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姫百合荘の生活  作者: 嬉椎名わーい
1/6

1、白い家とイチャイチャとショートカット

地下鉄麻布線百合穴(ゆりあな)駅から百合穴通りをぶらぶら百合穴三丁目まで歩いてきた碧井優樹(あおい ゆうき)は、りっぱな鉄細工の門の前を通り過ぎているのに気がついた。

(おやおや、これはステキな)

見ると門の向こうには芝生の庭が広がり、白い四角い建物が見える。

門には鉄製のパネルが張りつけてあり、


女性専用シェアハウス 姫百合荘(ひめゆりそう)

御用の方は正面入り口(この反対側)へどうぞ

セキュリティ・システム作動中


(わざわざ「女性専用」なんて書く必要あるのか? 変質者を呼びよせそうな・・・ なるほど、監視カメラがちらほら)

優樹が立ってるのはシェアハウス北側、交通量の多い百合穴通りであり、今歩いてきた東側には敷地をピッタリ接して、もう1軒りっぱなお邸。

西側には横道が入ってるので、そちらを歩いて正面入り口を目指してみる。

分不相応にも家賃の高い港区に物件を探している優樹、「女性専用シェアハウス」という文言には心惹かれるものがあった。

(曲がり角にはゴミ出しスペース、続いて物置かな? 車が3台は入りそうなガレージ・・・)

そして白い壁にエビ茶色の窓枠の本館、装飾はほとんどない。

(うわー監視カメラが多い・・・)

左に折れて、建物正面。

3階建て、白い三層のアーチが優美ではあるが、四角い豆腐のような建物は「女性専用」の甘美なイメージとは、ちょっと遠いかもしれない。

正面には頑丈そうな木製のドアが2つ。

右側は「住人専用」、左側は「お客様専用」・・・ 左側に近づいた優樹は、さらに不愛想な表示板に向きあった。


女性専用シェアハウス 姫百合荘

ただいま入居者の募集は行っておりません

セキュリティ・システム作動中


(なんだよ、せっかく正面まで回ってきたのに・・・)

これであっさり引き上げるような女ではないので、優樹は「お客様専用」の呼び鈴を鳴らしてみた。

ドキドキドキ・・・

しばらくして、「どちらさまでしょうか?」と金属製のインターホンから、芯の通った、しかし冷たく拒絶するような声。

いったい、どんな美しい人が・・・ いや、美しいと決まったわけではないが・・・

「あの、わたし住むところ探してまして・・・ こちらはやっぱり定員いっぱいなんですよね?」

「そうです、寝る部屋もないほどいっぱいです」

「女性専用っていいなあ、と思ったんですけど・・・ もし空きが出たら連絡していただくわけには?」

「紹介がないと無理ですし、それにウチはお1人様はちょっと・・・ カップル専用なんです」

「え、でも女性専用って・・・ ああ、そうか! 女性カップルってことですね?」

「そうです、ごめんなさい」

取り付く島もない、とはまさにこのこと。

複数のカメラが自分をフォーカスしているのを感じながら、スゴスゴと優樹は踵を返した。



向かい側に「ベルエポック」という小さな喫茶店があるので、入ってみる。

アイスコーヒーを飲みながら、品のいい老紳士のマスターに話を聞いてみると・・・

姫百合荘の右側(東側)のお邸が、伝統ある「音羽会(おとわかい)」というテキヤ系組織の二次団体「鎧組(よろいぐみ)」組長の本宅。

で、姫百合荘には組長のお知り合いのお嬢さん方がワイワイ楽しく住んでる。

「きれいな方ばかりですよ。みなさん男には興味ないようで」

しかし・・・カタギの方は近づかない方がいい。

「あーあ、それじゃしょうがない。残念だな・・・現代のレスボス島か・・・あの中はいったい、どんな世界が・・・」

優樹自身も、実は決してカタギとはいえない経歴の持ち主であり、しかも姫百合荘管理人とは前職でつながりがあったのだが、お互いまったく気づかなかった。

そのへんまで書く余裕が、この先あるかどうかはわからない。




それから半年ほどが過ぎて・・・

姫百合荘のお隣さん、音羽会若頭にして鎧組組長の鎧弘樹(よろい ひろき)は妻を伴って「お客様専用」のドアを叩いた。

40代に入ったばかりの、がっしりした短髪の男前。

美しい妻の亜季子(あきこ)は和装である。

「若頭に奥様! どうぞ、お上がりください!」

笑顔で出迎える、長い髪のスレンダーな美女・・・ 九州の産らしいキリッとした眉に涼やかな目元。

ミニスカートの下から黒タイツの見事な脚線美がのぞいている。

鎧は応接間に上がると、「今日で姫百合荘オープン1周年ですね! これ、つまらないものだけど・・・」

ふろしきを解いて、高級そうな包みを取り出す。

「お肉系は『獣畜』から手に入ると思って、海のものにしました・・・キャビアだけどお好き?」

「キャビア!わーい嬉しい! ありがとうございます!」

革ソファーに腰を落ちつける夫妻、妻の亜季子がマシンガンのように、

紅鬼(くき)ちゃん、お元気そうね。今日は人手は足りてるの?アンちゃんは今日は学校?妹さんはお元気?燃子(もえこ)さんはその後ご様子いかが?

あ、おかまいなく、すぐに引き上げますからね。伯爵のお嬢さまは今日は大使館?アンちゃん風邪ひいてないかしら、えーと」

紅鬼は一瞬のスキを突いて割りこみ、「みんな元気でやってますよ、今日はバーを休みにして、うちを手伝ってもらってるから大丈夫です。

アンは帰ってきたらご挨拶に・・・今日はケーキを焼くので、後でもっていかせますね。あと燃子はしばらく発作もないし落ち着いて・・・

若頭、今日はお車運転なさいますか?」

応接間備え付けのミニキッチンで、手早くコーヒーの支度をしながら尋ねる。

「いえ、最近は週末しか運転させてもらえないの」

これを聞いて紅鬼はスマホに手を伸ばし、「真琴(まこと)、応答せよ・・・ ゲストルームまでラムとヨックモックをお願い」

「紅鬼さん、おかまいなく・・・本当にすぐ帰りますから」

鎧は室内を見まわし、「この空間だけ・・・ここだけは男が入っても許されるんですよねえ」

紅鬼は申し訳なさそうに、「さんざんお世話になっておいて、締め出すようなことをして心苦しいです」

この応接間のある区域はゲスト専用のトイレ・洗面所を供えており、姫百合荘の他の部分とは完全に隔離された構造になっている。

「いやいや仕方ないですよ。女性が最大限にリラックスできる、そのための姫百合荘だから」

と言いつつも寂しげな夫に、妻は勝ち誇ったように、「私は何回も入れてもらったことあるわよ!」

「俺だってオープン前に龍子(りゅうこ)さんにひとまわり案内してもらったから、大まかな構造はわかってるけどさ・・・

それにしても1年間、よくがんばりましたね。大きなトラブルもなく何より」

紅鬼は心からの笑顔を見せ、「ハイ!これだけ個性の強いメンバーが集まって、大きなケンカもなく・・・細かいのは常にありますけど」

「皆さん、仲が良いのねえ・・・ シェアハウスだし、いろいろと共有するんでしょ?」

「そうなんですよ。歯ブラシ以外はなんでもシェアする、サイズさえ合えば」

下着さえシェアする、と言いかけて男性同席なのを思い出し、口を閉ざす紅鬼。

危ない危ない、完全に女ばかりの生活に染まってしまっている・・・

「着る物は意外と共有できないんですよ。みんなけっこうサイズも体型もバラバラで・・・ 

肌の色も多様なので、白人組や褐色系はファンデーションの合うのが見つからなくて苦労してますね」


と、住人専用玄関との間を仕切ってる壁のドアが開き、エプロン姿の真琴が現れた。

「遅くなって、すみませーん」

黒髪姫カットの和風美人だが、酒壜と菓子が入ったピクニック用バスケットを抱えた姿は、赤ずきんちゃんのよう。

「奥様、ステキなお召し物ですね!」

「真琴さんもすかっり体調はいいの?よかった・・・」

応接間に上がり、淹れたてコーヒーにラム酒を注ぐ真琴をじーっと見つめる紅鬼、「メークしてて遅くなったのか、見栄っ張り!」

「だってすっぴんじゃ失礼だし・・・」

そんな真琴を、紅鬼は2人の客にあらためて紹介するように、

「ちなみに真琴は、私と唯一下着のシェアができる下着バディなんです」

「紅鬼さんセクハラ!」と顔を真っ赤にする真琴。

夫はハンカチで額の汗を叩き、妻はホホホと笑いながら「結局言っちゃったわね、紅鬼ちゃん」

コホンと咳払いをして、話題を変える紅鬼。

「今日は午後から美容院を予約してあって、実は髪をバッサリ切るんです!」

「えーっ ショートにするの?」

「なんで、もったいない・・・」

背中の半ばまで届く長い髪をもて遊びつつ、「管理人の仕事に邪魔だし、髪の重さが偏頭痛の原因にもなってるみたいだし・・・

あと私のパートナーが、ショートが見たいって・・・ 次にお会いする時は、だいぶイメージが変わってますよ!」



ラム入りコーヒーとヨックモックを5分ほどで片づけ、隣人夫妻は帰っていった。

夕方、すっかりベリーショートになった紅鬼は「住人専用」ドアから入ってくる。

エントランス・ホールは簡単な事務室になっており、その奥に玄関。

壁には大きな貼り紙・・・ それは姫百合荘の掟。


1、パートナーを裏切らない。

2、親しき仲にも礼儀あり。

3、仲間を比較・ランクづけしない。(とくにパンちゃん!)

4、悪いと思ったら、すぐ謝る。その日のケンカはその日のうちに!


「ただいまー! みんなー髪切ったよー!」

すっかり軽やかになった紅鬼を出迎える仲間たち。

残念ながら仕事やシフトの関係で、13人全員が揃うことはめったにないのだが・・・




さて、時は3ケ月ほどさかのぼり、秋の深まった11月、月曜日。

浜松町近辺から東京湾に張り出した埋立地、通称「風太刀(かざたち)アイランド」の風太刀記念会館に、「日本獣畜振興会」本部がある。

エントランスには、この財団法人がかかげるスローガン「日本の食料自給率を75%にしよう!」が書きこまれた、大きな垂れ幕。

古巣であるここの広報部に、紅鬼は月曜のみ出勤している。(姫百合荘管理人となる前は、もちろん週5出勤)

そして火・水・木曜は彼女の「パートナー」が、今彼女の座ってる席に収まることになる。

「相方が務めて、半年が過ぎましたが・・・ ご迷惑かけてないでしょうね? 本人は仕事が楽しいみたいだけど・・・」

明日から出勤するパートナーのため、資料を揃えながら紅鬼は尋ねる。

獣畜振興会の絶対的な会長にして日本保守勢力の総元締め・風太刀兵馬(かざたち ひょうま)の娘である紅鬼だが、上司も同僚も長年の友人であり、とくに遠慮はしない。

「なんでもやってくれるし、いい人ですよ」

「たまに難しい漢字が読めない時もあるけど、それ以外は日本語も完璧だし」

「英語、フランス語、アラビア語もできるし、海外の事情にも詳しくて」

「初めて見た時はビックリしたけど笑 スーツ姿でもインパクトあったなー笑」

「紅鬼さんももっと出てきてくれればいいのに」

「私もねえ、ハラール肉の販促イベントなんかでイスラム教徒の方とはよくごいっしょして慣れてるんだけど、あの人はイスラムとはまたちがう文化なんですよねえ?」

「それにしても『人間というより女神』なんて、大げさに言ってるんだろうと思ったら、まちがいなく世界一の美女ですわ!」

「そうそう、目の潰れそうな美女! なのに中身は庶民的というか親しみやすいというか笑」

若手からおばさんまで広報部員たちがそれぞれ発言したところで、紅鬼はホッとひと息。

「とりあえず、順調か・・・ でも何か問題あったら、遠慮なく言ってくださいね! ご承知のように、当初は彼女にシェアハウスの管理人をやってもらって、私が週4こっちに出てたんだけど・・・

家にずっとこもらせたら、あの人の目がだんだん死んできちゃって・・・ イチかバチか彼女をOLに仕立てるという作戦に出て、うまくいってよかった。

常に新しいことに挑戦してないと、すぐ飽きちゃうみたいなんだよね・・・ でもまさか、あのミラルがOLしてるなんて笑」

「あの、紅鬼さん・・・聞いていいですか?」「私も!」「私も!」「ハイ私も!」

ろくでもない質問が来そうな予感がして、紅鬼は覚悟を固めた。「どうぞ」

「あのね、ミラルさんがね、初めて紅鬼さんの家に泊まった時、『鼻毛をカットしてもらった』って・・・」

「次、どうぞ!」

「2人きりの時は、どんな風にすごすの?」

「どういうところが好き?」

「アクセサリーとかネイルとか、すごいよね?」

3つの質問をまとめて受けて、「そそそ、みんなも知ってのとおり、あの人は全財産をアクセサリーに変えて身につけてるんだけど、

自分でも細工物が好きで、よく手作りアクセサリーを作ってるのね。2人の時は、まず新作のアクセをチェックして・・・

それから『ヘンナ』っていう手に書く模様。(ここで一同、「あーアレね、ハイハイ」) 彼女はヘンナ・アーティストもやってて、1000種類くらいパターンがあるんだって。だからヘンナしてる時は、それも観察。

んで、ネイルもミラルが自分でやっててスゴイよね! あれはもう芸術だと思うんだけど、両手両足で全部ちがうから、じっくり鑑賞して、最近は写真にも撮ってるんだけど、そんな風にいろいろ見てると、すぐに30分くらいたっちゃうのね。

んでー、その後やっと髪型とかファッションとかメイクとかを見て・・・ とにかく見どころが多い。人間テーマパーク、というか人間観光名所!笑」

いつのまにか熱く語っている紅鬼を、(ほわー、パートナーが大好きなんだなー)とホワホワ見守る広報部員らであった。



さてさて紅鬼は定時で上がり帰宅して、「早出組」の住人たちで夕食を済ませ、あらゆる用事を片づけ・・・

姫百合荘2階の中心であるリビングルーム(通称いちゃいちゃルーム)のソファーに、パートナーと並んで座っていた。

褐色の肌、濃い茶の長い髪、濃紺の海の色の瞳・・・ 左の頬には小さな赤い星のタトゥーが2つ。

日暮里の繊維街で大量購入したエキゾチックな柄の布を、巻きスカートにして腰に巻いている。

まるで彼女の周辺だけ異世界が広がっているような、怪しいオーラを発散していた。

このミラルの指から新作のリングを抜き取り、広報部のスタッフに語った通り、紅鬼はじっくり鑑賞タイムに入る。

「ベドウィン・ジュエリーって言うんだっけ? 器用に作るなー」


「食器片づけと明日のゴミ出し準備オワター! 今は鑑賞中だから、あと30分くらい時間あるな」

短い髪を後ろで2つに結んだ湯香(ゆか)が、パートナーの真琴と合流。

かつて建設工事のバイトをしていた時代の名残で、肌は茶色に焼けている。

「子供たちは寝かせたから。今のうち、やることやっちゃおう」

真琴もせかせかと、落ち着かない。

「あんたたち、今日も見学すんの?ヒマだなー」

あきれ顔を見せるのは、長い金髪に碧眼のスコットランド系日本人、まりあ。

身長182センチ、姫百合荘ではいちばん背が高い。

「私、外回りのセキュリティ・チェック行ってくるわ」

「じゃー私が1階と2階のチェックを」

たよれる「力持ち」のまりあと湯香が巡回でリビングを離れた後、真琴も何かやることないか考えた末、「飲み物用意しとこ!」


こうして約30分後、紅鬼とパートナーの座るソファーの前に、クッションを置いて並んで腰かける湯香と真琴。

「いよいよ始まる・・・わくわく」

「いちゃいちゃタイム!」

ペットボトルのお茶を飲みつつ、思わず力の入る2人。

少し離れた1人用ソファーで、文庫本とスマホを膝の上に乗せたまりあが、「見られる方も見られる方だけど、見る方も見る方だな!」

が、そんな彼女の首には、大型双眼鏡のスリングがかかっている。

ついに「鑑賞」の時間は終り、紅鬼とミラルはともにセーターを脱ぎ、上半身はタートルネックのピタT1枚となる。

まず紅鬼が、切なげな表情でミラルの首にまとわりつく。

褐色のエキゾチックな美女は、目の前の日本人女性2人を睨むと、「1人千円!いただくからね」

湯香がニヘッとした笑いを浮かべ、「いちゃいちゃ劇場、千円なら安い」

紅鬼は観客がまったく気にならないようで、熱に浮かされたようにパートナーの横顔を見つめている。

「美しい・・・ こんな美しい人が、この世にいるなんて・・・」

ミラルも相方と額を重ねて、髪を撫でてやる。

「あんたもまーまーかわいいよ」

愛する女性の匂いをいっぱいに吸いこんで陶然となる紅鬼、相手の目をじっと見つめて、

「そういえば、なんで鼻毛の話なんかしたの?」

「鼻毛? ・・・あー、あれ・・・」

ここでギャラリーは、「今、鼻毛とか言ってなかった?」と困惑。

ミラルは紅鬼から目をそらし、「紅鬼さんを好きになったきっかけは?って聞かれて・・・ あの時、体をゴシゴシ洗ってもらって、鼻毛切ってもらって、あーこの子いい子だなーって思ったから・・・」

目を輝かせた紅鬼が、「あの時、惚れたの?」

「惚れない。ちょっと印象良かっただけ。あの時は、こんな恐ろしい女だとは・・・」

傷ついた紅鬼の顔を見て、ざわめくギャラリー・・・ 「あ、やばい方向に行く?」

ミラルは湯香を指さし、「そこ!見るのはいいけどポテチくうな! 音が気になる!」

「へーい」

ミラルはわきの小卓に置いてある赤ワインのグラスからひとくち含むと、おもむろに紅鬼と唇を重ねる。

ゴクリと紅鬼の喉が動き、ギャラリーは笑顔に。

「でたー口移しワイン!」

「これでやばいルート回避」

ふーっと一息つく紅鬼は、すっかり機嫌が直っていた。

「そういえばさ、ミラルうー。姫百合荘1周年の日に私、髪切ろうかなって」

「えっ もしかしてショート!」

目を輝かせるミラルに、うれしそうにうなづく紅鬼。

「ボーイッシュな女子が好きって言ってたでしょ? それと少女っぽい美少年・・・だっけ?」

「うんうん、いいねえ。なかなかいいんじゃない?」

「ミラルは髪切らないの?」

「実は切りたいんだけどさー・・・ 占い師という職業柄、ショートだと神秘性に欠けるんだよねえ。

日本でも『女の髪には霊力が宿る』みたいなこと言うじゃない? 中途半端なポンコツ魔女ですから、少しの霊力でも大切にしないと」

「ふーん、そうか・・・ でも1周年、楽しみだねえ」

「それまでは私も逃げないで、ここにいるよ!」

とたんに紅鬼の目に闇が宿った。

「逃げる・・・? 逃げられないよ、風太刀家の総力を挙げて探し出すし、日本から出さないよ!」

じっとパートナーの目を見つめる、その瞳に宿った狂気。

「逃げたら殺すよ! そして私も死ぬ」

このシリアス展開には、ギャラリーもすっかりビビっていた。

ミラルはとっさに、ワインをもうひちくち啜ると、

湯香(うわー同じ手を!)

真琴(それはもう通用しない!)

紅鬼を熱く抱きしめ、情熱的なキス。

トロトロになってミラルの首にしがみつく紅鬼・・・

「逃げなくても、好きすぎて死ぬ・・・ 好きすぎてつらいよ・・・」

その頬をダラダラと涙が流れる。

ギャラリー(通用したー!)

真琴「あれ?風がスースー入ってくるけど、窓が開いてる?」

湯香「それ、まりあちゃんの鼻息がここまで届いてる・・・」

この情熱的なキスシーンを、カール・ツァイスのバードウォッチング用双眼鏡で熱心に観察していたまりあ、顔が真っ赤。

ミラルは唇を離し、「こんな恐ろしい娘に捕まってしまうとは・・・ 私の人生どうなってしまうんだろう」

その胸の中の恐るべきパートナーは、目が潤み、唇も濡れている。

「そろそろ・・・」

「あ、ベッドに行こうか」

よろめくように立ち上がる2人。

まりあ「うちの寝室使っていいよ! 私、今日はリビングで寝るわ」

ミラル「サンキュ、まりあ」

リビングのすぐ隣にある寝室へ、体の火照るカップルは消えていった。

ふうううーっと満足のため息をつく湯香、「いちゃいちゃ劇場がおもしろすぎて、TVもネットも見る気が起きない・・・」

真琴「さ、片づけてベッド作っちゃいましょうか」

3人でソファーを変形させ、ベッド・メイキング。

まりあ「しかし管理人カップルが部屋無しとは・・・ 紅鬼さんもさ、もうちょい収納を削れば、もうひと部屋できたのにな?」

真琴「収納と衣裳部屋がたくさんあるのが姫百合荘の売りだから」

湯香「寝るところはどうにでもなる、という豪快なプランだけど、実際どうにかなってる」

まりあ「私、遅出組を待っとるから。2人は寝てもいいよ」

日本人カップルは顔を見合わせ、

真琴「それじゃお言葉に甘えて・・・ 私らもHしてからお風呂入ろうか?」

湯香「ぽっ うん・・・」


最後には、まりあが1人取り残された。

キングサイズの大型ソファーベッドに身を投げ出し、「あーあ、燃子・・・早く帰ってこないかなあ」


さて、数日後。

1階のキッチンで食事の支度に余念のない真琴のスマホに、病院で準看護師として働く湯香からメッセージが届いた。

「言うの忘れてたんだけど、今日は退職する人の送別会があるから、夕食いりません。それと

いちゃいちゃ劇場、録画しといて!」

真琴「なんですとー!?」




姫百合荘の豆知識(1)


住人は全員、家の中でもポーチやポシェットを持ち歩いている!

(中身はスマホ、財布、鍵、ハンカチなど)

広い家の中をあちこち移動するし、「自室」というのも厳密に決まってるわけではないので、貴重品は持ち歩く。




それは姫百合荘がオープンして間もないころ。

湯香は、波打つ金髪を垂らした碧眼の美女と初対面していた。

(どうしてこの家は、こんなハリウッドでレッドカーペットを歩いてそうな美女ばっかり・・・

これじゃ私だけ、まるでドワーフだよ・・・)

が、おどおど緊張しているのは相手のまりあも同じ。

「あの・・・湯香さん、東京の人なんですよね?」

「あ、ハイ」

「東京の人って・・・セックスうまいんですよね?」

「どういう東京だ! 私は東京っていっても、江東区大島という下町の生まれだから・・・

まりあさんこそ、アカデミー賞の女優さんみたいで・・・ 私なんかが、いっしょに暮していいのかな」

まりあは、かき上げた前髪からほつれて落ちた金髪をいじりながら、

「あー私も前はねー、前髪ぱっつんで田舎臭かったんどもさー、東京出てからな・・・ 紅鬼さんのおかげでな」

まりあが初めて紅鬼に会った時、

「まりあちゃん、美人さんだけど髪型と服がダサイね!」と言われたらしい。

湯香は思わず、「紅鬼さん、ひどいな!」

まりあ「でも私、紅鬼さんのそういう竹を割ったみたいにサッパリしたとこ好き」

湯香「竹を割りすぎだろ・・・」


で、紅鬼が常連のオススメ美容院に連れていってもらったのだが・・・ その看板を見て、まりあはガーンとショックを受けた。

「20世紀で時の止まった美容院」


湯香は頭をかかえ、(それで紅鬼さんの髪型も微妙に昔っぽいのか・・・)

まりあが、おもむろに顔を近づけ、顔を真っ赤にして「それで、あのな・・・ 実はな・・・

この家かわいい子ばっかりで、ちょっとコーフンしちゃって・・・」

「ええええっ?」

「あの、その、下着をちょっと汚すてしまってな・・・」

湯香(この人、ハリウッドはハリウッドでも、汚いハリウッドだーっ!)

まりあ「真琴さんが、アイロン室にある湯香さんのパンツを使っていいとおっしゃられるから・・・ お借りしますた・・・

歯ブラシ以外はなんでもシェアしていいっつー話だったもんでよ・・・」

湯香「パンツは別にいーよ、私のっていうか、サイズが合えばみんなのだから。あ、でも待って・・・

身長155センチの私のパンツが、182センチのまりあさんに合うってこと?」

まりあ「ピッタリっす」

湯香「そんなバカな、物理法則が歪められている! ここはブラックホールか・・・」

まりあ「私ら、下着バディだね!」にんまり



第1話 おしまい

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