首都(日本一高いタワー)
自重して少し文を変えました。すみません。
新幹線は日本の首都に到着し、俺達は先生達に迅速な行動を求められて、彼等の誘導に従い移動していく。
折角着いたのだから、もう少し駅の中を探索したり、駅の外観はレンガ造りで映えるみたいだから一旦外に出て写真を撮ったりしたかったのだが……。
仕方ない。流石は首都という事で平日の昼前なのに凄い人の量だし、ネット情報だけど、この駅はダンジョンとか呼ばれているみたいだしな。高校生にもなって団体行動を乱して迷子とか笑えない。
俺達は皆素直に先生について行きバスに乗り込む。
そして、少し早めの昼飯を食べる為に高そうなホテルにて昼食を取り、昼ごはんを食べるとそのまま次の目的地へ移動する。
午後2時。昼ごはんも良い感じに消化されたところで、目的地の日本一高いタワーへ到着する。
バスは地下駐車場に駐車され、俺達はゾロゾロと外に出て行く。
「はーい! じゃあ行くよー! 班で行動してねー!」
先生が先頭を歩き、地下駐車場から中に続く通路を歩いて行く。
新幹線の時の団結力はどこへやら……。先生の言葉はあまり届いておらず、皆適当に行動していた。
先生達も迷子にならなければ良い位の気持ちなのか、それ以上注意する事なく先頭を歩く。
そんな中、俺は――俺達は先生の指示に素直に従う優等生である。
「はじめてだから楽しみ」
隣で一緒に歩くアヤノがパンフレットを見ながら言ってくる。
「ホントなー。でも、さっきからやたらバイクの免許取りに行った教習所のパソコンの事を思い出すわー」
「どういう事?」
「いやー。実はそのパソコンの中に学科学習システムっていう練習問題があってさー。宮本武蔵の格好したキャラが『634!(634問とは言ってない)』とか言ってんだよね」
「くだらない……」
「そんな訳で634mの高さとか聞くと、そんなくだらない事を思い出すんだよな」
「リョータロー……」
アヤノがパンフレットをしまい俺の顔を見てくる。
「なんだよ?」
「そういうくだらない事考えて……。怖いの誤魔化そうとしているんじゃない?」
「ギクッ!」
口に出してギクッとか痛々しさの極限だが、こんなお手製の図星を突かれた擬音が出てしまうのも修学旅行マジックという事で納得しておこう。
「フールフール。オーケーオーケー。ファニーなワードだ」
「明らかな動揺……」
「この南方 涼太郎『高』と付くものが大好きなのさ。高級寿司。高級車。高級ホテル。高級――」
「それって『高』じゃなくて、ただの『高級』志向じゃない?」
「あれ?」
「それに……。リョータローそんな話、今までした事ないじゃん」
「あれれ?」
「怪しい……」
ジーっと俺を見てくるアヤノ。
まずいな……。これ以上コイツに弱み握られるのは彼氏的にNGだ。
俺はアヤノの肩に手を置いて人差し指をたてる。
「この南方 涼太郎。なにかしらの頂に立つ人間だ。そんな俺が高い所をビビるはずない」
「じゃあ何かしらの頂に立つ人間だから、ここ、平気だよね?」
ニヤリと笑いながらアヤノはパンフレットの中を指差してくる。
彼女の指さしたのは足元がガラスになっており、真下が見える仕組みになっている場所だった。
「こんな所ファニーの極地だわ。余裕すぎてここでダンスでも踊っちゃる!」
「ふぅん……」
アヤノは企みのある表情でスマホをいじり出した。
そんな顔初めて見たぞ――。
♦︎
「――お待たせ致しました。順番にご乗車になってください」
エレベーターガールのお姉さんの指示に従い順次乗り込んでいく。
乗り込むと「おお!」と歓声が上がる。
エレベーターには夏をイメージした様なデザインで、花火の様なものがキラキラと描かれていた。
「綺麗……」
隣でボソリとアヤノが呟いた。
「それじゃあ他のエレベーターは春、秋、冬のイメージが描かれているのかな?」
「かな? 面白いね」
「凄いよな」
そんな会話の中、エレベーターガールのお姉さんが「時速何キロ」だの「一気に」だの説明してくれていたが、俺達はエレベーターの話題で盛り上がっていた。
「春は桜。夏は花火。冬は雪。秋ってなんだろ?」
アヤノが視線を上に持っていき考える。
「紅葉じゃない?」
「なるほど。でも、焼き芋の可能性もある」
「この幻想的なノリで焼き芋はないだろ……」
そんなくだらない話をしていると展望デッキへとやってくる。
エレベーターから降りた俺達を含む観光客が「うわあ」と天空から下界を見下ろす様に下町を見下ろした。
「な……。なかなか良、良いじゃん?」
「声震えてるよ?」
「あいたくて?」
俺が言うと、アヤノは理解したみたいで返してくれる。
「名曲」
「名曲だな。でも、なんで震えているんだ?」
そう言うと鼻で笑われた。
「女心をまるで分かってないねリョータロー。失恋した相手に会いたいけど会えない寂しさで震えてるんだよ……」
「なるほどな……。ま……。俺には縁のない話か……」
「ん?」
「だって俺達は別れないだろ?」
アヤノは俺の袖を掴んでくる。
「その曲も好きだけど、取り扱い説明書の曲の方も好き」
俺の袖を振りながら楽しそうに言ってくる。そこで俺の悪戯心が芽生えてしまった。
「あー。人気だな。でもアヤノの取り扱い説明書なら俺は全て分かるぞ」
「ホント?」
「ああ。運動音痴。成績不良。早朝弱者。二度寝女王。無表情」
「――ふふふ」
怖い笑みを見して俺の手を取る。柔らかい感触にドキッとしたけど、手から彼女の心の声が伝わった気がした。
これはまずい……。早急に手を打たないと……。しかし、彼女の力は恐ろしく強く、手を離す事が出来ずにいた、
彼女が俺を連れてきたのは、先程パンフレットで見た有名なガラス床であった。
流石は有名であって沢山の人がガラス床の上に立ってる。
「私この曲も好きなんだよね」
そう言ってアヤノはスマホを操作して音楽を流してきた。
「踊れるんだよね?」
「いや、待て待て待て。え?」
「踊れるんだよね?」
「ちょ! アヤノさん? 目が逝ってる……」
「さぁ。早くステージに立って」
「いやいやいや。他の人が――」
ガラス床の方を見るといつの間にか誰もいなかった。
「何言ってるの? リョータローの独壇場だよ?」
「主人公補正!? ここ有名な場所でしょ!? 人がいなくなる事なんてある!?」
「ガタガタ言わずに立つ!」
「は、はいっ!」
俺は彼女に従いガラス床の上に立つ……。
「どう? 634mからの真下の景色は?」
み、見れるかよ……。
「634mはテッペンで、この展望デッキは大体350m程の高さだ。だから今、俺が立ってる所も大体350m位だぞ?」
「まだそんな戯言を……。我を愚弄した罪の代償は死ではなく滅と知れ!」
えええ!? そんな言い回しする!? その言い方は俺を肉体だけでなく魂事消す気か!? 中二病炸裂だな! おいっ! 直近で何かのゲームでもしたの?
あーアヤノたーん! 愛情の裏返しなんだよー。ほら良く言うだろ? 好きな女の子には強く当たってしまうってな。それと同じなんだよー。
そう言いたいが恐怖で口がパクパクとしか動かなかった。
あ……。やばい……。もよおした……。
下を見ちゃダメだ。見ちゃダメだ。見ちゃダメだ。見ちゃダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。
「リョータロー」
アヤノが俺の前にしゃがみ上目遣いで手を振ってくれた。
「お前ホント可愛――」
アヤノの顔を見るのに視線を下にしてしまい、そのまま足元に目をやってしまう……。
「きゅーん……」
「リョータロー!?」
俺はアヤノの方に倒れてしまった。
彼女はすぐに俺を優しく包んでくれた。
ガラス床。高い所が苦手な人はガラス床は気合いを入れて行ってね。ホント怖いよ。
♦︎
文化祭で学んだはずの、強がりは何のメリットも生まれず恥をかくだけ、というのを再認識しながらアヤノのお色直しを待つ。
手持ち無沙汰なので適当に観光客を見ると、海外からお越しの人達が沢山見受けられる。流石は日本の首都といった所だ。
そんな中で恋人繋ぎをして歩いているカップルがいた。
初々しいながらも堂々と楽しくタワーを楽しんでいる。
羨ましいね。俺もアヤノとああやって周りたい――いや、周れば良いか。そうだよな。周れば良いんだ。別に隠してないし。でも、修学旅行でイチャイチャするのもどうなん? クラスの人の目もあるし……。気にしたら負け? 2人きりのデートなら……。あれ? 俺アヤノとデートらしいデートってした? あれ? してないな……。買い物とか位しか……。ダメじゃん。そんなん彼氏として全然ダメだ。
そんな反省をしていると「姫!」と痛々しいワードが聞こえてきた。
見て見ると男子4人が1人の女生徒を取り巻きの様に囲んでいた。
――他人のフリだな……。
視線を変えると見覚えのある筋肉ダルマに目がいってしまった。
どこ見てもハズレかよ……。
しかし、筋肉の隣には――ウチのクラスの女生徒がいた。
夏希じゃないのか? 夏希ハイパーラブなのに……。しかし、あの子は確か、文化祭辺りから筋肉と一緒なのを見かける……。文化祭に引き続いてまだ絡みがあったか……。
それにしても2人共楽しそうじゃないか。お似合いといえるだろう。
「お待たせ。――ん? どうかした?」
お色直しから戻ってきたアヤノが俺の視線の先を見て首を傾げる。
「んにゃ。あ、売店あるみたいだから行ってみよう」
「うん」
これはもしや波乱の予感なのか? あまり気にならないけどねー。
ちなみに私は2回ガラス床に立ちましたが……。めっちゃ怖いですね、あれ。怖くて笑ってしまいました。
エレベーターの秋は金箔の鳳凰らしいです。
冬は雪じゃなくて、銀箔の雲や富士山が描かれているとか。
めちゃくちゃ綺麗なので皆様も是非乗ってみて下さい!




