この魔王は「よく来た、勇者よ」とか言わない
魔王たおす。出発進行。
「で、場所は?」
倒すといっても、相手の居場所が分からないと手を出せない。
「魔王城だけど?」
当たり前じゃん、といわんばかりに答える女冒険者。
じゃあ、という事でそこへ行く。
「魔王、覚悟しろ!」
「待て待て。どう見ても魔王じゃないだろ。」
玉座に座っているものの、魔王というより飲み屋のねーちゃんだ。キャバクラ行ったら1人ぐらいは、こういうベテランの雰囲気もってるおねーちゃんが居る。まだ時間が早いと若い子ばっかりだったりするが……って、何の話だよ。
「いいえ? 私が魔王よ?」
飲み屋のねーちゃん改め、魔王が答えた。
魔王なのかよ。
なんか、もっとこう、角とか生えてて禍々しい感じだと思ってたわ。
「どー見ても、ただの美人のねーちゃんだろ。
魔王らしさゼロじゃん。」
「んー……この城とか?
ほら、私ってサキュバスしゃない? だから、余計なものは付いてないのよね。」
余計なものって……禍々しさ、演出しようよ……。
城まで用意してんのに、何やってんの。
「じゃあ、とりあえず倒すね。」
女冒険者が剣を構えて斬りかかった。
魔王は手の爪を1mぐらいに伸ばして応戦する。おお! 禍々しい!
「ぎゃふん!」
防御した魔王が、急に跳ねるようにして飛び退く。
見れば女冒険者の剣から電撃がほとばしっている。
「やったわね!」
魔王の反撃。なんかよく分からない黒いものが飛んで行ったと思ったら、爆発した。女冒険者が吹っ飛ぶ。
炎ではなさそうだけど、何だろう、今の黒いやつ。ゲームじゃよく見る感じの技だ。
「ぎゃふん!」
今度は女冒険者がぎゃふん返し。
悲鳴のせいでコミカルさが半端ない。
「痛いじゃん!」
お怒りの女冒険者。自分から攻撃しといて、それはどうなんだ。
届かない距離から剣を向けたと思ったら、電撃を伴って何か飛んだ。速すぎて見えない。レールガン的なやつか?
女冒険者の得意技は電撃ということか。電気女だな。
「ぎゃふん!」
派手に吹っ飛ぶ魔王。しかし起き上がったときには、服の一部が破れているだけで、怪我はなさそうだ。
電撃女、これはピンチなのでは? レールガンは大量の電気を消費する。コスト的に、今のは最大威力の攻撃だろう。それが「痛い」だけで済むなら、倒す方法がない。
よし、ここは俺の出番だ。
レーザー攻撃を「複製」「合成」で強化していく。10倍を10倍して、それを10倍して、また10倍して……
「きゅー……。」
電気女がまた吹き飛ばされて、今度は立ち上がれない。
よし、今だ。
「ハイパービーム!」
「あばばば!」
魔王がビームの直撃を受けて、服が全部破れた。つやつやの髪の毛がチリチリになってしまったせいで、セクシーさはゼロだ。残念。せっかくの全裸が。
「きゅー……。」
魔王は倒れた。
頑丈な魔王だ。電気女も魔王の攻撃を受けて平気で立ち上がっていたから、たいした防御力だろう。最後はやられたが。
丁度いい素材だ。魔王と電気女から防御力をコピーしよう。
あとは、探知魔法的なのが欲しいな。
善人設定? そんなもん、喧嘩両成敗に決まってる。