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最終回 プロポーズ

 本日は勝手ながら午前中の授業は休ませてもらう事にした。

 そして俺は4限が終わる前に、ここ――旧校舎の自販機前でアヤノを待つ。つまりは待ち伏せする為に午前はサボったという事だ。

 しかし、100%でアヤノがここに来るとは言い切れないから、少しギャンブルな部分もある。


 ――いや、来るだろう。アイツのお気に入りの場所だ。絶対に来る。


 来ないと弱気になっていると、本当にそうなりそうなので、自信を持って右手に持っている物を見つめながら彼女を待つ事にする。


「――あれだな……」


 いつも座っている椅子に腰掛けて辺りを見てみる。


 ここには色々な思い出がある。


 最初は――アヤノから訳の分からないメッセージが送られて来て、ここに来いって言われたっけ。

 ホント、アイツ、メッセージの時は見た目とは全然違う性格でびっくりしたよな。

 

 その次が大変だったんだ――体育祭。


 良い格好したいが為に自分の運動神経は人並みとか言ってたっけ。蓋を開けてみたら、運動神経は壊滅的で走り方なんて典型的な女の子走りだったよな。それでも、そのフォームで何とかしろ、みたいな事を言われたっけ。

 流石にそれじゃあどうにもならないから走りのフォームを矯正してやって――。


 あー……。思い出すだけで地獄だな……。


 そういえば、そこでアヤノが雷が苦手って知って、ちょっと意識しはじめたんだっけ。

 あの時の強がってるアヤノは今思うと可愛いな。


 体育祭の練習は地獄だったけど――アヤノがちゃんとしたフォームで走れたのは感動したな。転けたけど。


 そうだ、そうだ。本番で転けて拗ねてたっけ。そん時もここで拗ねてて、それで昔の話聞いて波北 綾乃という女の子を少し知れた気がしたんだよな。


 そんな落ち込んでいるアヤノに俺の必殺カレーなんて物をご馳走してやると、泣いちゃって――作ってやった翌日にもここに集合させられて、そこで今度はアヤノの母親の話聞かせてくれたっけ。

 自惚れかもしれないけど、あのカレーの件でもしかしたらアヤノは俺に好意を持ってくれたのかもしれないな。


 それと、ここで癖の強い演劇の練習もしたっけ。何で演技は京都弁になるんだよって話だよな。それも体育祭同様で矯正するのに時間掛かったな。あはは。




 それから――ここで初めてキスしたんだよな……。




 他の場所にも沢山忘れられない思い出があるが、ここは格別に思い出が多い。


 涙が溢れそうになる。


 今すぐにでも以前の様な関係に戻りたい。

 避けられたりしたくない。

 このまま終わりなんて嫌だ――。


 溢れそうになる涙を天を仰いで零さない様にした。

 空を見上げると冬の空をコーディネートする様に飛行機曇が浮かんでいた。


「――リョータロー……」


 ふと聞こえて来た声。


「アヤノ?」


 視線を地上に戻すと、俺の待ち焦がれた人が目の前に立っていた。


 名前を呼ぶとアヤノは回れ右をして脱兎の様に逃げ出した。


「アヤノ!!」


 俺が叫ぶと――兎は転んだ。


「――アヤノ!?」


 追いかけようとした瞬間に転けたので、俺の身体は無意識に急ブレーキをかけてしまい、俺も転けそうになるが、何とか体勢を保ち彼女に近寄る。


「大丈夫か?」


 中腰でノビたカエルの様な格好をしているアヤノに話かけるが返事はない。


「立てる?」

「――いだから」

「え?」


 小さく言った言葉が聞こえずに聞き直すが、アヤノはシカトして自力で立ち上がる。


「全部リョータローのせいだから」

「――そう……だな」

「大嫌い……」


 そう言ってアヤノは再度逃げようとするので俺は彼女の左手を掴む。


「――っなしてよ!」


 暴れるアヤノ。


「嫌だ!」

「このっ! 変態!」

「変態でも何でも離さない!」

「言ったでしょ! 浮気は切腹、打首、吊し上げって!」

「後でするから、話を聞いてくれ!」

「嫌! 嫌嫌嫌!」

「アヤノ!」


 俺は強引に彼女を引き寄せて、彼女の左薬指に持っていた指輪をはめる。




「結婚しよう!」




 俺は叫んだ。


 俺の声は空にこだまして響き渡る。


「――え?」


 俺の言葉にアヤノは暴れるのをやめて俺を見る。


「俺は波北 綾乃が大好きだ。これからの人生で綾乃が隣にいない人生なんて考えられない」


 こんな状況でプロポーズ。


 でも、これが俺の考えられる唯一の方法だった。


 アヤノは予想外の言葉を聞いて呆然としている。


「アヤノが見たのは水野がぶつかりそうになったのを助けたからだ。確かに側から見たら抱き合っている様に見えたと思う。そう見られても仕方ない姿だったかもしれない。でも、ぶつかりそうになっている人がいるのに俺は無視なんて出来ない。人を助けられない人間なんかに俺はなりたくない!」


 呆然としている隙に俺はマシンガンの様に言ってのけるとアヤノを強く抱きしめる。


 


「こんな俺だけど共にキミと歩みたい。一生側にいてくれアヤノ……結婚しよう」

「――はい……」


 か細く、照れる様な小さな嬉しい返事が胸元から聞こえてきて、俺は彼女と誓いの口付けを交わした。

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