2日目(夢の国①)
修学旅行2日目。
早朝だというのに高校生という『若さ』と、テーマパークという『非現実』が噛み合って、バスの中は宴会場と化した。
ほとんどの人のテンションがMAX状態。特に女子は最低でも普段の1.5倍。高い人で3倍位はテンションが上がっている人が見受けられる。
まぁ女子全員がそんな感じという訳ではない。数名の女子はムスッとしていた。
そんな女子達に男子も負けじとテンションを上げているので、バスガイドさんは苦笑いするしか無かった。
担任がバスガイドにペコっているのを見て、バスガイドも頷いている。
『すみません』
『いえいえ。こんな感じですよ。他の学校も』
みたいな感じなのかな?
「涼太郎」
さっきからずっと隣で一生懸命にスマホをいじっていたイケメンの皮を被ったティッシュが呼んでくる。
「なんだよ。ティッシュ」
「昨日の事は忘れてくれよ……」
忘れられるかよ……。あんな濃いの……。
「はは……。で? どうしたんだ?」
「昨日の事なんだけどさ……」
早速矛盾な話題を振ってくる、元爽やか系イケメン。
ツッコミを入れるのも面倒なのでそのまま話を聞く。
「あれ、冗談じゃないから」
「あれ? ティッシュの事か?」
あれとはどれの事なのだろうか。思い当たる節がありすぎてどれなのか。
「違うって! あの……。告るってやつだよ」
「ああ。真面目な方の話ね」
「そうそう。昨日も言ったけど、元々は今日告るつもりで……。それに新幹線でも涼太郎に言われたし。やるよ。俺は」
「そうか。俺には応援するしか出来ないけど、上手くいくと良いな」
「ありがとう。――で、さ……。涼太郎の彼女――」
彼女というワードが出てきたから俺は笑いながら言ってやる。
「教えねーよ? 俺昨日勝ち続けたから」
そう言ってやると蓮は「違う違う」と手を振って否定してくる。
「ん?」
「涼太郎はどんな風に彼女に告ったのか参考に教えてもらおうと思って」
「どうやって――」
蓮に言われて、あの花火大会の日を思い返す。
あの時、アヤノは長い髪をバッサリと切ってきた。切った理由が、俺がショートヘアが好きだと思い込んでいたから。結局は勘違いなんだけど、でも、俺の為に切ったというのが心に響き、その夜、勢いで彼女のマンションのバルコニーで告白をした。
あの時『月が綺麗ですね』なんて遠回しに告白してみても気が付いてもらえなかったから、ストレートに言ったんだよな。
――今思うと、告白という大事なシュチエーションなのに、えらくあっさりとしてしまった。もっとロマンティックな告白方法があったろうに……。
「――遠回しに告白するのはやめておいた方が良いな」
そう呟くとおうむ返しで「遠回し?」と首を傾げられる。
「蓮の場合は【修学旅行】と【テーマパーク】っていうおいしいシュチエーションなんだから、言葉はハッキリとストレートに言うべきだな。遠回し遠回しに告白なんて相手に伝わらない可能性もある」
「な、なるほど」
感心しながら蓮は座席に深く座る。
「それにやっぱり陽が暮れてからの方が良いかもな。朝っぱらからなんてお互い気が重過ぎるだろ」
「それは……。確かに。やっぱパレード終わりとかの方が良いのかな?」
「まぁそうじゃない。花火とか上がるんだろ?」
「そうだな。多分パレード終わり位に集合しとかないとダメだから、集合前に」
「それじゃあ勝負そこだな」
「ああ」
「ま、影ながら応援しておくよ。結果は――まぁ蓮の顔色見て空気読むわ」
「振られたら残念会付き合ってくれよ」
「また大富豪か?」
「もう大富豪はいいわ」
そう言って蓮は少し緊張した表情で無理に苦笑いをした。
♦︎
聞こえてくるBGM。なんで、まだゲートの前なのにこんなにも楽しい気持ちになれるのだろうか。
それはここが夢の国だからか。それともBGMに何か仕込みがあるのか。
俺達はゲートの前に整列させられ先生の注意事項を聞かされていた。
しかしながら、それを真面目に聞いている人はほんの一握りだろう。
「早くしろ」みたいな雰囲気を皆放つ。
そんな中で蓮は水野と楽しそうに話をしているのが見えた。
バスの中では緊張している様だったが、流石は顔面で生きてきている男だ。側から見ると今日告白すると決意して緊張している風には見えない。
石田は加藤とイチャついている。周りからは「リア充爆ぜろ」みたいな目でみられているのだが、2人の世界に入っており気が付いていないみたいだ。
「――ふっ。楽しみだな。筋肉もうねりを上げている」
近くで井山が通常運転な発言をしているが、そういえばコイツは今日告るとか言ってたけど、どうするのだろうか?
「井山」
「なんだい?」
俺が呼ぶと変わらない声で反応してくる。
「今日告るのか」
そう聞くと腕を曲げたり伸ばしたりを繰り返しながら言ってくる。
「今日は筋肉の仕上がりが良いからね。きっと素晴らしい結果になると思うよ」
「そ、そうか……」
相変わらず訳が分からないが有言実行みたいだな。
「――ちっ……。最悪」
「ほんと。修学旅行ハズレだわ」
「まじでやってられんわ」
夢の国の手前で、なんとも相応しくない声が聞こえてきた。ふと声の方を見ると、我がクラスのC班の女子がふて腐れた様な表情で話をしていた。
あー……。彼女達か……。
普段はそんな感じの子達ではない――とは言い切れないが、少なくとも学校生活の中で、俺の見える範囲では、そんな事を口にする子達ではない。
ただ――今回は班編成が悪かったのだろう。
なんたって四六時中「姫! 姫!」なんて同じ班の男子が同じ班の1人の女子を持ち上げているのだから。
気持ちは分かる。気持ちは分かるぞ。でも、夢の国なんだから愚痴なら帰ってからにしようぜ。
なんて綺麗事を思っているとふと目が合ってしまう。
やべ……。自分なりに「たまたま目が合いましたよー」みたいな感じで目をゆっくりと逸らしていく。
「あいつなんなん?」みたいな声が聞こえてこない辺り、俺は眼中にないみたいで良かった。
「それじゃ1組から――」と、ようやく長い先生の説明が終わり、クラス順に中へ入って行く。
そして、ようやく俺達の番がやって来て夢の国のゲートをくぐった。
♦︎
「――メルヘンだなぁ……」
夢の国には計画通り男女ペアで周る事になり、これまた計画通り、アヤノと初手からの土産ラッシュをする事になった。
しかし、予想外だ。
開園して間もないというのに、意外にも土産屋さんには人が入っていた。アヤノと同じ考えの人がいるもんだな。
そして、俺の目の前には夢の国の住人がぬいぐるみとなって棚いっぱいに寿司詰め状態で陳列されている。
他の棚にも、皿やコップ、服やお菓子に化けて所狭しと人気キャラクター達がそこら辺にいる。
流石夢の国の住人といったところだ。
そんな夢の国の住民達を差し置いて我が彼女様は【ウサギのヌタロー】グッズをカゴいっぱいにしていた。
いやいや、スーパーとかで「カゴいっぱい買っててー」みたいな声かけを聞いた事はあるけど、夢の国でヌタローオンリーをカゴいっぱい買うのはアヤノ位だろうな。
「それ全部買うのか?」
カゴいっぱいのヌタローを指差すと「は?」みたいな顔をしてくる。
「いや……。何もない……」
それだけでおいくら万円いくのかしら……。
まぁ値段はこの際置いておこう。彼女には夢のブラックカードがあるのだから。
だけど、この量を持って帰るって……。相当だぞ……。
「へぇ……。ポテチもあるのか……」
「これは買い」
俺が見ていたポテチを何の躊躇もなくカゴに入れる。
「それさ。普通のと何が違うの?」
見た目はヌタローがただただポテチを食べているだけのポテチに見える。
「分かってない」
「やれやれだぜ」と言わんばかりのアヤノは俺へ説明してくれる。
「ヌタローがいる」
「いるな」
「食べてる」
「ポテチをな」
「うん」
「うん?」
次の言葉を待つがアヤノは何も発さない。
「それだけ?」
「それだけ」
「え?」
「それ以上に意味はない」
「あ……。そうですか」
ヌタロー中毒のアヤノから言わせれば、好きな物と好きな物の組み合わせは結局買いという理論みたいだ。
♦︎
「――なるほどなぁ」
店を出て、アヤノと一緒に会計をしたのだけど、値段はまぁ置いといて、あれ程の量をどうやって持って帰るのか気になったが、配達という手段があったんだな。
そこら辺もちゃんとリサーチ済みとは、流石は波北 綾乃という訳か。
「――さて……。じゃあ次だな」
「次も激アツ」
「そうですか」
「善は急げ。ほらリョータロー。行くよ」
そう言っていつもより早足で歩く。
「ちょっとま――」
――呼びかけようとした時、すれ違い様の小さな女の子がコケそうになったのが見えたので反射的に彼女を支える。
自分でも凄まじい反射神経だと思う。
「――っと……。大丈夫?」
コケてはいないので女の子も頷くだけ頷いた。
「――す、すみません!」
隣の母親がペコリとお辞儀をしてくる。
「いえいえ。コケてはないので大丈夫だとは思います」
「ありがとうございます」
「ママと手繋いどきな」
そう女の子に言うとコクリと頷いてくれる。
再度母親がペコリをしてきたので、こちらも同じ角度位ペコって前を見る。
「――って……。アヤノ?」
どうやらアヤノには俺のこのやり取りが見えて無かったみたいで早足で店に行ったみたいだな。
これは所謂あれだ。
逸れたってやっちゃな。




