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文化祭(遊)

 名残惜しいが、彼女との抱擁を解き、いつものベンチに座り訳を聞く事にした。

 流石に何でアヤノがここにいるのか気になるからね。


 最後の王子様とのキスシーンへ暗転する際、本来ならアヤノが入るはずのガラスの棺に、なんと加藤さんが入ったという。

 最後の最後で白雪姫が入れ替わったので石田くんが固まったみたいだな。

 ――いや、でも、それって……。つまり、そういう事だよね。石田くん。


「そんな事になってたとはな」

「完璧な計画」


 ドヤ顔で言ってくる。このドヤ顔は論破出来ないので、好きにさせておくか。


「あー……。だからあんだけ念入りに話し合いしてたのか。加藤さんもいれて」

「そう。男子には内緒の計画」

「ほほぅ。でも、何でそんな流れになったんだ?」

「それは……」


 アヤノは少し拗ねた様な顔をして説明してくれる。


「キスシーン……。いくら演技でも嫌だったから」


 小さく言った後に、俺を見てくる。


「例え演技でも、リョータロー以外の人とのキスなんて絶対嫌だったから。そこで、加藤さんが石田くんを好きって聞いたから、だったら――って思って」


 アヤノも俺と同じ気持ちだった事を知り、顔が緩んでしまう。


「笑い事じゃないよ」


 彼女は俺が違う意味で笑ったと解釈して、拗ねる声を出した。


「キスシーン……。リョータローに見られたく無かったから、そこだけ朝早くとか、放課後遅くとかにまわしてもらったりして大変だったんだから」

「もしかして、朝起こしに来なくても良いのと、先に帰れっていうのも?」

「そうだよ。見られたく無かったから」


 アヤノは「あ!」と声を出して続ける。


「勿論! キスなんて絶対してないから! こーんなに顔の距離開けてたからね」


 そう言って手を広げて説明してくれる。

 その姿が可愛くて俺は笑ってしまった。


「な、なに?」

「いや、あはは。信じるよ。勿論」


 そう言ったのにアヤノはジト目でこちらを見てくる。


「何か……。ムカつく……」

「何でだよ」

「『俺はその程度じゃ嫉妬なんてするかよ』みたいな笑い方が」


 そう言われて俺は頬をかきながら答える。


「――嫉妬してたよ……」

「え?」


 俺の答えに予想外の顔して小さく驚くアヤノ。


「俺だって……。その……。アヤノと一緒じゃなくて寂しい上に、違う男とキスシーンなんて……。嫉妬してたよ」


 言いながら段々恥ずかしくなり、少しだけふざけた言い方で付け加える。


「ちょっとだけね。うん。あれ。そう。ちょっとだけ。少々だけね。うんうん」


 あわあわと言うとアヤノは「ふーん……」とジト目で見てくる。


「ちょっとだけなら、本当にキスしても大した事にならなかったのかな?」

「え!? いや、それは……」

「私は本気で見られたく無かったけど……。リョータローは……。そっか……」

「いや、ごめん。嘘です。かなり嫉妬してました。本当です」


 そう言うと彼女は微笑んだ。その笑顔に心臓が跳ねる。

 可愛い、美しいと知っていてもドキドキする。


 それに加えて彼女は俺の頭に手を置いて撫でてくる。


「素直でよろしい」


 なんだかマウントを取られている気分だが――これは、これで良い。


「ア、アヤノ。腹減らない? 俺は減った」


 しかし、気恥ずかしさの限界が来て、お腹が空いてないのにそんな事を言ってしまう。


 そう言うと撫でるのをやめて、代わりにお腹を撫でるアヤノ。


「確かに。ちょっと空いたかも」


 彼女は劇に主演で出ていたからだろう、お腹が空いているみたいだな。


「だったら、折角の文化祭だ。出店とか見て回ろうぜ。それにイベントとかいっぱいあるみたいだし」

「そうだね」


 アヤノは同意して立ち上がり、俺に手を差し伸べる。


「行こっ! リョータロー」


 楽しそうな笑顔で言われて、俺も笑顔で彼女の手を握り、文化祭を満喫することにした。




♦︎




 校舎内、中庭、グラウンド等、文化祭仕様になったいつもとは違う学校内。

 お互い制服に着替え、まずは腹ごしらえという事で、中庭で簡易的に作られた出店にて、たこ焼きや、たまごせんべえとかを買い、普段なら置いてない文化祭用に設置させられたパイプ椅子に腰かける。


「うん。まぁ普通のたこ焼きだな」


 たこ焼きを食べながら呟く。

 なんでも、飲食関係の出店を出しているクラス達は競い合っているみたいで「是非ともウチに清き一票を!」なんて買う時に言われたな。たません買う時も同じく。

 だから、ちょっとだけ味の期待をしてたのだけど、普通に家で作るたこ焼きの味がして、美味い事は美味いけどって感じだ。


「美味しくなるおまじない。してあげようか?」


 そう言いながらアヤノが爪楊枝のささったたこ焼きを摘み上げる。


「流石にここでは……」

「ぷくく……。じょーだん」


 そう言いながら自分の口にたこ焼きを持っていって食べる。

 するとアヤノが眉毛をハの字に曲げる。


「どした? 口に合わなかったか?」

「このたこ焼き、たこが入ってない」

「なに!?」

「これは許されない」

「ああ……。そりゃ許されない事だぜ。たこ焼きにたこが入ってないなんて許される事じゃあない」


 俺が言うとアヤノは何故か嬉しそうに言う。

「怒られるよね。本場の人達に」

「だよな! たこってたこ焼きの心臓だからな! たこ焼きをなめてるとしか思えない」

「そうだよね。たこ焼きをソースじゃなくて塩で食べてるくらいなめてるよね?」


 笑いながらのアヤノの発言に「ちょっと待て」と制止をかける。


「確かに、たこ焼きと相性抜群なのはソースだ。それは間違いない。でもな、塩で食うのもめちゃくちゃ美味いぞ?」


 俺の発言にアヤノの眉がひくついた。


「塩で食べるなんてイキってるだけだよ」

「んな事ねえって! 塩マヨネーズめっちゃ美味いから!」

「そんな食べ方してたら本場の人に怒られるよ?」

「食べてるから! 本場の人も普通に塩たこ焼き食うてるから!」

「そんな事ない。そんなものは邪道だよ!」

「うまいっての!」


 お互い一歩もひかない言い争い。

 不穏な空気が流れる中で、アヤノが手に持っていた、たませんを口に運ぶと空気が変わる。


「リョータロー。これめっちゃ美味しい」


 そして口元に持ってこられたのでかじらせてもらう。


「ホントだ。めっちゃ美味い」

「でしょ? あはは! ハマったかも」

「もう1枚買いに行く?」

「うん。行こう!」


 結局、美味しいものって人を幸せにするって事が分かった。




♦︎




 腹ごしらえも終えて、続いて校舎内をブラブラと見て回る。

 

 3年生のフロアに【お化け屋敷】とストレートに書かれた看板があった。

 なんともまぁ捻りのないこって、なんて思うのと、逆に新しいかもね、なんて思考が入り混じるなか、アヤノを見ると、じーっとお化け屋敷を見ていた。


「これ行こう」


 俺は冷や汗をかきながらも誘ってみると、アヤノが少し嬉しそうに「行く」と頷いた。


 そして、並んである列の最後尾に付いて、順番が来るのを待つ。


 ――あまり会話のない中、もうすぐといったところでアヤノがジーっと俺を見つめてくる。


「な、なに?」

「もしかして……。怖い?」

「ぶ、ぶぁーか言っちゃいけんな。こんなものが怖いなんてYO。小学生でもビビらんぜお」

「そう」


 ふぃー。なんとか誤魔化せたな。

 本当言うと非科学的なものは得意ではない。

 でも、男がお化けが怖いとか何か恥ずかしいし……。

 はは……。こういう小さなプライドが人生損してるって頭では分かっているんだけどな……。


 それに――。


「順番来た。行くよリョータロー」

「ふぉ!? ふぉう!」


 アヤノと共にお化け屋敷に入る。




 ――考えろ。考えるんだ南方 涼太郎。


 教室はどうやら2クラス分を使用しているらしい。並んでいる時に、教室の後ろのドアと隣りの教室の前のドアが黒い布で覆いかぶされていた。あれは恐らく通路を養生したもの。

 となると、我が校の教室はほとんどが72ヘイホーメートル。畳約40畳分の広さだ。それが2つだから畳が80畳分。

 これだけ聞くと広く感じるが、実際はオブジェクト等を置くので通路的には半分の広さしか得られないだろう。

 この通路も仕切りを使い狭くしてあり、グネグネとコーナーばかり使用して出来るだけ長く歩かそうとしているみたいだが、結局は畳80畳分の約半分程度の長さ。大した時間留まる訳じゃない。

 余裕だ。そう考えると――。


『――ばあ!』

「しゅわっち!?」


 いきなり化け物が出てきて俺は某3分間だけ変身出来るヒーローみたいな台詞を発してしまった。


「リョータロー?」

「卑怯だわ。急に出てくるとかあいつ卑怯だわ!」

「それがお化け屋敷だと思うけど?」

「いやいや、お化けなら正々堂々来いよ! 真っ正面から!」

「なに……言ってるの?」


 アヤノが呆れた声を出した瞬間に、次は真っ正面に人が立っていた。


「うわっはい!!」

「リョータローの望み通り正面から出てきてくれたのに」

「出てくる時は『今から行きまーす』って言ってくれないと!」

「ばかなの?」


 そんな俺達の会話が一区切りした所で、正面に立つ人、よく見れば女性が俺達に聞いてくる。


『知らない?』

「おいおい。主語を言えよ。お化けといえど日本語を使う限り主語を使えよ!」

「動揺してるなぁ……」


 暗くて分からないが、アヤノは恐らく俺をジト目で見ている事だろう。


『返して』

「俺ももう帰りたいわ!」

「あ、本音出た。でも多分『帰して』じゃなくて『返して』だと思うよ」


 アヤノのツッコミの後、女性の顔が――無くなった。


「――!?」

「うわ……」


 俺はその時、言葉を放つ事すら出来ずに、先程から平気な顔をしてたアヤノも流石に声が出た。


『かーえーしーてー』

「¥&@$€#!?」


 俺は謎の言葉を叫びながらアヤノの手を握りながら走り出した。


「あ! リョータロー!?」


 アヤノの言葉は一旦無視して、とにかく走った。

 ――と、言っても通路がグネグネとしているから本来のダッシュは出来ないが。




 夢中で逃げてたので、気がつくと少しだけ明るい所へ出た。

 恐らく黒い布で養生された教室と教室を繋ぐ連絡通路の所だろう。

 今日は晴天だから、廊下からの陽の光で少しは明るくなっているみたいだな。

 しかし、これほど明るくなるということは、安物の薄くて隙間がある黒い布を使用している様だ。俺からすればありがたい明るさである。


『あのー?』

「あっと……。ごめんアヤノ――」


 振り向くとアヤノの美しい顔が無くなっていた――。


「――ぎいいいいいいやああああああ!!」


 俺は腰が抜けて尻餅をついた。


『だ、大丈夫ですか?』


 俺はどうやらのっぺらぼうと共に走っていたらしい。

 そんなのっぺらぼうが俺を心配そうに見てくる。いや、顔がないからどんな顔してるか実際分からないけど。


「あ、見つけた」


 アヤノも追いついてきてくれた。


「すみません。業務妨害してしまい」


 アヤノがのっぺらぼうに頭を下げる。


『いえいえ。これほど驚いて頂けたらお化け冥利につきますよ。ふふっ。では、私はこれで』


 そう言ってのっぺらぼうは持ち場に戻った。


「全くもう……」


 アヤノは俺を見て溜息吐いて手を差し伸ばす。

 俺はその手を掴む。


「苦手なら誘わなきゃ良いのに」

「――ごめん」


 謝りながら立ち上がり言い訳をする。


「アヤノが行きたそうな顔してたから、つい……」


 そう言うと呆れた顔してアヤノが俺の腕に抱きついてくる。


「ふふっ。これなら怖くないでしょ?」

「あ、ああ……。うん」


 違う意味でドキドキしてしまったが、不思議と怖くなくなったのは確かであった。


 塩たこ焼き美味しいので皆様食べてみて下さい。


 

 読んでいただいてありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 厄介カプ厨だからキスしたのが加藤さんで良かった!綾乃にキスしてたら多分ドロップキックしてた
[一言] あれだけ無口で不愛想だった綾乃ちゃんがいろんな表情と感情を表に出しているのはこの上なく尊いです...。 嫉妬してるリョータローも嫉妬して欲しい?綾乃ちゃんもどっちもかわいすぎる!
[一言] 私も球団より好きな選手の追っかけ派で子供のころからホームランバッターよりもイチローでした!今は特に応援しているのはピッチャーぐらいで打者はいません!
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