6、カロリーとカラオケと重大発表
港区立狸吉小学校、その1年3組にアンは在籍していた。
今日もお気に入りのオーバーオール姿で、校内をのし歩く。
上級生の男子が、廊下を全力疾走しているのを冷ややかな目で見て、
アン「今日から、この廊下を『バカが走る廊下』と名づけます!」
男子たちはビックリして、「赤毛のアンが名づけたぞ!」「あいつが名づけた地名はグーグルマップに乗るらしいな」
アン「プリンス・エドワード島出身じゃねーよ!」
歩き去るアンの、平均的な日本人の小学1年生女子よりは身長のある後姿を見送りながら、男子たちが
「あいつの苗字知ってる?」「クイーンだろ、クイーン・アン」「女王様・・・」
それを耳にしてクルッとふりかえるアン、「フレディ・マーキュリーじゃねーよ!」
男子たち「呼んでほしいってことなのかな・・・」
こうしてアンは、男子からは「フレディ」と呼ばれるようになった。
休み時間、アンは友達とダベっていた。
「え?みんなはママとキスしないの?」
クラスで一番大人しい少女の美幸が、「うちはホッペなら、たまに・・・」
「いやいや、そうゆんじゃなくて、口にするキスのことだよ」
クラスで一番うるさい樹摩が、「おやぶんのママは外国の人だから! 日本人は恥ずかしくてキスなんてしないよ」
「アンは日本人じゃないの?」がーん
あわあわとランドセルからスマホを取り出すと、「もしもしアリスン? アンは日本人じゃないの?」
ふんふんと聞いていたが、通話を切ると、「アンはイギリス人だって。それからアイルランド人だって」
美幸「あいるらんどってどこだろう・・・」
樹真「じゅま知ってる! ハロウィンの国だよね!」
美幸「ハロウィンはディズニーランドのお祭りだよ?」
そこへ担任の若葉先生が入ってきて、「アンちゃんはアイルランド系のイギリス人ですよ。さ、席について」
港区ということもあるだろうが、このクラスもなかなか国際的だな・・・ と、先生は思った。
アンを含め外国籍の児童が3人、日本国籍だが日本人以外の民族あるいはハーフの子が4人。
自分が子供のころとは時代が変わった・・・ と、しみじみ思う。
1日の授業が終わり、子供たちが帰っていく。
若葉先生は、アンに声をかけた。「アンちゃん、今日はどなたがお迎えに来るの?」
「えーっと、今日はようこだって、さっきメッセージが来た」
「ようこさん・・・」姫百合荘メンバーはよく見知ってる先生だが、ようこの顔が出てこない。
アン「ようこ、いんしょうがうすい」
先生「そんなことありませんよ! じゃ、アンちゃん、また校庭で遊んでる? 先生は職員室にいるから声かけてね」
仲良しの美幸と樹真は、習い事があるので帰ってしまった。
鉄棒で遊んでると、夜烏子が迎えに来た。
たしかに姫百合荘の華やかな美女たちの中では、地味で目立たない。
それでも最近、髪を茶色に染めたので、少しは目を引くようになった。
若葉先生は、(あ、そうだ、紅鬼さんの妹さんだ)と思い出しながら、夜烏子に挨拶をした。
アン「先生! ちゃぱつで、一重まぶたがよーこだよ!」
先生「し、知ってますよ!」
夜烏子「アンちゃん・・・ 私一応、奥二重なんだよね・・・」
かつて夜烏子は不幸な境遇で育てられ「不幸キャラ」と呼ばれていたが、紅鬼と出会ってからというもの幸福ゲージが上昇しっぱなし、今ではすっかり不幸の影はない。
が、そのぶんキャラ属性を失って、無個性となってしまったわけだが・・・
勉強、スポーツ、家事、仕事、何をやっても「中の上」クラスで、苦手なものはないが、これといって得意なものもない。
「なんでも並以上というのはスゴイことだ」と紅鬼に褒められても、ピンと来ない。
地下鉄の百合穴駅を降りたところで、アンが「パフェ食べてこ! パフェ食べないと帰れないよ!」とゴネだした。
「もう・・・ そのかわり、帰ってからオヤツは無しね!」
駅前の古風な「喫茶ポリープ」に入って、パフェをとクリームあんみつを注文。
夜烏子がスマホを取り出し、メッセージを打ち始めると、アンが咎めるように「ママに報告しないで!」
もともと下がってる眉を、さらに困ったように下げる夜烏子、「でもね、ローラさんとの約束なんだよ・・・ アンちゃんに何か食べさせたら毎回報告するって。
カロリー計算とかしてるみたいよ」
「そのカロリーってやつがムカつく・・・ アイスとかおかしとか、好きなだけ食べたいのに!」
「ママはね、アンちゃんが虫歯になったりデブったりしないよう、気をくばってるんだよ。ママの気持ちをわかってあげて」
「ママはカロリーのせいで、あたまがおかしくなってしまった! ようこまでカロリーの味方をするなら絶交だから!」
「そんな・・・」
夜烏子がポロポロ涙を流すと、全身から「かわいそうな人」オーラがどよどよ発散される。
「なんでそんなこと言うの? アンちゃんのこと、こんなに愛してるのに・・・」
プロの「不幸キャラ」の不幸っぷりを目の当たりにして、わたわた動揺するアン、
「ごめ・・・ ごめんね、よーこのこと好きだから、絶対きらいにならないから! そのかわりママに報告しないでください」
結局、報告した。
そして、その夜・・・ 例によって、遅出組の雑談タイムとなっていた。
今日はすでにリビングがベッドルームと化しているので、一同はダイニングで夜食を取りながらワイワイやっている。
パンテーラが焼酎を煽りながら、くやしそうに「私、ミラ姉と出会うまでは、ガチで自分が世界一の美女だと思ってたわ」
クリス「こんなセリフを真顔で言える人を、実際に見る日が来ようとは・・・」
夜烏子「パンちゃん、仲間うちで比較するのは禁止だってば!」
ミラルもワイングラスを傾けながら、眠そうに「パンちゃんの方が美人だよ」
それが耳に入らないように、パン「思うに瞳の色なんだよな・・・ ミラ姉のマリンブルーの瞳、アレに負けてる・・・」
自らの黒い瞳を指して、「日本人をディスるわけじゃないけど、黒い瞳ってイマイチ地味だと思わん?」
燃子「日本人ディスるな!」
龍子(かなり酔ってる)が後ろからパンテーラに抱きついて、「いーえ、パンちゃんのが美しい!
パンちゃんの筋肉、健康的なお色気、鍛え上げられた姿勢の美しさ、そして筋肉・・・ グデッとしたミラ姉より美しい」
言ってすぐにミラルのもとに駆けよって、「ごめんねミラ姉をディスりたいわけじゃないの! ちがうの! だって・・・
私、パンちゃんの女だから! いつもパンちゃんの味方なの!」
思わず感動に包まれるパン、「( ;∀;)イイセリフダナー、メモしとこうメモ」
ローラが夜烏子の袖を引っぱって、「アンが迷惑をかけたみたいでゴメン! よーこに謝っといてって、いってた」
「ううん、別になんでもないよ! ローラさんこそ、アンちゃんのカロリー計算おつかれさま!」
夜烏子の顔を見てニヤッとするローラ、「報告してもらうのはカロリー計算の目的もあるけどさ・・・ それより、報告してもらわんと夜烏子! 無制限でアンに言われるままにお菓子を、いくらでも食べさせてしまうだろ!」
「ええーっ、それは・・・ たしかにそうかも・・・ アンちゃんよりも私の方が目をつけられてたのか! 恐れいりました」
ローラ「ま、これからもよろしくたのむよ。第2のママ」と、夜烏子の頬にキス。
姫百合荘の豆知識(6)
1周年記念の時点での、住人たちの身長は以下の通り。ちなみに体重は不明。
まりあ 182センチ パンテーラ 180センチ ミラル 178センチ
ここまでが身長トップ3、続いて
クリス 171センチ 燃子 168センチ 龍子 164センチ 紅鬼 162センチ
ローラ 160センチ 夜烏子 159センチ 真琴 158センチ 湯香 155センチ
アリスン 155センチ(成長中) アン 128センチ(成長中)
アンは日本人女子の7歳児平均よりけっこう高め。(クラスで背の順に並ぶと、後ろから3番目)
アリスンはイギリス人としては平均より低め、成長が止まる前に160センチまでいくのが目標。(たぶん無理)
姫百合荘オープン1周年のその日。
「バー秘め百合」も月に一度の休業日、ミラルも広報部を早上がりして、夕方には湯香を除く12名が集結。(湯香もまもなく帰宅予定)
ミラルは初めて見るパートナーのショートカット姿を、いろんな角度から観察、ニヤニヤ。
「へー、いいじゃない! どんな感じよ?」
「頭に羽根が生えたように軽い! あとは脳みそを軽くできれば・・・」
クリスはショート仲間ができてうれしいらしく、紅鬼と肩を組んでセルフ写真を撮る。
ミラルの羨ましそうな視線に気づいて、「あ、ごめんミラ姉。まずはパートナーから」
紅鬼をミラルの方へ押し出す。
ミラルはパートナーを抱きしめ、切りたての頭に頬をスリスリ、「少年ぽい。よかよか」
風太刀紅鬼 27歳
ミラルシファー・サーヘラ・イシュタル・アルハザード(Mirallucifer Sahira Ishtar Alhazred)日本に帰化して 風太刀ミラル 28歳
食べて飲んで、みんなでワイワイ。
パンテーラが作った、得意の餃子も並べられた。
龍子「私も手伝ったよー」
パンテーラ・アマリア・メンデス・アルメイダ(Pantera Amalia Mendez Almeida)26歳
舞浜龍子 25歳
まりあが準備したローストビーフ、燃子が作ったトマト・サラダ、真琴が焼いたザッハートルテとイチゴショート。
(本当は燃子はもっと本格的なイタリア料理を作れるが、今回は他とのバランスを考えて)
お隣の鎧組からいただいたキャビア・ベルーガは、クリスが「半分お店に回してもらえるとうれしいな」
ということで、残り半分に皆が目をギラギラ光らせる。
「スプーンひとくちくらいあるよね?」
「どうせ湯香は食べないだろ、イクラも嫌いだし」
「アンはキャビアどうする? こわーい魚の卵だよ」
アン「食べるよ!」
アリスン「私ら、お隣にお礼のケーキ届けたんだから、もらう権利あるでしょ」
ローラが後ろから2人を抱きしめ、「えらいぞ、娘たち」
アン「おばさんがママによろしくって」
娘たちは隣家の組長夫妻から愛されてるが、男性恐怖症のローラにとってはヤクザ事務所を訪問するなど無理な話。
「奥様はいい人で、よくエステに来てくれるんだけどね・・・」
ローラ・クイーン(Rola Queen)24歳
アン・クイーン(Ann Queen)7歳
アリスン・ローズ(Alison Rhodes)17歳
その時、湯香が帰ってきた。「何かすごくイイものが待ってる気がする!」
真琴「お帰り、湯香!」
他のメンバーからも、「ホカホカが帰ってきた!」「ホカホカー!」「ホカホカ大王!」と歓声が上がる。
柚本湯香 23歳
薬師寺真琴 24歳
紅鬼「さあ、みんな! 全員そろったから記念写真撮るよ!」
1年を通して数回あるかないか、の貴重な瞬間。
ここでパンテーラが、「ふつうに撮ってもつまらないから、みんなで自由の女神を発見して『ここは地球だったんだー!』みたいな顔しようゼ!」
ブーブー文句が出たが結局、全員が(´Д`;)みたいな顔をして写った。
湯香と入れ替わりに、夜烏子が風太刀記念会館へと出勤する。
「帰りは終電ギリギリになるから!」
紅鬼「こんな日くらい休めないの?」
夜烏子「今ぐらいから夜勤の人が来るまでの時間帯が、人手がないのよ」
クリスがコートを着こんで、「駅まで送りますぞ」
「えっ 寒いからいいのに! でもうれしー」
手をつないで、すっかり暗くなった道を行く2人の姿を見送る紅鬼。
(ウチで唯一のお見合いカップル、うまくいってるようで良かった・・・)
食べた後は、雨戸を閉めきって防音態勢を完璧にして、カラオケ・タイム。
湯香が「only my railgun」、龍子が「エガオノキミヘ」、アンが「アンパンマンのうた」とアニソンが続き、紅鬼が「私がオバさんになっても」。
百合アニメ好きパンテーラがKOTOKOの「Re-sublimity」。
ローラがマドンナをいくかと思いきや、「今夜は青春(Tonight Is What It Means To Be Young)」を(歌詞のboyをgirlに置き換えて)熱唱。
さらに演歌歌手の血を引く燃子が、石川さゆりの「飢餓海峡」でプロ並みの喉を聴かせると、まりあが感動して涙を流す。
壬生まりあ 24歳
黒木燃子 27歳
クリスは結局、駅からいっしょに地下鉄に乗って、パートナーを風太刀アイランドまで送ることにした。
帰宅の逆方向なので空いてる車内、2人は並んで座って肩を寄せ合っていた。
相方は姫百合荘の美女たちの中では決して美人な方ではないけど、誰よりも優しい女性だと夜烏子は知っていた。
「しあわせ・・・」
「そだね・・・」
霧雨夜烏子 風太刀家養女となり 風太刀夜烏子 25歳
クリスティナ・エルマコヴァ(Kristina Yermakova)日本に帰化、逢坂家養女となり 逢坂クリス 26歳
姫百合荘では子供たちはとうにベッドに入り、大人たち9人はかなり酔いが回っていた。
ここで紅鬼は大事なことを思い出し、「しまった、重要な話があったのに・・・ こんな酔ってる時に話すことじゃないのに・・・」
「なになに」「なーにー」「思い出のなーにー」「明日にしなよ・・・」
紅鬼「絶対に、だれにも言ってはいけませんよ! 極秘、ちょーひみつ」
「何よ」「言わないから言ってみ」「明日にしなよ・・・」
紅鬼「女同士で子供ができるかもしれないって話」
「はあ?」「ひい?」「ふうー」
紅鬼は必死に頭をふりしぼりながら、「獣畜振興会が極秘に進めてる計画なんだけど・・・ あのさ、家畜ってさ・・・ たとえば雄牛は乳を出さないし、オンドリは卵を産まないし、けっこうオスが邪魔な存在なのよね・・・ メスだけで繁殖できれば、どれほど合理的か、という・・・」
「そんな重い話を、こんなグデングデンの状態でするのか!」「とんでもないこと言いだしたぞ!」
紅鬼「で、PS細胞だっけ?の研究者さんに出資して、世界初となるプロジェクトを進めて・・・ マウスで成功したって」
「ええええーっ!」
紅鬼「人間に適用できるかわからんし、私らが出産適齢期のうちに間に合うのか、それもわからんけど・・・ ぐー・・・」
眠ってしまった紅鬼を、みんなで揺すってみるが
「おい紅鬼!」「紅鬼さん!」「そんな大事な話の途中で・・・」
紅鬼はグー、すぴー
第6話 おしまい