文化祭(演)
「――ぷくく……。ぷぷぷ」
グラウンドにやって来た。
ここでは野外ライブが行われているみたいだ。
体育館で行われる催し物が演劇等を希望したクラスに対して、こちらは個人的に出る催し物みたいだな。
お笑いライブやマジックショー。後は音楽ライブと様々な催し物がある。
そちらに足を運んだ俺達は簡易的に用意されたパイプ椅子に座り、ステージでくだらない事を言い合っている漫才を見ていた。
ま、素人高校生の漫才だ。レベルはたかがしれてるが、隣ではアヤノが独特の笑い方で笑っていた。
それは、申し訳ないが漫才に対してではない。
「『¥&@$€#!?』だって……。ぷくく」
「いつまで言っとるんだ、おのれは……」
彼女は先程のお化け屋敷での俺の反応を思い出し笑いしていたみたいだ。
「だって聞いた事ない声だったし」
「笑うなら漫才見て笑ってあげて」
「いや、あの漫才より、リョータローの『¥&@$€#!?』の方が――ぷぷぷー」
何だか弱味を握られてしまったみたいだ。不覚である。
彼女の弱味なら沢山握っているのだがな……。
走り方や、成績、それに演技も――。
いや……。本人が気にしていない――むしろ誇りにすら感じている。それに、もう矯正済みだから、それは弱味とはいえないのか……。
くっ……。ホント良い性格してるな、このお嬢様は。
『――続いては――』
アヤノに笑われている間に漫才が終わり、ステージには3人組のガールズロックバンドが出て来ていた。
軽い挨拶を終えて早速演奏が始まった。
アヤノは先程の漫才とはうってかわって真剣な表情でステージを見ていた。
「そういえばアヤノってどんな音楽聴くの?」
俺の問いにステージへ向けていた視線をこちらに向けてくれる。
「バラード系とか良く聴く」
「へぇ。ラブソングとか?」
「好き。でも、ロックも聴く」
「お、おお。そうなんだ」
ちょっと意外だな。
「リョータローは?」
「俺もバンド系かな。ロックバンドとか好きだし」
そして、ステージを指差す。
「だから、こんな感じの曲好きかな」
いかにもガールズロックバンドみたいな曲が聴こえてくる。
音楽は素人だ。だから、ギターが――。とかの細かい所は分からない。
ただ、歌なんだが……。素人の俺でも正直に上手い! とは言えない……。曲調はカッコよくて好きなんだけど。
ま、ボーカル兼ギターはカッコは良いけど難そうだもんな。仕方ないよ。
♦︎
野外ライブは文化祭が終わるまでプログラムがある。しかしながら、そこにずっといるのもつまらないので、見切りをつけて俺達は腰を上げた。
「――もし、そこの少年、少女よ」
立ち上がったと同時に後ろから女性が声をかけて来たので2人して振り返ると、そこには数十分前にステージに立っていたガールズロックバンドの3人が座っていた。
「俺ら?」
「いかにも」
長い髪のリーダーっぽい女生徒が言いながら立ち上がる。
「私達は今、非常に困っているんだよね」
「はぁ……」
いきなりの台詞にそんな声しか出なかった。
「私達の歌、聴いてくれたよね?」
「まぁ」
「どうだった?」
「どうって……」
どうオブラートに包んで答えようか迷っているとアヤノが答えた。
「全然ダメ」
「おいい! アヤノさん!?」
ストレートに言い放つアヤノにリーダーっぽい人が笑った。
「でしょー? いやー実はウチら全員歌下手なんだよね。たはは……」
頭をかきながら陽気に答えてくる。
全員歌が下手なバンドって存在するのか?
「そこでさ……。君、後夜祭だけで良いからウチらのボーカルやってよ」
そうして俺に指差して言ってくる。
「なんで? 俺?」
「何となく歌上手そうだから」
シレッとそんな事を言ってくるから、照れてしまう。
しかし、俺は手を横に振って断りをいれる。
「いや、他をあたってくれ。カラオケじゃなくて、ライブでの歌なんかハードル高すぎだわ」
相手にせずにその場を去ろうとした時だった。
「『¥&@$€#!?』」
「え?」
俺が驚いた顔をし、アヤノは軽く吹き出した。
「君、お化け屋敷で業務妨害したらしいじゃん」
「なんで……」
俺が困惑の顔をしていると、隣に座っている、長くフワフワな髪の女性が苦笑いで言ってくる。
「ごめんねー。そんなつもりで話をしたんじゃなかったんだよ」
彼女の声が、先程のお化け屋敷にいたのっぺらぼうと同じ声だったので、そこで色々と察する。
「あ、いえいえ。こちらの方が迷惑をかけたので」
素直に謝ると「いえいえ。こちらこそ」なんてペコリのやり合いが始まった。
「ともかく! 業務妨害してウチの英美里の邪魔したんだから、その報いとしてボーカルやりなさいよ」
ペコリを一旦中断してリーダーを見る。
「いやいやいや。どんな理由だよ」
「出てくれないと、君がビビリだって事この後の後夜祭で歌に乗せて歌うよ?」
「すっげー脅し方だな! おいっ!」
「出てよー! お願いー!」
パンっと手を合わせて粘ってくる。
「いや、俺歌下手だし」
「下手でも良いんだよ。もう私達さえ歌わなければそれで良いんだよ。誰でも良いんだよ」
「じゃあ他をあたれよ」
「ゆするネタが今のところ君しかないんだよねー」
「とんでもねー性格してるなっ!」
そんな様子を今まで黙って見てた短い髪の人が俺にとってのフォローをいれてくれる。
「つか、ガールズロックバンドなのに男入れるの?」
「あ! 盲点だわ」
リーダーっぽい人が頭を抱える。
短い髪の人はクールに「言ってやったぜ」みたいな顔をしてるけど、リーダー困らせて良いの? 嫌いなの? 仲悪いの? ま、俺は助かったから良かったけど……。
ありがとうショートヘアクールさん――少しだけアヤノと被ってるな……。ま、ウチのお嬢様が1番可愛いけどね!
「――分かったわ!」
パンっと手を叩いてリーダーは次にアヤノを指差す。
「君出てよ。可愛いし。普通に話題性になる」
「分かった」
アヤノの即答に「ええ!?」と俺とリーダーの声が重なった。
「い、良いの?」
もう少し交渉するつもりだったのか、リーダーが予想外過ぎると言わんばかりの声を出す。
「おいおい。アヤノ。まじか?」
「別に良い。ボーカルに興味ある」
クールに言い放った後にリーダーは万歳をする。
「わーい! メンバー見つけたー!」
リーダーはまるで少女の様な喜びの表現をしてみせる。
「良かったわね。由美」
「これでライブ中に罵声やペットボトルが飛んでこなくなるな!」
このガールズロックバンドも色々あったのだろうな……。
罵声とか……。そりゃ歌いたくなくなるわ。
「英美里。薫子。高校最後の後夜祭気合い入れていこう!」
「おー!」なんて勝手に盛り上がっているが――。
「ごめんねリョータロー。勝手に決めちゃって」
「いや、それは全然良いんだけど……。アヤノ……。お前歌は?」
「大丈夫。自信しかない」
はい。デジャヴー。お決まりのパターン入りましたー。
♦︎
「ちょっと合わせてくる。リョータロー。本番楽しみにしておいて」と言い残して、アヤノは彼女達と旅立ってしまった。
俺の制止を聞く前にリーダーがそそくさとアヤノを連れて行ったのは、彼女が心変わりする前にさっさと拉致っておこうって魂胆だろう。
しかし、俺の制止の意味が彼女達の為を思った事とは露知知らず――。
あのガールズロックバンドも可愛そうに。最後の後夜祭を機に解散だな。
――いやいや。勝手にアヤノを音痴認定してるけど、ワンチャンあるよ。もしかしたら、めっちゃ上手いかも知れないし――でも、あの感じ……。やっぱりデジャヴだよなー。
そんな事を考えながら、何処で暇つぶしをしようか悩む。
これなら、アヤノと一緒に彼女達の練習場へ行った方が良かったが、何処で練習してるか分からない。まぁ大方軽音部の部室だろうが……。無駄足になるのも嫌なので、適当に中庭をブラブラとする。
文化祭もそろそろとお開きとなってきている時間。出店も少しずつ畳んできている。
店がないなら、あのままグラウンドでライブでも見ておけば良かったな。
「お、涼太郎」
ふと、爽やかな風が吹いたかと錯覚するほどの声が聞こえてきたのでパッと見てみると、物凄いイケメンが目の前に立っていた。
「あ、ああ。蓮か……」
我がクラスが誇る、見た目も中身も超絶イケメンの風見 蓮がそこにいた。
彼とはそこまで親しい間柄ではないが、フレンドリーに名前で呼ばれるのを好み、クラスメイトを名前呼びをするのを好む。
深い仲ではないが彼は心身共にイケメンという事もあり、好感を持てるイケメンである。
「1人か?」
「今しがた1人になったよ。蓮も? 珍しいな」
蓮は男女問わずに人気だ。そんな彼が1人で行動なんて珍しいな。
彼は爽やかな苦笑いという、若干の矛盾的な笑い方で答えてくれる。
「そうかな? 俺も結構1人が好きなんだけど。涼太郎と一緒で」
なんだか見透かされた様な瞳で言われてドキッとしてしまう。
俺はどんな表情をしてしまったのだろうか。分からないが、俺の顔を見て蓮は笑った。
「あはは。実は俺、人を探してるんだよ」
「もしかして――?」
俺の脳裏に思い浮かんだ人物の名前を出す前に蓮が先に口に出す。
「多分涼太郎の思ってる人。見てない?」
「いや……。そういえば今日はクラスの奴等見かけてないな」
「はは。クラスの奴等なら大半が職員室に行ってたからな」
「え? そうなん?」
「そりゃ文化祭でキスしちゃったからな」
「ああ……そういや忘れてた……」
一応、文化祭でのそういう行為は御法度だ。それを笑える奴や盛り上がれる奴もいれば、逆に抵抗のある人もいるからな。特に教育委員会とか厳しそうだし。
「ま、本人達は『キスしてない。近づけただけ』って言ってたしな。確かに、第3者の中で1番近い距離の俺達でも、確実に唇が当たったと断言は出来ない感じだったし。それで通ったけど」
そう言いながら蓮は何かを思い出し吹き出した。
「ただ、あの2人の感じを見ていると――ふふ。俺も頑張ろうってなったよ」
「そうか。見かけたら声かけとくわ」
「ありがとう。じゃあ俺は探しに行くわ」
そう言って爽やかに手を上げて行ってしまった。
去り際もカッコいい奴だ。
彼が去った後、入れ替わりに後ろから妬む様な声が聞こえてくる。
「サーボーリーをー見ーつーけーたー」
「うわっ!」
振り向くとセミロングの髪の顔の整った女生徒が立っていた。
蓮くんやい。なんともまぁ皮肉だな。もう少し待っておけば探し人が現れたのに。
「み、水野……。なんちゅう登場の仕方だ」
「あはは。驚いた?」
無邪気な笑顔を見してくる。
「びびるわ」
そう言うと少し怒った顔を見してくる。
「でも、最後の後始末をやっていかない南方くんが悪いんだから」
「あー……。それは申し訳ない」
「ま、別に良いけどね。今日は良いものを見れたし」
手を組んで少女漫画の主人公みたいな顔をする。
コロコロと表情の変わる娘さんだな……。
「それは王子様と偽白雪姫の事か?」
「偽て……」と軽く笑った後に、彼女は肯定する。
「そうそう。大成功! って感じ」
「大成功……だな……」
まぁ石田くんの立場になると何ともいえないけど……。
「いやー。あの2人は見てて分かるじゃん? 南方くんだってそうだったでしょ?」
「まぁ確かに……」
2人が一緒にいる時間は第3者から見ても多いと感じたからな。
「だから、そろそろあの鈍感王子様にガツンと言ってやらないと! ってなってね」
「でも、なんで男子には内緒だったんだ?」
「石田くんの耳に入るのが1番ダメだからね。口軽いでしょ男子って」
男女差別だ! とは簡単に言えない案件である。
でも、どちらかと言えば噂話が好きなのは女子のイメージで、女子の方が――いや、男子か? ――どっちもどっちか……。結局性格によるよな。
「でも、まさかキス――」
水野は言葉を詰まらせてしまったが、それも一瞬だった。
「――するなんてね。予想外だよ」
「どんな予想だったんだ?」
「うーん。一応棺に『好きなら耳元で囁いて。なんとも思ってないなら練習通りで』って手紙を入れておいたんだけど。まさか唇を奪うなんて、予想外だったよ。ま、そのおかげで2人は職員室行きになっちゃったけどね。流石に私達のせいでもあるから皆で行ってきたけど。良いもの見れたから良いんだけどね」
そんな会話をしていると水野が思い出したかの様に手を叩いて言ってくる。
「――そうだ。南方くん。後夜祭終わったら軽く打ち上げしようって話になってるんだよね。何か予定ある?」
「いや、無いよ」
「なら、後夜祭終わりに教室で。あと、波北さん見てない?」
「ああ。アイツならどっか行ったな」
「どっかって……。主演女優がいないと意味ないからね。見かけたら声かけておいてよ」
「ああ。分かった。――あ、そういや蓮が探してたぞ」
そう言ってやるとピクッと水野が固まる。
「そ、そうなんだ。あはは」
「なになに? その意味深な反応」
「そんな反応なんかしてないよー。いやだなー。あははのはー。じゃあ私は行くからー。あでゅー」
ピューっと去って行った。
ホントあの2人に何があったのやら……。