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超見切り発車です。セーリオが想像と違ってたらすみません。
訓練場に剣戟の音が響く。
有事の際、騎士の真価は日々の弛まぬ鍛錬があってこそ発揮される。それゆえに実戦を想定した模擬戦闘訓練も日常的に行われているのだ。
もちろん同期内随一の実力者である私も例外ではない。むしろ模擬戦は私が一番輝ける舞台とすら思っている。
常ならば、「追い詰められている時こそ笑え」というどこぞの少年漫画みたいな父の教えを守り、口元だけでも笑みを湛えて斬り結んでいるのだが、諸事情により今の表情は口を一文字に引き結んだ硬いものとなっている。
それもこれも、模擬戦の相手であるセーリオ・アルカイコのせいだ。
今は彼の視界に入るだけで緊張して満足に体が動かせない。とんでもないデバフスキルを持った男だと思われただろうが実際は違う。
単に私が……彼を、意識しすぎているだけなのだ。
いつもなら二、三打ち合った後にさっさと撃沈させているというのに、懐に潜り込むのを躊躇するせいで決め手に欠けていた。
そして、なるべく逸らしていた視線がかち合った瞬間、頭が勝手にあの夜の出来事を反芻し始めた。
──好き、だ……。
「しまっ……!」
明らかに鈍った剣筋をセーリオが見逃すはずもなく。
私の喉元には刃が突き付けられていた。
「っはぁ、負けちゃった、な……」
乱れた呼吸を整えながら、私は両手を上げ降参した。
目の前の男のせいではあるが、剣を持ちながら気もそぞろとなってしまった自分の落ち度だ。
対戦後の礼を取ったその時、またも脳裏にセーリオの言葉が過る。
──いつか一度でも勝てたなら、気持ちを伝えようと、ずっと……
嘘だろ。どうして今になってこっちを思い出すんだ。
模擬戦中よりも遥かに力強く心臓が脈打ち始める。もう私の心音で地面を揺らせるんじゃないか。いいや逃避をしてる場合ではない、まだ訓練は続いているのだ。そうだ早く次の相手の所へ行ってしまおう。
逃げの一手を選択しえいやと顔を上げた先には、“絶望”というタイトルが付けられそうな面持ちで立ち竦むセーリオが居た。