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お隣さん

 昨日入居したばかりの201号室の扉を開き中に入り、適当に座り込む。


「それにしても殺風景な部屋だな」

 部屋には机とパソコンとテレビと棚。

 ただ、それだけがなんとなくそこにあったら使いやすいんじゃないの? という位置にある。

 一応押し入れにはまだ出していないものが段ボールにとりあえずの状態で仕舞われている。


「まあ、家から持ってきたものはまだ押し入れの中だし、それを出せばまあ、それなりにこの殺風景さはなくなるだろ」

  

「さて、ご飯でも作るか。生活費はそれなりにもらってるけど。自炊すればその分浮いた金がおこずかいになるし、作らないのは当然ナンセンスだ」

 バイトまがいのこともしているが、そのバイトまがいのことによって得られる収入はほとんどカメラという趣味に消えて行ってしまっているため、親から受け取っている生活費を少しでも浮かせ自分の懐にいれようというわけだ。


「って、冷蔵庫に何もないだと!?」

 ぎりぎりまで実家で春休みを過ごしていたせいで、部屋は昨日入居したばかり。今だに足りないものが多かったりする。それはもちろん冷蔵庫の中にも影響している訳だ。


「買い物に行くか、いや、タイムセールの時間に行くか」

 買い置きとしていつでも食べれるようにと買ったカップ麺を昼ご飯として済ます。

 昼食を食べ終わったのだが、特段としておかねばいけないこともない。

 というわけで暇をつぶそうと思い、ゲーム機に手を伸ばそうとしたがここは新しい自分の住処。

 ゲーム機は段ボールの中であった……。

 まあ、出せば良い話なのだが、それよりも優先順位が高いことを思い出す。


「って。そういえば、私服はこっちにあまり持ってきてないから買わないといけなかったな」

 スーパーのタイムセールが始まるまでの間に足りないものを買いそろえるちょっとしたお出かけをすることに決めたのだ。



 現在の住居から上り方面に向かえば5駅ほど離れたショッピングモール、下り方面に向かえば3駅離れたところには大きな病院。

 

 そして、5駅離れてるショッピングモールに自分の服を買うために向かい、手ごろなお店を探している時だ。


「ねえ、そこの君。服でお困りかな? 今なら、お姉さんが案内してあげる」

 わざとらしい艶かしさの声で話しかけてくる同年代の女子。


「どうしたんだ? 凜。こんなところで」

 わざとらしい艶かしさを持って、後ろから話しかけてきた人物。

 それは俺が通う高校のマドンナと呼ばれるほどに可愛い、同郷の幼馴染。

 唐箕とうみりんであった。

 まさか、ショッピングモールに来て幼馴染とエンカウントするとはな……。


「えー、詰まんないなー。もうちょっといい反応してよー」

 俺のつまらない反応に心底うんざりという顔をしながらへこたれている彼女。

 なんと言うか、すごく子供っぽく、少しうざったい。


「はいはい、そうだな。それよりも、こうして直接会うのは久々だな」


「そうだね。半年ぶりだね。どう、私の姿を見て何かない?」

 そう言われ、素直に視線を凜の体へと向ける。顔から下に向かって変態ではないが、じっくりと見ている最中、凜の大きな変化に気が付いた。


「お前って。胸そんなに大きかったけ?」


「な、堂々とセクハラとは光史って最低だよ。ほかの女の子にそういうこと言っちゃだめだからね?」


「お前だけだよ。こんな風に言うのは」


「え、それってひどくない? 私のことを何だと思ってるのよ」


「幼馴染」


「へー。じゃあ、私がほかの男の子と付き合ってたらどう思う?」

 何がじゃあなのかよくわからない。


「ん? 別に」


「はあ、じゃあ、私は光史が他の女の子と一緒に歩いていたら焼けちゃうかなー。そのことに関して、一言どうぞ」

 わざとらしく手でマイクを持っているかのようにして俺に質問をしてきた。

 このノリも中々に久しぶりだな。


「ああ、幼馴染だもんな。結構、複雑だよな。仲良かったやつに恋人ができるのって」


「うん。相変わらずの鈍感さに私もびっくりだよ? 恋愛漫画をもっとよんだらどう?」


「割と少年漫画のラブコメ物は好きだぞ? でも、あれは現実じゃないし」


「いくら、現実じゃないからって少しは現実と似てるところもあるんだよ……」


「まあ、立ち話も何だし。ここのショッピングモールの案内をしてくれよ。どうせ、お前のことだからウインドウショッピングで来たんだろ?」

 最近の凛から送られてくるメールはこの服はどう? とかそう言ったものが多いので凛はよくウィンドウショッピングに来ているののは間違いがない。

 頻繁に送られてくる服の写真のものをすべて買ったとしたらいくらあってもお金が足りないのだから。


「えー、ひどいなあ。今日はちゃんと買い物に来たんですー。冷やかしに来てるわけじゃないんですよーだ」 

 頬を膨らませて怒ったように見せる凛。 

 怒ってないけど、こうして怒った風に見せるところが本当に子供っぽいと思う。

 しかし、最近は可愛くなったし、本当に可愛いんだよな……。


「はいはい。で、案内はしてくれるのか?」


「そうだね。あそこのお店は結構値段が安くていいトップスが多いよ。で、二階にあるお店はボトムが安くて質がいいよ」

 やはりショッピングモールについて詳しいようで色々と教えてくれる。


「へー、なんで男物の売り場にも詳しいんだ? 彼氏でもできたのか?」


「ん、彼氏なんているわけないでしょ。私は好きな人がいるんだよ?」


「どんな人」


「それは、もちろん。こ う し よ♡」

 ちょっと色っぽさを含めてわざとらしく言ってきた。

 っぐ、割と本気になってしまいそうだ。

 からかわれてるだけ、からかわれてるだけだこれは……。


「はいはい。このやり取りも久々だな」

 平静を装い凛に返答する。

 さすがに本気になるというわけにもいかない。

 だって、幼馴染ともなれば好きな相手がお前だと言って茶化すのもやぶさかではないんだからな。

 もし本気になって苦い思いをするのは御免だ。


「私は本気なんだけどね……」

 肩を落としてはあ……とため息を吐く凛。

 しかし、これまたからかいだ。本気になるなよ俺よ。


「で、それは置いといて案内してくれ」

 

「あそこのお店にあるあれが良いんじゃない?」  

 さらっと素面に戻る当り、からかいでしか無いんだよな……。

 他愛ないやり取りを繰り広げながらも凜は俺の服を選び、商品を突き出し俺に評価を求めて来る。


「んー、好みじゃないな。俺はこっちのほうがいいかな」

 女心を考慮するのなら、同意をしてしまうのが吉だ。

 しかし、相手は幼少のころから付き合いのある幼馴染、正直に服について意見を言ったところでどうってことないのだ。

 本当に気楽である。


「相変わらず、いらないものはいらないっていうね」


「ああ、俺はバッサリ言うが悪意はないからな?」


「知ってる。何年あんたの幼馴染をしてると思ってる?」


「そうだな。お、このポロシャツはなかなかいいな」

 適当に凛の話を流して凛が手に取って見せてきた今年のトレンドとはかけ離れた無難だがきちんとワンポイントあるポロシャツを手に取る。


「相変わらず、そういった流行のものを避けつつ、かつ地味過ぎないものを選ぶのがうまいことで」


「まあな、流行ものなんてしょせんはファッション業界の闇だし、俺はそういう流されるのは嫌いだから。といっても無難すぎるのも嫌いで、今までずっとこんな風に服を選んできたし。そりゃ、こういったちょっといい感じの服を手に取ることだって得意になるさ」


「へー、御大層なことで」


「よし、次はボトムかまあ普通にチノパンでいいか」 

 とボトムは着やすければ大差がない。ダメージ系、ビジュアル系が好きな人はボトムを相当凝るらしいけど俺は違う。


「光史って、本当にボトム系はこだわらないよね」

 

「ああ、ボトムは着やすさ重視だ。トップスはきちんと選ぶけど」


「へー、でも、最近はやりの伸縮の素材を使ったストレッチパンツはいいんじゃない? 光史、流行が嫌いって言ってるけど」


「ああ、あれはいいかもな。あれは流行に流されてもいい気がする」

 だって、触ってみたけどあれは本当に良い。

 きれいに足のラインが出るし、ダボダボした感じでだらしなく見えないのが格好がつくのだ。


「というか、なんでそんなに流行のものを避けようとしてるの?」


「まあ、簡単に言うと、流行っていうのはバカを騙すためにあるんだよ。ファッション誌には暗黙があってな、ある有名な雑誌が取り上げたのをほかの弱小とまではいかないが多くの雑誌が取り上げていくことによって形成されていくわけだ」


「別に、それの何がいけないの?」


「まあ、話はこれからだ。簡単に言うといくらダサくて酷い商品でも流行らそうと思えば流行らすことができるんだ」


「なるほど、意識的に操作されるのがいやなわけね。はー、幼馴染がひねくれて私は悲しくなるよ」


「っぐ、ひねくれものと言われたらぐうの音も出ない。いや、別にストレッチパンツとか本当に良いものは流行云々かんぬんを抜きにしてきちんと選ぶからな。っとレジも空いてるし、会計に行ってくる」

 会話しながら服屋の会計に向かい、お会計をし終えると、


「さ、今度は私の服を選んで。光史はもう満足したんでしょ?」


「まあ、いいけど。俺のセンスに期待するなよ?」


「別に期待してないから。こだわりが強いだけであんたはセンスがいいとは言えないけど悪いとも言えないから普通なんだけど。でも、普通から下に行くことがないからたまに普通以上にセンスのいいもんを選ぶことがあるのがね……」


「これまた、微妙な評価をしてくるな。お前の好きなお店は?」

 お店を出て、次は凛の買い物をしに行こうとしたら……。


「うん、じゃあ行こっか。ついて来て」

 手を握られて引っ張て行かれる。

 うーん。本当に本気になりそうだ。てか、手汗がすごくやばい。

 おそらく、手汗をかくほどドキドキした? とからかわれるんだろうな……。


「なるほど、お店の雰囲気的には若者をターゲットにしているお店か。まあ、大人びた服なんて大人になってからのほうが似合うし、若いうちにしか着れないような服を着ていられるのも短いしな」

 手を握られる事数分。

 気が付けば、凛の目的地であるお店についていた。


「そうそう。若いうちは大人しいのよりも冒険的なのを着なきゃね」


「じゃあ、これなんてどうだ?」


「んー、可もなく不可もなくなのを選ぶね。でも、ちょっと露出が激しめじゃない?」

 俺が選んだのは肩の部分がなく、いわゆるノースリーブというものだ。

 しかし、胸元は浅く肌の露出は肩以外は責めていない。


「まあ、そのまま着るのはないなもう一枚着こめばいい感じになると思うんだけど」


「でも、せっかくのノースリーブがもったいなくない? 意味ないじゃん隠したら」

 確かにもったいない。

 だがな、凛よ分け隔てない幼馴染だからこそ言っても平気だろうし言ってやろう。


「まあ、ちょと変態じみたことを言うけどな。暑い日に一枚脱ぐことってあるだろ? そこで、ノースリーブのものを着こんでいると脱いだ時の印象の違いをハッキリとさせられる。つまり、これは脱いだ時を想定して選んだわけだ」

 最もらしいように言ったが、ちょっとセクハラじみてる気がする。

 ま、幼馴染だから別に気にする必要はない。


「ふーん。光史はそういうのが好きなんだ……でも、他の女の子にそんなことを言ったらセクハラみたいだけどそこらへんはどうなの?」


「凛は幼馴染だからな。俺も他の女の子にはこんな事を言わん」


「うーん。なんというか、分け隔てなく接してくれているのは心地いいけど、なんと言うかそれはそれで乙女心が傷ついちゃうなあ……」

 そう言った後、服を見やった凛。

 そんな凛はとんでもないことを言ってきた。


「これは光史の好みなんだよね?」


「まあな」


「じゃあ、買う。光史が好きな服だから買うことにしたよ」

 何だよ、そのしおらしい表情。

 本当に本気になっちゃうだろ……辞めてくれよ純真な男の子を無意識に誘惑するのは。


「あ、ああ。そうか」


 こうして、ちょっと本気になりそうな俺と凛は楽しくショッピングモールを回っていると、気が付けば事前に調べたスーパーマーケットのタイムセールの時間だ。


「じゃ、そろそろ時間も良い頃合いだし帰るか……」

 というわけで、久々に幼馴染との楽しいお買い物を終わらせるべく俺は帰りを切り出す。


「うん、そうだね。じゃ、帰ろうか」


「そういえばお前今どこに住んでるの?」

 凛も同郷の仲となれば一人暮らし。

 今住んでいるところは知らないわけで、何気なく聞いた。


「それよりも、光史はどこに住んでるのかな?」

 悪戯心を内心に秘めていそうな表情。不吉すぎる笑みだな……良し、言わないでおこう。

 うん、そうしよう。


「いわん。絶対にいわない。言ったら、いきなり来そうだし」


「ギク、ソンナコトハナイヨー」


「はいはい、白々しいのはよせって本当に聞いたら聞いたでいきなり来ようとしてたんだろ?」


「まあ、私どこに光史が住んでるか本当は知ってるけどね」

 しれっと俺がどこに住んでいるか知っていると言った凛。

 まあ、幼馴染だし親のつながりもあるし知られてて当然か……。


「まあ、そうだろうと思ってた」


「うん、201号室だよね」


「はは、本当に知ってるんだな」


「ふふふ、私の情報網をなめてもらったらこまるなあ君」


「はあ……で凛はどこに住んでるんだ?」


「202号」


「ん?」


「202号室」


「え、それって」


「うん、そうだよ。私は光史のお隣さんだよ?」


「う、嘘だろ?」




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