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首都へ(上り新幹線)

 お父さんのおかげで集合時間には余裕で間に合い、俺達高校生にはあまり縁のない新幹線へと乗車していく。


 それにしても新幹線のホームは来る機会がない為、物凄くワクワクしたな。よくよく見ると、いつも利用している電車のホームとめちゃくちゃ大きな違いはないんだけど。

 別に新幹線に特別な思いはないが、目の前に止まった時「うおお」と小さく声が出てしまった。


 そんな余韻に浸りながら、何車両かウチの学校が占領している新幹線へ。


 目的地に向かって左手の2人席の通路際が俺の席だ。


 隣は――。


「うぃす。涼太郎」


 朝から爽やかな笑顔を見してくるイケメン蓮くんであった。

 

「席そっちで大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫」


 優しいねぇ。ま、席なんか何でも良いさ。ガキじゃあるまいし。

 そう思いながら上にある荷物置き場に自分の荷物を置いて、席に座る。


「楽しみだな。修学旅行」


 蓮が自然な感じで言ってくるので「ホントなー」と合わせておく。


 そこで、俺の席の斜め前の席、3人座席の通路側の席に座る水野と目が合った。

 すると、彼女はすぐに目を逸らしてくる。


「特にウチの班は色々と……」


 彼女を見て、呟くと蓮が「どういう事?」と首を傾げられてしまう。

 野郎の首傾げなんていらねーよ。何て一瞬思うが、イケメンの傾げは絵になる。やっぱりイケメンって特だよな。


「あー……。いや、あははー……」


 俺は苦笑いで答えつつ、昨日のバイトでの会話を思い返した。




♦︎



 昨日のコンビニバイトでのこと。


「――ありがとうごさいます。またお越し下さいませ」


 平日の夕方から夜にかけての時間帯。いつも通りの店内、いつも通りの客足。違うのは自分の心の中。

 修学旅行の前日の夜とかって、なんだか自分が非現実を生きているみたいで不思議な感覚に陥るんだけど……。単に明日が楽しみなだけか。


 そんな気持ちでレジに仮置きしていた小銭やら札をレジにしまう。

 

 最初はバイクを買う為に始めたバイトだけど、欲しい物が手に入り今は惰性で続けている。

 部活もしていないし、収入がないとバイクの維持費が払えないので仕方ない。金がいるのさ。親には頼りたくないしな。俺が買ったものだし。

 惰性で続けている位なら辞めて、他のバイトでも探せば良いのだが……。折角覚えた仕事をリセットして違う仕事に移るっていうのも何だか勿体ない気がするので踏み出せないでいる。

 

 そんな思考の中、俺はレジを出て、紙パックのジュースが並んであるコーナーへ行き、ミルクティーを2つ手に取り、バックヤードから遠い方――先程まで俺が使っていたレジにそれらを通して、ポケットに隠し持っていた小銭を出して購入する。


 バックヤードに近い方のレジでは久方ぶりに一緒にシフトに入った、クラスメイトの水野がお札を数えており、それを中にしまおうとしているところだった。


「――おつかれ水野。これいる?」


 言いながらバックヤードのドアを開けて聞く。


「おつかれー。良いの?」

「まぁ。要らないって言っても飲んでくれないと困るけど」

「ありがとう。頂きます」

「いえいえ」


 適当な返事をして俺はバックヤードに入り、デスクに1つミルクティーを置いて、監視カメラを見ながらミルクティーにストローをさしてを飲む。

 続いて水野もバックヤードに入ってきてデスクに置いてあるミルクティーを取って「頂きます」と言ってストローをさした。


「やっと2人きりになれたな」

「え? え?」


 俺が言うと水野が少し焦った様に声を出す。

 ま、確かにちょっと意味ありげな言い回しだったな。


「ようやく、あの夏祭りの事を聞く事が出来る」


 気にはなるけど、今客いなくて暇だから程度のノリで話題に出す。


「あ……。あー……」


 何に納得したのか、水野は無意識に頷いていた。


「さぁ。根掘り葉掘り聞こうじゃないか。蓮きゅんとどうなったかを」


 ミルクティーを飲みそう言ってみせる。


「い、いや? べ、べつに、なにもないよ。きっと」


 明らかに動揺している様子。

 まぁ言いたくないなら別に良いけど、水野の反応が面白くて、つい攻めてしまう。


「さぁ吐くんだ。その為にミルクティーを買ってやったんだから」

「しょぼっ! 女の子を秘密を知るのには余りにもしょぼ過ぎるよ」

「それでも飲んだ以上は話してもらうぜ」

「せこっ!」


 水野はツッコミを入れた後に、ミルクティーをデスクに置いた。


「――南方くんはさ……」

「んー?」


 水野は何かを思い出しているのか、顔が少し赤かった。


「好きでもない女の子にキス出来る?」

「はい?」


 いきなりの質問に疑問の念が出てしまう。


「だから……。好きでもない女の子にキス出来る?」

「キスは……。無理っしょ……」


 男は本能的に子孫を残す生き物っていうのは、よく芸能人が不倫や浮気をした時に出る最低の言葉だ。だから男は浮気すると。

 しかし、俺個人の意見としては、アヤノ以外の女性にキス出来るか問われると絶対に無理だ。アヤノとしかしたくない。キスも、それ以上の事も。


「――だよね……」

「なになに? もしかして……。蓮きゅんにキスされたの?」

「や! ちがっ」


 その反応が答えだと思った。


「まじか。なんだよ。付き合ってんかよ」

「違うよ! 本当に違う。キスされてないよ!」

「そうなん?」

「キスされかけたの……」

「されかけた?」


 俺の質問に恥ずかしそうに頷く。


「キスされかけた時にタイミング良く花火が上がって、結局はキスしなかった」


 花火を見るとのこじ付けでデートに誘ったのに、その花火に邪魔されたか。皮肉なものだねー。


「それってもう好きって事なんじゃないの? ほぼ告白じゃない?」

「でも、それ以降特に何もないし……。文化祭も一緒。修学旅行も一緒。なのに蓮くんいつも通りだし……」

「あー……。確かに、特に変わった様子はないよな」


 あまり仲良くないから、そこまでの変化は分かないが、彼が彼女を好きというのは知っている。


「だから、何だか良く分からなくって……。私だけ動揺してるのも悔しいし」


 いや、あんた結構ドギマギしてるぞ。って言うのは可哀想だからやめておこう。


「ふーん……。そんな事があったのか。水野的にはどうなん?」

「どうって?」

「蓮の事だよ。好きなの?」


 聞くと水野は首を傾げた。


「分かんない……。どうなんだろ……」

「そっか……」


 彼女の話から、花火が上がらなければキスしていた事になるので、それは受け入れたという事になるだろう。

 だったら好きなんじゃないの? てか両思いかよ。さっさと付き合えボケっ! と思うが、俺がとやかく言う義理もないか……。

 

 俺はミルクティーを飲み、ふと、文化祭の時に言われた事を思い出した。


「あ……。でも、俺的にも、蓮や水野的にも早く、くっ付いてくれた方がありがたいな」

「え? どうして?」

「何か噂されてんだわ。俺が水野好きだって」


 そう言うと水野は悪戯をする様な笑みに切り替わる。


「えー? 南方くんって私の事好きなの?」

「ちがわいっ!」

「困っちゃうなー。えー? どうしようかなー」

「あれ? 話聞いてる?」

「ごめんなさい。私、南方くんの事サオラとしか見れません」

「アジアのユニコーン!? 俺の事アジアのユニコーンとして見てたの? それって凄くない!?」


 そう言うと水野は腹を抱えて笑い出した。


「サオラ知ってるんだ! アッハッハ!」

「絶滅危惧種な。見た事ないけど」


 そう言うと「そりゃそうでしょ」と爆笑していた。


 水野が落ち着いたところで勝手にフラれた俺から彼女に話かける。


「ま、明日は折角の修学旅行なんだし、修学旅行のあの独特の雰囲気を利用して蓮に問い詰めてみたら?『いつまで待たせてんだよ!』って」

「う、うん……。サオラが言うならそうしようかな」

「あだ名サオラになっちゃったよ」




♦︎




 ――なんて会話をしたからな。修学旅行マジックを使って、今回もカップルが誕生するかもしれない。


 新幹線が出発してから数分。学生は乗る機会が少ない為か、はしゃいでいるので車内は騒がしかった。

 他の乗客がいなくて良かった。

 そんな中、蓮が窓の外を見ながら俺に話かけてくる。


「涼太郎さ。俺の好きな人知ってるだろ?」


 お、おおう……。いきなりどしたどした……。


「そ、そうだな。あの時ほぼ答え見たから」

「だよな」


 そう言うとこちらを見てくる。

 なんだ?「だったらお前の好きな奴も教えろ」とか訳の分からない等価交換でも持ちかけてくるのか?


「涼太郎の好きな人ってこの班にいないよな?」

「え?」


 ちょっと思ってたのと違う質問が来たので聞き直してしまう。


「いや、やっぱなんでもない。いないよな。いたら丁度良かったと思っただけだし」


 いや……。いるよー。彼女いるよー。とわざわざ訂正するのも面倒なので黙っておく。

 蓮は自問自答した後に爽やかな顔してとんでもない事言ってくる。


「実はさ。この班編成って仕組んだんだよ」

「ぶふっ」


 急な爆弾発言に吹き出してしまった。


「え!? ま、まじか?」

「まじ。どうしても七瀬と一緒が良かったからさ」

「お前……。見た目と違って腹黒だなぁ」


 笑いながら言うと蓮は腹黒とは正反対な顔して言ってくる。


「これが仕切りの特権だよ」

「お前絶対政治家だけにはなるなよ……」


 そう言うと否定せずに苦笑いされる。

 いや……。え? 目指してんの? やめてよ? 俺絶対投票しないからな。


「仕組んだって事は……。あの箱?」

「ああ。あの2つの箱にはAの紙は入ってない」

「にゃるほどね」


 どうせ誰も班編成の事に対して口出ししないと思い自ら箱を用意。

 そして水野が代表になるのも予想済み。まぁ女子の仕切りは水野だからな、クジを引くのは自然な流れだろう。

 クジってのは先に引いた方が何となくお得感が出るから、仕切りの俺達は最後に引くと謙虚を装って自分達は引かずにクジを終える。そしたら見事狙い通りに水野と同じ班になるって事だな。

 非常に単純で簡単なトリックだけど、蓮の人間性が成せる技だな。


「正直こんな上手くいくとは思わなかったよ」

「まぁ……。蓮の事を怪しむ奴なんかいないか……」


 信頼出来るイケメン代表だもんな。羨ましいね。


「――バレたらバレたで全然良かったんだけどな」


 ボソリと意味ありげに呟く蓮。なんだかとても意味深な呟きだ。

 だが俺はスルー――


『もう少し歩み寄っても良いんじゃない?』


 ――普段の俺ならそのままスルーしていたが、昨日のアヤノの言葉と今日見た夢の中のアヤノの言葉が脳裏に蘇ってきた。

 まぁ折角の修学旅行だし……。ちょっと位はこの話題を続けるか……。


「人気者の演技も疲れるってか?」


 母さん直伝のかまかけを男に使用する。

 すると蓮は苦笑いで答える。


「演技ってバレてる?」

「あ……。本当に演技なんだ」


 母さん直伝のかまかけがクリティカルヒットした。


「かまかけてきたのかよ」

「あははー」


 まぁでも、さっきの発言は明らかにそういう意味だから自信はあったけどな。


「まぁ……。涼太郎は誰にも言わないだろうし。別にバレても良いんだけどさ……」

「演技って事はもしかして友人関係とか面倒って思うタイプ?」


 そう聞くと蓮は窓の外を見ながら答えてくれた。


「昔はさ――」


 昔話始まっちゃった。


「無愛想で人付き合いとか苦手なタイプだったんだよ。で、ほら、そうなるとボッチになるわけでさ。小学生の頃はボッチで色々と困ってな。そこで中学校上がる前に親の都合でこっちの方に転校してきたから」

「なるほど。中学デビューか」

「そうそう。そこから今のキャラ演じてるんだけど……。まぁ友達? が沢山いたらいたで、気使ってしんどいんだよな。だから修学旅行の班、イカサマバレて嫌われても七瀬と同じ班になれるならそれで良いやって」

「そんなに好きなの?」


 そう言うと同姓の俺がドキッとしてしまう程の笑顔で言ってくる。


「大好き」


 俺に言われてる訳じゃない。俺はノーマル。オレハアヤノラブ……。

 だけど、なんなんだ? このイケメン。俺の事ドキドキさせやがって。この野郎! この……やろう……。


「だ、だったら告白は?」

「いや……。その……。実は……。花火大会の時に流れでキスしかけたんだけど……」


 あー。聞いた事ある話だ。


「出来なくてさ……。その後、どうして良いか分からなくてさ。今もいつも通り振舞って見せてるけど。内心テンパりまくりなんだよな……。でも、七瀬はいつも通りだしで……」


 似た者夫婦かよ……。はよくっつけ。


「それってさ。蓮もどうしたら良いか分からないだろうけどさ。水野もそうなんじゃない?」


 まぁ本人がそう言ってたからな。

 あたかも俺の考えと言わんばかりの言い方で言ってやると蓮が不安そうな顔をする。


「そうなのかな? 本当はいきなりキスしようとしてきて、うざがられたりしてないかな?」

「それは分からないけど……。どうして良いか分からないのはお互い様だろ。蓮が修学旅行をイカサマしてまで想いがあるならとっととケリつけるべきだな」


 そう言うと蓮は窓の外を見ながら「そうだよな……」と溜息をついて呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今日も更新お疲れ様です! 非現実を生きている←夢心地というか、心ここにあらずって感じ、凄く分かる!凄っ! 似た者夫婦、何故か親近感もてるし応援したくなる。にしても「好きな人いる?」(彼女…
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