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第2話 私メリーさん。今フェリーに乗っているの。

「自分の家の玄関前で自分が噂されるのも、結構気分悪くなるけれども。」メリーさんのやや低い声が、ゲートの向こうから聞こえた。


グレイヴス邸のゲートが開き、使用人2人が担いでいる椅子駕籠に乗っているメリーさんが姿を現した。綺麗だが半分以上の時間は無表情であるメリーさんの顔は、この時いささか険悪に見えた。


「ぐっ、これは失礼…」


「いや〜、本職は上司の話に無理やり付き合わされたが、まさかそれでメリーさんの不興を買うとは…ここは1つお詫びとして、お昼ご飯にご招待させていただきたいと思っております。おーっと、本職としたことが、自己紹介はまたでしたね。お初にお目にかかります、本職はメッサリオ・クロンデリアン・セイファード、セイファード男爵家の…」


「おだまり!」


「はい!」


メリーさんの美貌にテンションが急上昇したメッサリオだが、メリーさんの迫力に満ちた一喝で黙らされた。


「ヴィル、なんでそんなキラキラネームのチャラいやつが部下なの?もしかしてお荷物部下を押し付ける部署内のいじめなの?」


警察官としての能力は合格点には達しているメッサリオだが、やはり成金親父が強引に入隊させられるぐらいの問題児だから、扱いにくいところはもちろんある。ヴィルヘルムに厄介者を押し付ける思惑が全くないといえば嘘になるが、もちろんヴィルヘルムはそれを認めるわけにもいかない。


「はは、メッサリオ、メリーさんへの第一印象は最悪のようだな。これからの働きで挽回して見せようではないか。」ヴィルヘルムはメリーさんの質問からひらりと身をかわした。


ため息を漏らしながら、メリーさんはメッサリオに目を向けた。


「おい、さる男。」


「さ、さる男って、本職ですか?」


「他に誰がいるの?汚名返上のチャンスよ。これから現場を検証する事件について、簡潔かつ明瞭に説明なさい。」


「あ、えっと、本日早朝、ホーポルク主戦闘魔法軍第一研究所の研究員がハリサイド区派出所に通報しました。当該研究員によりますと、同研究所の入り口付近に不審者の死体が発見されたとのこと。当該研究員は魔法による殺人だと供述したため、派出所から現場へ巡査2名、そして警察庁魔法犯罪調査課との連絡のため巡査1名が出動。


「しかし現場へ赴く途中、該当事件の現場からおおよそ200メートル離れたレドン川岸に、別の死体が発見され、しかもそれが我々魔物調査課の捜査に関わる人物であるため、我々はこれからその2番目の死体の検証に向かいます。以上。」


いつも以上に真面目なメッサリオを見て不思議がるヴィルヘルムをよそに、メリーさんは続けて質問した。


「なんで派出所の巡査がすぐその人物が魔物調査課に目をつけられていたと分かったの?」


「当該人物は頻繁にハリサイド区で目撃されていたため、約2ヶ月前に区内の派出所にその似顔絵を配りました。この男の動きをチェックしろと。」


「それが突然殺されたのね。」


「謀殺の線で調査を進めるかと思われるけど、死に方がちょっと変わっていて、殺されたかどうか分かりません。」


「そこで私の出番ってわけね。」


「その通りです。これから現場へ向かいますが、メリーさんはその椅子駕籠で行かれますか?」


貴族作法に則った足の組み方で椅子駕籠に腰をかけ、パラソールの代わりにグレイヴス家に代々伝わる折り畳み式大鎌を持っているメリーさんに軽く礼をしてから、ヴィルヘルムは確認した。


「当然よ。昨夜ずっと雨だったじゃない?ぬかるむ地面なんて踏みたくないわ。」


◆ ◆ ◆


かくして、メッサリオを先頭に、ヴィルヘルムと使用人に担がれた椅子駕籠に乗ったメリーさんが事件の現場に向かうのだった。


クラーカード川をはじめとする無数の自然の河川と人工運河が織りなすネットワークは、世界で交通の量が最も多いと言われているホーポルクにとって必要不可欠な交通システムだ。そのシステムの中でも比較的に規模の大きい人工運河ハリウノス運河と、平坦な道路が交差するハリサイド区は交通の便が良く、政府や軍の施設が林立している。


運河フェリーで現場へ向かうメリーさん一行。メリーさんは事件の説明を聞きながら、沿岸の風景を眺めている。


被害者フェリックス・コンラッド・デッケンシャー(没年齢31)、表向きは高級食材を扱う商店「デッケーショップ」の経営者だが、裏では保護種魔物の密猟、違法販売の首謀者という嫌疑から魔物調査課の捜査の対象になっていた。今度の事件をいいことに、メリーさんが朝ご飯を召し上がっていた頃、デッケーショップ本店やデッケンシャー宅からもう既に魔物調査課の家宅捜索チームが証拠採取に勤しんでいた。現場検証の後、ヴィルヘルムはメリーさんと一旦魔物調査課本部に戻って、証拠を整理確認する予定だ。


「しかし高級食材の店なのに「デッケーショップ」って名前はどうっすかね。これっぽっちも高級そうには聞こえないけど。」しばらくメリーさんに怒鳴られなかったからか、メッサリオはいつもの調子に戻った。


これにはメリーさんも同意せざるを得なかった。実を言うと、メリーさんはデッケンシャーと一回だけ面識がある。グレイヴス家が所有するブラッスリーにメリーさんが業務視察に行ったとき、食材のサンプル持参でわざわざ本人が営業に押しかけて来たことがある。5分も経たない内メリーさんに駆逐されたが、店の名前があんまりにもふざけていること以外に、デッケンシャーとは関わりたくなかった理由があった。


デッケンシャーは自分のことを口達者で商売上手だと思っていたらしいが、メリーさんから見れば、その強引な売り込みにはその筋の人を連想させるものがあった。メリーさんも自らデッケンシャーを調べるほど暇ではないが、デッケンシャーが出て行った後、ブラッスリーの店長とシェフにそれとなくデッケンシャーに対する感想を漏らした。


それからしばらくして、デッケーショップに関する良からぬ噂が流れ、デッケーショップの業績は見る見るうちに悪化していった。


「魔物の密猟、違法販売ねえ。」メリーさんは独り言を口にした。こういう闇仕事がその怪しい雰囲気の原因になっていたとは、少々意外だった。

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