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セーリオ・作『絶望』を存分に眺めた私は、冷静さと口元の笑みを取り戻してようやく落ち着く──訳がなかった。
あの後の模擬戦では加減が上手くできず、「セーリオが勝った今なら自分もいけるのでは?」と掛かって来た騎士達を医務室送りにしてしまった。
何本か刀身を叩き折ったが、訓練用の剣はあくまで騎士団の備品なので問題ないと思いたい。もし給与から天引きされたら父に直訴しよう。
それにしても、あの場で公開告白されるかもしれないと構えた私は大馬鹿者だな。
告白云々は所詮、酔っ払いの戯言。美しいだのなんだのは酒の席での世辞。
大体あいつは酔っ払えば肯定マンに変身する男だぞ。それを私はすっかり真に受けて、セーリオを見る度に緊張して……。
「ウワーー恥ずかしいーーーッ!!!」
自室のベッドで枕に顔を押し付け絶叫する奇行を、かれこれ数時間ほどやり続けている。
セーリオの奴が思わせぶりな発言をするからいけない。勘違いして恥ずかしい。でも元はと言えばあいつが……の繰り返しである。
そもそも模擬戦後の表情はなんなんだ。
勝ったんだから喜べばいいものを、あんな落ち込んで。もしや、訓練に集中できていなかった私に失望したのか? それとも同期一の実力者を自称しておいてあっさり降参したから落胆した?
「いや別に恋愛的な意味で気になってる訳じゃないからどう思われても構わないし? むしろそういう風に見てるのはセーリオの方……じゃないんだよ!! それは勘違い! ウワーーー!!」
叫び過ぎて喉が枯れそうだ。訓練でだってこんなに声を張り続けた事はない。
何か無いのだろうか、この恥辱のループから抜け出せる解決方法は……。
檻に囚われた猛獣よろしく部屋をぐるぐる回っていれば、立て掛けていた愛刀がごとりと倒れて主張した。
「お願い、私を使って元気を出して!」そんな幻聴すら聴こえてくる。
「鍛錬するか……」
思考が停止するまで体を動かして、泥のように眠りにつくのだ。
父の事を笑えない脳筋的発想であったが他に名案も浮かばず、私はすぐさま着替えて訓練場へ向かったのだった。
──目的の訓練場に、忘れてしまいたい相手が居るとも知らずに。