頑張り屋の奴隷、面倒くさがり屋の俺
魔王城に到着した。
帰り道でも電気女が活躍したのは言うまでもないだろう。奴隷が目を丸くして驚いていた事も。
「広くて大変だろうけど、掃除して欲しい。」
「分かりました!」
元気よく返事をする奴隷が、さっそく掃除を始める。
この奴隷は「掃除ができる」「値段が安い」という条件で選んで買ったので、五体満足で健康状態にも問題はない。値段が安いのは、付加価値がないからだ。つまり、読み書き計算などの知識もなければ、職業経験もなくて技術も身につけていないし、容姿端麗でもない。
だから掃除をさせても、経験者のようには手際よくできないし、念入りにやろうにも注意すべき点を知らない。手当たり次第に掃除をしていくから、床を最初にやってから棚の上を掃除して、棚からホコリを落として床を汚すといった無駄なことをする。
だが、いちいち指摘はしない。掃除ぐらい、やっていれば慣れていくものだ。自然と効率的な手順や動きを身につけていく。少々汚れたところで困るわけでもないし、好きなようにやらせた。そうしてみると、翌日になって、奴隷がフラフラになりながら掃除をつづけているのを見つけた。
「まだまだ平気です! このぐらい軽いもんですよ!」
元気がいい。フラフラのくせに。
「休め。
倒れたって、手当ができる奴が居ないんだ。」
「はい。ありがとうございます。」
奴隷はその場で倒れるように眠ってしまった。
そのままでは風邪を引くといけない。俺は奴隷をベッドに運んだ。
あとで目を覚ました奴隷が「こんな上等なベッドに寝てしまうなんて」と驚いたり感動したりする一幕があったが、そういうテンプレは省略することにした。読者様だって、いい加減お腹いっぱいだろう。
「とりあえず、これで衣食住は揃ったな。」
衣類は「複製」で増やせる。
食糧も同様だ。
住居は魔王城。
本当に最低限だけだが、人間が生きていくために必要なものは揃った。
次の段階へ進むには、2つの方向性がある。
1つは、衣食住を「複製」に頼らない方法で調達できるように整備すること。人を集め、安全性を確保し、資源を調達したり、交易をおこなったり。そういう事をやっていく。
もう1つは、遊・休・美・知を追及することだ。娯楽を充実させ、仕事を休めるように余裕を作り、美的価値――芸術性を高め、知識を開発・普及させる。
しかし、面倒くさいので、ここは第3の選択肢を作ることにしよう。