幼馴染と立ち位置
第一多目的室の横にある第一多目的室準備室といった備品が整理されているちょっと小さめな部屋に由良先輩に連れられて入る俺。
「お疲れ、由良ちゃん? って光史なんでいるの?」
「コウ君は凛の尻拭いを手伝ってくれた大事な後輩」
何だろう、先輩だから敬う姿勢を見せていたのだが、そのせいなのか思った以上に気に入られたのか?
「へー、私の大事な友達の由良ちゃんに手を出すの? 光史」
由良先輩と親しくなった俺を威圧してくる凛。
「おい、そんなに眉間にしわを寄せるな。というか、由良先輩には手を出すつもりも、そう言うつもりもない」
「さすが、コウ君。良い後輩だ……」
とはいっても、身長が小さすぎてそう言った対象に思えないってだけだけどな。
先輩と言って喜ぶほどだ、普段から小ささにコンプレックスがあるであろう本人の前で言ったら切れられそうだから言わないでおこう。
「なら、いいや。本当にそう思ってなさそうだし」
「ああ、当たり前だ」
ケロッと眉間に寄せたしわを引きあげ切り替える凛。
そんな様子の凛をつんつんと突いた由良先輩。
「なんで、そんなに信用できる?」
「ん、幼馴染だから? あの目はそうだなー。ちっちゃいからもはや眼中にない的な目をしてたから?」
「む、そんなことを思ってた?」
由良先輩に上目遣いで見られる。
いや、睨まれてるんだけどさ、小さすぎて上目遣いにしか見えないだけなんだけど。
「いや、思ってないです」
「なら、良し。それよりも、凛。あいつはどこ?」
「さあ? 私も知らない。それより、そろそろ説明会をしないとね。じゃ、行こっか」
と言って、第一多目的室準備室と第一多目的室をつなぐドアを開け、多目的室の前に凛が立ち。
俺と由良先輩は部屋の隅に立つ。
って、なんであたかも写真部員みたいな位置にいるんだろうな。
「では、写真部の説明会を始めようと思いますのでお静かにお願いします」
凛がざわつく周囲にそう言ったのだが、
「りんたーん」
「りんちゃーん。あいしてるー」
と騒がしくなっているというかバカみたいなやつが沸いてしまっているため始めるにはじめられない状態が続く。
「皆さん、静かにしてください。というか、そこの人たち一年生じゃないよね?」
凛目当てになぜか新入生以外の生徒も集まってしまっているらしい。
そのやってきた生徒たちは二年生以上、当然学校生活に慣れ切っているわけではた迷惑なコールをかましているのであった。
「うーん。収集が付きそうにない。良し、コウ君。君の出番だ。さあ、これをつけこの台本を読んでくればいい」
二年生を表す色のネクタイとバッジ、説明会ように用意した台本を手渡される。
「いや、なんで俺が写真部の説明をしないといけないんですか……いや、まあ。なんか、この状況は由良先輩が立っても打破できないかもしれませんよね」
忘れてはいけない。
由良先輩は背が低くて非常に可愛らしい。凛とは違ったベクトルの可愛らしさであり、当然凛が今立っている教室前部にある黒板前に立ったとしたら、今度は由良先輩に向けたコールが始まるに違いない。
自分がなぜそんなことをしなくてはならないのか異議を唱えたかったものの、この状況を打破できるのはある意味俺しかいないわけで……。
「ダメ?」
本人は上目遣いなんて使う気は無いだろうけど、背の低さで必然的にそう見えてしまう。
くそ、なんだろうこの守ってあげたい気持ちはくそ……なんで二年生の色のネクタイを受け取り物陰で付け替えてるんだ? なんで、台本を軽くパラパラとめくってるんだ?
「じゃあ、行ってきます」
と言って、俺は……壇上に立つべく足を進めた。
「じゃ、お願い……本当にやると思ってなかったけど……」
部活説明を頼んだは良いもののまさか本当にしてもらえるとは思っていなかった由良先輩に見送られる。
しかし、あの上目遣いで困った顔を見たら誰もがこうするに決まってるだろ?
「あー、皆さんへ唐箕凛さんとの触れ合いをお邪魔するのは申し訳ないのですが、ここからは関崎光史が写真部について説明させていただきます」
後ろから前に出て落ち着いた声音ではっきりとそう言い
それと同時に手を使ってのジェスチャーで凛に下がるようにと促す。
「なんだよ、凛ちゃん出せよー」
「そうだそうだ」
「男はおよびじゃないんだよ」
一塊の二年生の男子のグループがそう言った。
この学校はそれなりに規模も大きく生徒数も多く柄の悪いのもいれば優秀で真面目な生徒もいる多種多様な性格の生徒が多い学校である。
それは決して、進学校というわけではなく、中学の時の成績がよければ入れる県立の学校というのが理由の一つだろう。
そして、先ほどからうるさい連中は学校のマドンナに構いにきただけな迷惑な奴なのだ。
「そこの男子3人のグループのお方、退室お願いします」
先ほど説明会の進行を変わるといった時と同じ雰囲気、口調、速度、声音でそう言った。
説明会の会場である第一多目的室はそれと同時に静まり返った。
まさか、三人も退室と宣言されたが堂々と居座って言い訳をしてくる。
「はあ?何いってんだよ。やんのかあ? こっちは説明会に来たんだから聞かせろよ」
だが、引くに引けなくなったのか負けじと、ふざけていた男子グループの一人が向かって吠えてきた。
「では、お静かにお願いします。さて、新入生の皆さん。とりあえず、入学おめでとうございます。今日は写真部の部活動説明会に来てくれてありがとうございます」
騒いでいた三人組がこれ以上問題を指摘したことにより起こった静寂が失われる前に早々と暇を与えずに説明会を始める。
せっかく、周囲のざわめきが収まったのだ。その瞬間を逃さないわけがない。
「では、最初に写真部の活動について説明したいと思います。写真部の活動は主にテーマに乗っ取った作品を取ること、学内におけるイベント、体育祭、文化祭における広報活動のお手伝いなどが主な活動です。もちろん、写真のコンテストにも作品を出展します」
「次に活動時間について……」
光史が黙々と写真部の説明を進めている中後ろで見守っていた加地由良と、うまく説明会を進行できず退散した唐箕凛が小言で話をしていた。
「凛。あの子、頭おかしい? なんで、普通に説明会を進められる?」
「え、光史の事? まあ、あいつはNOと言えない典型的タイプだからね。私も、後ろでなんか由良ちゃんと話してるなーって思ったらこっちに来るんだもん。驚いたかな」
「そして、コウ君。台本すら読んでない」
「ん~、たぶん、元々写真の知識があるから活動内容もすんなり頭に入ったって所かな。それよりも、由良、ダメだよ。気軽に人に無茶ぶりしたら、由良ちゃんはある意味魔性の女なんだから」
「魔性の女とよく言われる。やはり私は大人の女?」
ふんと胸を張る由良。
「はあ、そういう所。本当に可愛いなあ」
頭の上に手を乗せて撫でる凛。
「私、同い年。そういうのやめて……」
イラっとした顔で嫌悪感を表す由良。
「えー、いいじゃん。ほら、かわいい子は等しく愛でるものだし。ま、嫌なのは知ってるからもうやめるけどね」
と凛は由良の頭から手を放す。
勿論、光史の写真部についての説明は進んでいる最中なのを忘れてはいけない。
「さて、皆さん。写真部の活動は今説明したとおりです。体を動かす部活動と違って体験入部はありません。入りたい人は入部届けをだせば簡単に入れますので兼部も可能です。興味を持った方はどうぞ、写真部に入ってくださいね」
光史の部活説明会も終わりに近づいていた。
彼は写真部の一員と言わけでもないのに。
「さて、私の話はここまでにしておいて、このままだと皆さんの不満もあるでしょうし後は唐箕さんによる。質疑応答のコーナーにしたいと思います。では、お邪魔な私はここらへんで」
説明を終え、質疑応答の時間を取る。
最も、光史は質疑応答する際に自分が写真部ではないというぼろが出ないようにきちんと凛へバトンタッチしたのだ。
「えー、最後までやってくれてもよかったのになあ…」
そうぼやきながらきちんと多目的室の前まで歩いていき凛は質疑応答を始めるのであった。
説明を終えて戻ってきた光史は後ろで一息をつく。
「コウ君、優秀。なんで、あんなふうにできた?」
「そうですか? 別にやろうと思えばだれでもできると思いますよ。部活説明程度なら」
「それができるのは一握り……私にはできない」
「いや、人はやる気さえあればなんでもできますよ」
「君はポジティブな塊みたい。でも、あれに関しては凛のいう事を聞く限りネガティブの塊だけど。まあ、ご苦労。後で、ジュースでも奢る」
「あ、どうも。あと、これ返しておきますね」
一年生が説明会を行っているのははたから見たら不思議でしかないに違いないので二年生に見せるためのカモフラージュ用のネクタイとバッジを返す。
「それと、巻き込んで本当にごめん。反省してる」
「まあ、こんな人数集まったのは凛のせいですから、仲がいい俺からしたらしりぬぐいを手伝うのは当然ですし」
「ところで、君は写真部に入る?」
「ん~、まあ入るんじゃないですかね。とりあえずのところは」
特にピンと来る部活度がないと感じる彼はとりあえず写真部に入るということに決めたことを意思表明する。
「無理に入る必要はない」
「まあ、正直に言うとなんだかんだで凛が居なければ真っ先に入ろうと思ってたくらいですし。ほら、俺の写真が趣味ですし」
「そう? ところであれはいつまで続ける?」
そう言った、彼女は凛のほうを見ていた。
そのことから察するに先ほどから大好評な凛による質疑応答のことを示しているのだろう。
「まあ、あと15分くらいしたら止めに入りますよ」
光史が止めに入るのもそのはず、気が付けば
「凛さんの好きな食べ物は何ですか?」
「んー、和食全般。出汁が効いた料理が好きかな」
「彼氏はいますか?」
「今はいないよ。でも……、あ、何でもないよ」
「昨日の夕飯は何食べました?」
「パスタ」
といったようにもはや写真部の事と一切関係がなくなっているからだ。