首都(お寺観光)
日本一のタワーにて、筋肉バカが想い人とは違う女子と良い感じなのを目撃して、お前、もうそいつと付き合えば色々丸く収まるんじゃない? という第3者の俺の思いを残して、次なる目的地である浅草へとやって来た。
ここは有名な門があるので、平日の夕方時でも人で溢れていた。
「おお。凄いな」
大きな提灯を見てスマホを取り出しパシャパシャと撮りまくる。
「ホント。カッコいい」
隣でアヤノもパシャパシャと撮りまくる。
「楽しんでるかい?」
俺達2人が某ピンクの服が特徴のタレント夫婦みたいにパシャパシャと写真を撮っていると、祭りで着る様な服掛を来たガタイの良いお兄さんが話しかけてきてくれた。
「後で提灯の底を見てみな。龍の彫刻が彫ってあってカッコいいぞ」
「龍。オー。イッツ、ア、ドラゴン」
どうして、わざわざ英語で言ったのやら……。
「君ら高校生だろ? 修学旅行かい?」
「はい」
答えるとお兄さんは親指で後ろを差す。その先にはテレビで見た事ある様な物が置いてあった。
「人力車乗ってかない? ここら辺の説明してやるぜ?」
「人力車!」
アヤノが反応して俺を見てくる。その瞳の輝きは「乗りたい」と訴えるものであった。
うっ……。乗せてあげたいし、俺もアヤノと一緒に乗りたい。乗って「楽しいねぇ」なんて言い合ってゆっくり観光したい。でも――。
「あー。すみません。乗りたいんですけど……。団体行動なので……」
俺の言葉にアヤノは肩を落とし「流石にダメだよね……」と小さく呟いた。
対してお兄さんは大きく笑った。
「そうかいそうかい! 学生だからしょーがねーな。そんじゃー次だ。次に遊びに来た時に乗っててくれよ」
「また来た時に是非乗らせて下さい」
「お! 約束な! そんじゃ約束守ってもらう為に俺カメラマンしてやる! スマホ貸しな」
「あ、ありがとうございます!」
お兄さんにスマホを渡して門をバックに2人して立つ。
「ほらほら! もっとくっついて!」
そう言われてアヤノが俺の腕を掴む。
なんだか……凄く恋人っぽくて……良い!
「お! 良いね! 良いよ! 絵になるねぇ! くぅー」
パシャ! っと、独特のカメラ合図でいつの間にか写真を撮ってくれた。
「ほらよ。抜群の写真が撮れたぜ!」
「ありがとうございます!」
「良いってこった。修学旅行楽しんでくれ! あばよ!」
親指を立てて去って行った。
「江戸っ子だね」
「江戸っ子だな」
♦︎
門を潜った先はまるで祭りのような賑わいであった。
真っ直ぐの道の両側にびっしりと店が並んであり、まるで本当のお祭りに来ている様だ。
そんな商店街の様な場所を班で移動して本堂を目指す。
「お兄ちゃん。お姉ちゃん。揚げたてのおかき食べてかなーい?」
「おかき?」
夏希がフラフラ〜っと店のお姉さんの方へ向かって行った。
俺も興味があったので彼女に続いて店の前に行く。
「ほら食べてみな。美味しいぞ」
お姉さんが試食用のおかきを夏希と俺に渡してくる。
おかきか……。あんまり食べないし。味なんて大体同じ――。
なんて舐めていた数秒前の俺には説教だ。
「なにこれ!?」
「美味しい!」
俺達は目を丸めておかきを食した。
いや、ホント、俺の知ってるおかきと違う。
「これ味付けなしで、味は――」
「味付けなし!? うそやん!?」
何の調味料もなしでこんな美味しいの? 揚げたてってこんなに違うの? もうスーパーのおかき食べれない。
「そうだよ。味は塩と醤油があるよ。買ってってよ」
「買う買う」
そう言った後にお姉さんに聞いてみる。
「どっちが人気なんですか?」
そう言うと自信満々の笑みで言い放たれる。
「どっちも人気。だから両方買った方が得だよ。ここでしか買えないし」
商売上手なこった。
しかし、これ程美味しいおかきは地元じゃ食べれない。俺は両方共買う事にした。
「夏希は? 買う?」
「買うさー。美味しいもん」
夏希の言葉にお姉さんが冗談交じりで言ってくる。
「なら彼氏くんが買ってあげな。男見せる時だよ」
余計なお世話だよ。
「いや……。俺らは班で行動――って、あれ?」
周りを見渡せば班の面子の姿が見えなかった。
「アイツらは?」
「これはあれだね。私達が悪いやつだね。あっははー」
苦笑いで答える夏希。確かに、勝手に行動して逸れたのは俺達だもんな。
「なんだ? 学生さんかい。んで逸れちゃったのか」
「そうみたいですね」
「あはは。大丈夫大丈夫。観光客なら本堂の方へ向かうから。1本道だし。歩いてたら合流できるって。はい、毎度あり」
お姉さんが俺達に購入したおかきの入った袋を渡してくれる。
「ども」
「ほんじゃ逸れたならデート楽しみな」
そう言って軽く背中を叩いてくる。
だから彼女じゃねーっての。なんて否定してもこの人には何の関係もないから、面倒臭くて適当に頷いておく。
購入したおかきを鞄の中にしまい、みんなに追いつく為に少しだけペースを上げて歩き出す。
「涼太郎くんが彼氏かー」
歩き出すと夏希がニヤニヤしながら言ってくる。
「お前には筋肉くんがいるだろう」
「いやいや。井山くんは最近仲の良い女の子がいるからねー」
「そういや、タワーは一緒じゃなかったんだな?」
「まぁねー。あの人、女の子とイチャついてたからね……」
確かに楽しそうではあったな。そして、夏希の態度……。これはさっきの俺の予想が的中か?
「おろおろ? 嫉妬ですか?」
そう言うと夏希が吹き出した。
「にゃははー。嫉妬かー。嫉妬ってどんな感情なんだろうねー?」
なんだか余裕で返された。
「ネズミのところは一緒に回る約束したのに?」
「あれは私が空気を読んだだけさー。あの班編成ならそれが丸く収まるでしょー? だから別になんでも良いのだよー」
前途多難だな……。井山……。波乱の予感は大ハズレって訳か。
「つまんねーやつ……」
唇をとんがらせて視線を逸らす。
「にょほほー。私をあおるなんて100年はやいのだよー」
確かに、弄っても平然と返してくるもんな。
「やー。あれだよー。涼太郎くんが彼氏ならバイクの話しかしてこないだろうなーと思って」
いきなり心外である。
「んな訳あるかいな。俺だって他に趣味があるっての」
「ほほう? 何?」
自分で言ってて手を顎に持っていき考える。
俺の趣味……。なんだろう……。
「にゃはは! ないじゃんか」
言われて、確かに俺って趣味が少ないと実感してしまう。
「そ、そういう夏希は?」
「機械弄りっしょ。知ってるだろ?」
「それだけか?」
「私は幅広いからねぇ。別にバイクだけじゃなし、乗り物だけじゃなし。ゲーム機とかテレビとか。あと、ラジカセとか分解して改造するの好きだし」
「な、なるほどな……」
「そういうの活かして就職したいと思ってる」
彼女の何気なく放った言葉に俺は感心した。
「もう将来設計してるのか……。凄いな」
「昔から好きだからね。涼太郎くんは何か考えてるの?」
そう言われて言葉を失う。特に何も考えておらず、何となく大学に行く事しか考えてない。
他人と比べるべき事柄ではないが、やはり俺も人間。夏希がめちゃくちゃ上の立場に思えてしまった。
「涼太郎くんは成績良いから。良い大学入って一流企業に入社ってルートが王道?」
「――そんなんで良いのかな……」
夏希は趣味を活かした将来設計。俺は何となく大学に入学して何となく就職する未来――。
「――あ! 見つけたー!」
考え込んでいると本堂の所で班のみんなと合致する事が出来た。
「どこ行ってたのー?」
「探したよー」
「ごみんごみんー」
輪の中に入って行った夏希と入れ替わりでアヤノがジト目で俺を見てくる。
「――浮気……」
「ばっ! ち、ちげーわ」
「浮気は切腹。打首。吊し上げ」
アヤノの顔は無表情ながらマジであった。浮気はダメ絶対。
「こ、これ買ってただけだよ」
言いながら鞄からおかきを取り出して塩味を開けてアヤノにあげる。
「おかき?」
「めっちゃ美味いぞ」
アヤノにおかきをあげると、彼女は「なにこれ」と驚きの表情を見してきた。
「美味しい」
「なー! 美味いだろ! 帰ったら一緒に食べような」
「うん!」
この美しい笑顔を見ると、先程の心配が吹き飛んだ。
今は楽しい修学旅行だ。将来の不安は一旦置いておこう。
「これは甘い紅茶が合う」
「本当に紅茶ジャンキーだね、きみ」




