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プロローグ〜変わったのはキミだけじゃない〜

 挙式の終盤。

 ドラマ等では盛り上がるブーケトス。

 ブーケを受け取った女性は次の花嫁になれるというあれだ。


 しかし、現実はドラマとは違い、あまり盛り上がりを見せなかったな。

 まぁこんな日に現実的な事を言うのもなんだけど、いくら次の花嫁になれるとか幸せを意味するもの――いや、めでたいものだからこそ、受け取ったブーケの後処理をどうしたら良いか分からないもんな。


 自分で言ってて悲しくなる。

 本心ではもう少し盛り上がって欲しかったから、こんな感情が生まれたのだろう。


 さて、ひがんでいても仕方ない。

 挙式が終わり、続いて披露宴にうつる。


 俺達、新郎新婦の紹介から主賓の挨拶等で起立、着席を繰り返していくうちにアヤノが「ちょっと疲れるね」なんて苦笑いで言ってくる。

 そりゃウェディングドレスでスクワット紛いなことをさせられたらしんどいわな。

 彼女よりましなタキシードを着ている俺ですらしんどい。


 そして結婚式の目玉イベントといっても過言ではないあれへうつる。


 ウェディングケーキ入刀。


 俺達がケーキ入刀すると、カメラマンがバシャバシャと写真を撮ってくれる。

 まるで芸能人にでもなった気分だ。ちょっと目が痛くなったけどね。


 そして、皆の前でアヤノからケーキをあ〜んしてもらい、それを照れながら食べる。

 その姿もバッチリとプロのカメラマンに撮ってもらった。




 ケーキ入刀が終了すると歓談がスタートする。

 まぁ簡単に言えば自由時間みたいなものだ。

 俺達の親はゲストの皆さんにお酒を注いで回っているが、新郎新婦は席に座って待機だ。


「南方くん! おめでとう!」

「波北さーん! おめでとうございまーす!」


 こうやって、それぞれの交友関係の人物が俺達の所にやって来るからね。


「どうも、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 お互いの仕事仲間の人達。


「みなみん! おめでとさーん!」

「あやのーん! きゃー!」


 お互いの大学の友人達が酒を注いでくれたり、一緒に写真撮ってくれたりしてくれる。


 そして――。


「涼太郎!」

「南方くん!」

「南方!」


 高校の時の同級生が来てくれた。


「蓮、井山に石田。来てくれてありがとう」

「当然だろ。俺達の仲じゃないか」


 大人になってイケメンというより男前といった感じになった蓮だが、相変わらず爽やかな声で言ってくれる。


「君の喜びは僕の喜びさ!」


 高校2年の夏休みから筋肉に目覚めて、そのまま筋肉と共に生きている井山が相変わらず気持ち悪く言ってくれる。


「おめでとう!」


 修学旅行の時期に仲良くなった石田が相変わらず平均的なモブみたいに無難に言ってくる。モブみたいだとは言ったが石田はそれで良い。それが良い。


「しかし、まさか涼太郎が1番乗りとはな」


 蓮が石田を見て呟く。


「先越されたよ」


 石田が笑いながら言う。


「僕は僕が1番だと思っていたよ」

「お前はねーよ」


 相変わらず謎の筋肉ポーズをとって発言する井山に、つい昔みたいにツッコミをいれてしまう。


 そんな会話に俺は何故か目頭が熱くなる。


「あはは! 変わんねーな」


 見た目は大人になったので多少の変化はある。

 しかし、喋ると昔のままの友人達がそこにいるのが嬉しかった。


「変わんねーよ。あはは……」


 涙目で言うと蓮が気さくに言ってくる。


「おいおい。泣くなよ」

「もうお酒がまわったのかい? 筋肉が足りてないんじゃないかい?」

「筋肉バカはだまってろ」


 涙声でツッコミをいれると石田が俺のグラスにビールをいれる。


「酒が足りてないのかもな。グイッと」


 酒を勧められて俺はグイッとビールを飲む。

 やっぱ発泡酒よりビールだな。くそ美味い


 ビールを飲んでグラスをテーブルに置く。

 彼等といると俺の口が自然と動き出した。


「修学旅行……。お前らと同じ班で良かったよ」


 ポツリと言うと3人は顔を合わせて笑い合う。

 自分で言っておいてなんだけど……あれって確か――。

 いやいや、確か男子はナチュラルに決まったはず。


 そんな俺の空気を察した蓮が「ま、まぁ……あははー」と苦笑いをする。


「た、確かに俺達同じ班であれが無かったらここまでの仲じゃなかったらかもな」


 ちょっとだけ言葉を詰まらせて蓮が言う。


「僕はあれがきっかけとは思ってないよ。全ては筋肉のお導きさ」

「俺は南方の彼女に世話になったから。仲良くなるのは必然だったかも。まぁトリガーはあれだったけどな」


 様々な意見を言ってくれるが、やっぱり俺は修学旅行で過ごした時間が俺たちをここまでの関係にしてくれたと思う。


 バカな事は男子達の絆を深める事を学んだ。




「涼太郎くんやーい。おめでとう!」

「南方くん。おめでとう」

「おめでとう南方くん」


 アヤノと話をしていた夏希と水野と加藤さんが手を振りながら祝福の言葉を言ってくれる。

 男女が入れ替わり、連達は「波北さん。おめでとう!」とアヤノの方へ向かった。


「いやー。遅い様で早いゴールだこって」


 夏希は大人になったら、大人版のア◯レちゃんみたいになっていた。

 そんな夏希が茶化す様に言ってくる。


「ホントー。付き合いは長いけど、年齢的には早いよねー。2人が付き合ったのって修学旅行からだっけ?」


 成長すると共に可愛いからセクシーになった水野が思い出しながら聞いてくる。


 そんな彼女に、大人になって垢抜けた加藤さんが誇らしげに言う。


「ふふふ。秘密を暴露する時が来たかな?」


 その発言に俺は思い出し笑いで聞いた。


「え? 加藤さん。今まで黙ってたの?」

「勿論。約束だからね」


 そう言って指を唇に持っていき昔みたいにウィンクしてくる。


「でも、もう言っても良いよね?」

「あはは! 全然良いよ。懐かしい。文化祭の時に口硬いとか言ってたな」


 そんな会話をしていると水野のが「なになに?」と聞いてくれる。


「夏休み前から出来上がってたのに、ウジウジとじれったかった2人がようやく付き合ったのって修学旅行じゃないの?」


 夏希が聞くと「違うんだなー」と否定して言い放つ。


「2人は修学旅行より前、私達より早く付き合ってたのだ!」


「ええ!」と驚く2人。


「そうなんだ。修学旅行からだと思ってた」

「そうだよね。あれがきっかけだと思ってたよ」


 修学旅行の『あれ』と聞いて俺は恥ずかしくなり笑いが溢れてしまう。


「あれは南方くんのくせにカッコ良かったね」


 水野が思い出したのか、笑いながら言ってくる。


「くせにて」

「うんうん。清楚系ビッチに騙される系男子なのに。ぷっ。くく……。清楚系と思ってたらビッチだった事に涙する系男子」


 夏希が昔と変わらないゲス顔で言ってくる。


「結婚しても、その設定は覆せないんだな……」

「あっはっは! 懐かしい。そんな話してたねー」


 水野が吹き出して大きく笑う。


「え……。南方くんってそういう趣味なの?」

「そこ! 信じるな!」




 ――そんな昔話に花を咲かせながらの歓談もあっという間に終わった。


 楽しい談笑が終わって名残惜しいところアヤノを見る。

 懐かしい人達と会話をしたからだろうか、高校生の頃のアヤノが見えた気がした。


「アヤノ。変わったな」


 自然と声が溢れてしまった。


「え?」

「あ……。いきなりごめん。高校の同級生と話してたら、昔々のアヤノの事思い出して」

「ふふっ」


 アヤノは上品に笑った後にこちらを見る。


「変えてくれたのはリョータローだよ」

「変えてくれたか……」


 小さく繰り返すとアヤノは首を軽く傾けて言ってくれる。


「そう。変えてくれた。殻に閉じこもっていたのを破ってくれて、私の側にいつもいてくれて、氷の様な私を溶かしてくれたのはリョータロー。だから友人も出来た。進学して、大人になっても交友関係が出来た。全部アナタがいたから。アナタが私を変えてくれたから……」

「でも、アヤノ……」


 彼女の言葉に制止をかける。


「ん?」

「それだけじゃない。それだけじゃないんだ。アヤノ……。キミも俺を変えてくれたんだ。だから、こうやって社会でやっていけているんだと思う」


 そう言いながら彼女の手を握り彼女を見つめる。


「私達似たもの同士だったもんね」

「そうだな……。俺を変えてくれてありがとう」


 そうだ。キミだけじゃない。変わったのはキミだけじゃない。

 キミと過ごす時の中で俺も変われたんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここでこの話を入れてくるのは本当にすごい。 次は修学旅行編ということだけでもワクワクが止まらなかったのに、さらに楽しみを増やしてきた。 それに加えて、この話も面白いし、読んでいて幸せな気持…
[一言] 幸せそうで何より。修学旅行はさぞかし青春してバカやってお互いに惚れ直すようなリア充イベントあって…羨ましい。 (ブーケトスの話は聞かなかったことにしよう。納得の理由だが、虚しくなる。)
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