2日目(夢の国②)
まいったな……。
アヤノと逸れてしまい、彼女のスマホに電話をするが『電源が入っていない為』なんて機械音声に弾かれてしまう。
アイツ……。朝早くからスマホで計画練ってずっと使いっぱなしで充電するの忘れてやがったな。
腕を組んで朝、アヤノが見せてきた画面を思い出す。
確か次に向かうのは――
頭の中でアヤノ特性の矢印を思い出し、次に彼女が向かったであろうエリアの土産屋さんへ足を運ぶ――。
――運んだけど不発に終わった。
中を除いたけど、アヤノはおらず……。
「はぁ……。どうしようか……」
迷子センター? いやこの年で迷子センターて……。恥ずかしすぎるだろ。
でも電話も誰もでんわ……。とか、くだらないダジャレを心の中で放って虚しくなる。
「――南方くん?」
土産屋の前でどうしようか悩んでいると、聞き覚えのある女性の声がして見てみると、そこにはクラスのアイドル水野 七瀬が立っていた。
「水野? 何してるの?」
「その台詞そのまま返すよ」
「実はアヤノと逸れてな。電話も繋がらない」
「全く同じ状況」
「そっちもか……」
そういえば蓮の奴、バスの中でずーっとスマホいじってたな……。アイツも充電し忘れてたのか……。
「一応ぐるっと見てきたんだけど……。見当たらないんだ」
「まぁこんだけ広くて、人も多けりゃすぐには見つからないか……」
お互い溜息を吐く。
「折角の修学旅行のメインなのにね」
「だなー……。人探しで終わる修学旅行のメイン……。悲しすぎるな……」
そう言うと水野が提案してくる。
「ね? お互いペア探しつつアトラクションに乗らない?」
「え?」
彼女の提案は悪くなかった。それは俺に彼女がいなくて、蓮が今日水野に告白すると知らなければ。
事情が事情なだけに彼女と一緒にまわるのは気が引ける。
「折角の修学旅行なんだから。どうかな?」
「――うーん……」
悩んでいると水野が「ほらほら。行こうよ」と急かしてくる。
「行かないなら1人で寂しくまわるけど?」
そう言って彼女は背を向けてスタスタと歩き出す。
「ああ。分かった分かった。一緒に行こう」
そう言って彼女の隣を歩くと、彼女は少し嬉しそうな顔をしてくれた。
「そうこなくっちゃ。1人より2人の方が楽しいもんね」
その笑顔はアヤノとは違う笑顔で、少しドキッとした。
流石はクラスのアイドル。レベルが違うぜ。おっぱいも大きいし――。
「――はっ!?」
ふと、背中から殺気がして振り返る。
「どうしたの?」
「い、いや……」
アヤノの殺気を感じたが……。気のせいみたいだ。
「浮気は切腹。打首。吊し上げ」と昨日言われた彼女の台詞を思い出し身震いしてしまう。
「寒いの?」
「いやいや。平気平気」
首を傾げる水野。
――アヤノぉ。これは浮気じゃないぞー。
♦︎
「いないねぇ」
「だなぁ」
ブラブラと歩きながら探すが、見つからない時は本当に見つからないものである。
あれと一緒か。ガソリンスタンドなんてそこら辺にあるのに、いざガソリンが少なくなったら見当たらない。
コンビニなんて沢山あるのに、いざトイレに行きたくなったら見当たらない。
あれってなんでだろうね……。
「あ……。これ人気のアトラクションだ」
水野がふと立ち止まり言った。
「へぇ。人気のアトラクションの割には並んでないな」
彼女が見ているアトラクションの入り口には行列はなく、待ち時間も5分と表示されていた。
「これは超レアケースだよ。ここっていつも1時間待ち。最悪3時間待ちとかあるんだよ!?」
「へぇ。それが何でこんなに並んでないんだ?」
「それは分からないけど、乗るしかないよ!」
水野はスタスタとアトラクションの方に向かって行った。
「乗るの?」
「これを乗らない手はないでしょ」
「――まぁ……。待ち時間5分ならいっか」
中々来る機会のない夢の国だ。楽しまないと損だな。
そう思い彼女に続いてアトラクションへ向かう。
本当はアヤノと乗りたかったけど……。アイツどこ行ったんだよ……。
♦︎
「――っべえ!! めっちゃ楽しかった!!」
「ね!! 凄かったね!!」
俺のテンションは爆上がりだった。
そして水野のテンションも爆上がりだった。
「なんだよ! あれ!」
「バジャーからのドバーからのビジャー!」
「あっひゃひゃ! それそれ!」
お互い腹を抱えながら歩く。
普通の町をこの状態で歩いていたなら悪目立ちするが、周りの人達も同じ様な感じだし、騒いでない人も皆夢の国の空気に当てられて寛容オーラが出ている。
スタッフさん達も笑顔で手を振ってくれるのでお互い手を振り返す。
「夢の国半端ねーな」
「流石は夢の国だね。――って、ほら! あれ! あれも人気なんだよ!」
水野が少し興奮気味で指差したアトラクション。そこも待ち時間が10分と短かった。
「なに? なになに? 今日チートデイなの?」
「チートデイて……。筋肉用語……。ま、どうでも良いか……。乗るのか?」
「乗る乗る! ほらほら南方くん! 急いで!」
「オーケー! オーケー! レッツゴー」
♦︎
「――さっきとは趣向の違う乗り物だったな」
「そうだね。これはこれで良かったけど」
2人して感想を言い合いながら歩いていると同じ学校の女生徒達とすれ違う。
「蓮くんと波北さんって付き合ってるのかな?」
「ねー? 超良い感じだったよねー」
そんな言葉が聞こえてきて、心臓が飛び跳ねてしまう。
アヤノと蓮が良い感じ……だと……!?
聞き捨てならない。
水野も女子生徒達の声が聞こえてたみたいで、俺に話かけてくる。
「2人は2人で合流してるみたいだね」
「そうみたいだな」
「そっ……か……」
少し寂しそうな表情を見してくる水野。
「あれ? もしかして嫉妬?」
「そんなんじゃないよ。付き合ってもないし」
「でも、水野と蓮の2人見てるとやっぱりお似合いだと思うけどね」
ここに来て蓮へ援護射撃を放つ。
いや、蓮の為ではなく、俺が嫉妬しているだけか……。蓮とアヤノがお似合いとか言われて……。
「お似合い……かな?」
「少なくとも俺はそう見える。もう付き合えば?」
簡単に言ってのけると水野は難しい顔を見せる。
「あれから――花火大会から日が経ってもいつも通り。修学旅行もいつも通り。やっぱりあれはただ花火大会の空気に当てられて流れでしようとしただけなんだよ……。蓮くんは……」
「いやー……。そんな事は――」
「そんな事あるよ。絶対そう。絶対」
答えを知ってるだけに、何て答えたら良いか逆にわからない。
「――何よ……。いつもいつもいつも普通に接してきやがって……」
何かのスイッチが入ったみたいだ。
「あーもう! 南方くん!」
「は、はい」
「もう良い! 次! 次乗るよ!」
「え……」
「え……。じゃない! 乗るの!」
「へ、へい!」
スイッチの入った水野と結局アトラクションを楽しむ事になり、2人の行方は分からず終いであった。
♦︎
ドイツの城をモチーフにした城の前。
集合するには分かりやすい場所である。
とうに陽は暮れて辺りは暗くなっていた。
集合時間の5分前には城の前にはほとんどの生徒が集まっていた。
俺と水野はギリギリまで楽しんだ――というか俺が付き合わされた。
パレードに集中していると、時間を忘れてしまい、急いでやってきたのである。
「リョータロー」
「あ、アヤノ……」
こちらに駆け寄って来るアヤノに対して、とりあえず言い訳臭く言い放つ。
「探したんだけど、何処行ってたんだ?」
「いや……」
「電話も繋がらないし……」
「それ所じゃ……」
「ホント、探し――」
「リョータロー!」
少し強めに名前を呼ばれて聞く体制に入る。
うはぁ……。切腹? 打首? 吊し上げ? どれも嫌だ。
いや、てか俺は別に浮気なんてしてない。俺が好きなのは君だけだ!
そんな事を脳内でグルグル考えていると、アヤノが指をさす。
「緊急事態」
「いや、それは――って、きんきゅ? なに?」
「バトル勃発。お茶の間爆発」
「いやいや。お茶の間爆発? ――おろ?」
アヤノの指差す方には我がA班vs我がC班女子3人が言い争いをしていた。
基本的には蓮vsモブ女達だが――。
「――だから……」
「仕組んだんでしょ!? 班編成!」
爆発してるのはお茶の間じゃなくて彼女達みたいだな。
ありゃりゃー。蓮くんイカサマバレテーラー。
「そんな事してないって!」
嘘を貫き通す蓮。嘘も貫き通してバレなければ嘘じゃないもんな。やっぱり腹黒イケメンティッシュだな。蓮よ。
「私達がコイツらとなる様に仕組んだくせに!」
おっと? どうやらバレテーラーじゃないみたいだな。
違う意味でイカサマを疑っている様子だ。
「私達の事ハメテ自分らは楽しそうにしやがって! そんなん許されると思ってんのかよ!」
――なるほどな。修学旅行の班が余りにも面白くなくて八つ当たりしてるのか……。いや、蓮的にはマジでハメル気は無かったが結果的に彼女達をハメル事になったのか。
元々は4分の1の確率が3分の1の純情な――おっと……。
まぁ確率が変わったのは確かだもんな。
自分でイカサマしたケツは自分で吹きな蓮くん。ティッシュマスターだろ。
「班が合わないってのはあったかも知れないけど2日目は別に班じゃなくても良かったんだぞ?」
「うっさい! お前らが楽しそうなのがムカつくんだよ! 初日からイチャイチャイチャイチャしやがって!」
完璧なる八つ当たり。こりゃいけませんよ。
「自分は波北さんとずっとイチャイチャして楽しかっただろうけどな!」
なぬ!? 聞き逃せない台詞が聞こえてきて反射的にアヤノを見る。
「解せぬ」と他人事の様にクールに言い放つアヤノ。
「アヤノさん?」
俺が聞くとアヤノが俺を無表情で見てくる。
「解せぬ」
「それで貫き通すのね」
「そんな事は後。今はあれを止めないと」
「止めるったって」
頭を掻きながら視線を戻す。
「別にイチャイチャなんてしてないって」
「してたんだよ! うぜーな!」
モブ女達バチキレ、周りはドン引き。先生達は何をしとるんだ? 止めろよ。
「ずーっと楽しそうなのがホント腹立つ! お前らの班全員ムカつくんだよ!」
おおっとここで単体から複数形へと攻撃方法を変えてくる。
そして、夏希や井山。加藤と石田に「あーだ。こーだ」とぶち切れる。4人共反論しようとするがずっと彼女達のターン。ラスボスかよ……。
そして最後にキリッと俺を睨んでくる。
「コイツもずーっと水野連れてデレデレデレデレと。ちょっと可愛い彼女連れて歩いてるからって調子乗んな!」
「あ?」
外野から見てる分にはイラつかなかったが、目を見て言われるとプチんと来るものがある。
「朝もお前こっち見てきて勝ち誇った顔しやがって! ふざけんな!」
そんな顔をした覚えはない。
「水野連れて歩いて勝ち誇りかよ! キモいな!」
「良かったな。可愛い可愛い水野と一緒にデート出来て!」
酷い言われ様だ。
だが、ここで反論しようとしても先程の4人と同じ結果になるのは明白。
俺の中で、アヤノが蓮と楽しそうだったと言う嫉妬。彼女達の発言でアヤノが勘違いしてしまうのではないかと恐怖。そして彼女達からの罵声に対しての怒り――。
様々な感情が入り混じり、俺はアヤノの身体を強引に引き寄せる。
「え?」
アヤノは一体何が起こったか分からずに声を漏らす。
そんな彼女を無視し、俺はアヤノの唇に少し雑にキスをする。
タイミング良く花火が上がったのは奇跡的な、まるでドラマみたいな演出だ。
「俺が好きなのは波北 綾乃だ! 他の誰でもない! アヤノだけだ! 覚えとけ!!」
彼女を強くて抱きしめて叫ぶ様に言うと、彼女達はいきなりの俺の行動に引いてしまったのか言葉が出なかった。
結果はどうであれ、この喧騒に終止符をうつ事が出来たみたいだな。
「――リョ……ダロ……。ぐるじぃ」
「おっと……」
強く抱きしめ過ぎてアヤノが苦しんでいた。
「ごめんごめん」
「――ばか……」
照れる様にアヤノが言った後に先生達が叫びながらやってきた。
遅いっちゅうねん。




