幼馴染との対決
買い物を終えた俺と凛。
新たに購入した小さめの冷蔵庫に買ってきた食材を入れていく。
こう、なんと言うか生活感が出て来たな……。
そして、いま現在気になることが一つ。
「おい、凛。なんで普通に俺の部屋に上がり込んでるんだ?」
「ん? いいじゃん」
とか言ってすでにくつろいでいる凛。
確かにさ、田舎に住んでいた時は暇なときは俺の部屋にやって来てはくつろいでたけど。
つまり、何が言いたのかといえば……
「仮にも一人暮らしの男の部屋だぞ?」
襲われるのとか考慮しないの? というわけだ。
「へー、そうなんだ。それは意識しちゃってるって感じかな?」
そんな俺の考えはお見通し、にやにやとしながら言われてしまう。
やはり、からかわれていると言う事は脈がないのは間違いない。と言うわけで、幼馴染相手に本気になるなよ俺。
「いや、全然。お前は幼馴染だ。別に何にもないぞ」
「じゃ、幼馴染ならこれから毎日来ても文句はないんでしょ?」
「もちろんと言いたいが、お前にもちろんなんて返事したら本当に入り浸りされる可能性が高いからほどほどにしてくれ」
「っち。言質を取ろうと思ったのに。さてと、引っ越したばかりの光史の部屋は……」
なんか、勝手に人の部屋を散策し始めた凛。
しかも、段ボールを取り出して荷解きまでし始めやがった……。
とはいっても、割と俺が置こうと思っていた位置に物を置いて行ってくれてるから割とありがたい話だが、正直に言おう。
「なあ、物を並べてくれるのは良いんだが、一応家主の許可は取ろうな?」
「ま、そうだね。勝手に片付けておくねー」
と適当に断りを入れた凛は作業を再開し始めるのであった。
さてと、夕食にはまだ早いし部屋の主である俺も片づけをするか。
こうして凛と引っ越し来た部屋の片づけを推し進めていたのだが、俺が荷造りした段ボールとは別の段ボールが一つあるな。
いったいこれは何だろう? たぶん、俺が詰めたやつじゃないのは分かるけど。
詰めた覚えもない段ボールとにらめっこしていると凛は自分のしていた作業が終わったのか、俺の目の前にあった段ボールを勝手に開け始めた。
「ねえ、光史。これは……」
段ボールから出てきたのはなんとエロ本だった。
ああ、そう言う事か。兄貴たちが引っ越すという俺を口実に自分たちが持っていたエロ本の処理として俺の荷物にもぐりこませてこのアパートに送ってきたというわけか……。
まったく、酷い兄貴達だ。
「それは俺のじゃない。兄貴たちが捨てるのが恥ずかしいからわざと送ってきたものだからな。勘違いするなよ。決して俺のじゃないからな?」
あくまで俺の物ではないことを主張したのだが、そんなのを聞いている者はおらず凛はというと、
「ほお、なかなかエロいですなあ。え、そんなプレイも⁉」
普通にエロ本を読んでいた。
「いや、普通に読むなって。仮にも女の子だろ」
「えー、そう? 光史的にはキャーとでも言ってビンタされた方が良かった?」
「……ま。だよな、エロ本ごときでキャーキャー言う女の子なんて幻想か……」
そう言いながらエロ本を取り上げて段ボールに戻しガムテープで封をした。
さてと、送り返すか捨てるか……ま、送り返すのもお金が掛かるし捨てるべきだな。
「ねえ、光史。久々に幼馴染とあったって言うのにあまりにも普通すぎじゃない? ほら、もっと優しくもてなすとかさ。なんか、プレゼントがあるとか」
「お前の方こそ、俺に何かないのか?」
「えー、だからこうして荷解きを手伝ってあげてるんじゃん。後、ちゃんとプレゼントも用意してあるよー。私を舐めて貰っちゃ困るんだよ。君」
「いやいや、プレゼントも用意してって。そんなわけ……」
「ふっふふ。実を言えばなぜ荷解きをしたと思ってるんだい光史君よ。そう、荷解きはプレゼントを隠すためのカモフラージュなんだよ」
「へー、もしかしてさっき棚あたりでごそごそしてたのはそう言うわけだったのか?」
棚に近づきごそごそとしていたあたりを探してみると、本当に小包が出てきた。
いや、うん。普通に嬉しいし、再開を祝してプレゼントとかさ本当に惚れちゃうんですけど……。
「あ、うん。そうだよ。見つかっちゃったなら仕方ない。ささ、開けちゃって」
言われて小包を開けると中にはパスケースが入っていた。
割と実用的なプレゼントだけどさ。
「ありがとうな。と素直に喜びたいところだけどさ。悪い、実はこの前に新しいのを……」
「えー、何。もう新しいの買っちゃってたの? はあー、酷いなあ。幼馴染ならプレゼントがあるくらい先読みできなよ」
「いやいや、そんなこと出来るかって。でも、せっかくのプレゼントだ。せっかく買った新しいパスケースもあるけど。お前の方を使うとする」
「いやー、それはそれで照れちゃいますなあ。で、光史からは何かないの?」
「あー、ない。ま、今度プレゼントしてやる」
とはいったものの、年頃の女の子にプレゼントって何が良いんだろうな。
「ほほう。期待して待ってるよ。光史」
「さてと、」
部屋の荷解きを一旦やめて夕食を作りに行こうとした時だ。
凛の手はと言うと、
「光史、ゲームしよう」
先ほど、段ボールから取り出したゲーム機をテレビにつなぎ起動させていた。
相変わらず自由にふるまう凜に頭を悩ましながらも懐かしさを覚える。
ま、一回くらいの対戦しても夕食の準備に差し支えないしちょっとした誘いに乗るとしよう。
「いいぞ。まあ、一回だけだけど」
「いいねえ。私がどれだけ腕を上げたか見せちゃうよ」
「ほう、その自信。よし、スタンダードに格闘ゲームでいくか。タイトルはどうする」
「そうだね。じゃあ、スト6で」
起動したゲーム機にソフトを入れてコントローラーを持つ凛。
コントローラーを動かし、コマンド確認をしていることから割とやる気満々である。
「ああ、もちろん」
俺も尻に轢くクッションを持って来たりして自分がプレイしやすい環境を作る。
「よし、準備万端だ。やるぞ」
「ふ、私の腕の上達に驚くがよい」
変なキャラを作って煽ってくる。
どうやら、それほどまでに上達した自信があるようだ。田舎には気軽ですぐ行けるようなまともな娯楽施設はなかったし。
気が付けば二人でゲームをすることが多かった。
てっきり、田舎から出て行った凛はゲームなんてやってないと思ったんだけどな。
それから数分後、持ちキャラを選んだ俺達は対決し始めるのだが、
「ちょ、その技をそう返すのはなしだろ」
「ふ、甘いよ。私のガードのうまさをなめてもらっちゃ困るよ」
「だったら、これはどうだ」
「はや、切り返しの反応速度がだいぶ上がってる……」
「っく、お前こそ。ガードがかなりうまくなってるじゃないか。コンボ終了時からの次のチャンスまで耐えるのがすごく上達してる」
一進一退の対戦が繰り広げられていた。
俺と同様に割と腕をあげていたようで、思いのほか力量差は付いていないようだ。
「よし、これで終わりっと」
相手の動きをきっちりと補足し攻撃を当てコンボを決め、俺の操るキャラクターの体力ゲージをゼロにする凜。
「くそ、お前うまくなりすぎだろ。じゃ、俺も本気を出させてもらうか」
いまだに手付かずの段ボールの一つを開け、その中からあるものを取り出す。
そう、俺はまだ本気じゃないのだよ、凛。
「って、アケコン? いつの間にそんなの買ったんだ」
俺が取り出したのはご家庭でもゲームセンターと同じような操作感を味わえるアーケードコントローラーだ。まあ、ゲーセンにほとんど行かないから調べる前はこんなのある事さえ知らなかったけどな。
「上達しなくて伸び悩んでいた俺はこういうコントローラーのほうがやりやすいと思い去年から本格的に使い始めたというわけだ」
「へえー、そっちがその気なら。ちょっと待って取ってくるから」
「え?」
勢いよく凜は部屋を飛び出していったが、直ぐに戻って来た凛の手には俺と同じとまでは行かないが別メーカーのアーケードコントローラーが握られていた。
「ま、まさか、お前もそれを使いこなせるようになったのか?」
「もちろん。私を誰だと思ってる?」
そう言って慣れた手つきでアーケードコントローラーを弄る凛。
「よし、じゃあ再戦だな」
こうして、アケコンを引っ張り出してまでのガチな対戦を始めるのであった。
そして、気が付けば……
「って、もうこんな時間!?」
時計の針は22時を指していた。
「あ~、熱中しすぎちゃったね」
といったように我を忘れて熱中してしまっていたのであった。