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プロローグ〜結婚式を終えて〜

 結婚式も終わってしまうとなんだか虚しい気持ちになってしまう。

 結婚式の準備はあれほどに忙しくて、大変で、何回も何回も打ち合わせで時間を取られてしまって、本当にしんどいと思っていたのに、終わってしまうともう1度――もう1回……なんて思うのは、学生の頃の文化祭や修学旅行の終わりの時と似ている感覚だ。


 名残惜しさを残して、人生のターニングポイントといえるイベントを終え、いつもの服に着替えると非現実の様な空気から日常へと戻る。


「――リョータロー」


 結婚式場のロビーの待合い室にいると、俺の待ち人が見慣れた格好で目の前に現れる。


「ウェディングドレス姿も良かったけど、やっぱり見慣れた格好の方が安心するな」

「似合ってなかった?」

「試着の時に散々言っただろ」

「散々聞いたけど、何回でも言われたいものだよ」


 そう言ってくるので、軽く頬を掻いて言ってやる。


「ウェディングドレスっていうのはアヤノの為に作られた物なんだな。それほどに綺麗だよ」


 何回も言った台詞だが、やっぱり照れてしまう。


「――ぷっ」


 そんな恥ずかしい台詞を言わせたのにも関わらず、アヤノは小さく吹き出した。


「おまっ……」

「あはは。ごめんごめん。ウェディングドレスを着てた時は本当に嬉しかったよ? 背中に翼が生えて天にも昇る勢いだったんだから」


 アヤノに天使の羽が生えると、まじもんの女神様になるな。


「――でも……。ぷっ……」

「あーん? 何でウケてんだよ……」

「だって……。私服姿で言われるとちょっと……。リョータローがすましてる気がして……。普段そんな事言わないのに……」


 笑われるのが少し悔しくて、次は俺がアヤノに言ってやる。


「俺のタキシードはどうだった?」

「カッコ良かったよ」

「ふふ。だろ?」

「――服が」


 そこでコケそうになる。


「――おまえなぁ!」


 アヤノがケタケタと笑っていると『相変わらず仲良いねー』なんて声が聞こえてくる。


 2人して声の方を見るとそこには妹の南方 紗雪が手を振ってこちらにやってきていた。


「あ、サユキちゃん」

「アヤノさん。ウェディングドレス姿めちゃくちゃ似合ってました。とっても綺麗で何枚写真撮ったか分からない位なんで、後で一緒に整理しましょ」

「うん」


「――あ」とサユキは手を口に持っていって「いけない、いけない」とわざとらしく言った後に含みのある笑みで言ってくる。


「アヤノさんじゃなくて、アヤノ義姉さんだったね」

「――?」


 俺の方を見てくるので首を傾げるとつまらなそうに口を尖らせる。


「つまんない」

「なにが?」

「昔はそう呼ぶと照れてたくせに」

「だって本当の事だろ?」

「そうだけどさー」


 拗ねる様に言うと、アヤノが悪戯をする時の笑顔でサユキに言ってのける。


「次はサユキちゃんの番かな?」

「え……」


 アヤノの言葉に少し照れ笑いの様な顔をするサユキ。


「サユキちゃんも付き合って長いんでしょ? そろそろじゃない?」

「私達はそんな……。2人程じゃ……」


 否定するサユキに俺も兄として言ってやる。


「したら良いじゃないか。もう決意はほぼ固まってるんだろ?」

「――でも……」

「俺達程じゃない何てサユキは言うけど、お前らだって高校生からの付き合いじゃないか」


 そう言うとサユキはまた唇を尖らせて拗ねる様に言う。


「私は別に良いんだけど……【プロポーズ】されてないし」


 サユキが言うとアヤノが反応を示す。


「それは男性の仕事だよね」

「そうですよね!? 彼の机に結婚情報誌とか置いてるんですけど、全然気が付いてくれなくて――」

「――お前……。そんなプレッシャーかけてんの?」


 俺が聞くも「あ……」と、つい言ってしまった感を出してくる。


「べ、別に良いでしょー! だってして欲しいんだもん!」

「いや……。別に良いけど……」

「そうだ! アヤノさん。兄さんのプロポーズってどんなでした?」


 そう聞くとアヤノは「んー」と楽しそうな笑みで俺を見てくる。


「えーっとね――」

「待て待て待て待て!」


 俺は発言しようとしたアヤノを止める。


「そんな超絶プライバシーを簡単に言うんじゃあない!」

「別に良いじゃん」

「良かねーよ!」

「何で?」

「恥ずかしいだろうが!」

「別に恥ずかしくないよ」

「恥ずいっての!」


 そんなやり取りの中にサユキも入ってくる。


「えー! 気になる気になる」

「兄貴のプロポーズの台詞何か聞いてどうすんだよ!」

参考にするの(いじりたおすの)

「見えてんぞ? 参考にするのルビが」

「良いじゃん。教えてよー」

「教えるかっ!」

「ケチー! 良いもん。この後の飲み会でアヤノさんに聞くから」

「あ! てめっ! せこっ! おい、アヤノ言うなよ?」


 俺の言葉はどうやら届いていなかったみたいだ。


「リョータローがね。高校生の時に――」

「だああ!」


 適当に声を荒げてアヤノの台詞をかき消す。


「お前マジで言うつもりなん? もうコイツ親戚よ? 義妹よ? 義妹にプロポーズされた台詞言うの?」

「言う」

「言わんだろ! 心の中に綺麗にしまっておけよ」

「さらけ出さないと。思い出は家族と共有するもの」

「何か凄い良い事言ってる風だな!」


 俺の言葉の後に『おーい。なにしてんだー!』と父さんの声が聞こえてきたので、代表してサユキが「今行くー!」と応答した。


「ほらほら。主役がいないと飲み会始められないんだから行くよ」


 そう言ってサユキが歩き出したので俺達はそれに続く。


「プロポーズか……」


 歩きながらアヤノが呟いて俺を見る。


「ふふ」

「なんだよ?」

「何にもないよ。ふふ」


 やけに嬉しそうなアヤノ。もしかしたらあの時の事を思い出しているのだろうか……。


「ね? また今度言ってよ」

「プロポーズってのは一生に一度が美学だろ。何回も言うもんじゃありません」

「あの時はまだ高校生だったでしょ? 大人バージョンも聞きたいな」

「――大人バージョンて……」

「ふふ。飲み会の時に期待しとくね」


 そう言って少し歩みを早めてサユキの隣に並ぶ。


「――本気で言わせる気かよ……」


 心の中で溜息を吐いて、俺はあの頃を思い返した――進路に悩んでいた頃と、アヤノにプロポーズした日の事を――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] また気になる導入、ありがとうございますm(_ _)m
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