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難事件

 12月なんて聞くと何を想像するだろうか。

 冬? 寒い? 年末? 紅白? お笑い? 

 違う、違う。俺はもっとメルヘンチックな事を思い浮かべる。

 そう、クリスマスさ。ふふ。


 去年までの俺なら12月なんてリア充がリア充するだけの月で、どうにも好きになれなかった。


 そりゃ子供の頃は好きだったよ。純粋なあの頃はクリスマスやらサンタなんて意味が分からずに、ともかくプレゼントをくれる日なんて思っていたからね。

 プレゼントが早く欲しすぎて親に「サンタさんは21日に来てくれない? ね? 来てくれない!?」なんて詰めたら、なんと22日の朝にゲームソフトが枕元に置いてあったな。掟破りのパワー技で、皆よりも早くゲームをプレイしていた記憶がある。


 それから、まぁ俺もそれなりに成長すると「サンタぁ? 兵庫県の? それは三田」みたいな? 住みやすく、買い物でお世話になっている大好きな場所を使わせてもらった発言をしたりしていた。


 そんなのも束の間。


 中学2年辺りからカップルブーム到来。小学生の時の「は、はぁ? 女子とか別にどうでも良いし! は!? す、好きとかないから」みたいな空気は何処へやら「あれ? まだ彼女いないの?」に台詞がすり替わった時は絶句したね。

 それまで女子と喋ったら「お前アイツ好きなん?」とか言ってた奴が、いの1番に彼女が出来た時は、その彼女に小学生時代を見せてやりたいと思ったね。

 そしてそいつがクリスマスにまぁまぁな彼女と手を繋いで歩いている所を見た時は怒りで頭が金髪になり、手からビーム的なあれが出そうになったよ。いや、もしかしたら出たのかもしれない。


 そんな俺も――そんな俺もよ……。ようやく彼女と過ごせるなんてまるで夢の様だ。

 ああ、早く12月の末になってくんねーかな。プレゼントとかどうしよう。どのタイミングで買うんだ? 今買うのは流石にはしゃぎ過ぎかな?

 なんて、考えていると放課後を告げるチャイムが鳴り響き、帰りのHRが終わった。


 後ろを振り向いて立ち上がるアヤノに声をかける。


 あれ? いつまで経っても席替えはしないの? という疑問は俺だけじゃないはずだが、彼女の近くに座っているから、出来ればこのまま2年を終わりたい。


「アヤノ今日は――」

「ごめん。ちょっと用事」


 食い気味で拒否られる。


「あ、ああ。そなんすね……」

「じゃ、じゃあ」


 

 アヤノは忍の様にササっと教室から出て行った。


 これである。ここ最近は何故かそそくさと帰っているアヤノ。

 この間までは「リョータローと帰りたいから」とか何とか言ってくれてたのに、女心は変わりやすいというか――。


 ――変わりやすい? 


 え? もしかして――アヤノの奴、浮気でもしてるのか?




♦︎




「――そうか……。普通に大卒で航空会社に入社してからでもなれるのね……」


 冬の太陽の休憩時間は長い。

 部屋で調べ物をしていると、いつの間にか窓の外はムーンアンドスタータイムに突入していた。


『――兄さん? 入って良い?』


 そんな折、扉がノックされると同時に妹の声が扉向こうから聞こえてくる。


「あいあーい」

「あのさ、兄さん」


 入って来たサユキの手には参考書とノートがあった。


「んー?」


 俺は椅子に深く腰掛けて視線はスマホのまま返事をする。


「――何見てんの?」


 何にでも興味を持つ性格の妹は、自分の要件を後回しにひょっこりと俺のスマホを見ようとする。


「ないしょー」

「もしかして……。エッチなサイト?」

「そのサイトならこのフォームじゃないな。俺はベッドで仰向けに――って! 何言わすんだよ!」


 俺がノリツッコミをするとサユキは引いた目をして俺を見ていた。


「サイテー……」

「話を振ってきたのはお前だろうが……。それで? 何の用だよ」

「あ、そうそう。勉強で分からない所があったから教えてもらおうと思って」

「うぬ。任せなさい」

「――って思ったけど、兄さんが何調べてるか気になるから、そっちから先に教えてよ」


 コケそうになった。


「やる気のあるうちにやった方が良いぞ」

「いやー。気になると手に付かない性分なもんで」

「その気持ちは分からないでもない」

「でしょー! だから、教えてよ兄さん」

「お前……。兄貴が何調べてたのか気になるのか……。とんだブラコンだな」


 そう言うとサユキは笑いながらかわす様に言う。


「そうだねー。兄さんがアヤノさんにどんなダサいプレゼントを選んだのか、いじろうとしているから、私はブラコンかもねー」


 彼女の方が大人であった。


「ダサいプレゼントて……」

「クリスマスに何プレゼントするか悩んでいるんでしょ?」

「――まぁそれは悩んでるけど、今は違うぞ?」

「あれ? 違うの?」

「ちょっと進路の事をな」


 そう言いながらスマホを見せるとサユキは「なんだ。つまんない」と唇を尖らす。


「俺にとっては大事な事だけどな」

「でも、プレゼントもボチボチ選ばなきゃでしょ?」

「まぁ……。そうだな」

「初めての彼女。美女。そしてお嬢様。下手なプレゼントは出来ないよぉ? 兄さん」

「ふりかけみたいにプレッシャーかけてくるなぁ……」

「意味の分からない例えツッコミって事は兄さん相当悩んでいるね」


 流石我が妹。簡単に兄の心を読んできやがる。


「まぁ悩んでいるな。違う意味で」


 含みのある言い方をすると「もしかして喧嘩?」と問われる。


「兄さん! 今すぐ土下座しなさい!」

「喧嘩=俺が悪いのかよ」

「そうだよ! アヤノさんが悪い訳ないじゃん」


 何で言い切れるのか……。


「――つか喧嘩じゃないし」

「なんだ、違うんだ。じゃあ何?」

「いや……。何か最近アヤノが冷たくて……」


「ふむふむ。それで?」とサユキは頷いて聞いてくれる。


「ここの所、話しかけても素っ気なくて、今日も一緒に帰ろうとしたら断られてそそくさと帰られたし……」

「なるほど。分かった」


 サユキはポンと片を置いて冷たく言ってくる。


「おつかれ兄さん」

「どう言う意味!?」

「それはもう飽きられたんだよ。兄さんみたいな微妙な人との恋愛に」

「微妙!? そんな……。微妙て……」


 サユキは「コホン」と咳払いして語り出す。


「顔は正直に言う。私の兄さんってだけあって身内贔屓を取り除いても良い方だと思う。それは唯香が言ってた。でも『万人受けしない顔』だからブスと思う人もいる事をお忘れなく。決して『俺はイケメン』と思い上がらない様に。それでいて成績は学年3位という、確かに凄いけどもうちょっと頑張って1位取れよ。せめて2位で1位とライバル関係にあれよ。という立ち位置の成績。運動神経は中学の時の部活が幸いして良い方だけど、運動部の人達と比べると、ちょっと運動出来る奴、みたいな感じ。趣味のバイクは乗るのが好きなだけで、車種には詳しくないし、自分のバイク愛を語る割に自分でメンテナンスをせずに店に持って行って『オイル交換おねしゃす』とか『バッテリー交換おねしゃす』と他力本願。バイトもしてて社会経験は多少あるけど、それも社会人からすると――」

「――やめて! 俺のライフはもう0よ!」


 涙目で妹に訴えかける。


「そんな微妙な立ち位置の兄さんに愛想をつかせても(尽かしても)納得出来るよね」


 グハッ!


 止めをさされて、俺は椅子に更に深くずり落ちる。


「なんなの? 切れてるナイフなの?」

「あと、古い所とか兄さんの悪い所だよ」


 グハッ!


 オーバーキル。死体蹴りをされてもう俺の心は深くまで傷ついた。


「何……? お兄ちゃんをいじめにきたの?」

「いやー。最近受験勉強でイライラしてからのリア充見ると無性にカッカしてしまいまして」

「お前は俺か……」


 流石は兄妹と言ったところなのか。


「ま、アヤノさんが愛想つかせた(尽かした)のだけは冗談として――」

「え? それ以外は真実なの?」

「え?」

「つら……」


 そんな俺に首を傾げて、サユキは話を続ける。


「何で素っ気ないのか……。何で一緒に帰ってくれないのか……。心当たりはないの? 兄さん」


 俺の心の傷が癒えないままに話が進行するが、今はそれの話をしよう。


「いや……。ないな……」

「怒ってるって感じじゃないんでしょ?」

「まぁな……。怒ってるというよりは疲れてる……。いや、急いでる?」

「ふぅん……。疲れてる……。急いでる……」


 考えてサユキが放つ言葉。


「浮気?」

「うわき!?」


 俺は大きな声を出してサユキの肩を掴む。


「いたっ……。痛いよ兄さん」


 女の子らしく可愛いくも、弱々しい声を出して潤んだ瞳で見てくるサユキ。


「うわきってピョンピョン跳ねる?」

「それは、うさぎ」

「じゃあ、海とかプールで使う?」

「それは、うきわ」

「ヌュルヌュルしてるけど美味しい」

「それは、うなぎ」

「ガラガラーペッ」

「それは、うがい」

「うわっ!」

「木! ――じゃないよ! 状況と台詞が何一つ合致してないよ! 違和感しかないよ! あと普通に痛いよ!」

「――おっとすまない」


 つい熱くなり妹の肩を強く握ってしまった。


「これは調査がいりますな……」

「調査……だと?」


 サユキはキョロキョロと辺りを見渡して俺の部屋の壁にかけてある野球帽を被りドヤ顔で言ってのける。


「このサユキック・ホームズがこの難事件を解いてあげましょう! リョタソンくん」

「なんてゴロの悪いネームミングセンスだ。センスのカケラも微塵もない」

「それでは早速明日調査に出向く。準備したまえ!」

「お前受験生なんだから勉強しろよ!」

「あーはっはっは!」


 サユキは俺の帽子をパクって部屋を出て行った。

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