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愛刀片手に訓練場へ飛び込めば人の気配があった。
無我夢中に取り組んでいるようで、荒々しく素振りをする音が聴こえる。
あちらもきっと悩みを抱えているのだろう、音でわかる。何故ならばここ最近の私がそうだからだ。
共に鍛錬すれば互いに良い気分転換になると思い及んだ私は、音のする方へ駆け寄った。
「おーい! 私も一緒、に……」
「マリン……?」
そうして声を掛けた相手は、なんとセーリオその人であった。
脳から抹消するためにやって来たというのに、当人と鉢合わせてしまっては本末転倒である。
いつぞや残業続きで困憊した私に向かって「長時間労働は体に毒だ」と言い放ちながら華麗に帰宅を決めていた君よ、何処へ……。
剣を振っていた彼もぴたりと静止し、同じく固まった私の姿を認めて呆然としている。
お互い認識した手前、ここで帰ってはばつが悪い。けれども、このままお見合いし続ける訳にもいくまい。
急に飛び跳ね始めた心臓は可能な限り無視しながら、普段通りを意識して話し掛ける。
「め、珍しいなあ、セーリオがこんな時間に鍛錬なんて!」
ワアー!? 声が裏返った! 発音も少しおかしかった気がする!
気が動転してるとはいえ、態度があからさま過ぎる。流石に訝られるだろうかと反応を窺うも、彼は顔を俯けていて判断がつかない。
居た堪れない心地になりながら返答を待つ私に対し、セーリオは溜息混じりに「……ああ」と頷くだけで黙してしまった。
会話が……終わった……。
まさか本当に失望されたのか。マリン生涯不敗伝説を期待されていた? 嘘だろう!?
何を言うべきかもわからないまま、私は咄嗟に口を開くが、しかし。
「あの……」
「その……」
見事な被りっぷりだった、これぞ以心伝心。けれど今はそういうの求めてない。
元よりこちらは言葉が見つからなかったのだ。先に話すよう促し、真意を測ることとした。
眉間に皺を寄せたセーリオの深刻な顔つきに、思わず固唾を飲む。
「お前は……俺に負けたら騎士を辞めると言ったことを覚えているか」
やばいぞ、初っ端から全く記憶に無い。
せめてどういった文脈で宣言したのかご教示願えないだろうか。