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死体漁りのアルマーニ  作者: ハマグリ士郎
最終章 死体漁りの死体漁り
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第十四話 【後悔の先に】



「ぬっ! 何事だ……っ」



 突然の閃光により、敵も足止め状態に陥っていた。当然ガルダも腕で光を遮りながら、状況を必死に理解しようとしていた。


 光の強さはそんじょそこらの眩虫や閃光玉と比べ物にならない程で、城の外にまで漏れ出ているのではないかというくらいだ。


 魔法の力でここまで強い閃光があるのか。



「……ああ、残念だ」


 

 光が徐々に収まっていく中、偽王が小さく呟いた。その意味を問い掛けることも出来ず、光は次第に消え、再び暗闇が満ちていく。


 そこでようやくガルダが見たものは──黒いヘドロのような物体が蠢いているものだった。



「見事〈支配者〉の完成だ!! 残念だったなあ」



 偽王が満面の笑みを浮かべ、高々と両手を広げた。


 手を伸ばしたまま静止するアルマーニ。

 その前で、原型を留めず蠢き続ける黒いスライム状の物体。


 同じく手を伸ばしていたソルシェの姿はどこにもいない。アルマーニは何が起きたのか未だに分からず、早まる胸を掴み、荒くなる呼吸を必死に整えようとする。


 現実を受け入れることが出来ない。

 勝手に溢れようとしてくる涙。


 黒い生き物に、恐る恐る手を伸ばそうとしたアルマーニだが、避けるように前へと進み始める。



「な、なんだ……これは、来るな……っ!」



 恐怖し、退いていく騎士は、剣を振り回し黒い生き物を牽制する。

 だが、偽王に迫る瞬間背中を突き飛ばされ、騎士は見事に前のめりに転けた。


 短い悲鳴と共に、黒い生き物に受け止められた騎士は、そのまま食べられるように飲み込まれていく。


 骨が折れる音もなく、血が飛び散ることもなく、騎士は鎧ごと飲み込まれ消えてしまった。



「ははは! 〈支配者〉は腹を空かせているようだ。食べられてやったらどうだ。“恋人”なのだろう?」


「……っ!!」



 偽王は高笑いした。

 同時にアルマーニは飛び出そうとして、先に動き始めた者がいた。


 

「逃げろ、逃げろぉぉぉっ!!!」



 偽王に付いていた騎士たちだ。

 ようやく状況が読めた騎士たちが、一目散に大扉を開けて逃げ出していく。


 ガルダも便乗しようとして、逃げようとしたが、アルマーニを置いていけずそのまま大剣を持って留まり続ける。


 

「……なんで、なんで俺は──」


「くっ、しっかりしろ!」



 半狂乱になろうとするアルマーニを、ガルダが肩を持ってしっかりと揺さぶる。

 偽王は笑い続けるが、はたと笑いを止めた。


 黒い生き物が、少しずつ偽王へと近付いていたのだ。口のようにスライム状の身体に穴が開き、偽王へ這っていく。



「な、なんの真似だ……我が主だぞ、喰うならば奴らを──!?」



 焦りを見せる偽王は後退り、一向に引き下がらない黒い生き物に、剣先を向けた。



「何故だ、あやつの言うことは嘘だというのか!?」



 思わず言葉に出したキーワードに、アルマーニは叫びを止めて顔を上げた。



「……テメェが根本じゃねぇのか」



 ゆっくりと立ち上がったアルマーニは、襲われ掛けている偽王を睨み付ける。


 しかし、偽王はそれどころではない。



「く、来るなァ! 何故、何故だ……何故我が──あ?」



 斧槍を振り下ろそうとしたアルマーニ。

 だが、偽王は後ろに下がっていたと思いきや、突然前につんのめった。



「ぐ、あ……が」



 突然、偽王の腹から刃が突き抜け現れると、そのまま後ろから血を垂らしながら蹴られるようにして前に倒れたのだ。


 そして、大口を開けていた黒い生き物に、抵抗することなく飲み込まれていった。



「……なんだ、今度は誰だぁ……」



 殺気を漂わせ、アルマーニは捕食される偽王を見下しながら、斧槍を握り締めて玉座を見据える。


 ガルダが機転を利かし、携帯ランプを灯す。


 「うえ、ごぽ……わ、れは……」と、偽王が最後まで醜い呻き漏らすなか、血塗りの剣を一振りし現れたのは、ケープで身を隠しフードを被った若い男だった。


 金髪が微かに見え隠れし、完全に見えている唇がやけに青い。



「ようやく会えた……死体漁りのアルマーニ。覚えているか、私を覚えているか貴様は!!!」



 フードの男は感極まった様子で感情を高ぶらせ、不気味に笑い始めた。

 乱暴に剣を振り回し、アルマーニに向けて血塗られた憎しみの剣先を向ける。


 アルマーニとガルダの眉間に深いしわが刻まれた。



「覚えていないか……そうか、ああ残念だなあ! 下僕の分際で……貴様はボクを……覚えていないのかっ!」


「テメェ……っ!」



 剣を振り下ろしてくるフードの男に対し、アルマーニは易々と斧槍で受け流す。

 弱い攻撃ばかり続ける奴を後ろへ弾き飛ばし、フードに向けて斧槍を下から振り上げた。


 避けきれずフードが捲られた男は、悲鳴を上げながら顔を手で覆ったが、ガルダは晒け出された素顔を見逃さなかった。



「口の悪さとその根っこが腐った性格……もしやとは思ったが、まさか貴殿生きていたとはな」



 信じられないといった様子で、ガルダは眉を八の字に曲げて溜め息をついた。


 フードが取れたことに呻く男。

 顔半分が歪み、右目はへこみ、鼻が潰れ頬は抉れており、火傷した痕のように焼けただれていた。

 それでも、この悪魔にも似た男の顔を忘れるわけがなかった。



「……あの時の、騎士団長……」



 アルマーニの驚いた言葉に、ガルダも強く頷く。


 神殿攻略の際に巻き込まれた巨獣討伐。

 禁忌の魔術書と呼ばれる物を使い暴れた黒幕──金色鎧がトレードマークの騎士団長。



「見るな……見るなぁぁぁ!! 貴様、貴様ら蛆虫のせいで私は……あぁぁあっ!」



 金色鎧の男は、自らの顔を何度も何度も何度も掻き毟り、後退りながら足元で蠢く黒い生き物を一瞥し、今度は狂ったように笑い始めた。



「ああ、だけど“ボク”はやり遂げたんだ……復讐は果たしたんだよ。コイツの一番大事なものを壊してやった、潰してやった、原型もないくらいにね! ボクは勝ったんだよ! ボクに逆らうからだ! 下僕で蛆虫のように群がる害虫に!! ボクは勝ったんだぁぁぁぁっ!!!」



 金色鎧の男は、血走った目でケープごとフードを破り捨てると、アルマーニを指差し笑い続ける。


 

「狂っているな。偽王に吹き込んだのも貴殿か」


「ああそうさ!! 特別な禁忌の魔術書が見つかってさ? こう囁いてやったのさ。『貴方が本物の王になり、この世界を統べる。貴方こそが王に相応しい。魔物ですら従えるこの魔術書で、世界を変えるのです』とね!」



 ベラベラ喋ってくれる金色鎧の男。


 ガルダは難しい表情で一度意味深に頷くと、大剣を大振りして金色鎧の男に向けた。


 アルマーニは、細かく身体を震わせ、入りすぎる力を少しだけ抜いて斧槍を今一度握り直す。



「あぁ、俺は人殺しはしねぇ主義なんだがよぉ。感謝するぜぇ。今、テメェを殺す理由がちゃんと出来た。後悔もすげぇよ……だがよぉ、これだけは言える。テメェは俺の手で殺す」


「今さら遅いんだよぉぉぉ!!!」



 殺気を越え、殺意に満ちた眼で地を蹴ったアルマーニは、突撃してくる金色鎧の男に対して刺し違える覚悟で突っ込んだ。




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