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大富豪

 本当に10が1枚足りないトランプで寝床を大富豪で決める事になった。

 まぁ10が1枚無くても出来ない事はない。


「そんじゃルールどうする?」


 蓮がトランプを切りながら聞いてくる。


「あー。ローカルルールな。どうしようか? 蓮の所は?」


 石田が聞くと蓮がノールックカードシャッフルをしながら答える。


「スペ3返し、7渡し、8切り、Jバック」

「Jバック?」


 他のは聞いた事があったが、聞き慣れない単語に首を傾げる。


「11を出したらそのターンだけ革命状態」

「なるほどな。一時だけ3が強いって事?」

「そうそう。あとは普通に革命と、縛りと、都落ちだな」


 色々ルールあんなぁ……。と感心しつつ蓮のシャッフルを見る。


 ――まぁ良いか……。どうでも……。


「救急車は?」


 井山が未だに上半身裸で、その鍛え上げられた筋肉をピクピクさせながら聞いてきた。


「呼んでやろうか? 日本の首都だし良い病院あるぞ、きっと」


 俺がスマホを操作すると「ち、違うよ」とマジな反応をされる。


「9を2枚出したら8切りと同じ効果のやつなんだけど」

「え? マジなやつ?」

「そうだよ。僕の地元じゃ7渡しってのは無かったけどそれはあったね」


 なるほどな……。9が2枚で99車……。ダジャレかよ……。


「俺の所は7渡し、8切り、99車、10捨て、Jバック、QQ車があったな」

「多い! 多い! 石田の所ローカルルール爆裂じゃねーかよ! てかQQ車って被ってんじゃねーかよ!」

「確かに多いな。南方のところは?」

「うっ……」


 実は大富豪ってルールは知ってるけど、あんまりやった事無いんだよな……。


「あれだな……。ここはネットに解決してもらおう」


 敢えて石田の質問には返答せずにスマホを操作して調べる。


「――えーっとだな……」


 ネットによると『【革命】【8切り】【都落ち】【スート縛り】【スペ3返し】』が公式ルールらしい。

 それらを皆に説明するとそれぞれローカルルールが異なる為に「それでいくか」と、このルールで落ち着いた。


 一応、自分でもルールの確認をネットで確認しておこう。


 大富豪(大貧民)は――


【強い】ジョーカー、2、A、K〜3【弱い】


 これらのカードを場に出していき、最後に手札がなくなった人から、大富豪、富豪、貧民、大貧民とランク付けされて、次のゲームでは貧民は富豪へ、大貧民は大富豪へ配られた手札から1番強いカードを献上しなければならない。

 ちなみに貧民は1枚、大貧民は2枚だ。代わりに富豪、大富豪はそれぞれ好きな手札を交換する。


 これが基本ルールだ。


 そして今回俺達が行う大富豪の追加ルールとして


【革命】

 ジョーカーを含む同じカードを場に4枚出すと、そのゲーム中は強弱が逆転する。つまり3が強く、2が弱くなる。ジョーカーの強さはそのまま。


【8切り】

 8を出したら、その場は流れて、自分からのターンでゲームを再開出来る。


【都落ち】

 大富豪より先に上がる人が現れたら、自動的に大富豪は大貧民となる。


【スート縛り】

 同スート、ハートやクローバーといったカードが連続で出た場合は同じスートのカード及びその場より強いカードを出さなければならない。


【スペ3返し】

 ジョーカーが1枚場に出た場合に対してのみ出せる秘密兵器。


 ――こんな感じか……。


 まぁ寝床決めるだけだし、必死になってやる必要性はないよな。




♦︎




「――スペ3返し!」

「まじか!」

「ここで8切りして――」

「永遠お前のターンかよ!」


 ワイワイと盛り上がる大富豪。


 そして決着の時――。


「――よっしゃアガリ!」


 蓮が大富豪となる。


「サンキュー蓮」


 そのままの流れで俺が富豪。


「くっそー。貧民かよ」


 石田が貧民。


「負けたよ。はは……」


 井山が大貧民となる。


「いやー。トランプ使わないと思ってたけど、意外と盛り上がったな」

「1枚無くても何とかなるもんだな」


 石田の呟きに俺が答える。


「これで終わりってのも味気ないよな」


 蓮がカードを集め、整理しながら言った。


「そうだな。まだまだ時間あるし」

「なら、もう1回やらないかい?」


 井山が皆を見て聞いてくる。


「もしかして悔しいのか? 大貧民さん」


 石田が笑いながら言う。


「カードを出す時の腕橈骨筋がイマイチ決まらなくてね……」

「言い訳も筋肉かよ……」

「それじゃあもう1回やるか?」


 蓮がシャフルしながら俺達に言ってくる。


「次の大貧民は罰ゲーム有りで」


 蓮が含みのある顔を俺に見してくる。なんで俺見てくるのやら……。


「良いんじゃない? 時間はあるしさ」


 俺が答えると、石田も井山も頷いて蓮の提案に賛成する。


「じゃあ、大貧民の奴は秘密暴露な」


 蓮の軽く放った言葉に現場に緊張が走った。


 暴露大富豪大会――。


 それはハイリスクな大富豪である。

 暴露というからには、自分の中でも恥ずかしいエピソードを語らなければならないだろう。

 思い付く簡単な所で【好きな異性】と言ったところか。


「良いね」

「唸るよ。筋肉が」


 石田と井山はノリノリであった。


 普段ならやらないであろうハイリスクなゲームも、修学旅行という魔法がかけられた一同には怖い物など無かった。


「涼太郎は?」

「やるか」

「そうこなくっちゃな」


 空気を読んだ俺の同意に蓮が嬉しそうにカードをシャッフルしている。

 

「――ダウト」

「え?」


 蓮のカードシャッフルがあまりにも怪しかったので言ってやる。

 寝床を決めるだけなら見逃してやったが、暴露大会となると話は別だ。


「詐欺師め。最初のカードシャッフルも仕組んでたろ?」


 言ってやると蓮が今まで仲間キャラを装ってたけど、バレてしまった奴みたいな悪い笑い方をする。


「ハッハッハッ! 流石だな涼太郎」

「マジシャンでもなし、そんなんは良く見ればバレるだろ」

「ハッハッハッ!」


 高笑いをする蓮に対して、ようやく状況を掴んだ2人が言い放つ。


「――蓮! お前!」

「卑怯だよ!」

「勝てば良いんだよ! 勝てば」


 おーい。キャラ崩壊してんぞー。れーん。


「これが蓮の本性かよ……」

「ふっ……。爽やか系イケメンだと思ってたのに」


 2人の言葉に蓮が「何だよ。何か――」と言いかけたのを掻き消して、2人の声が重なる。


「親近感あるじゃないか」と。


 そう言われて蓮は目を丸くした。


「何か蓮って完璧過ぎてちょっと怖かったんだよな」

「顔よし、性格よし。誰にでも優しくて女の子にモテモテ。そんな物は僕の敵だと思ってたけど――」


 そしてまた2人の声が重なる。


「ただのゲス野郎だな」


 そう言われて蓮は少し嬉しそうに言った。


「誰がゲス野郎だよ……」

「ほらほら。ゲス野郎。カードをよこしな」


 俺がヒョイヒョイと手を動かすと蓮が首を振る。


「涼太郎は何か嫌だわ」

「は?」

「お前の方が手際良く仕組みそうだから」

「てめぇに言われたかねぇわ!」


 俺の言葉に3人が言ってくる。


「確かに南方って何かありそうだもんな」

「ラスボスというより裏ボスって感じだよね」

「あ! 分かるわそれ」


 3人に好き勝手言われる。


「なんだよ、それ。裏ボスて……。じゃあ筋肉。お前がカード切れよ」

「良いのかい? 僕を信用して」

「お前は脳筋だから大丈夫だろう」

「ふっ。ようやく僕という筋肉を受け入れてくれたんだね」

「やめんかっ! 気色悪い! さっさとやれ!」

「承知!」


 言いながら井山がカードを切る。


「うおおおおおお!」


 気合を入れながらカードをシャッフルしていく。


「す、凄い」

「ま、まじか……」

「こ、これは――」


 めちゃくちゃ遅い。恐ろしく遅い。もしかしたら幼稚園児の方が早いと思われる程に遅い。


「早よしろよ筋肉!」

「これが僕の――最高速度!」


 そう言いながら、ポージングをとる。


「そんな余裕あるなら、さっさとしろよ!」


 あまりの遅さに蓮が「やれやれ」と溜息を吐きながら言う。


「仕方ない……。ここは俺が――」

「お前はすっこんでろ詐欺師」

「そうだゲス野郎」


 俺と石田のコンボに蓮はシュンとなるが、何処か嬉しそうであった。


「いきなり酷い言われようだぜ……」


 その嬉しそうに言う姿に、もしかして蓮もMなの? と思ってしまう。


「貸してくれ筋肉。俺が切るよ」

「やめてくれ石田くん! カードシャッフルは個性のある奴のみに許される特別な役職なんだ!」

「個性なら俺だって――!」


 そう言って石田が「はっ!」と俺達を見渡した。


「【腹黒爽やか系イケメン】【裏ボス語り手ツッコミマシーン】【ガチムチ筋肉一方通行】」


 ちょっと待って……。俺そういう風に見られてるの? 心外なんだけど……。


「対して俺は【日本史好き】なだけ――うおおおおおお!」


 石田はその場で崩れ落ちた。


 個性豊かな我がクラス――。残酷だが、これが現実。他のクラスなら目立っていた個性もここでは埋もれてしまう。


 井の中の蛙といったところか……。


「ダウンしてる暇はないぞ石田。もうすぐ始まるんだから」


 そんな石田に蓮が優しく声をかける。


「お、俺の個性は弱い。それに、俺には暴露するような秘密は――」

「何言ってんだよ……」


 爽やかに笑って蓮が石田に言い放つ。


「石田の変態的フェチとかあるだろ? 例えば【鎧プレイ】とか【木刀プレイとか】」

「どんなプレイだよ!」


 確かに石田の言う通り、どんなプレイだよ。


「その変態的フェチを加藤に暴露するとか。色々暴露の方法はあるだろ?」

「え? ちょっと待って? 暴露って4人だけにじゃないの?」

「それじゃあインパクトにかけるだろ? 特に暴露で王道な【好きな異性】って言うのが石田には通用しないからな。石田の彼女は皆知ってる訳だし。暴露は公平に」


 優しく爽やかな声と台詞がミスマッチである。

 そして蓮は親指を突き立てて言う。


「個性がないっていうなら作ってやるよ。この暴露大富豪で【変態】という名の個性をな!」


 この瞬間に石田の暴露はフェチ確定になった。


「蓮……。お前いきなり性格が極悪だな」

「もう隠す必要性を感じない」


 開き直っている蓮を差し置いて「よしっ! これくらいでいいだろう!」と、ようやく井山のカードシャッフルが終わった。


 井山がカードを配る。何故かカードを配るのは恐ろしく早い。まるでカジノのディーラーの様である。


「さぁ大貧民。俺にカードをくれよな。最強のやつ」


 蓮の言葉に先程の上がりで貧民だった石田からクレームが入る。


「待て待て待て! 1からのスタートだろ? 暴露っていう罰ゲームが増えたんだから」

「いやいや。大富豪ってゲームは継続して行うゲームだ。だから【都落ち】ってルールがあるんだぞ?」

「そ、それは……。み、南方はどう思う?」


 いきなり俺に言ってくるが、俺は優しい人間ではない。


「ま、蓮の言う通りだな」


 俺、富豪だし。


「貴様らぁ!」

「石田くん! いや【変態日本史バカ】くん!」

「まだ変態ちゃうわ!」


 まだってなんだよ……。


「大貧民、貧民にも筋肉がある! そこを突いて相手の筋肉を崩していこう!」


 訳の分からないアドバイスに石田が頷く。


「そうだな。貧民には貧民の戦い方がある!」


 伝わったのな。今の。


「もう話は済んだか? 貧民共!」


 とことん悪役に回っている蓮。もはや元のキャラに戻る気はなさそうだ。


「あいつだけは許さねぇ」

「全ては筋肉の導きなりて」

「さぁ! ゲームの始まりだ!」


 それぞれの思いを胸にカード交換が行われて、負けられない戦いが幕を開けたのであった。





 皆様の大富豪のルールはどうでしたか?

 私の所は石田くんの所に近かったですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蓮くんのに5飛ばしがあった感じですかね
[一言] 石田くんのやつとほぼほぼ同じでした〜
[一言] 5ステップやQボンバーに8切り防止の9ブロックがありましたね(3人時限定)
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