とりあえず転生
死んだ――と思ったら、真っ暗な場所にいた。
足下に地面の感触もなく、上下の感覚すら分からない。無重力なんて体験した事ないが、こういう感じだろうか?
そこに、白い光の球が現れた。
「異世界に転生してもらうぞ。」
「いや、誰だよ、お前?」
当然の疑問だろう。
光の球は、自分は神様だと名乗った。創った世界が魔力枯渇の憂き目に遭っていて、このままではあらゆる生命が死に絶えてしまうという。なので適当な魂に大量の魔力を詰め込んで、その世界に放り込めば、魂に詰め込んだ魔力が放出されて、世界に魔力が満ちていくらしい。で、俺がその魂として選ばれたそうだ。
「なんで俺?」
「適当に掴んだらお前だっただけだよ。
くじ引きで引いたくじに『何でコレ?』とか思っても意味ないだろ。偶然なんだから。
そういう事だよ。」
なるほど。たまたまか。じゃあ、しょうがない。
別の奴が選ばれていたら、この物語の主人公はそいつになっていたというだけの事だ。
メタ発言? それがどうした。今時珍しくもないだろ。
で、だ。要するに俺は「転生すること」そのものが目的であって、転生後には特に使命とかはないらしい。
「まあ、こっちから頼む形になる関係で、報酬も用意してある。
例によって例のごとくだが、転生ボーナスってやつだ。どんな能力がいい?」
「錬金術師かな。」
「錬金術師?」
何でも作れる錬金術師。いいじゃないか。
異世界といえば剣や魔法で無双する冒険譚といきたいところだが、強いだけだと戦うしか能がなくなってしまう。だが何でも作れるなら、現代兵器無双もできるし、インフラ整備やアイテム作りもできるだろう。それらを通して内政チート的なこともできそうだ。
「ああ。……そうだな。能力は『複製』『合成』『分解』『変形』の4つがいいかな。」
「ねぇよ、そんなもん。」
「は?」
「魔法は存在する世界だけどな、錬金術は存在しねぇんだわ。
そういうシステムじゃねぇから。
ドラ*エでアイテム作るか?」
「……作るが?」
「ファイ*ルファ*タ*ーでアイテム作るか?」
「……作るが?」
どっちも有名なコマンド選択式RPGだが、装備品を作る機能はある。
むしろ最強装備は作る以外に入手法がない。
「…………。」
「…………。」
にらみ合うことしばらく。
神様が折れた。
「分かった。組み込んでやろう。」
「やった! マジで? いいのか?」
「しょうがない。最近のはやりは、そういうやつなんだろ?」
「最近って……もう10年以上も前からそうだが?」
「マジかよ……。」
神様が軽く落ち込んでいるようだ。光の球だから表情は見えないが。
まあ、そんなのはどうでもいい事だ。神様が落ち込んだって俺には関係ない。
4つの能力をもらって、俺は異世界に転生した。