首都への突入前日①
成長すると時間の流れというのは早く感じる。
小学生の時の1週間は長く感じたけど、高校生になると1週間なんてあっという間に過ぎ去ってしまう。こんなもん大人になって、爺さんになった時なんかF1並のスピードで1日が過ぎるんではなかろうか?
これは気のせいではなく、心理学者が心理学的に説明してるらしいね。ジャネーの法則だったかな? ネット情報だけど。
テレビ番組でも取り上げられていて『大人になるとトキメキが無くなるから』何て言ってたけど、まさにその通りだよな。
子供の頃は新しい発見の連続だけど、成長するにつれて新鮮味が無くなる。まさにトキメかなくなるよな。
しかし、このテレビ番組的には19歳辺りからボーダーラインで、その年齢を超えた辺りから実感出来ると……。
俺は中学生辺りから早く感じ出したのだけど……。ま、個人差あるわな。
また、何で突然こんな事を考えてしまっているかと言うと、この前修学旅行の班決めをしたと思ったら、もう明日まで迫って来ているのだ。
時間というのはあっという間に過ぎるもの。大切に使わないと。
「――ごめんね。今日バイトなのに付き合ってもらって」
「いやいや。全然」
学校終わりの放課後。俺とアヤノは、アヤノの家の近くにあるショッピングモールの雑貨屋さんに足を運んでいた。
修学旅行前日という訳で、本日の6限が急遽学年集会となった。
学年集会で何をしたかというと、特にこれといった事はしていない。
『団結式』とかなんとか2秒位で考えられる名目の元、先生達からのありがた迷惑なお言葉を投げかけられただけだ。
それを簡単に要約すると「ハメ外し過ぎるなよ」との事。
しかしながら、そんな団結式は先生達の珍しい粋な計らいで、すぐに終了となった。
明日に備え、準備して早く寝ろってこったな。
明日は朝早い。ベラボーに早い。鬼の様に早い。
俺は早起きが得意なので関係ないが、この彼女様は朝弱いからな……。そこが心配だ……。
そんな訳で、今日は夕方からバイトなんだけど、早く学校も終わったもんで、明日の準備の為にショッピングモールへやって来たんだ。
「――結構買ったな……」
「明日は本気でいかないと」
一体何をそんなに買う物があるのやら。
まぁ女の子は色々と大変と聞くから物入りなのだろう。それも2泊3日の旅行となれば量も多くなるか。
「あ……」
雑貨屋を出てエスカレーターに向かっていると、アヤノが男子禁制の聖域にて立ち止まる。
「もしかして……?」
「もしもの為にいる!」
もしもって……なに?
そんな首を捻っている俺を置いてアヤノは聖域へと足を踏み入れ様と前進するが、歩みをやめてして振り返る。
「リョータロー?」
「いやいや『何でこうへんの?』みたいな顔やめてくれません?」
「何でこうへんの?」
「行くかっ!」
そう言うと鼻で笑われる。
「リョータローはお化けと下着が怖いんだ」
「ぬぁ……ぬぁにおお!?」
あおられ耐性は0であった。
俺はアヤノの隣に並びに言ってやる。
「忘れたのかお嬢様。俺はお前の下着を選んでやった事があるって事を!」
「ある。あれはお気に入り。今も着けている。――見る?」
「見る!」
愛のままにわがままに答える。
「分かった」
俺の即答にボタンに手をかけるアヤノ。
「え!? ええ!? ちょっと? アヤノさん?」
「見たいんでしょ?」
俺は辺りをキョロキョロと見渡した。
「だっ! こんな所でっ!」
「ここで私の下着見るか、下着選ぶか」
「なんか変な2択突きつけられた」
「どっち?」
こんな所で脱がれたらアヤノの神聖な身体が他の人に見られてしまう。それは嫌だ。
「一緒に下着選ぼうぜっ」
「うわー……。変態だ……」
あっれー……。いきなり裏切られた感。
「行くよヘンタロー」
「語呂は悪くないだろう」
言いながらランジェリーショップへ入って行く。
相変わらず無駄に明るい店内。そしてカラフルな下着達とドキマギする俺。
やはりなんだか視線が痛い――気がする。
「どれが良い?」
「いや……。そんな事言われても……」
「リョータローの好みに合わせる」
「は、はぁ? 何で?」
「ホテルでいつでも初夜を迎えれる様に。リョータロー好みの下着を着けておく」
「おまっ……。修学旅行でそんな事したら停学か退学になるぞ」
そう言うとアヤノは親指と人差し指で丸を作る。
「我が波北の財力でどうとでもなる」
「汚い。汚いよお嬢様」
「だから、安心して私の所へ来て良い。私達のバックには大量の諭吉がいるから」
「――えっと……冗談……だよな?」
「冗談ではない」
こいつ……やる気だ……。マジだ……。その瞳は一寸の曇りもない輝き。ウソをついてない神々しいまでの光。下ネタを放った人間が出せる輝きじゃあないぜ。これは男女の営みを下ネタと思っていない奴――女神に最も近い人間しか出せない輝き……。
――ふっ……。流石波北 綾乃。流石俺の彼女。そんな人間がまだ現世に残っていたとは。
良いぜ。分かった。俺達には近距離パワータイプのスタ◯ド『諭吉』がついている。アイツがついているなら何も恐れるものは――ない!
「――これだ!」
俺は自信を持って彼女に下着を渡す。
「女神パンチ!」
「いっで!」
まさかの女神パンチを肩にモロにくらった。所謂入ったってやつだ。めっちゃ痛い。
「喧嘩売ってる?」
俺が渡したブラジャーは何カップ用か分からないが、アヤノの何倍も大きなブラジャーであった。
「くっ……。僕に宿るもう1人の僕が……。僕は貧乳派なのに……。もう1人の僕が巨乳派だから……抗えない……。強い力によって抗えないんだ……」
「そいつ出して。しばくから」
俺の小芝居に乗ってくれる優しい彼女。このまま小芝居を続けよう。
「千年パ◯ルさえ……。千年パ◯ルさえあれば……もう1人の僕を……」
「はい」
アヤノはポケットから小さなそれを出してくる。モザイク必須だな。
「何で持ってんだよ!」
「偶然この前ガチャガチャあったからやってみた」
「そんな偶然ある!?」
「さ、早くもう1人のリョータローを出して。ドツキまわすから」
シャドーボクシングしてるよ。ランジェリーショップでシャドーボクシングしてるよ。運動神経悪いくせにキレのあるパンチを繰り出しているよ。
「――きゃわいたー。しゃけびがー」
「何で東◯版?」
まさかのアヤノに伝わった。
「何勘違いしてやがる。まだ俺の会話は終わってないぜ」
「テレ◯版か……」
「俺はオベリスクの巨乳兵を攻撃表示で――」
そう言って彼女に先程よりも大きなブラジャーを渡した次の瞬間、アヤノが竜巻◯風脚かまして来て、俺は店の外まで吹っ飛んだ。
ウソだろ……。さっきシャドーボクシングしてたのに……。蹴りて……。
「こう見えて小学生の時から体育は満点」
「――うそ……つけよ……」
格ゲーの某キャラの勝利台詞をパロって平気で嘘ついてくるアヤノであった。




