第八話
歩美の弟Mと名乗る、このメールを読むと、どうも道生のパソコンに侵入し、情報を盗み見たとしか思えなかった。
思い当たる事があった。三日前にグーグルで歩美の名を検索したのだ。
一年前に妹がいるとわかり、何度も妹の名を検索したが、それらしいヒットは、いつも無かった。
しかし三日前、しばらくぶりに検索すると、一つの画像がヒットした。歩美の高校時代の友人がブログに掲載した画像のようだ。高校入学時、正門の前で撮る、お決まりの写真だったが、真新しいセーラー服を着た、すまし顔の歩美がそこに立っていた。興信所の資料にも無かったその画像を、道生はダウンロードしてしまった。JPEGファイルだったが、たぶんウイルスを紛れ込ましてあったのだろう。道生が写真を見ようとダブル・クリックした時、ウイルス・プログラムが起動し、パソコンが感染した。道生はそれに気づかなかった。道生が歩美の写真を見ている時、Mは陰で道生のパソコンを盗み見ていたのだ。
道生は途方にくれた。歩美に関するデータがパソコンに保存してあった。
そのすべてをMは見たようだ。
「興信所の調査報告のPDFファイル」
Mは資料の出来を楽しそうに批評していた。
父母の情報は、よく調べてあると、感心していた。Mも知らない事実があったようだ。姉さんの情報は、高校までの情報に偏っていて、東京に出てきてからの調べが雑だと、△の印を付けていた。
M自身の調査は、ひど過ぎて、あきれたそうだ。当然、バツ印。
姉とは二才違い、中学は不登校、その後、高校を退学させられ、家出をし、消息不明。おいおい、これだけか。オレは今、アメリカでブイブイ言わせてるんだヨ、と憤慨していた。
「歩美との想定問答集」
あなたは、まじめで誠実な人だ。真剣に姉さんの事考えてるんだね。
ここまで用意周到なら、りっぱな犯罪者になれるよ。
「ウィークリー・マンション賃貸契約書」
駅前に、わざわざ部屋借りて姉さんを監視していたのか。
ストーカーだね、ほとんど。
「ToDoリスト」
① 病気の回復を手助けする。音楽療法。 「承認」
② 経済的支援。 「黙認」
③ 時機を見て、父母の墓参り。 「却下」
④ 病気回復後、距離を置く。 「却下」
承認や却下はMが付け足していた。そして、⑤⑥が追加されていた。
⑤ 病気回復後も姉さんの面倒を見続ける。 「結婚も可」
⑥ ジョンのママに会いに行く。 「推奨事項」
行動計画通りに、進めないときは、情報流出の恐れ大。以上。
道生は、考えがまとまらなかった。
Mの取引条件は、今まで通りやればよい、と言う事だ。しかし、このまま付き合っていれば、秘密がばれるに決まっている。それが狙いなのか。
とりあえず、歩美に弟の話を聞こう。歩美は今週、法事で実家に戻っているので、帰って来たら話を聞こう。慎重にやれば大丈夫だろう。
それにしても、ジョンからのメールまで読みやがって、どういうつもりだ!




