首都への突入前日②
ドキドキワクワクのお買い物【ランジェリーショップ編】を無事に終え、俺達は休憩がてらに有名なカフェチェーンの星場にやってきた。ここのフラペチーノが好きなんだよな。
「なぁ? アヤノ?」
「なに?」
アヤノが頼んだのは普通のホットコーヒー。しかも砂糖もミルクもいれてないブラックコーヒーだ。
「この前もそれ頼んでたけど、お前……甘い紅茶派なんだから、コーヒーも砂糖とかいれたらどうだ?」
そう言いながら、フラペチーノの太いストローをかき回す。
「――ふっ……。未だにそんな甘ったるいもの――」
「お前は普段から砂糖たっぷりの紅茶だろうが」
「――飲んでるリョータローの気がしれないよ」
俺の横入りのツッコミをもろともせずにアヤノは言葉を続けてくる。
「ここに来たからには豆本来の味を楽しまないと。元来コーヒーとは風味と苦味を味わうもの。そこを楽しむのに、そんな訳の分からないホイップが乗った飲み物に手を出すなんて笑止千万」
何か通っぽい事を言いながら飲むアヤノだが、口につけた時の苦そうな顔ったら……。
何でこの店に来たら強がるのか……。意味プーだ。
「ほらほら。苦いだろ。やるよ」
「いらない」
「ふーん……」
何か断られてイラッとしたから、俺はキャラメルフラペチーノを飲んで「うーん……。うっま……」と幸せそうな顔をする。
そんな俺の姿を見て無表情で見てくる。
「欲しいの?」
「別に……」
「そっか」
そう言ってアヤノの前にフラペチーノを置いてやると「そ、そこまで言うなら飲んであげる」とあくまでも仕方なく飲んであげるといった風にフラペチーノを飲んだ。
「――!」
フラペチーノを飲んで無表情から幸せそうな表情に変わる。
こいつ……。初期に比べてホント表情柔らかくなったな。
「――普通」
「本当に思春期男子みたいな感想しか言わない奴だな」
――そんなやりとりをしながら休憩している中、話題を修学旅行の事に切り替える。
「もう明日か。修学旅行」
「寝坊したらダメだよ?」
「それ俺の台詞!」
そう言うとアヤノはクスクスと笑う。
「明日は特別早いから気を付けろよ。ま、迎え行くから良いけど」
「分かった」
アヤノは楽しそうに頷いた。
「――楽しみだね。修学旅行」
その微笑みは変わらずに可愛くて、早く彼女と一緒に修学旅行に行きたくなる。
「アヤノは友達も出来て楽しくなりそうだな」
しかし、彼女は最近クラスの奴とも仲が良いみたいだし、そこは俺とずっと一緒という訳にはいかないだろう。折角の修学旅行だ。一緒にいたいけど、そこは友人とバランス良く過ごして欲しい。
「うん。仲良くしてもらえてる。学校では特に加藤ちゃんと……。水野さんも海島さんとも良く喋る様になったし」
「やっぱり文化祭きっかけ?」
「そうだね。加藤ちゃんと石田くんのやつ考えたの私だし」
「なるほどな」
俺は加藤さんがアヤノを名前呼びした明確な理由が分かり頷いた。
「石田と加藤さんから言わせればアヤノは恋のキューピッドか。そりゃ仲良くもなるな」
そう言うとドヤ顔を見してくる。
最近、こいつのドヤ顔にツッコミを入れられないのが少し悔しい。
「リョータローは大丈夫?」
大丈夫とはどういう意味だろうか……。楽しみという意味かな?
「俺? 俺だって楽しみだよ。アヤノと一緒だし」
「私もリョータローと同じ気持ち」
しかし、すぐに首を振る。
「でも、そうじゃなくて」
「ん?」
「同じ班の男の子と仲良くない?」
そう言われて、痛い所を突かれた気がして頬をかく。
「な、なんでそう思う?」
「見てたらちょっと距離を置いてる気がしたから……」
あの時ジッと見てたのはそんな事考えてたのか……。
「――ま、まぁ……。会話はするけど仲良くはない……かな」
答えると「そう……」と少し悲しそうに声を漏らした。
「友達の定義というか……。それを教えてくれたのはリョータローとサユキちゃんだよ」
「定義って……。あの時、ここのスポーツ用品店で言った事だよな? ありゃ友達いない奴でもアヤノの考えがおかしいってなるよ」
彼女から聞いた幼い時の話。
彼女は、悪い表現になるが金づるにされていた。しかし、彼女は自分がそうだと気が付いておらず、友達と遊ぶ時は金銭のやり取りがあるのが普通だと思っていた為、それはおかしいと教えてあげた。
そして、サユキが真の友達になったって夏休み前の話。
「それでも教えてくれたのはリョータローだよ……。リョータローは友達いらないの?」
「いらない……というか……。なんというか……」
「夏休み明けの時も話逸らしてたけど……。友人関係で昔、何かあった?」
お、おおう。グイグイ来るな。珍しくグイグイ来られるとちょっと「うっ」ってなる。
そんな俺の反応にアヤノは気が付いたみたいだ。
「――ごめんなさい。ついズカズカと」
「いやいや全然。大丈夫だよ」
ちょっとびっくりしたけど。
俺は一旦フラペチーノを飲む。そこに大した意味はない。
「好きな人の――リョータローの過去を知りたかった。でも度が過ぎた。ごめんなさい」
その気持ちは分からなくもない。
俺ももっとアヤノの事知りたいし。
「確かに、昔の事がネックはネックだけど……ホント大した事ないよ。俺にそこまでのドラマはないんだから」
「リョータローの過去を聞くのはダメ……かな?」
そう聞かれて俺はフラペチーノをテーブルに置く。
別に隠している訳じゃない。ただ、話す必要性はないと思っていた。だけど、彼女が聞きたいと言うなら――。
「小学生の頃に仲良し5人組でよく連んでたんだけど、修学旅行の時の班が人数の都合上4人班でさ」
「今みたいな感じだね」
「そうそう。そんな感じ」
苦笑いで俺は視線を上に持っていき話す。
「そこで……。まぁ運悪く俺が抜ける事になったんだよ。ホントたまたまな。なんだっけな……。クジか、あみだか……なにかだったな。だから『リョータロー抜けろよ』みたいな感じじゃなかったんだよ」
目元を無意識にかきつつ、思い出しながら続ける。
「そんで抜けた俺に対しても『班とか関係ないって』とか『俺らの部屋来いよ』とか色々声かけてくれてたんだけどさ」
それ以外にもドキツイ台詞を陰で言われたのを思い出してしまい、小さく溜息を吐く。
しかし、それは俺の心の中で止めておく。
「外野から4人見てるとめっちゃ楽しそうでさ。元々4人グループなんじゃないの? みたいな感じで……『俺らの所来いよ』なんて声かけてくれたくせに、実際に部屋行ったんだけどアイツらはアイツらだけでどっか行ってるわで……。なんていうかな……」
俺はフラペチーノのストローを無意識にクルクルとまわす。
「俺いてもいなくても同じじゃない? 俺って空気だったんだなー。とか思ってさ」
再度苦笑いを浮かべる俺に対し、アヤノは真剣に話を聞いてくれていた。
「別にハブられた訳でもなんでもないんだけど、結局それが原因で俺から離れていったんだよ。そっからかな……。そこから深い関係の友人はいらないかなー。って思って。結局俺は空気みたいな存在なんだ……。いてもいなくても同じかなってな」
内容を話終えて結論を言う。
「ま、1人の少年の嫉妬と、これ以上傷つきたくないっていう逃げみたいな話さ」
言い終わった後に「あ……」と声を漏らし訂正をいれる。
「深い関係の友人はいらないってだけで、俺はアヤノと深い関係になれて嬉しいよ。恋人と友人は別だから。それと修学旅行がコンプレックスになったとかもないから。明日の修学旅行は純粋にめちゃくちゃ楽しみだからな」
「そんな事があったんだね……」
アヤノは真剣モードなのか、コーヒーを口につけても表情を変えなかった。
「でもリョータローも1人は嫌なんでしょ?」
「え……?」
核心を突かれて目を丸める。
「そ、そうだよ。だから俺にはアヤノがいる」
多分、彼女の聞きたかった言葉ではないと思うが、そう答えると、アヤノは悟った顔して言ってくる。
「だったら無理してクラスの人達と喋らなくても良いんじゃない?」
そう言われて「ま、まぁ……」と反論出来なくなった。
「私達似た者同士だね」
「似てるのかな?」
「だって、小学生の頃に交友関係で色々あって……。友達はいらないけど、1人は嫌っていう矛盾を抱えて……」
アヤノはギリギリ聞こえてくる位の声量で「私は殻に閉じこもってた。そんな殻を破ってくれたのはリョータロー。だから……。今度は私の番……」と呟いた。本人的には口に出してないと思っているみたいだな。
俺の為に色々と考えてくれているみたいで、それが凄い嬉しかった。
アヤノは視線をテーブルに持っていき、何か頭の中で話す事を整理しているみたいであった。
「私は――元々は将来の為……。何か近い目標を定めて――」
そして無意識に髪を触る。
「――達成させるぞって言う意志で髪を切った」
そう言った後に俺を見てハニカム。
「――ふふ……。その意志は1割もないけどね。ホントはリョータローの好みに合わせる為に切った。リョータローに振り向いてもらいたくて」
それを言われて、俺の中で罪悪感が芽生えてしまった。
黙っておけば良いけど……。でも……。
「――あー……。あのさ……。アヤノ?」
「ん?」
「ごめん……。実は俺……長い髪のアヤノが好きだったんよ」
「え……! そ、そうなの?」
何とも言えない表情で髪をいじるアヤノ。
「え……。でも……」
「――でも!」
俺はアヤノにキス出来る距離まで顔を近付ける。
「アヤノのおかげでショートヘアが好きになった。アヤノのショート似合い過ぎ。可愛い過ぎ」
そう言うと「う、うー……」と顔を赤くしていた。可愛い……。
「いや違うな……。アヤノが好きなんだ。だからどんな髪型でも、俺はアヤノしか見えないよ」
そう言うと真っ赤な顔して視線を逸らす。
「あ、あはは……。は、話が脱線しちゃったね……。えと……。な、何が言いたいかと言うと……。あの……」
「動揺してる動揺してる」
ニヤニヤと言ってやるとアヤノが少し怒り気味で言う。
「もう! ともかく! 友達って良いものだと思うって事を言いたいの!」
そう少し大きめで言った後に、普通の声量に戻る。
「友達と将来の事の相談も出来る。私の場合は元々の目標を定めた理由に合致した。でも、それだけじゃない。単純に友達といると楽しいよ」
アヤノは俺を綺麗な瞳で見てくる。
「もう少し歩み寄っても良いんじゃない?」
そう言われて俺は頭をかいた。
「そう……かもな……」
色々と俺の事を考えてくれての発言。アヤノが俺の事を思って言ってくれての発言。
だけど――俺は――。




