内気な双子の妹に積極的になってほしいと思って話をしたら、何故か『すき』と言われています
私は昔から、よく明るくて社交的だと言われた。
その言葉は、比べる対象があるから、言われているわけで。
私の場合、比較対象となるのは妹であった。
西ノ宮すず――それが私の妹で、見た目は瓜二つなのに性格は正反対だとよく言われた。
内向的で、人見知り。幼い頃から私の後ろに隠れて、極力人と接することはしない。
けれど、私にはベッタリで、「お姉ちゃん……」と涙目で言われると敵わなかった。
そんな生活がずっと、続くわけではない。
私もすずもいつかは大人になるし、一緒にいられるわけではないのだ。
だから、私はすずにはもっと社交的な子になってもらいたかった。
そう思って、私はすずの部屋を訪れたのだけれど……。
「ねえ、すず。どうして私の上に乗るの?」
「何でだと、思う……?」
首をかしげて問いかけてくるのは、当たり前だけれど妹のすずだ。
私と瓜二つの顔を持つが、その内気な性格を体現するかのように、前髪を伸ばしているため目が隠れてしまっている。
だから、今の表情を窺うことができなかった。
――どうしてこうなったんだろう。
話があると言って、「すずはもっと積極的にならないとダメよ」と、そういう少し説教くさい話を始めたことは覚えている。
気付けば、すずに押し倒されて抑え込まれてしまっていた。
両手に力を込めても、マウントを取られているからか動けない。
……むしろ、すずの方が力は強いのだろうか。
確かに、双子だから顔は似ているけれど、身長も胸も妹の方が大きい。――って、今はそんなこと関係ない。
「ちょっと、ふざけないで」
「ふざけてないよ。お姉ちゃんが、言ったんだから」
「言ったって、何を?」
「もっと積極的にならないと、って」
「……それとこれの、どういう関係があるのよ」
「……積極的になる練習だよ。お姉ちゃんなら、わたしもこういうことできるから」
ああ、そういうことか――私は納得した。
どうやら、すずは私相手なら押し倒したり、押さえつけたりすることができると言いたいらしい。
けれど、姉妹なのだからそれは当たり前なわけで……。
「私じゃ意味ないでしょ」
「お姉ちゃん相手に練習させて」
「練習かぁ。うーん……」
すずの提案に少し悩んだ。
積極性を学ぶのに、私相手に練習になるのだろうか――けれど、話す練習にはなるかもしれない。
それくらいなら、私が言い出したんだから協力はしよう。
「いいわ。話の練習ならいくらでも付き合ってあげる。だから、一先ずどいてくれる?」
「ううん、このままで。わたしなりに、実は考えてたことがあるの」
そう言って、すずはゆっくりと私に顔を近づける。
一瞬キスされるのかと思ったけれど、そっと私の耳元に向かって、すずは囁くように言う。
「すき」
「……!?」
その言葉を聞いた途端、ぞくりとした感覚があって、私は思わず逃げようとする。
すずの方を見ると、少しだけ顔を赤くして――けれど、口元は笑っているように見えた。
「な、何の練習よ……!?」
「お姉ちゃん相手だから……恥ずかしいことでも平気で言えるようになれば、練習になるかなって」
「……そ、そういうこと」
だからと言って、急に言われると驚いてしまう。
いや、妹から『すき』と言われただけで、狼狽する私の方がおかしいのだろうか。
「ねえ、続けてもいい?」
すずが落ち着いた様子で尋ねてくる。……私が狼狽してどうするんだ。
「……ええ、いいわ」
私は頷いて答える。
――そうして、すずの練習がまた始まった。
「すき」
「……」
「すき」
「……っ」
「お姉ちゃんのこと、すき」
ああ――これは何だか、まずい気がする。
何度か言われているうちに、変な気分になってきてしまう。
まるで本当に告白されているかのような――そんな気持ち。
耳元で言われて、少し吐息がくすぐったくて、すずの声が近くて……本当に、『すき』なんだという気持ちを伝えられているようだ、と。
押さえつけられたままなのも、今の私にとってはよくなかった。
逃げたくても、すずの『すき』からは逃げられない。
「すき――」
「ちょ、ちょっとストップ!」
「……? お姉ちゃん、どうしたの?」
「えっと、これって練習になるのかなって、やっぱり思って……」
「なるよ。お姉ちゃんが手伝ってくれるから、こんなに積極的になれてるんだから」
そう言われると、確かに私に対しても、いつも以上に積極的になっている彼女がいた。
……すずの言っていることは間違っていないのかもしれない。
でも、このままだと私の方が耐えられそうになかった。
そんな私の気持ちを見透かしたように、すずがいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。
「もしかして、本当にわたしのこと、好きになりそう?」
「す、好きって、すずのことは好きに決まってるじゃない。妹なんだから」
「そうじゃなくて、恋愛的な意味で」
「……っ!? そ、そんなわけないでしょ!」
双子の妹に、そんな感情を抱くはずがない。
私は強く否定するが、すずはそれを聞いてくすりと笑みを浮かべる。
「じゃあ、別に続けてもいいよね?」
「え、ええ。いいわ」
すずの言葉を受けて、再びすずの『すき』が始まる。
双子の妹で、ましてや同性なのだ――恋愛感情などあるはずがない。……ないのに、すでに指摘されて狼狽してしまったのは、何故なのだろうか。
「わたしは、おねえちゃんのこと――本当にすきだよ」
そんな風に囁いてくる妹の顔はやっぱり私に似ていて、けれど私がしたことのないような、妖艶な笑みを浮かべていた。
双子姉妹の妹の方が普段は内気で人見知りなのに、姉に対してだけはめちゃくちゃ積極的な百合っていいですよ。