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夢の見つけ所

 空を見上げてみる。


 冬の空は澄んでいて、無限に広がる青の中に1本の白が空を半分に割るかの様に浮いていた。


 その白を追いかけた先には豆粒程の大きさの飛行物体が肉眼で確認出来る。


「黄昏てる……」


 ふと声が聞こえたので視線を下ろすと、そこにはアヤノが立っていた。

 その頬が赤いのは俺と会えて嬉しいから――ではなく、気温が低いからだろう。流石に付き合ってから結構な時間が経過しているんだ、目と目が合うだけでドキッな関係ではない。

 その関係性は、良くも、悪くも、慣れてしまったというべきだろう。


「珍しいね。リョータローが1人でここにいるなんて」

「確かに……。いつもアヤノと一緒なイメージあるわ」


 この場所――旧校舎の自販機前に1人で来たのは今日が初めてだ。

 何かある度に呼び出されるのはここで、来る度にアヤノが先に座って「遅い」なんて怒られるんだよな。


「何してたの?」


 軽く首を傾げて聞かれる。


「三者面談の待ち時間だよ。後1時間もありやがる」


 ため息まじりで答える。


「それはこの前聞いた。『外れ時間引いた』って、ずっとグチグチ言ってたじゃん」

「あはは……。そうだっけ」


 笑いながら言うとジト目で「そうだよ」と言われる。


「アヤノは明日だっけ?」

「そうだよ。明日の放課後1番」


 そう言ってピースして微笑んでくる。羨ましい奴だ。


「だから明日はちょっと待ってくれれば一緒に帰れるから、ちょっとだけ待っててね」

「それは全然。それよか今日は俺の為に待ってなくても良いんだぞ?」

「良いんだよ。リョータローと帰りたいし」


 そう言われると素直に嬉しい。


「――って、そうじゃなくて」


 アヤノは指を空に向ける。


「空なんかずーっと見て何考えてたの?」


 そう言われて軽く嘘をつく。


「ずっと何か見てねぇわ」

「嘘。10分位じーっと見て黄昏てたよ」


 バレていた。


「――見てたのかよ……。趣味悪りぃな。声かけてくれよ」

「黄昏ブースト中に声かけるのも悪いと思って」


 そう言いながら俺の隣に座る。


「何考えてたの?」

「――アヤノの事」


 即答すると「ふぅん……」と薄い反応をされる。

 付き合いたてなら、もっと濃い反応をしてくれたのに、これも付き合いの長さによる慣れなのだろうか。


「私との将来の事でも考えてくれてたのかな?」


 含みのある笑みでちょっぴり予想外の返答が来て焦る。


「――すみません。嘘です。今は考えてませんでした」

「え? 考えてくれてないの? 私の事捨てるの?」

「いや、そう言うんじゃなくて――」

「私はリョータローとの将来を考えてるのに?」

「――へ?」


 間抜けな声が出た。

 アヤノはもうそんな事を考えているのか? 

 そう言われて嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが同時に湧き出てしまう。


「俺との事考えてくれてるんだ……」

「嬉しい?」

「嬉しいけど……。ほら、今は自分の進路を決めないと。何かやりたい事とか、なりたい物とか見つかったか?」


 そう聞くとアヤノは立ち上がり俺にビシッと指をさしてくる。


「お嫁さん」

「――え?」

「リョータローのお嫁さんになりたい」


 ――何なの……。何で今日コイツこんなに可愛いの……。


 さっき良くも、悪くも慣れがどうとか言ってたけど、こんなん慣れるか! こんな可愛い子にそんな事言われたら目と目が合うだけでドキッ! だわ。


「――ぷくく」


 決めポーズを崩してアヤノは独特な笑い方で笑ってくる。


「な、なに?」

「リョータロー……。顔真っ赤……」

「そ、そういうアヤノこそ顔赤いぞ」

「私は寒いだけだもん。――だから……」


 アヤノは再び座ると、俺と0距離の恋人座りをする。


「こうすると暖かいよ」


 そう言って俺の肩にアヤノは自分の頭を乗せてくる。


 誰だよ慣れとか言ったやつ。こんなん無理だわ。心臓のトキメキ止まらないわ。

 相変わらず良い匂いするし、それで胸焼けしそうだわ。して良い胸焼けだけど。


「――ね? 本当は何考えてたの?」


 なんだか少しセクシーな声で聞かれる。


「飛行機雲見てた」

「飛行機雲?」


 そう言って俺達は空を見上げた。


「ホントだ。綺麗な飛行機雲」

「だろ? 綺麗だよな……」


 呟いた後に続ける。


「あの綺麗な飛行機雲を作った人は飛行機雲を作ったって自覚があるのかな? やっぱりないよな。とか。空から飛行機雲を見るのってどんな感じなんだろ。とか。そっから派生して、パイロットってどんな感じなのかな。とかね」

「リョータローはパイロットになりたいの?」


 そう言われるまで、そんな事は考えていなかった。


「いや……。なれないだろう――」


 そう否定する時にアヤノのお父さんの台詞が蘇る。


「大きな夢……。皆に笑われる夢か……」

「ん?」

「ああ……いや……。なりたい……かも」


 乗り物の運転が好きで、莫大でなれそうにない夢である。


「前ジェット機に興味津々だったもんね」

「ああ。操縦したいな」

「パイロットか……」

「あはは。笑える位無謀だろ?」

「そんな事ないよ」


 アヤノは深く手を握ってくれる。

 そしてジッと潤んだ綺麗な瞳で俺を見る。


「パイロットになったら、2人でジェット機で世界一周の新婚旅行に行きたいね」


 色々と間違えている気がするが、それを否定する気にはなれなかった。


「そうだな。アヤノと2人で空を駆け抜けたいな」


 俺の将来の目標がふとした瞬間に決まった。

 何だか、こんな感じで決めて良いのかと思ってしまうが、何かのきっかけなんて、日常のふとした瞬間に生まれるものなのだろうと、自分を合理化しておく。

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