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姫百合荘の生活  作者: 嬉椎名わーい
2/6

2、オムレツと性の悩みとハンバーグ

港区百合穴(ゆりあな)三丁目の敷地を、父からプレゼントしてもらった紅鬼(くき)は、いよいよ姫百合荘(ひめゆりそう)の設計段階に入るにあたって、「百合友(ゆりとも)の会」のメンバーたちから意見を集めた。

5組の女性カップル(プラスまりあ)で結成された「百合友の会」、姫百合荘は彼女たちの(つい)棲家(すみか)として建設されたのである。(当時まだ、まりあにパートナーはいなかった)

まず紅鬼自身の意見として、

「おしゃれな建物よりも、みんなが集まってギュッと密度濃く、いっしょにいられるような家にしたい。

四角い家は不格好だけど、建設費用も安いし、冷暖房も効率よいし、災害に強いし、セキュリティの管理もしやすい。

それと収納には力を入れて、物置部屋と衣装部屋を人数分用意する」

次いで「百合友の会」会長のローラが、「ゴメン、完全に男をシャットアウトして女性だけの空間にしてほしい・・・ あとアンの部屋もお願い」

そのパートナーで当時15歳という若さのアリスンが、「小さな図書室を作って、本の類は一カ所に集めたらどうかな? けっこう本はかさばるしね」

血は繋がらないが紅鬼の戸籍上の妹である夜烏子(ようこ)が、「管理人室、というかちょっとした事務室もいるよ?」

そのパートナー、唯一理系の素養があるクリスが、「これだけの人数が集まると洗濯機も大型が3台くらい、いるんじゃないかな。電気系統を3つか4つに分けた方がいいすね」

ブラジル出身、褐色美女のパンテーラが、「私のレヴォーグを入れるガレージも頼むね! できればジムもほしいけど・・・ 無理なら大きな廊下があれば、そこで筋トレしたり、ハンモック吊るしたりできるね」

そのパートナー、タレ目でアイドル顔の龍子(りゅうこ)が、「全体でなく一部でいいんだけど、防音のエリアがあればなー。カラオケしたり、ダンスルームにしたり」

真琴(まこと)は遠慮がちに、「置いてもらえるだけで、もうホントになんでもいい! でも、もしできればアイランドキッチン・・・」

そのパートナー湯香(ゆか)は、マンションで真琴と2人で暮らしている経験から、ゴミ回収日までにたまったゴミを保管できる場所を提案。

紅鬼はフムフムうなずいて、「ゴミ出し準備室か・・・ 湯香にゴミ管理責任者をお願いできる?」

湯香「なんでもやるよ! やります!」

当時はまだ燃子(もえこ)とパートナー関係になかったまりあが、「私の部屋も用意しといてくださるの?ありがたや・・・ うーんリクエストか。

東京だしぜいたくは言わねえが、少しでも緑があればな・・・ あと、ちょっとした菜園」

ローラの愛娘、当時5歳の「赤毛のアン」にも聞いてみたが、「どっぢぼーるできる広場。『どっぢぼーる広場』と名づけるよ」という答。

最後に紅鬼のパートナー、「世界最高の美女」ミラルシファーが、

「私はどんなところでも寝られるし、紅鬼の好きなように作ったら? みんなと暮らせるだけで楽しそう」

すでにけっこう頭がパンパンになっていた紅鬼だが、最愛の恋人のこの言葉に涙を浮かべ、「ありがとう、ミラル! 最高の家を作るよ!」




さて、姫百合荘が1周年を迎える、その3ケ月ほど前の火曜日。

「早出組」は朝の5:30から起床。

2階ファサード(正面)側の「第1和室」で、真琴は目を開けた。

湯たんぽのように暖かいパートナーの湯香から離れたくないが、がんばって起き上がる。

「湯香、起きられる?」

「なんの、これしき」

低血圧で朝に弱い真琴が、気力をふり絞って洗面セットをもって出ていくと、その間に湯香はジャージに着替えて、布団を片づける。

体を鍛えてある湯香は、いったん起きれば行動は早い。

真琴が着替えて1階のキッチンに駆けこんだ時には、すでに紅鬼がコーヒーを沸かしていた。

「ごめーん、また紅鬼さんに先こされた」

「無理しなくていいから。さ、コーヒー飲みながら、朝ごはんの支度といきますか!」

真琴は、自らの希望が実現したアイランドキッチンを見渡し、「うん!」


湯香は火曜日のゴミ(プラ、PET)をゴミ出しスペースに運んだあと、敷地の北面・西面の歩道を簡単に掃除。

正面(南面)の掃除をしているまりあと合流。

「子供たちはちゃんと起きたよー」と報告を受け、「2人とも今日も元気?」「元気よー」

そのまま湯香はジョギングに出発。(20分ほどで戻る予定)

まりあは引き続き、「ゲスト用入口」から入った玄関ホールを掃除。

子供たちも6:00には起きて、洗面を済ませると庭の菜園に水やり。

アンが希望した芝生の広場は、「どっぢぼーる広場」から「芝生広場」に名前が変わった。


「早出組」の朝食は6:45から。

この時間に合わせて、ようやくミラルが起床。(彼女は「早出」「遅出」兼任のため、6:30まで寝ることが許されている)

シャワーを浴びてきたまりあが、ミラルに追いつくと、

「ミラ姉、おはよ! 1時間ゆっくり寝た気分はどうよ?」

「私にイヤミは通用しないぞ。みんなはみんな、私は私」

「イヤミじゃなくて、コミュニケーションだよう」

ダイニングルームに「早出組」7名集まっての朝食、メニューはオムレツ、ベーコン、トーストに真琴のスペシャル・サラダ&スープ。

キッチンとダイニングを隔てる壁が大きく四角くくり抜かれ、そこが4人並んで座れるカウンターテーブルとなっている。

実の姉妹より仲がいい2人の子供は、この席が大のお気に入り。

他のメンバーは中央の6人は座れるりっぱなメインテーブルで。

この他、ダイニングの西面にはバーカウンター、東面には作りつけの4人用ボックス席。(ここは月に1回、納豆愛好者が納豆を食べる隔離席となる)

「アン、口にジャムがついてるよ。ハロッズの高級ジャムだから、もったいない」ぺろぺろ

今年7歳になる赤毛の少女を、かいがいしく世話するアリスン、17歳。

ボブカットのつややかな金髪に緑の瞳、イギリス人の平均より小柄で痩せぎすだが、どことなく高貴なオーラを放っている。

「真琴、もしかして何か忘れたりしてる?」

ハッとする真琴、「しまった!ハム刻んだのにオムレツに入れ忘れた・・・ごめん!」

紅鬼「そういえば私も気づかなかった」

アリスン「だいじょうぶ、タマネギとキノコだけでも美味しいから。ただなんとなく、いつもの真琴より材料少ない気がしただけ」

アン「まこと、ドンマイ」


AM7:45の少し前には、タクシーが正面にスタンバイ。(姫百合荘が特別に契約しているタクシー会社で、運転手は戦闘訓練を受けている)

アンの母親、赤毛のローラがたまたまトイレに起きてきて、出発する直前の娘と対面。

すっぴんなのでツルンとしてノッペリした印象。

「アニー!1日ぶりに会えた~」キスしようとするも、

「顔洗ってないからイヤだ!」と拒否られる。

「まだあと1時間、寝るんだよう・・・」

アリスンがアンのランドセルをたたいて、「ハンカチ、ティッシュはもった?」

アン「おっけー」ばっちり。

ローラ「あと2日で、また会えるから。アリスン、それまでお願いね」(シフトの都合で月~木は娘にもパートナーにも、なかなか会えない)

アリスン「もちろん。ローラと会える時まで、アンが私のパートナーだから」

真琴がエプロンで手を吹きながら、「お嬢、自分はハンカチ、ティッシュ、だいじょうぶなのね?」

アリスン「もちろん・・・(バッグを調べて)あ、ハンカチ忘れた」

真琴「もう・・・(自分のポシェットから出して)ほら、私の新しいから、もっていって」

アリスン「ありがと・・・ うー、アンより子供みたい」

一方、紅鬼もビジネスっぽいスタイルのパートナー(しかしサングラスと黒マスクで怪しさ爆発)と別れのキスをして、

「2人をよろしくね! アンが校門入るまで見てるんだよ」

ミラル「了解、了解」

こうしてようやく、ミラル、アリスン、アンを乗せ、タクシーは出発。

アリスン「ミラ姉さ、私とアンだけでも大丈夫なんだよ?」

ミラル「お嬢、私に日本名物・満員ラッシュの電車で通勤しろっていうの?」

アリスン「う、そうか・・・」

この後、タクシーは小学校でアンを降ろし、続いて英国大使館でアリスンを降ろし、そこから反転して風太刀アイランドまでミラルを送り届けるのである。


さて、この後・・・

真琴は少し休憩した後、紅鬼・まりあと協力して掃除・洗濯やら夕食準備やらの作業に入るのだが、朝のオムレツ以来・・・

皿を落として割ったり、塩を容器に移そうとしてブチまけたり、いつになく、ちょっとした失敗が連続した。

「もおおお!今日は一体なんなの?」

紅鬼がただちに駆けつけ、「落ちついて、真琴!」

「紅鬼さん・・・ ぎゅってして」

「ほら」ぎゅっ

「キスして・・・」

「ん」ちゅっ

「・・・あとでHして」

「わかったわかった」


Hした後、真琴にはパートナーである湯香に報告する義務があった。

「業務連絡:KさんとHした」

しばらくして、毒を含んだ返信が。

「いちいち報告しなくていいよ。真琴さんがインでセ好きなのはわかってるから」

インは「淫乱」、セは「セックス」の隠語である。

またHという用語も、以前に紅鬼が住人たちに、このように提案したのである。

「日常会話やメッセージでセックスセックス言いまくるのも、人に聞かれるとアレだし、Hという隠語を使わない?

秘密(Himitsu)の頭文字のH!」

で、湯香の返信にムッときた真琴は、

「たしかに私はインですが、パートナーがちゃんとセの相手を務めてくれないのも原因だと思います」



風太刀(かざたち)記念会館の北側に地上12階・地下3階の近代的な「医療法人仁々会(にんにんかい)・港湾第一病院」がある。(もちろん獣畜振興会とのかかわりは深い)

湯香はここで準看護師として働いているが(タクシーには乗れず、電車通勤)、ただいま10分休憩の時間、ロッカールームでキリン生茶を飲みながら同僚にボヤいてるところ。

「あーあ、セックスのことでこれほど悩む日が来るとは思いもしなかったよ。人はなぜセックスなんかするんだろう」

同僚は同性愛に偏見のない今時の女性で、湯香の相手が女性であることも知っているが、「恋人さんとうまくいってないの?」

スマホに表示された真琴からのメッセージを見ながら、湯香はため息をついて、「私のセックスに対する態度が批判されているのです」

これは非常にデリケートな問題、と感じた同僚は、しばらく考えてから慎重に尋ねた。「あんたがヘタクソってこと?」

「ヘタはヘタなんだけどさー、それより真琴さんにやってもらってから、気持よくなって寝ちゃうから怒ってるのかなー?」

「つまり、あんたが恋人にしてもらった後、あんたは恋人に何もしないで寝落ちしてしまう、と」

「そゆこと。私、男の経験はまったくないんだけど、もし相手が男だったら、私は何もしないで寝てればいいんだよね?」

「いいんだよね?って言われても・・・」同僚は呆れかえってしまったが、それでも脳の片隅の知識を総動員して、

「私こそ女性との経験ないから聞きかじった情報だけど、レズビアンにはやる側の「タチ」、やられる側の「ネコ」、どっちもできる「リバ」の3種類がいて、

たとえばカップルが2人ともネコだったりすると、セックスの相性が合わなくて問題になるらしい。結果別れることも・・・」

湯香は思わず同僚を尊敬の目で見て、「セックス大辞典!」

「相談に乗ってやってるのになんだ!その言いぐさ!」

ここで湯香のスマホが再びメッセージを受信、(真琴さんからの謝罪だといいな)と思いつつ見ると、

「あ、ミラ姉・・・ 今日の昼、いっしょに食べようって」



記念会館ロビーには、「ホースレースの収益金は日本の畜産業の発展に使われています」と書かれた大きな垂れ幕の下、かつてレースで活躍した名馬たちの1/1サイズのフィギュアが、ところせましと並べられている。

その一番奥に獣畜振興会の初代会長、故・風太刀駿馬(かざたち しゅんま)が老いた両親を2人まとめて背負っている通称「パワフル孝行像」。

台座には「一日百善」という有名なフレーズが。

パートナーの曽祖父(といっても紅鬼は養女なので血はつながらない)の像のかたわらで、ミラルは待っていた。

その姿を見て湯香は(怪しい・・・ これほど怪しいOLもなかなかいない・・・)

一方のミラルも、かけよってくる湯香を見ながら、(レッサーパンダ・・・ いやアライグマか・・・)

「今日は湯香のおごりね!」

「なんで!?」

「見物料払うんでしょ?」

「ぐぬぬ・・・」

「何食べたい?」

「・・・ハンバーグ」


この記念会館と周辺は飲食店がひしめく「食のテーマパーク」であり、ミラルも毎日ちがう店で食べても、すべてを制覇できないほどの店舗数に舌を巻いていた。

記念会館自体は香港のペニンシュラ・ホテルに似た構造で、上空から見るとコの字型、中央の本館を左右のウイング館が挟んでいる。

本館に向かって右が「専門店ウイング」、熟成肉やらソーセージやら生ハムやら、チーズ、蜂蜜から、ジビエ肉、食用昆虫にいたるまで、あらゆる畜産品の専門店が並ぶ。

左が「アンテナショップ・ウイング」、47都道府県すべてのアンテナショップが4階建てのビルにぎっしり詰まっている。

「時間があまりないから、イートインでいいか」

2人は「アンテナショップ・ウイング」へ、1階の長野県の店に入ると、イートインで「鹿肉ハンバーグ定食」を注文。

ミラル「ビール飲みたいなあ・・・ この鹿肉ハンバーグ、まりあのパパが考案したメニューだってよ」

鹿肉に脂肪分を補うためベーコンでグルグル巻きにされたアツアツのハンバーグが、2人の前に置かれた。

湯香は、おそらく真琴が紅鬼に相談、紅鬼からミラルに連絡が行き、自分が誘われたのだろうと推測した。

が、ミラルの方からはその話題に触れないので、自分から核心に迫っていった。

「ミラ姉は・・・ 紅鬼さんの言ってる『全員恋人計画』って、どう思う?ほふほふ」

「いいんじゃない? 人間一生1人だけを愛するなんて・・・ 自然な姿じゃないよ。女と男の組み合わせだったら、子供もできるし家族もあるから1対1・・・

それはわかるけど、女同士ならもっと自由に、何ものにも縛られる必要はない。パートナーは1人だけど、恋人は何人でもいい。

紅鬼の天才的なところは、パートナーと恋人を別物ってことにして、パートナー>恋人ってことでさー」

「そ、その恋人ってのはさー、要するにセをする相手ってことだよね?」

ミラルは、いつになく優しい目で、「湯香はまだ抵抗あるんだよね。無理しなくていいし、強制じゃないから。もし、いつか納得して・・・

パートナー同士の了解が得られるなら、少しずつ、そういう関係に踏み出していっても・・・ えーと、住人が13人で、アンを抜かして12人。

全員がそれぞれ恋人になるとして、えーと、1から11を足せばいいのか?」

「1から10を足すと55だよ。だから11足して66か」

「66組の恋人!って何か壮大じゃない? 紅鬼はなんの天才か知らんけど天才にはちがいない」

「もう、なんの話してるのか、ワケわからなくなってきたよ・・・ でも真琴さんに謝る!」

結局、会計はミラルが払ってくれた。



「早出組」のメンメンが帰宅。(帰りはミラルも満員電車、アリスンは英国大使館が用意するタクシーあるいはリムジン)

真琴は笑顔で、愛するパートナーを出迎えた。「お帰り、湯香! 今日はハンバーグよ!」

「わーい! 牛肉だよね?」

「牛肉100パー!」

アンも「ワーイ!」(アンの帰宅時には毎回、誰かが小学校まで迎えに行く)

ミラルだけ一瞬うげっ、という顔を見せたが、すぐに抑えた。

旅暮らしで鍛えた「鉄の胃袋」を持つ彼女のこと、連続ハンバーグくらいは大した試練ではない。

湯香は配膳を手伝いながら、「真琴さん、私セックスがんばってみるよ!」

真琴「バカ!子供たちの前でなんてこと言うの! 頭おかしいんじゃない!」

しこたま怒られた。



その夜の「いちゃいちゃ劇場」は、物音に目を覚まして起きてきたアリスンも合流。

まりあの股の間に挟まって鑑賞した。

「あんたたち毎晩、こんなことやってんの・・・(呆」

またしても不穏な空気となり、ミラルはワインに頼ろうとするが・・・ ワインの用意を忘れた!

助けを求めるように真琴を見て、グラスを飲む仕草をするが。

真琴はノートに「ワイン品切れ」と書いてミラルに見せる。

(んんーっ!)大ピンチのミラル。

その時、アリスンが飛び出してミラルに舌まで入れる深いキス。

ミラルはとっさに、受け取った「飲み物」を口移しで紅鬼の喉に流しこむ。

紅鬼の目がトロンとして、険悪な表情は消えていった。

まりあ「おお、アリスンの『ワイン』がきいた!」

真琴「さすがローラのパートナー・・・」

湯香(すごいな、みんな恋人だから、こんなことができるのか・・・ みんな恋人だから、仲良くまとまっていられるのか・・・)



こうして今日も無事に「劇場」は終了。

湯香は真琴とのセの途中、またしても寝落ちしてしまった。




姫百合荘の豆知識(2)


誕生日プレゼントのルール!

アンをのぞく12人の誕生日では、パートナー以外の10人は1000円ずつ出し合って合同でプレゼントを買います。

そうしないと誕生日やクリスマスばっかりでプレゼント破産してしまうから・・・

(アンの誕生日には各自別個にプレゼントを買いますが、上限は3000円)

クリスマスは12人が各自ひとつずつプレゼントを買い、プレゼント交換。

(アンにはやはり各自別個にプレゼントを買いますが、上限は3000円)




まりあはスコットランド出身の冒険家・著述家の父、スウェーデン出身イラストレーターの母の間に生まれた。

どちらも日本に帰化していたので、まりあは生まれながらの日本人、しかも一度も外国に出たことがない。

長くうねる藁ぶき色の髪、グレーに近い青い瞳、大きな口に厚い唇、林檎のような赤いほっぺ。

そして身長は182センチ、姫百合荘ではいちばん背が高い。

紅鬼に連れていかれた美容院の店長からは、「昔いたトレーシー・リンドって女優さんに似てる」と言われたが、誰もそんな女優は知らなかった。


湯香はある日曜日(湯香は休日シフト)、自分が使用した後のトイレを熱心に掃除するまりあを、感動して眺めていた。(長い金髪を頭上に丸めてニット帽をかぶり、ジャージ姿)

「ほえええ~ハリウッドでレッドカーペット歩いてる女優さんみたいな美女が、私の使ったトイレを・・・ 申し訳ない、ただひたすら申し訳ない。

人生でこんな瞬間が来るとは、誰が予想できたろうか・・・」

その大げさな感激っぷりに、まりあは思わず吹き出して、

「実家にいた時は毎朝4時に起きて、馬にブラシをかけて厩舎を掃除してたから! 臭いだってこんなモンじゃないよ!

湯香のオシッコなんて無臭みてーなもんだし、なんなら飲めるよ?」

思わず青ざめて後ずさる湯香を見て、「いや、お世辞じゃねーし! 本気で飲めるんだよ?」

「本気で言ってそうだからドン引きしてんだよ!」

まりあは失言に気づいて、あわあわ「もしかして東京の人にオシッコはまずかったか! 尿です、尿」

「同じだよ!」

「東京砂漠って言うから、東京人は尿をろ過して飲み水にしてるかと・・・ 我ながら、うまいこといったな!」にんまり

「デューン砂の惑星か!」



第2話 おしまい


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