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』 『
『――――――――目の前に、電話がある』
『すぐ目の前に黒光りする受話器が転がっている』
『白くて音のない世界で、電話が鳴いている』
『取りたくなかった』
『壊したいほど辛いことが受話器の向こうで待っている気がした』
『でも取りたかった』
『勝手な理想を抱いて受話器を取りたかった』
『その向こうにいる誰かに想いを馳せたかった』
『矛盾が頭の中で洪水となり、その濁流は次第におさまった』
『受話器に手を伸ばす』
『いつもと同じように、ふだんと変わらないまま、傷つく結果を予想して』
『ぼくは、叫ぶ』
『「来ないで」』