暴露付大富豪
暴露付き大富豪。
元々はベッドで寝るか、布団で寝るかを決める為のライトな感じで始まった大富豪だったが、いつの間にか大貧民になった者は強制暴露の絶対に負けられない大富豪と化してしまった。
この大富豪、風見 蓮という腹黒爽やか系イケメンの案により、ライトな大富豪で決まった配役をそのまま受け継いで始まってしまう。
各々の配役は次の通りである。
【大富豪】 風見 蓮
【富豪】 南方 涼太郎
【貧民】 石田 和成
【大貧民】 井山 優
ちなみに石田くんの名前を発表するのはここが初である。
――1回戦。
先程までのワイワイ大富豪は何処へやら、現場は触ると崩れ落ちそうな程に緊迫な状態が続いていた。
最初は定番の様子見。微妙な強さのカードが場に出されていく。
「ここだ! ――ふんぬっ!」
井山のターン。気合と共に放たれる7のフォーカード。ここで革命を起こすのか。
「おつかれー」
「な、なん……だと……?」
いとも簡単にジョーカープラス6のスリーカードで革命返しをしてみせる蓮。
「ハッハッハッ! 独裁国家に革命家等不要だぜ!」
修学旅行というハッチャケイベントにて蓮のキャラは完全に崩壊していた。
まぁ、新幹線でも、どうでも良い、とか何とか言ってたから良いのかな? 楽しそうだし。
「クックックッ」
蓮の台詞にほくそ笑む様な笑いを出す、まだ【変態】ではない【日本史大好き】くん。
「アーハッハッハッ! 独裁国家も、もう終わりだ! この独裁者め!」
石田は9のフォーカードで更に革命返しをする。
「なっ!?」
「さぁ! 語ってもらおうか!? その甘いマスクの下にある、ゲロ以下の匂いがする恥ずかしいエピソードを!」
石田のキャラも崩壊していた。
「ほい」
俺がジョーカーと4のスリーカードで革命返しをする。
「あっ!?」
「良いぞ! 涼太郎! 流石だ! ざまぁねーな! 【無個性】くん!」
「うおおおおおお!」
そんな熱いやり取りを横目に俺は「そこから、ほい、ほい、のほい」とカードを出していく。
俺は8切りからの2のツーカード。そして最後にハートのAで締めくくる。
「おつかれさん」
「りょーたろおおおおおお!! お前もかああああ!?」
何処かで聞いた有名な小説の台詞を言ってくる。
「いやいや、元々仲間じゃねぇだろ」
「鬼! 悪魔! 裏ボス!!」
最後のは分からん。
という訳で、蓮が【都落ち】で大貧民に成り下がったのであった。
――1回戦結果発表。
【大富豪】 南方 涼太郎
【富豪】 井山 優
【貧民】 石田 和成
【大貧民】 風見 蓮
1回戦から革命、革命の連続で波乱が起きたが、革命が多かったので素早く決着がついたな。
「さぁさぁさぁ。語ってもらおうか? 大貧民さんよぉ?」
石田もキャラ崩壊を始めて悪い顔してるな。しかし、お前、また貧民だな。
「ぐっ……。涼太郎め……」
項垂れる蓮。もしかしたら恨まれてるかもな。ハハ。
「さぁ風見くん! 何を語ってくれるのだい?」
【大貧民】でも【富豪】でも通常運転の井山が座りながらサイドチェストみたいなポーズで問う。
「ぐぅ……。い、言わなきゃだめ?」
「発案者だからな」
俺に助け舟を出してきたが、容赦なく沈める事にする。
「早く語れよ」
「うんうん」
「どうぞ」
3人で攻め、ようやく蓮が深呼吸をして口を開いた。
「じゃあ好きな人を――」
「お!」
「そういうのだよ! そういうの!」
なんだ……。蓮の好きな人なら知ってるから聞く意味はないな。
俺は聞く事に集中している2人を差し置いてカードを整理する。
「俺は七瀬が好きなんだ。水野 七瀬が」
「うおおお!」
「ほぉー。まじかー」
盛り上がってんなー。
トントントンとカードを整理していると、まだ蓮は語っていた。
「――そこで花火大会――」
「そこまで!?」
「ほぼ付き合ってんじゃないの!?」
恋バナってやっぱり盛り上がるんだな。
「――夏の花火大会で、涼太郎も誰かと待ち合わせしてたんだよな」
「――え?」
いきなり俺の名前が出てくると、2人が俺を見てくる。
「本当かい? 南方くん!?」
「まじか……。ちゃっかりしてんな。流石裏ボス」
「ちょ! ちょっと待て! 何で俺の話が……」
「いやーすまないな。俺の暴露の流れでたまたま名前がね。でも、仕方ない。本当の事だから」
なんちゅう腹黒イケメンだ。ただでは倒れないってか?
「気になるね。南方くんの相手が」
「これは【都落ち】してもらう他なさそうだ」
おいおい。もしかして全員で組んでくる感じ?
「裏切り者には死あるのみ」
「うはぁ……。負けたくねぇ……」
♦︎
――2回戦。
【大富豪】 南方 涼太郎
【富豪】 井山 優
【貧民】 石田 和成
【大貧民】 風見 蓮
変わらない順位。
3人がかりで組んでくるのかと思われたが、そんな事は無かった。
先程までの威勢は何処へやら。蓮は目の前が真っ暗になっていた。
「――さぁ次のゲームに行こうぜ!」
爽やかに言ってのける蓮に制止の声がかかる。
「れーんくーん? 逃れる訳ないだろー?」
石田が偉そうに言うが、キミさっきからずっと貧民だからね。
「待て待て。もう暴露するネタなんて――」
「何でも良いんだぞ? フェチとかフェチとかフェチとか。そこでキミに新しい個性をあげるよ【変態】という名のな!」
「う、うぐ……」
押されてるなイケメンくん。
俺がカードを整理しようとすると井山が「今回は僕がやるよ」と言ってくれたので、任せる事にする。
「――あ、あれだ……。分かった! 明日! 明日告るよ! 七瀬に!」
いきなりの言葉に俺達3人が停止した。
「明日告る。絶対だ。これはずっと前から決めてた事だから」
な、なるほど。この為にどうしても水野と同じ班じゃなきゃダメだから班を仕組んだのか。やり方は褒められたものじゃないがね。
「お、おお! 凄いね」
「頑張れ!」
2人から応援の声が上がり「さ! これで良いだろ? 次だ! 次のゲーム!」
♦︎
――3回戦。
【大富豪】 南方 涼太郎
【富豪】 井山 優
【貧民】 石田 和成
【大貧民】 風見 蓮
変化なし。
蓮は自分の手札を握ったまま1点を見つめていた。
これが発案者の末路。自ら仕掛けた罠にハマるとはこの事であるな。
「さぁ。蓮くん」
石田が悪い顔をしている。もう言うまい。お前が未だに貧民であることは。
「ま、待ってくれ。もう暴露する事は――」
「色々あるでしょー? んー? 俺に言った事とかさー」
「そ、それは――」
「自分で振っておいて逃げるなんて、なぁ?」
石田が井山に話を振ると井山が答える。
「そうだね。逃げるなんて筋肉に申し訳がたたないよ」
「く……」
蓮が意を決して重たい口を開いた。
「な、七瀬で……。七瀬のあの胸を……。その……。想像してほぼ毎日ティッシュ使ってる」
「ぶっ!」
申し訳ないが吹き出してしまった。
「涼太郎! 笑うなよ!」
「今のは明らかに笑かしにきただろう!」
大丈夫か? やり過ぎたら死ぬかもしれないんだぞ。
「え? もしかして蓮きゅん……? DoT?」
石田があおるように言うと蓮が手札を投げて言ってくる。
「そうだよ! 何か悪いか!? 俺は七瀬でしか勃たねーんだよ! もし俺が七瀬好きじゃなかったら100人切り位してるっちゅーの! 見ろよ!? この整った顔! 女の子の大好物の爽やか系の顔を! 俺が七瀬だけしか好きにならなくて良かったな! 世界よ! あっはっは!」
蓮がバグった。もう誰も彼の暴走を止められない。
「【ティッシュマスター】と呼ばせてもらおう」
「【無個性】のくせに……」
「ハッハッハッ! 大貧民が鳴きよるわ」
お前は貧民だがな……。
「くそがああああ! 次だ! 次!」
♦︎
――4回戦。
ここに来て動きがあった。
「ハッハッハッ! アーハッハッハッ!」
いきなりの高笑いを放つ蓮。
「さぁ! さぁさぁさぁ! 語ってもらいましょうか? 涼太郎くんよー! 花火大会の事! そして、修学旅行中にイチャイチャしている女の子とどういう関係なのかー!」
その後にゲームなら絶対にカットインが入るであろう感じで蓮が言い放つ。
「カモメナックル!!」
そのかけ声はマジで謎だが8切りの革命を起こしてくる。
「どうだ!? カモメナックルの恐ろしさ!」
「教えてくれ。どこらへんにカモメ要素があるかを」
「良いぞ! 【ティッシュマスター】」
「アーハッハッハッ! 俺が頂点に舞い戻るのも時の問題か! アーハッハッハッ!」
高笑いをしながら蓮は5のカードを出してくるので、俺は手札から4を出す。
「マッスル!」
石田がパスして井山がネタ切れのかけ声を出す。蓮もパスしたので俺はジョーカーを出す。
「バァカめ! いけえ! 誰か! スペ3返しだ!」
しかし、誰も反応しなかった。
なので俺が蓮に黙って見してやる。
「な!? ば、ばかな……。それは!?」
「ほい!」
ジョーカーが流れ、スペ3が流れて俺は手札から10のスリーカードとジョーカーで革命を起こす。
「そんな!? そんなバカなああああ!」
テンション高え……。
2を3枚出して、とどめのクローバーのAでゲームセット。
「おつかれさん」
「涼太郎おおおお! せこいぞおおおお!」
「そうだそうだ! 勝ちすぎだぞ! 南方!」
「うるせっ! 負ける気がしねーんだよ!」
石田がパスして井山が「あ、上がりだ」と上がる。
そして場が流れた。
石田が蓮の手札を見た時に「あ……」と2人の声が漏れた後に蓮がこの上なく悪い顔をした。
「いーしーだーくーん。俺の勝ちだねー」
「ま、待て! 落ち着け! 蓮!」
「じゃきゃましいいいい! くたばれ!」
「ぐわああああ!」
石田、ようやくの大貧民降格。
――4回戦結果発表。
【大富豪】 南方 涼太郎
【富豪】 井山 優
【貧民】 風見 蓮
【大貧民】 石田 和成
ここに来て、ようやく順位に変動が見られた。
「石田。ほらほら。加藤とのあれこれや、それそこを根掘り葉掘り聞こうじゃあないか? ええ!?」
「お、俺は――」
「おおっと! 待った」
蓮は右手を突き出して石田を制止させる。
「『手を繋いだ』『キスをした』なんて、あまっちょろい言葉で片付けられるレベルで収まるなんて……。思ってないよな? ううん?」
コイツ……。悪者の役が上手いな。様になっている。本当に今まで爽やか系で通ってた蓮くんか? コッチの方が似合っているぞ。
「ぐっ……。お、俺は加藤と――」
「かとぅと?」
「ま、まだキスすらしていないが……」
「してないが?」
石田が恥ずかしそうに言い放つ。
「巫女のコスプレでイチャイチャしたい!!」
場が凍った。
「――へ……?」
自分の恥ずかしい性癖を語ったつもりでいる石田は顔をこれでもかと赤くしながら頭に?マークを浮かべている。
井山が悟った目をして頷いた。
「え? なに?」
「なんか……。地味だな……」
つい思ってた事が口に出てしまう。
「え? 地味?」
「今までの流れなら、もっとパンチの効いた性癖かなぁ? と思ったけど……。しかも、石田の反応からするに、ガチっぽいから反応に困るというか……」
「そ、そんな……。俺は……」
アタフタしだした石田に蓮が彼の肩に優しく手を置いて、今日一と言って良いくらいに良い声で言ってやる。
「【モブ男】」
「ぬおおおおおお!」
多分石田の中で1番キツイ言葉であると思われる。
♦︎
――5回戦でも動きがあった。
「これが俺の――最強の技!」
そう言って出した石田のKのカード。それをいとも簡単に井山が2で踏み潰す。
「所詮モブはモブなんだよ。筋肉の前では」
「くっ……。このままじゃ」
「涼太郎を落としたいな」
蓮が呟いてジョーカーを出してくる。
「お前貧民のくせにそんなカードを今?」
「涼太郎を落とす為だよ」
「所詮は【ティッシュマスター】だな。これを見よ」
そうして石田がスペ3返しをした。
「なっ! おまっ! 手伝えよ」
「ティッシュの言う事なんて聞くかよ!」
「このモブがああ」
いつの間にか2人には深い溝が出来ていたみたいだ。
「そして、これが……。俺の最強のカードだ!」
もう1回Kのカードを出したので井山がAで踏み潰す。
「物覚えの悪いモブだね」
「モブって言われるのめっちゃキツイ……」
石田の嘆きを無視して蓮がパスしてからの俺のターン。
「はいはいはいはい。はい」
2からのQのスリーカード。Aのツーカードプラスジョーカー。8切りからの5でフィニッシュ。
うはぁ。俺Tueeeeeeって、きんもちぃぃぃぃぃぃ。
「――南方。まさかお前に感謝する時がくるとは……」
石田が9のスリーカードを出して試合終了。
「なっ!?」
「アーハッハッハッ! 大貧民でも大富豪様の犬になれば成り上がれるのよ!!」
「卑怯者! 恥ずかしくないのか!」
「長い物にはまかれろって言葉があるだろうが! なーハッハッハッ」
「くっ……。ここにきて筋肉痛か……」
井山は7を出すと蓮が笑いだす。
「そこの筋肉野郎。ただの筋肉痛じゃ終わらないぜ?」
「え?」
「俺のターン! ぬおおおおおお!」
怒涛の蓮のターンが続く。
8切りしてからのJのツーペア。
「あ!」
井山の声など聞こえていない蓮は4のスリーカード。
「雑魚も集まれば強いのだ。まさにジャイアントキリング!」
最後に3のスリーカードで試合終了。
――5回戦結果発表。
【大富豪】 南方 涼太郎
【富豪】 石田 和成
【貧民】 風見 蓮
【大貧民】 井山 優
久しぶりに井山が大貧民に成り下がった。
「僕の暴露だね」
なんだか嬉しそうな感じの井山。こいつは正真正銘のドMだな。
「実は僕は海島さんが好きなんだ!」
シラける現場。恥ずかしそうな井山。
うん。これじゃあ面白くもなんにもない。
「井山?」
「なんだい? 南方くん」
「お前最近仲の良い女の子いるよな?」
「海島さんの事かい?」
「とぼけるなよ。今日もタワーで一緒だったし。さっきもホテルのロビーでイチャついてたろ?」
俺が言うと蓮と石田が「あー、確かに」と頷いた。
「あ、あれは、彼女が勝手に――」
「文化祭でもイチャコラしてたよな? 実際どうなんだ? ううん? 実は良いかもとか思ってたりするんじゃないの? 振り向かない子より、アタックしてくれる子の方が良いもんなぁ?」
そう言うと井山は「ふんっ!」とモストマスキャラーをして言ってくる。
「僕が愛するのは海島 夏希ただ1人! 風見くんの真似になるが、そういう誤解が生じているなら明日僕は想いを伝える事にするよ!」
「え? そこまで言ってないよ?」
「筋肉に二言なし! それに――」
井山はポージングをやめて天をあおぐ。
「そろそろ片想いも疲れてきたからね」
「井山。お前……」
「ありがとう南方くん! 背中を押してくれて」
「いや、そういう意味で言った訳じゃ……」
「さぁ! 次のゲームだ!」
♦︎
――戦いは続き、段々と皆に疲労が見られたと思われた時、蓮が素に戻って言い放つ。
「なんか――変な感じになってたな」
「あ、うん。そうだな……」
石田も素に戻っていた。
「でも、楽しかったよ」
通常運転の井山が言う。
「――いや、まぁ。それはそうなんだけど……」
「その……。なぁ?」
「俺も楽しかったわ。皆の暴露聞けて」
ほくそ笑んで俺は20回連続の【大富豪】で上がる。
「――ま、楽しかったのは楽しかったな。こんな感じになったの初めてかも」
「俺も、なんか全て曝け出して気持ちいかも」
「僕もだよ」
なんだか友情が深まったみたいな台詞だ。
「後は涼太郎の暴露だけだけど……」
「無理だ。勝てない。チートだよ。南方は」
「流石は僕の見込んだ筋肉だ」
「はは……。俺はもう良いだろ。疲れたし。飯行こうぜ」
そう言って立ち上がると皆カードをテーブルに置いて立ち上がる。
「そうだな」
「飯行こう、飯」
「さぁ。筋肉にご褒美の時間だな」
もう暴露には興味がないのか、ただ疲れただけか、どうでも良くなったか。
「涼太郎。最後に教えてくれ。花火大会に行ったのは女の子か? それだけが気になる」
蓮がお情け頂戴と言わんばかりに聞いてくるので一言だけ言う。
「彼女とだよ」
それを聞いた瞬間に3人が席に座る。
「お前の――」
「彼女を聞くまで――」
「ゲームを続ける!」
「仲良しかっ!」




