首都への突入計画②
修学旅行のA班男子、南方、風見、井山、石田。
修学旅行のA班女子、波北、水野、海島、加藤。
計8人のメンバーとなった。
いや、まじでアヤノと一緒になれるとは……。最初筋肉ダルマと一緒ってなった時はテンション下がったけど、今は爆上げだわ。今なら井山と一緒にサイドチェストしても良いね。
しかも、女子のグループも喋った事ある連中で良かったわ。
ちらりとお隣のC班を見てみる。
「俺達は――」
「姫の行くところへ――」
「どこまでも――」
「お供します!」
「イエー!!」と1人の女生徒に声をかける男子達。まさにオタサーの姫状態。
残りの女子3人の顔が引きつっている……。
――そっとしておこう……。
「――それじゃ色々と決めていきたいんだけど、先に決まってるとこだけ説明するよ」
視線を戻し、A班全員が着席して、旅のしおりを配られたのを確認したところ、蓮が口を開く。
「まず、1日目。新幹線で首都に着いたら、指定のバスに乗ってホテルのバイキングにてお昼ご飯。ここで勘違いする人も出てくるから一応言っておくと、このホテルに泊まる訳じゃないんで荷物とか置いて行かない様に注意。しおりにも書いてあるからな」
言われて蓮と同じページを見ると、確かに書いてある。
「そして、昼食後はバスで移動して、日本一高い建築物に移動」
何で施設名称で呼ばないのか……。まぁそれだけで何処かは分かるから良いんだけど。
「それから浅草の有名な門のところに移動して観光。それが終わればちょっと早いけど、ホテルに移動して1日目は終了。ホテルでの細かい事はまた後日、順次説明するよ」
そう言いながら蓮がしおりのページをめくるので、俺達も同じページをめくる。
「2日目が皆楽しみにしてる有名なネズミさん家付近」
あのテーマパークをそんな言い方するなんて……。ちょっと笑いそうになった。
「ここは首都じゃなくない? なんてツッコミは高校球児憧れの場所と同じノリなのでスルーして下さい」
ああ……。昔々はあそこが大阪にあると思ってる人がいたみたいだな……。今もいるのかな? 高校球児憧れの場所は大阪のお隣さんです。
「ここでちょっと提案なんだけど……。テーマパークを8人でまわるのってちょっとしんどいと思うんだ。だから、ここは分裂した方が良いと思うんだよな。どうかな?」
蓮が俺達に話を振ると水野が答える。
「確かに、8人でゾロゾロ行っても同じアトラクションに乗れないってなるかもだし分かれた方が賢いかも」
水野の意見に石田が賛成する。
「それは確かだな」
「石田くんは加藤ちゃんと一緒になりたいだけだろー? んー?」
夏希がからかう様に言うと石田が「なっ!?」と明らかな動揺を見せる。
それを見て夏希が嬉しそうに笑う。
「なっはっはっ。図星だ。良かったねー加藤ちゃん」
「も、もう! やめてよー夏希ちゃん」
照れる様に加藤さんが言うと石田と加藤さんの目が合い、お互い逸らす。
初々しいカップルだな。
「夏希みたいにイジる訳じゃないけどさ。2人組んでもらった方が色々良いんじゃない?」
2人の為とかではなく、そっちの方が迅速に組を決めれると思った俺の発言に「お、おい……」と石田が反抗しようとしたが言葉をやめた。
本音は一緒が良いといったところか。
加藤さんも黙秘している。
「ま、まぁ……。テーマパークまわる人数とか組とかは、また後で決めるとして、次に3日目――」
蓮が次に進もうとすると井山が立ち上がる。
「なら! 僕は海島さんとまわるよ!」
「おーい……。話聞いてたかー?」
蓮が悲しそうな声を出す。
「えー。別に良いよー」
軽いノリで返答する夏希。お前気になる人いるんじゃないのかー? 綿菓子みたいに軽い女だな。
「ちょ……。話――」
「うえっ!? 本当かい!? うおおおお!!」
「フル無視かよ……」
蓮の声はゴリラの雄叫びみたいに声を出す井山によってかき消された。
他の班がうざったい顔してこちらを見てくる。特にC班の女子3人が。さーせん。うるさくて。
「静まれー筋肉ダルマー」
「承知!」
何故か忠実に俺の言う事を聞いてくれる。恐らく夏希と同じ班で、しかも一緒にまわれるとの事で、俺以上にテンションが上がっているのだろう。めんどくせーやつだ。
――ん? 目の前に視線を感じたので見てみると、アヤノがこちらを無表情で見て来ていた。
首を傾げて見てもジッと見てくる。無表情だが……。これは何か不審がっている感じだ……。一体なぜだろうか……。
「それじゃあ――」
静まったところで蓮が話を進めようとしたところ、アヤノが静かに手を上げていた。
「――波北さん? どうかした?」
彼女の挙手に水野が気が付いて反応してあげる。
「このグッズ売り場は絶対にまわりたい」
先程の不審な表情は何処へやら……。
アヤノがしおりに挟んであったテーマパークの地図を広げて言ってのける。
「ここに行く事が出来なければ私は単独行動に出る」
「波北さん悪だねー」
夏希が笑いながら言うと「この為になら悪に染まる」と返すと爆笑していた。
「この班発言自由過ぎない?」
蓮がボソリと呟くが、誰も聞いてくれていなかった。いや、水野だけが苦笑いしてくれていた。
「えーなになに? 綾乃ちゃん。何があるの?」
おお。加藤さんが……。加藤さんがアヤノを名前呼びしている……。だと? サユキ以外から名前呼びだと!? 感動だわ。
「激アツの展開が私を待っている」
「よく分からないけど、す、凄い熱だね……」
加藤さんが若干引いたところでアヤノが熱く言う。
「リーダー……。私にここへ行く許可を」
蓮を見て熱い視線を送る。アヤノのテンションも少しおかしかった。
「ま、まぁ良いんじゃない……かな? 一緒にまわる人と相談だと思うけど」
「熱盛」
蓮の言葉に独特の返事をしたアヤノの次に水野の発言した。
「蓮くん。もうここの組を先に決めた方が段取り良いんじゃない?」
「――それもそうだね……。そもそも俺が振った話題だもんな……。あはは……」
まさかここまで収集がつかなくなるとは発言前には思ってなかったみたいだな。
そして水野が全員を見た後に言ってくる。
「どうする? 4人2組作るか、ペアでそれぞれまわるか」
「断然……。ペア! だね!」
井山が食い気味で発言する。
「えー。8人ってのは流石に多いけど、2人よりかは4人の方が良くない? 人数多い方が楽しいよ」
「そうだね! 筋肉もテーマパークも一緒だね! 多い方が良い!」
夏希の発言に簡単に意見を変える井山。それで良いのか……筋肉ダルマよ……。
「加藤ちゃんは?」
水野が聞くと「えーっと……」と空気を読むか読まないか迷っている様子だ。恐らくは石田と2人が良いのだろう。
「俺はぺ、ペアが良い」
加藤さんの代わりに石田くんが答えると「おお!」と夏希が反応して意見を変える。
「なら、ペアでも良いやー。あははー」
「そうだね! 減量だね! ホエイプロテインからソイプロテインに切り替えだ!」
井山……。お前意味分からなすぎてもう逆に面白いよ。
「ふふ。折角の夢の国だもんね。2人っきりがいっか」
水野が優しく言うと、石田と加藤さんは照れ笑いを見した。
「じゃあ、決まってない俺達は……どうしようか?」
蓮が俺を見てくる。その瞳に刻まれてる文字が俺には読み取れた。
俺は空気を読む――もとい、アヤノとなりたいが為に提案する。
「蓮と水野ペアで」
「え……。えっと……」
水野が言葉を詰まらせた後に、閃いたみたいに言い返してくる。
「それって南方くんが波北さんと一緒が良いって事かなー?」
アヤノをチラリと見ると、こちらの会話には参加せずに「ここも捨て難い……」とスマホと地図を見比べていた。
このお嬢様は会話に参加する気は皆無と……。
「はは。どうだろうな……」
彼女の言葉通りだけど、何となく意味ありげな言葉で返す。
俺の提案に蓮が「七瀬。そうする?」とナチュラルに誘う。
「う、うん……」
「なら、それで決まりだな」
ふぃ。何とかナチュラルに決まったわー。蓮の瞳を見ると「ありがとう」と言っているのが分かる。
ま、良いって事よ。誰の為でもない、俺自身の為。俺がアヤノとまわりたいだけだからな。