初めての錬金術 自衛の準備
転生した。
周囲は草原で、人間も動物も魔物も見当たらない。好都合だ。
とりあえず、自衛のためにいくつか作っておきたいものがある。武器の類と、大容量の魔法の鞄だ。
作り方は簡単だ。
まず武器。武器なんてものは基本的には「多くのエネルギーを」「命中させる」ことで「対象を破壊」するだけだ。草原にはエネルギーがある。たとえば風力、気圧、重力、日光。ここでは扱いやすそうな日光を使ってみよう。
日光を「複製」して増やし、それを「合成」して強烈な光にする。さらに「変形」で形を整えてレーザー光線にすれば、レーザー銃のできあがりだ。1度作ってしまえば「複製」でいつでも再現できる。どんどん「複製」と「合成」を繰り返して、攻撃力を上げていく事もできる。
次に、大容量の魔法の鞄。
まず着ている服を「複製」して、増やした服を「変形」で鞄の形にする。
その鞄に「合成」で周囲の空間を合成してやれば、鞄の中に広大な空間が合成されて、大容量の鞄ができる。
さらにそこから「分解」で重力を分離する。こうすれば、いくら荷物を詰め込んでも重さを感じないで運べる。
あとは防御力に不安が残る。
それと探知魔法的なものがあるといい。
……どうやって作ろうかな。
防御力は、頑丈な素材を「分離」して、その「頑丈である」という性質を「合成」で強化すればいいだろう。しかし魔法が存在する世界だと神様が言っていたから、魔法に抵抗するための装備もありそうだ。これを同じ手順で強化すれば、重武装できる。
探知魔法的なものも、使える人から「複製」すればいいだろう。俺自身を材料にすれば、他人から「複製」した能力を俺に「合成」できるはずだ。
どっちにしても、問題なのは最初の1個になる材料が、近くに見当たらないことだ。
しょうがない。街へ行くか。
「見つけたぞ、魔王! いざ、尋常に勝負!」
女が剣を向けてきた。
女剣士? 女勇者? どっちでもいいが、
「俺は魔王じゃない。」
「嘘つけ。こんな魔族に占領された地域のど真ん中で、お前みたいに人間そっくりの格好をした奴が、他に居るものか。」
「そう言われても、転生してきたばっかりで、ここに来たのは俺の意思じゃないし。」
神様のやつめ、とんでもない場所に放り出してくれたな。
錬金術を要求したのが気に入らなかったのか?
「転生? あんたも転生者なのか?」
「あんた『も』って、あんたもか?」
「うん。そうなんだ。いやぁ、初めて自分以外の転生者に出会ったよ。
どこから来たの?」
「2020年の日本からだが。」
「マジで!? あたしも日本人なんだけど!」
キャッキャとはしゃぐ女。
その振る舞いから見て、精神年齢は10代後半ぐらいだろうか。肉体の年齢とそう違わないようだ。
「そうか。
そんな事より、俺を魔王と間違えるような場所で、あんたは何してんだ?」
「一応これでもSランク冒険者ってやつで、魔王討伐の依頼を受けたんだよね。」
勇者じゃなくて冒険者……しかも、討伐を依頼される魔王……ただの害獣扱いかよ。
しかし、魔族に占領された土地と言っていたから、数とか支配力とかはそれなりに凄そうだ。
「この世界について教えてもらいたいけど、とりあえず魔王倒しに行こうか。」
「オッケー。ばっちり教えてあげるよ。
じゃあ、とりあえず魔王倒しに行こ!」
そんな感じで、かるーいノリの魔王討伐が始まった。