。もしかして女の子待ってる感じ?じゃあ、待っちゃおうかな。
「たぶん、男だぜ。男物の服買ってら。」
「なあんだ。じゃあ、俺たちと行こうぜ。荷物持ってやるからさ。」
「あっ…。ちょっと…。」
金髪の一人が、私の紙袋を勝ってに持ち上げた。城田君が似合うと選んでくれた服だった。
「ちょっと、やめてください…。」
とても怖い。
「いいんだよ。俺たちと一緒にくれば…。」
そう言って、真ん中の金髪の男子が、私の手を取った。
怖い…。怖くて、声が出ない…。助けて、城田君…。
「ちょっと、他人の彼女に何してるんですか?」
その声が聞こえる方を見ると、彼が立っていた。
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