幼馴染とお友達
「ねえ、唐箕先輩の横に男がいるわ」
通学路を歩くある女子学生に囁かれている。
「ほ、本当に? あいつは一体誰なの?」
その言葉に横について歩いているもう一人の女子学生がちょっと奇異なものを見る視線をぶつけてくる。
「あんなに親しそうにしているのをはじめてみたわ。あんな冴えない男。唐箕先輩には向かないわ」
最初に話したほうの女子学生が俺に敵意を露にして睨んで来た。
「ねえ、だれか。どんな関係か聞いてきてよ」
そして、また別の女子学生が連鎖的に話を広げていく。
「え、無理よ。あんなの見せつけられて間に入っていけるの?」
「そうね、無理ね。私たちは無力なのね」
俺と凛二人は駅から学校に向け歩く。
なんというか、俺は凛の人気度を見誤っていた。
「なあ、凛。なんか、俺たち話題を集めている気がするんだけど……」
「気のせいじゃない?」
「いや、絶対気のせいじゃないと思うんだが……」
「別にいいじゃん。何と言われようともさ」
「お前は気にしなくても俺は気になるんだよ。はあ……」
平穏な日々は終わり凛と俺との間に生まれた噂によって俺は孤独な学校生活を送ることに……なるのかもしれない。
いやはや、むしろ目立つことで仲良くなる機会も増えたりするわけで一概に悪いとまでは言い切れないんだよな。割とさ。
しかし俺は一年生、つまり、こういう話題を引き起こす人には近寄りたくないと思われてしまうかもとか考えたり……。
高校生活でいいスタートを切れないかもという葛藤が沸き起こる。
「さて、ここでお別れだけれども。放課後、ちゃんと部室に来てね。部室棟の3階だから」
あっという間に駅から歩くこと数分で校舎の入口に着いた俺と凛はそれぞれの教室に向かう。
「いや、行かないからな。他のところに行くって。嘘だよ、嘘だ」
別れ際に冗談で行かないと言ったら不服そうな顔で本当に来なくても良いの? 向かいに行って目立つけど良いの? 的な顔で脅されたのですぐ発言を撤回。
「はあ、光史君。君はわかってないな。これはなんだかわかるかね?」
不服な顔に加えて、怪盗風に少し気取ったキャラで話しかけてきた凛。
その手には部屋の鍵。
もちろん、俺の部屋のが握られていた。
「おい、俺の家の鍵だろ、それ。返せって」
「ふ、返してほしければ。放課後くるんだな。さもなけば、私はこの鍵を返さないで光史君の部屋に居座ってやるからな。というわけで、後でね」
ちょっとした気取った怪盗風なキャラを演じてからの素にも戻って後でねとか可愛すぎるだろ……。
たぶん、俺の部屋を開けるカギは本当に放課後に写真部の部室とやらに行かなければ返して貰えない。
いや、待て。この場で取り返せば
「あ、もういない」
こうして俺はトボトボと自分の教室まで足を運ぶのだ……。
教室の自分の席に着くと
「よ、おはよう」
自分の席に着いた俺に昨日少し話をしたことで打ち解けた小野正樹が話しかけてきてくれる。
「おはよう。正樹」
高校でできた初めての友達小野正樹が挨拶をしてくれたので素直に挨拶を返した。
そんな時、俺の目の前を昨日帰り際に突っかかってきた坂井衣里が通りかかったので
「あ、おはよう。衣里さん」
挨拶をする。
正樹に挨拶をして貰ったんだ。俺もこうやって積極性を見せて行かないとな。
「お、おはよう。関崎くん。意外です……わね? 挨拶を返してくるなんて。あなたはてっきり、人の顔さえまともに覚えられていない陰キャラだとおもってました……のよ?」
ところどころ口調が曖昧で適当感がすごい。
もしかして、キャラでも作ってるのだろうか? いや、それよりも人の顔さえまともに覚えられない陰キャラってひどくない?
「おう、陰キャラじゃないけどな。俺は」
「そ、そう? 私からしてみれば十分、陰キャラよ?」
「はは、じゃあ、そうならない様に気軽に話しかけてくれ。衣里さん」
「それよりも、関崎くん。なんか、風のうわさで凛様の横に男子が歩いていたという噂をきいたのだけども。本当なの?」
「さあ、人違いじゃないかな?」
「へえ、身長約174cm、体格普通、後ろ髪に寝癖が一つ。鞄はリュックで色は黒色らしいんだけど」
「へえ、俺の格好に似てるな。まあ、俺じゃないなきっと」
とか言いながら衣里さんに言われた後ろ髪の寝癖を手で直していると。
「あ、ちなみに全部嘘だから。男の人と一緒に歩いていたという噂は本当だけど。道を歩いている生徒が話してただけ」
調子が出て来たのか変な口調も落ち着きとげとげしい感じが強くなる。
さっきのなんか妙な感じは一体何だったんだ?
「……嵌めたのか?」
「さあ、何のことよ? 私は確認を取っただけなんだから。貴方が勝手に寝癖を直したんじゃない。ところで、どうして一緒に歩いていたの?」
「まあ、あれだ。途中で出会ってな」
一緒に学校に行く約束をしたなんて言わない。そんなことを言ってしまえば、徐々に話題を掘り下げられ凛と隣の部屋に住んでいるということがばれ、ひと悶着が起きてしまいそうだからだ。
「はあ、そうなのね。複雑だわ、あの尊敬する凛様の横にこんなにも冴えない男がいるのはちょっと理解しがたいわ」
「悪かったな。冴えない男で」
「それじゃ、私はこれで。いい加減、名前くらい思い出しなさいよね……」
名前って、坂井 絵里さんだろ? と少し変な謎を残して席に戻って行く衣里さんであった。
そんな些細な謎よりも今までの会話は割と自然だったし、彼女とももう友達になったも同然だな。
つまり、俺はもう友達が二人も出来たというわけだ。
田舎じゃ、二人って中々にできないんだからな……人が居なさ過ぎて……。
そうしてなんだかんだ始業時間になり先生も教室にやってきた。
「よーし。お前らこれからショートホームルームを始めるぞ」
こうして、今日も一日が始まる。
午前の授業はほぼクラスの委員を決めたりとか、校内の案内とか基本的に緩い内容が主であり。
「じゃ、午前の授業は終わりだ。昼飯を食べた後は先輩方による新入生歓迎会だからな。ちゃんと時間通りに教室に居ろよ。時間が結構カツカツだからな」
午後の予定も比較的緩いと来た。
今日は楽できるなとか思っていると、先生は伝える事も伝えたのか教室を出て行く。
そして、俺の記念すべき高校生活初めての昼休みが始まる。
辺りでは、自分から話しかけて一緒にご飯を食べないかと誘うものもあれば、もともと友達であった人たちが集まりながらそれぞれ教室でグループを形成し始めている。
そんななか、光史は誰か一緒に昼ご飯を食べる人がいないかとあたりを見渡し、まずは小野正樹に話をかけた。
「なあ、正樹。一緒に飯食わないか?」
「ああ、いいぜ。二人じゃ寂しいからだれか誘うか」
「なあ、飯を一緒に食べないかそこの二人」
同じく、二人組を一緒に昼食を食べないかと誘う正樹。この行動力にはあこがれを抱かない人のほうが少ないだろう。
「ん、俺たちのこと?」
「ああ、そうだ。せっかく、同じクラスになったんだし、仲良くしようぜ」
理由は適当でもいい。なんせ、高校生活が始まって間もないのだから、交友を深めるという大きな理由がすでに存在しているから自然なことだ。
「じゃあ、一緒に食おうぜ。改めて、俺の名前は久藤 勇太。横にいるのは斉藤 聡。よろしくな!。ところで俺、弁当持ってきてないから購買に行かなくちゃいけないんだけど一緒に行く人は?」
正樹が話しかけたのは久藤勇太と斉藤聡という二人組。そのうちの勇太はお弁当を持ってきていないようで、購買に行くとのこと。
「あ、俺も持ってきてないから行く」
当然寝坊したわけでお弁当なんて作る暇はなかった。
というかお弁当箱すら持っていないので当面の間は購買でパンやらコンビニで何かを買うつもりだったしな。
「じゃ、行こうぜ」
勇太と一緒に購買へと向かう。残りの二人はどうやらお弁当をきちんと持ってきたらしい。高校生で毎日購買で昼食を買うなんて結構痛い出費であるからだろう。それに、栄養も偏ってしまう。
まあ、一番はきっと親と一緒に住んでるのが理由だろうが。
こうして、学校の購買に向かう俺と久藤 勇太。ゆっくりと歩いているも上の階から降りてくる上級生はみな駆け足で歩いているか走っている。このことはあることを察せさせる。
「なあ、俺たちも急ごうぜ」
「ああ、そうだな」
そう、購買が必然的に混んでいることを周りの様子から悟ったのだ。
やや駆け足で購買まで向かうと俺と久藤勇太の前には長い列があった。
「うわ、混んでるな」
購買の混み具合に驚きつい声に出してしまう。
「そうだな。でも、並ぶしかないよな」
並ぶしかないという事実を非情な事実を勇太は宣告し長い長い列の後ろに並ぶのであった。
それから数分後、無事に購買でパンを入手したのだが、こういう購買では人気がなくてもある程度種類を置いてニーズにこたえなくてはいけないため、不人気なパンも置かれている。当然、売れ残りを控えるためその他のパンを置く数を控えるわけで……。
ゆえに素朴な種類であまり人気のないパンしか買えないのであった。
「なあ、お前何買った?」
俺はあまりな悲惨さに勇太にお前はどうだったのかと戦果を聞く。
「くそ、フランスパンに薄くジャムが塗ってあるのとミルクパンとかいうミルククリームは入ってないけどミルクの味が強いらしいパンしか買えなかったぜ……」
「うん、俺も同じだ。人気のパンは何一つ残ってなかったな。明日はもうちょっと早く来よう」
「そうだな」
あまり人気のないパンを手に教室に戻る。
加えて、時間はそれなりに経ってるわで最悪だ。
「遅かったな。お前ら」
教室に戻ると正樹に話しかけられる。
「高校の購買の恐ろしさを垣間みた」
「まあ、お前らが思っている以上に混むことは知っていたが、言うのを忘れてた。すまんな。というのは嘘でどうせお前らが出た時間は遅かったし混雑に巻き込まれるのは知ってて敢えて言わなかった」
どうやら、正樹は購買が想像を絶するほど混んでいるのを知っていたらしい。
「それでも、早く教えてくれよ。途中までゆっくり歩いたんだぞ。勇太と」
「そうだぜ。まったく酷いったらありゃしない」
「はは。悪いな」
それから四人で昼食の時を楽しく過ごすのであった。