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幼馴染と呼び方

 写真部の説明会は無事に終わりを迎えた。さすがにここまで人数が来ることを予測しておらず、すべてにおいて準備が足りていないわけで今日は悪いが帰って貰ったらしい。

 というわけで、第一多目的室を説明会に利用したことをいいことに写真部はついでに掃除しておくようにとの指示を受けていたわけで


「凛。掃除」

 由良先輩が凛に箒を手渡す。

 ちなみに、俺はというとなぜか普通に手伝っている。


「えー、別に掃除しなくてもいいんじゃない」

 確かに第一多目的室は大した汚れは見受けられない。

 しかし、床は砂埃にまみれており、手をつけば砂埃が付くくらいには汚れている。

 一日、掃除をさぼれば残念なことに膝をつけばズボンが白くなるほど汚れはたまってしまう。

 だからこそ、毎日の掃除のが大事なのだ。


「そうだぞ、凛。一応は掃除しろ。部活説明会で使ったんだからな」

 

「はーい。わかった、わかった。やればいいんでしょ」

 由良先輩の手に握られていた箒を受け取って、すごい勢いで床を箒で掃いていく。

 ムラも多いし、凛が掃いたところは多分もう一度掃かなくては行かないくらいの雑さで。


「あのなあ、凛。ちゃんとやれよ……」


「はいはい。光史は相変わらず小姑だね。てか、なんで光史がいるの? 帰ればいいじゃん。まだ、部員じゃないんでしょ?」

 凛という人物は本当に掃除が苦手なのはとっくの昔に分かっている。

 自分の残した跡は残しておきたい性分らしく物は捨てれないし、汚くても見過ごせてしまう。

 

「だけどな、お前がどうせなら最後まで掃除していけって言ったんだろ?」


「そうだっけ。まあ、いいや。ところで、光史本当に写真部に入るの?」

 とはいっても、凛も子供ではない注意してあげれば普通に掃除をし始める。

 現にゆっくりと丁寧に床を箒で掃き始めたし。


「まあ、入っても悪くないかなって」


「相変わらず、ツンデレだねー、光史は」

 つんつんとわき腹を突いておちょくってきたので、つい大きく突っ込んでしまう。


「ツンデレじゃねーからな!?」


「痴話げんかよくない。さっさと終わらせる」

 二人の場所ならいざ知らず、由良先輩もいるわけで掃除をしろと叱られる。


「「あ、はい」」

 それから、数分が立ちあらかた掃除を終えてあとはロッカーに道具を戻すのみとなった時であった。


「あ、光史。この後、部室に行くけど来る?」


「部室? 部室で何をするんだ? というか、他の奴らは帰したのに俺は行っても良いもんなのか?」


「え、別にそんなの気にする必要なくない。このまえ、ちょっとしたところに行ってきたからね。その写真をこれから部室でするんだ」


「へえ、じゃあ行く。ところでどんな写真を撮ってきたんだ?」


「桜を撮った。結構有名な所で。奇麗で、色が豊かで非常に趣があるいい風景だった」

 答えたのは由良先輩。

 彼女の写真を撮った時の興奮が冷めていないようなものを発言から感じさせられますます見たさが湧いてくる。


「どのくらいここから時間が掛かる?」


「かなり、掛かった。日帰りで言ったけど普通に後悔」

 どうやら、日帰りで行ったらしいのだが普通に日帰りで行くには時間が掛かる距離のところまで写真を取りに行ったらしい。


「うん、遠かったよー。本当に遠かった。でもいい写真いっぱい撮れたし満足かな」

 凛が付け足した発言から察するに本当に遠かったことが分かる。


「わかった。それなら是非見せて貰いたい」

 どうせ、この後の予定はまっさらなのだから桜の名所の写真につられて部室に行くことに決めた。



 それから、何事もなく片付けを終えた俺達は部室棟三階にある写真部の部室にたどり着く。

 由良先輩が鍵を開け、中に入るとそこには普段から使っている教室とまでは行かないが、その半分くらいの大きさが広がっていた。


「結構、広いな。写真部の部室って」


「まあ、一時期はかなりの人数がいたらしいからね」

 凛曰く、広い部室があるのは過去に多くの写真部員が在籍していたからだという。

 棚には数多くの資料や古びたアルバムがたくさん詰まっていて歴史を感じさせる古臭い紙の匂いが鼻を付いて来た。


「で、今現在何人在籍しているんだ?」


「3人しかいない」

 答えたのは由良先輩。

 こんなに広い部室をもらっているというのに三人しかいないって……

 

「って、少なすぎません?」


「写真部は入るのは簡単。でも、活動の日に参加しなかいのが続いたのは普通に辞めさせてる。でも、この人数は割と不味いのは言わなくても分かる?」


「確かに部活で部員が三人しかいないって普通に少ない……って、となればここに居るのは由良先輩と凛で。あと一人は誰なんですか?」


「あと一人は私の姉。加地かじ 友里ゆり。性格は凄く面倒くさい。で、この学校で高嶺の花と呼ばれてる。凛に次いで人気はあるけど……本当に性格が面倒くさい」

 もう一人はなんと由良先輩の姉らしい。

 妹に散々性格が面倒くさいと言われている当たり本当にやばいのか? 

 いやいや、百聞は一見に如かずだ。きっと、会ってみれば良い人に違いない。と思っておこう。


「なるほど。しょうがなく部活の説明会を代わりに仕切りましたけど、部員が少ないなと思ってたら本当にあと一人しかいなかったんですね」


「三人しかいないのにさぼる友里ゆりは本当に屑」


「というか、友里先輩はどこに行ったんだろうね。由良ちゃんも知らないんでしょ?」


「勿論、知らない。でも、顔を出さないのはきっとろくでもないことを考えてるに違いない」

 

「さて、友里先輩の事は置いといて。せっかく部室に来たんだし、光史も座って落ち着いたら?」

 凛と静香は普段から部室を使い慣れているのか、椅子に座っているが初めて入った部室ということもあり、委縮というよりもどこに座ればいいのか立ち尽くしていたのだ。


「で、俺どこに座れば?」

 ここで、ある選択が迫っていた。

 凛と由良は一つの学習机に対して狭苦しいものの椅子を横に並べて座っている。

 そこで問題なのはどちらの横に座るかであった。

  

「その顔は悩んでいるようだね。どっちの横に座るのか。ちなみに、写真の整理だから、私たちはこんなに近くに座っているだけだよ。普段はこんなにべたべたしてる訳じゃないから」

 そういう凛は先ほど、部室にある鍵付きの備品用倉庫から出したノートパソコンを起動させている。


「画面見るため。友里じゃないし」


「あはは、そうだね……先輩じゃあるまいし。それよりも、早く座りなよ。椅子はたくさんあるでしょ? 由良か私かどっちの隣にするの?」

 と言われたのでさすがに出会ったばかりの先輩の横に陣どるのは恥ずかしいし凛の横に椅子を置く。


「あ、結局私の横に座るんだ」


「結局ってなんだよ。あったばかりの由良先輩の横に座るのは恐れ多くてな」


「だってよ。由良。怖いってさ」


「おい、俺が言いたいのはそういうことじゃない。気まずいって意味だ。怖いだなんて思ってないですからね由良先輩!」


「う、うっ」

 涙は出ていないが泣いているような仕草をする由良。

 身長が低くて子供っぽいけど、やはりこういった仕草の面ではやはり同年代。

 

「あー、光史。泣かせちゃったじゃん。どう落とし前をつけるのかな?」


「凛。違う。こうも、私を先輩と敬う後輩は初めて……。これはうれし泣きの表現だし、全然平気。コウ君、私は泣いてないから。安心して?」

 なんと言うか、本当に年上として見られることはないんだろうな……。

 良し、せめて俺だけでも由良先輩を先輩として敬い続けよう。


「茶番はおしまい。さ、パソコンも立ち上がったことだし。早速整理をしないとね」

 凛はパソコンを操作し、写真のサムネイル一覧の画面を表示させる。


「って、ファイルの容量からしてかなり撮ったんだな」

 明らかにファイルのサイズが大きいのでたくさん写真を撮ったのが分かる。


「まあ、3人分をまとめただけだからね。一人あたりだとそこまで多くない筈だよ」

 そう言いながら凛はマウスを操作して暗がりの中に映る桜の写真をサムネイルをクリックして拡大表示した。


「へー、だいぶ。夜遅くまで居たんですね」


「これでもまだ明るい、本当の夜桜も撮影したかった。でも、補導されかけた……」

 どこか、悲しみを感じさせる目をしている由良。

 確かに、彼女の見た目なら夜遅くに歩いているときに警官に合えば間違いなく補導される。


「あはは、そうだね。まだ、夜の7時くらいだったのにね」


「そう、私がちっぽけだから。だから7時だったのに……」

 どうやら、凛の発言が傷を抉ったのか先ほどの嘘なきとは違い、本当に落ち込んで悲し気な哀愁を漂わせる。


「おい、凛。由良先輩が落ち込んでるからやめろ」


「えー、だって、7時だよ。中学生だってこの世の中、普通に街中を歩いている時間だよ?」


「……大丈夫。まだおっきくなる。あれは一人でいたのあって補導されかけた」


「まあ、そうだね。三人でいたら、別になんも言われなかっただろうし。一人でいたから声かけられたのは分かるよ、流石に。あ、ほらこれだよ。これ」

 凛がパソコンを操作し、一枚の写真を大きく表示させた。

 その写真は一人の警官が小さな少女に質問をしているというものであった。


「って、見てたなら。助けてやれよ。凛」


「失敬な。すぐに私は由良ちゃんのところに行って警官に高校生で写真を撮りに来てそろそろ帰るところって説明したよ。本当はもう少しいるつもりだったけどね。でも、結構警備のために警官が巡回してるから、補導されるのはまずいと思って帰るしかなかったって感じ? 」


「凛は直ぐに駆けつけたってことは。この写真はもしかして友里先輩? とやらが撮ったのか?」


「うん、そうだね。かわいい、妹が困ってあたふたと姿を撮るのは分かる気もするけど。でも、助けてあげないと可哀そうじゃん。なのに、可愛さ優先で撮るのは私も酷いと思う」


「だな、こんな良い先輩を放置とか酷いな」

 ちょっと由良先輩をあげる発言で仲良くなろうと試みる。


「コウ君。君は本当に良い後輩。後で、ジュースを二本奢る」

 ジュースの数が増えたという事は思惑通りというわけか。

 割と、先輩なんて田舎じゃ身内みたいなもんでそんなの関係なかったせいで、どうやって先輩と交流すれば良いのかとか悩んでたりしてたけど。その心配はなさそうだな。


「コウ君って。由良ちゃん、それじゃあ。私が光史って名前だけで呼ぶがさつな女に見えるから辞めて欲しいかなーって」


「……下の名前で呼ばれたくない嫉妬の気持ちわかる。でも……」

 凛の耳元に顔を近づけて、か細い声を出す由良先輩。


『もし……ら、同じ……名……になる……かも。そ……たら、ふた……になるから。だから、下の方で……のが将来的に……良い』

 うっすらと聞こえてきた由良先輩の声。

 やはり、小声という事もあり全然分からない。


「えー、そう? だったら、良いよ。コウ君でもコウちゃんでも好きに呼んで。もう、由良ちゃん、まだ私たちはそう言う関係じゃないって」

 しかし、小声をしっかりと聞いた凛はなぜか上機嫌になっていた。

 一体、何を吹き込んだんだ?

 ま、知らなくても良いか。

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