第10話:桜井さんと映画へ①
第10話まで投稿できました。
次は第20話を目指してがんばります。
ゴールデンウィーク最後の土曜日。私は駅前にある時計台の下にいた。桜井さんと待ち合わせするためだ。一昨日、彼女の家で夕食をご馳走になった後、彼女を外出に誘った。彼女も私を誘おうとしてくれていたと思ったからだ。結果として、それは間違いではなかったようだ。
しかし、女の子と二人きりで出かけるなんて、今世だけでなく前世でも記憶にない。ラノベであんなデートしたかったなと思うことはあったが…。まさか、こんな展開になるなんて。実は非常に緊張している…。
桜井さんは素直に可愛い女の子だと思う。それだけでなく、何事も一生懸命で気遣いもできる子だ。そんな人を誘うなんて、と帰宅して悶絶してしまった。
これは「デート」というのだろうか…。もしかして、私だけテンションが上がっていて、彼女にとっては普通のことなんだろうか…。もしくは、今時の中学生は、異性と二人きりで出かけるなんてよくあることなんだろうか…。そんな悶々とワクワクが織り交ざった気持ちを引きずりながら、今日を迎えた。部活の練習もミスばっかりで、今井部長に怒られた…。まあ、それはあとで反省しよう。
映画でもと誘ったから、一応近くの映画館の場所と上映スケジュールは調べてきた。彼女が好きなジャンルはわからないが、まあ何とかなるだろう。映画の後は、どこかでお茶して映画の感想を言うんだったよな。ラノベに書いてあったから大丈夫だろう…。いや、そもそも根拠がラノベに偏り過ぎていないか?どうしよう…、とても不安。やっぱり、自分だけが盛り上がっているだけなのだろうか…。
「城田君、お待たせ。ごめんね、待たせちゃったかな…?」
そんなことばかり考えていると、後ろから声を掛けられた。振り返るとそこには一人の少女がいた。白を基調としたワンピース、きれいにまとめられたポニーテールに、ちょっと大人びた感じを醸し出す後れ毛。桜井さんだった。どうしよう…。非常に可愛い。まさか、中学生の女の子にこんな気持ちになるとは…。いや、自分も同じ中学生だった。前世で60年間生きた私も、今世では中学1年生になったばかり。おそらく精神年齢が肉体年齢に近付いているのかもしれない。
「えっと…。そんなに見つめられると、何か恥ずかしいな…。この恰好、変かな?」
「えっ!?いやいや、全然変じゃないよ。とても可愛い。」
「!!!それはそれで恥ずかしいな…。」
間違えた。こういう時はまず「俺もいま来たところ。」って言ってから、相手の服装を褒めるんだった。ラノベの常套文句じゃないか…。
「えっと…、俺もいま来たとこ…?」
「あっ、そうなの?何で疑問形なのかはわからないけど、よかった。待たせちゃったのかと思った。」
いや、そのセリフ言うタイミングもう過ぎてるから。何言ってんだ俺、いや私。ちょっと落ち着こう…。深呼吸、深呼吸。ちなみに待ち合わせ時間の1時間前から待ってました。
「とりあえず場所移動しようか?」
「うん。映画館だよね。」
「そのつもりだったけど、映画で大丈夫だった?」
「うん。全然大丈夫。上映スケジュール、少し調べてきちゃった。」
「俺も。じゃあ行こうか。」
このあたりで一番大きい映画館は、ショッピングモールに併設されたものだ。そこまでは電車でだいたい30分ぐらいだ。
電車に乗ると、そこまで混んではなく、二人とも空いている席に座ることができた。
「………。」
「………。」
まだ緊張しているせいか会話が続かない…、いや、会話すら生まれない。何か話さなければ。服装は褒めたから、今度は…。
「今日晴れてよかったね。」
「そうだね。」
会話終了。
いま私の頭の中では、前世60年間の経験と記憶とフル稼働させて、何とか会話を続かせようとしていたが、ここであることに気付いた。それは恋愛経験の経験値がほぼゼロであることだ。こればっかりは転生補正もないようだ…。まあ、元がゼロだから補正しようがないか…。
「ねえ、城田君。大丈夫?」
「えっ!全然大丈夫…。」
「そう?何かいつもより静かな気がして…。もしかして、つまらない…?」
彼女は不安そうな眼差しをこちらに向けてくる。その時、自分の不甲斐なさで、彼女を不安にさせてしまったことに気付かされた。まったく情けない。ちょっと気を張り過ぎていたかな。いつも通りでいいんだ。いつも通りで…。
「気を遣わせてごめんね…。全然つまらなくないよ。ただ…。」
「ただ…?」
「うん。ただ、今まで女の子と二人きりで出かけたことなんかなくて、ちょっと緊張しちゃったんだ。だから桜井さんは全然悪くないよ。ごめんね…。」
「ううん。私も男の子と二人きりで出かけるのは、城田君が初めて。私も緊張してたかも…。」
「そっか…。じゃあ、お互いに『初めて』どうしだね。」
「ふふふ。そうだね…。何か嬉しいな。城田君も初めてなんて。城田君、モテるから、普段からこういう感じで出かけてるかと思ってた。」
「いやいや、そんなことないよ。それを言ったら、桜井さんもモテるじゃん。」
「ええ~。それこそそんなことないよだよ~。」
「そうなの?桜井さん可愛いから、モテると思うよ。」
「もうっ。『可愛い』ってあんまり言われると照れちゃうよ…。」
「あっ、ごめん。無意識に…。」
「その無意識は凶器だね…。」
それからはこれからどんな映画を観たいとか、部活の様子などで、会話が盛り上がり、あっという間にショッピングモールに着いた。まずは映画ということで、早速映画館に向かう。
「いまの時間だと、ちょうどいい候補は3種類かな…。」
「そうだね。それ以外になると、帰るのが遅くなるしね。」
いまの時間にちょうど良かったのは3タイトルあった。
①「2回目の初恋~もういちど君に恋したい~」
②「3人目の復讐者」
③「物理学者が突然里親に~質量保存にならない法則~」
恋愛映画にミステリー、それにコメディ映画か…。特に好きなジャンルはないけど…。彼女は何が好きなんだろう…。
「どうする?桜井さんが好きなジャンルでいいよ。」
「えっ、そんな悪いよ。城田君が観たいもので…。」
「いやいや、俺は好きなジャンルとか特にないから…。」
「うん…。じゃああれがいいかな…。」
彼女は恥ずかしそうにその映画ポスターを指さした。それは「2回目の初恋~もう一度君に恋したい~」だった。
「何かね。吹奏楽部の女子たちが、これを観に行ったらしくて、とても良かったんだって。もし城田君が嫌じゃなければけど…。」
「全然いいよ。俺も興味があったし。じゃあチケットを買って、ついでに飲み物を買おうか。」
「うん。」
タイトルから察するに絶対に恋愛映画だろう。やっぱり女の子は恋愛映画が好きなのかな。異性と恋愛映画を観るなんて考えると、さっきまで落ち着いていた緊張が再発してしまいそう…。
二人で券売機に行って、指定の映画を選択する。いまは機械なんだね。前世では券売所で受付の女性に「チケット2枚」なんて買っていた記憶があるけど、やっぱり時代は進んでいるのか。
ところが、料金区分を選択する画面でちょっとしたアクシデントがあった。いや、アクシデントというほどのものじゃないんだが。料金区分にカップル割というものがあった。カップル割にすると、鑑賞料金が割引になる。但し、座席はカップルシートになり、二人でひとつのソファーに座るというものになる。
お金だけを考えれば絶対に割引の方がお得だ。だけど、彼女にカップルシートを勧めたら嫌われないだろうか…。「えっ…、それは、ちょっと…。」とか言われたら、目も当てられない。だけど、座ってみたいか否かと訊かれれば、答えは是である。よし、ここは勇気を出して…。
「ねえ、桜井さん。もし良かったらカップル割にしない。」
「えっ…。カップル割ってカップルシートに座る席だよね?」
「あっ、いやっ…。ほら、何か料金が安くなるからいいかなと思って…。だけど、やっぱり嫌だよね…。急にごめんね…。」
はい撃沈でした。そりゃ付き合ってもいない異性とカップルシートはないよな。やり過ぎた…。何でこんなところで攻めてるんだ。ちょっとでも大丈夫かなと思った自分が恥ずかしい。
そう思って、画面を見直し、自分の区分を選択しようとしたところ、服の右袖が引っ張られているのに気付いた。振り返ると彼女が恥ずかしそうな上目遣いで「ううん。大丈夫。私もそれがいい。」と言った。
はい撃沈でした。彼女の上目遣いが強力すぎて、こっちのライフが危うくゼロになりそうでした。攻めてなかったわ。攻められてたわ。
チケットと飲み物を無事に購入し、カップルシートに座った。シートは思ったよりも広かった。
映画が始まる。
読んで下さり、ありがとうございます。
ブクマや評価を頂けると励みになります。
もし「おもしろい」や「続きが読みたい」という方がいれば、宜しくお願い致します。