表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

私メリーさん。今研究所にいるの。

事件に関する説明が終わり、メッサリオが話題を雑談に移行させてからほどなくして、フェリーがハリサイドの現場に一番近い船場に着岸した。


そこでメッサリオを先頭に、ヴィルヘルムと、雨に濡れた地面を踏むことなくフェリーから再び椅子駕籠に乗り移ったメリーさんが現場に向けて移動しようとして…


「そういえば元々は魔法軍の研究所から死体があるという通報があったって話だったね。すぐそこだからまずそっちを見に行くわ。」とメリーさんが言い出した。


「魔物調査課が担当する事件現場はメリーさんの到着をずっと待機しているから、他の現場を見にいく時間の余裕はあんまり…それにその事件は魔法犯罪課が担当するもので、我々の管轄外です。」ヴィルヘルムは歩むペースを落とすことなく説明した。


魔法犯罪課は魔法を使った犯罪全般を担当する大きな部署であり、元々魔物調査課はその一部門だった。しかし法律を守り、税金さえ支払えば魔物でもホーポルクの民だと承認する政策をホーポルクが掲げてから、ホーポルクの市民になる魔物が急増し、それに伴い市民権を持たない不法移民の魔物も爆発的に増えたから、それに関連する事件を調査する独立した部署が必要ということで、魔物調査課が創設された。


したがって、魔法犯罪課の警察官には、隷属していた部門が今や同等の立場に格上げされたことを快く思っていない者が少なくない。


「だって軍の一級施設よ?私が行かないと、誰が担当しても結局何も出来ないじゃなくて?」


主戦闘魔法軍第一研究所を含むホーポルク軍の一級施設は領主(実質上のホーポルク王)直轄の施設、官階が少将以上の軍人が司令官として駐在する。それなりの位階の貴族が所属するのが慣例であり、現在主戦闘魔法軍第一研究所の責任者アルフレッド=モイエは、官階が少将で爵位は伯爵だ。


建前としては、警察は貴族に対しても国家権力を行使できるが、実のところ領主や同格以上の貴族や、ホーポルク軍でもない限り、国家権力を振りかざす警察だろうとも貴族たちは相手にしない。メリーさんに魔法鑑識専門家という肩書を与えたのも、そういう背景を配慮してのことだ。


「そもそも軍の研究所なのに死体があると通報したって、事件を調べてもらいたいより、むしろ死体を処分しろってことじゃないかしら?だからここは公爵()が裁断しないとね。ついでに魔法犯罪課に貸しを作ることも出来るし。」


「ははは、それだと自分がメリーさんに借りを作ることになるけどな。」とヴィルヘルムが苦笑した。


「じゃ、昼食は美味しいものでも奢りなさい。」


「是非本職に奢らせてください!この近くにコンチネンタル料理の美味い店があるっすよ、良かったらそこでお昼ご飯一緒にいかがですか?」ここでメッサリオがフォローする。経費で落とせないし、警部長の給料で公爵が納得するレベル料理を奢るとなるとやはり苦しいので、ここはボンボン息子の本領発揮どころだ。


「許してつかわす。ただし、美味しくなかったらただではおかないから。」


主戦闘魔法軍第一研究所の敷地は広く、建物も立派だが、敷地を囲む垣根がない。建物自体はほぼ小さな城郭のような形をしていることからして、おそらく篭城戦を想定し、垣根は城郭からの攻撃を遮る障害物でしかないからだろう。


死体は、敷地のスタート地点と研究所の城門のちょうど中間地点に仰向けに倒れていた。魔法犯罪課の警察官と思わしきもの4名が、きらびやかな軍服を着ている小柄な老人が何やらと揉めていた。もう一人軍服を着た若者が老人の後ろに立っているが、自分とは関係なしとばかりに無表情のまま突っ立っていた。


「だから侵入者をやむなく排除したんだ、調べたいならその死体を持ち帰って好きなだけ調べりゃいいじゃろうが。なんでわしが署までの同行を願われねばならんのじゃ!?」小柄な老人は、これまた頑固じじいテンプレート通りの大声で警察官を怒鳴っている。


「ですから少将様ではなく、第一発見者及び侵入者を手にかけた方に話を聞き…」警察の指揮官らしい人物が自分の言葉を言い終える前に、老人に遮られた。


「貴様、警視って御大層な肩書きの割に物分かりが悪いな。ここにあるのは、国家に仇なす者の屍だ。軍人が敵を葬ったのに、たかが警察の分際でそれをとやかく言う義理はどこにもないぞ!」


「あら、もう事件解決ね。犯人が潔く白状しているわ。」会話がギリギリ聞こえる距離にいるメリーさんは呟いた。


「え?あれは警察を追い払おうとしているだけじゃないっすか?全く自白にはなっていないっすよ。」


「いや、メリーさんのおっしゃるとおりだ。魔法犯罪課のパイカマン警視相手に喚き散らしている老人は、この研究所の最高責任者、主戦魔法軍少将のモイエ伯爵だ。モイエ伯爵以外の軍人が人を殺しているなら、警察ごときを追い払うのに伯爵自身がわざわざ出向くはずがないだろう?しかも殺人の言い訳までのたまっているではないか。」


「では、今からそのパイカマンという魔法犯罪課の警視に貸しを作りに行こうかしら。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ