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プロローグ〜誓いのキス〜

 教会の祭壇に立つ。


 真っ白なタキシードに身を包み、いつもの邪念は振り払われて、本当の紳士になっている気分だ。


 程良い緊張の中、牧師を見る。

 いつもの俺なら「バイトなんだろうな……」なんて思った事だろう。

 しかし、今日という日にはそんな嫌味な事は考えてない。

 素直に「今からよろしくお願いします」と心からの依頼をする。


 それを感じ取ってくれたのか、牧師は俺に微笑んだ。その微笑みは俺の事をお祝いするかの様な笑みであった。


 ――教会のドアが開いた。


 振り返るとドアから光が差し込んで反射的に目を細めてしまう。


 神秘的な光。


 そんな光の中から純白のウェディングドレスに身を包んだ愛しの人物が現れる。


 たまに自分で「私は女神」なんて事を冗談まじりで発言するが、この時、この瞬間は彼女の言葉通り、本物の女神様が天界より舞い降りた様な光景であった。


 彼女の右手にはお義父さんが――。


 そして、目を疑ったが、一瞬左手にお義母さんの姿が見えた気がした。


 しかし、それも一瞬の事。瞬きをすれば左手には誰もいなかった……。


 幻……。いや、そんな事はない。


 娘の大事な日に天国からわざわざ駆けつけてくれたのだろう。


 ありがとうございます。お義母さん……。


 俺は心の中で深々と頭を下げた。


 愛しの女神様がお義父さんにエスコートされてバージンロードを歩く。

 ゆっくり1歩1歩こちらに近づいてくる。


 そしてお義父さんから女神様の手を受け取った。

 その時のお義父さんの顔は嬉しさと悲しさが入り混じった表情をしていたので「後は任せて下さい」と心の中で念じると、無意識に頷いてくれた。


 女神様が隣に立ち、賛美歌の斉唱、牧師様のお言葉を頂いた後に有名な台詞がやってくる。


「新郎リョータロー。あなたはここにいる新婦アヤノを病めるときも、健やかなるときも、貧しいときも、富めるときも、妻を愛する事を誓いますか?」

「はい、誓います」


 牧師は頷いて間を置いてから次の台詞に入る。


「新婦アヤノ。あなたはここにいる新郎リョータローを病めるときも、健やかなるときも、貧しいときも、富めるときも、夫を愛する事を誓いますか?」

「はい、誓います」


 お互いに誓い合った後に向かい合い、指輪の交換を行う。


 昔の事を思い出しながら女神の左手の薬指に指輪をはめる。

 

 女神様は覚えているだろうか……。


 顔を見てみるとヴェールに包まれていて少しだけ分かりにくいが無表情であった。

 しかし、俺には分かる。この顔はかなり緊張している顔だと。


 そりゃ緊張するわな。大事な儀式だし。俺も澄ました顔してるつもりだけど、さっきから心臓の音が凄い。お互い様さ。

 

 あの時も緊張していたね。お互い。あ……。思い出し笑いしそう……。

 

 昔とは違い、無事に指輪の交換が終わり、女神様のヴェールを上げる。

 その美しい顔がはっきりと現れて、改めてときめいてしまう。

 やはり、この人は地球上の誰よりも美しい。そう実感出来る。


「誓いのキスを――」


 牧師の言葉に女神様を見つめると、彼女が小さく、照れる様に言ってのける。


「緊張してるからかな? なんだか、初めてキスをした、あの日の事を思い出すね」


 そんな事を言うから、今まで数え切れない程のキスを重ねてきたのに、誓いのキスが震えてしまい、上手く出来なくなってしまった。


 長い様で短いキス。初めてのキスの時、時間の感覚が狂っていたが、あの時も今くらいの短いキスだったのだろう。

 唇を離すと彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ふふっ。本当にあの時みたいなキスだったね」

「昔みたいに震えちゃったよ」


 照れ笑いを浮かべるとアヤノは嬉しそうに言ってくれる。


「ふふっ。リョータローとのキスはあの時からずっと好き。だって愛を感じるから」


 彼女の言葉に、ファーストキスをした時の事を、俺は鮮明に思い返したのであった――。

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