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3話、少女と出会う。

 とある日の昼下がり。青く澄み渡った空に浮かぶ白い雲。まるで誰かの今日の幸福を約束しているかのような快晴が街を見下ろしていた。


「いい天気だなー。今日は何かいいことでもあるかも!」


 受け取れる幸福こそは自分のものだと信じる1人の少女が、伸びをしながら空を見上げる。

 彼女の名はフィーネ・マッシ。手入れされておらず痛んだ栗色の髪に赤みがかった真ん丸な瞳の少女の服装は、何度も水洗いされて色が抜けたブレザーとスカートを着こみ、靴は木製で傷だらけであった。

 その日は通っている魔法学園が休みであったが、少し散歩でもしてから家で勉強でもしようかと街を目的もなくブラつこうかなど考えていた。


「ん? あれはなんだろう」


 青い空に不自然に浮かぶ何か。それはまるでこちらに向かって落ちてきているようにも感じた。


「だあああああああああああああ!」


 少しずつ大きくなってくる叫び声のようなものが少女の耳に入ってくる。まさか人なのであろうか。そんなことがふと頭をよぎるも、本能的にそれを否定しようと別の何かである理由を思考し始める。

 数秒の間ボケ―っと口を開けて上を見上げながら立ち止まっているフィーネ。ゆっくりと大きくなっていくそれは、段々と速くなっているように見え、ある点を越えてからは一瞬であった。

 直後、フィーネの1メートル先を何かは横切る。

 そう、それは転生したばかりのシヌヲであった。

 空中で終端速度に生身で達すことになったシヌヲは叫び声を上げながら、気絶しそうになる頭を必死に叩き起こし、来たるべき着地に備えていた。

 腕が地面に接地してから許された時間は一瞬。

 身体を捻りながら落下の衝撃を5点に分散させながら転がり倒れることで生き残ろうとするシヌヲ。

 果たして終端速度に達する高さから落ちて人間が助かるのかは甚だ疑問である。

 しかし出来る出来ないではない。

 出来なきゃそこで死ぬからだ。


「ぎゃあああああああす!」


 そしてシヌヲは果たした。腕と足を完全に砕きながら、生命の維持に必要な部位を無傷で守り抜き、なんとか地面の染みにならずに済む。


「ひえっ……!」


 それを目撃し、もしかしたら危うく自分の上に落ちてきたかもしれないことに気付いたフィーネは思わず腰を抜かし、地べたに座り込んでしまった。


「あわばばばばば……」

「あっ、そこのお嬢さん。なんか、ホント、これ手違いなんです。すみません、本当すまない」

「いえっ、あの……、その、大丈夫ですか?」

「あぁ、この程度なら今までも何度かあったので。でも、出来たら病院か何かに連絡してくれたら助かります」

「それでしたら私が治癒の魔法があるので、それで」


 目の前の人間が会話が可能であることもあって、ホッとしたフィーネは我に返り、なんとか立ち上がって、落ちてきたシヌヲの様子を確認しようとする。


「魔法があるとは聞いていたけど、まさか治癒魔法なんてものを持っている人がいたなんてホント助かります」

「うげっ、腕と足が地面に打ち捨てた縄みたいにひしゃげちゃってますけど、よくそれで話せま……、ひぃ!」

「あれっ、お嬢さん? そんなに怪我ひどいですか?」

「そうじゃなくて……! 顔が死相で塗りつぶされてる……!」


 シヌヲの顔を見て、まるで幽霊を見たような恐怖を感じ、冷や汗を流すフィーネ。

 死相で表情がまるで見えず、痛がっているのか笑っているのかもわからないシヌヲの顔。

 誰が見ても形容し難かったシヌヲの容貌を言語化出来たのは、シヌヲの人生の中でも彼女が初めてであった。


「ちょっとお嬢さん!? ひどくない!?」

「この人は死ぬんだ……。運命がこの人を容赦なく殺していくんだ……」

「お嬢さん!? 確かに1回死んだけども! 結構生きてるから、おじさん今までも結構生きてきたから!」


 澄み渡る青空、今となっては空にはいつもの白い雲のみ。まるでこの世の不幸を全て背負ったような男シヌヲと、これから様々な困難に巻き込まれるであろう少女フィーネ。彼らはなんでもないようなこの空の下で、出会ったのであった。

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