倒した魔王が仲間になった
魔王を倒した。
電気女は負けてたけど、電気女のおかげで隙を突いて攻撃できた。
2人から防御力と魔法抵抗を「複製」して自分に「合成」したので、今の俺は防御面で2人より上だ。
「やるわね。」
「あなたこそ。」
むくっと起き上がった電気女と魔王が、がっちり握手。
何その少年漫画。しかも昭和の匂いがする。
「運動したらおなかすいたわね。」
舌なめずりしながら、魔王が俺を見る。
そういえばサキュバスだと言っていたっけ。それが空腹という事は……。
「いただきまーす!」
「アッ――!」
「も……もうダメぇ……。」
魔王がダウンする。
危なかった。
性欲を「複製」しなければ、死んでいたかもしれない。
サキュバスは男から精力と魔力を搾り取って、それを養分にしている種族だ。やられる側からすると、ドレインの魔法を食らうようなもの。しかも威力が凄い上に、快感で精神的な抵抗力が落ちている状態のときにやられるので、吸い取られすぎて死ぬのが普通である。
「あふん……。」
電気女もダウンしている。
魔王に襲われる俺を助けようとして、逆に巻き込まれた形だ。これ以上は、あらましを話すだけでもエロゲの紹介文みたいになってしまうから、やめておこう。
しばらく待っていると、先に復活したのは魔王だった。さすがサキュバス。
なんだかやたらと気に入られてしまって、仲間になった。
「死なない人間……ふふふ。これで、しばらく食糧に困らないわ。」
「て事は、今までの相手は死んでたのか。」
「人間って弱いのよね。」
「そんな事してるから魔王なんて言われるんだ。
死なない程度にして、大勢から吸い取れば、ありがたがられるだろうに。」
「すっごいセクハラじゃん。」
電気女が復活して早々に呆れていた。
「そんな安い女じゃないわよ。」
なるほど。ごもっとも。
「でも、仲間になるったって、配下の魔物はどうするんだよ。」
「知らないわ、そんなの。
勝手に配下になったんだから。別に、なれと言ったわけじゃないし、面倒みてたわけでもないし。」
強大な魔王にちょっかい出して死にたい奴はいない。魔王の周囲は、強者の空白地帯になる。弱い魔物はそこへ集まってくる。他の強い魔物に搾取されないから。
しかし魔物には「強い個体」「弱い個体」は存在しても、「強い種族」「弱い種族」は存在しない。ドラゴンだろうと弱い個体は弱いし、スライムだろうと強い個体は強い。強いスライムが弱いドラゴンに圧勝するなんて事もある。まあ、滅多にかち合わないが。
つまり、魔王の周囲に集まった弱い魔物は、安全な場所で過ごすうちに力をつけて、強い個体になっていく。そうやって魔王軍ができるらしい。
「なるほど~。」
スライムに負けるドラゴンとか、ちょっと見てみたい。だいぶシュールか、あるいはコミカルだろう。
ともあれ、魔王が統率していたわけではないにしても、魔王が求心力になっていたのは間違いない。旗印を失った魔物たちが、どう動くのか……どうせろくな事にはならないだろう。
「う~ん……魔王城に住むか。」
城なんて、住居としては大きくて立派で最高だ。掃除は大変そうだが。
問題は、周囲に産業がないことだ。広大な大自然と、はびこる魔物。それしか存在しない。
野菜も調味料も日用品も手に入らないのでは、生活に困ってしまう。魔王城を拠点にして、必要なものを集めていこう。