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幼馴染との再会

 舞台は入学式が終わり、簡単なショートホームルームの中で自己紹介を行っている最中の教室。


「始めまして、関崎かんざき 光史こうしっていいます。家が田舎すぎて高校が近くにないのでしょうがなく上京してきました。人の多さに驚いています。田舎もんですが、色々とよろしくお願いします」

 簡単な自己紹介を終えた俺は席に着く。

 住んでいた田舎は家から通える距離に高校なんてものは存在しなかった。今のご時世中卒なんてシャレにならないほど人生に息詰まることは確実だ。

 家はそれなりに儲けがある農家をやっているのだが、上に兄が二人いる。よって三男の俺が継げる可能性なんて無いに等しい。

 だって、継いでも良いかなと思うほど儲かってるわけで上の兄なんてすでに家の畑で働いているし。

 それゆえに、学を積んでサラリーマンにでもなるしかないのだ。

 と言うか、たぶん遺産相続の時に超揉めるんだよなあ……。


 それからも、自己紹介は続き順々に各々の自己紹介を終えていく。

「よし、これで全員か。それじゃあ、今日はもうすることがないから終わりにするか」

 先生のもうすることがないから今日はお開きという発言。

 それにより呆気なく高校初日は終わりを告げられたかと思いきや。


「なあ、俺は小野正樹っていうんだけど、関崎? だっけか。ちょっと帰る前に話そうぜ?」

 話しかけてきたのは後ろの席に座っていた小野おの 正樹まさきという人物。

 髪は短く切り揃えて、体系は服の上から見る限り普通。

 しかし、手の血管がすごく浮いてるし、脱げばそれなりでスポーツをしてそうな人だ。


「ん、関崎でも光史でも好きなほうで読んでくれ。答えはもちろんOKだ」

 話しかけられたのだから誘いに乗って仲を深めない手はない。

 ゆえに俺は小野正樹という人物と話をすることにした。


「俺、あんまりこの高校に知り合いがいなくてさ。スタートダッシュを決め込まないとボッチになっちまうからな」

 どうやら小野正樹はこの高校に知り合いは少ないらしいのだが、


「俺のほうが知り合いがいないと思うぞ? 田舎から来たわけだし」


「まあ、慣れない環境だと思うががんばれや」


「ああ、頑張るさ」

 こうして、小野正樹という人物のおかげで好調な高校生活のスタート感を感じさせられる。

 内心では一人で悲しい高校生活を送るかもとかネガティブだったし、本当にありがたい話だ。


「田舎から出て来たってことはお前って一人暮らしてんのか?」

 話はまだ続き、今度は田舎から出てきたという事を自己紹介で知った正樹が、今はどこに住んでいるのかという質問をしてきた。


「ああ、してるけど。気軽に家にはくるなよ?」


「なんでだ? ああ、そうか。たまり場にされちゃ困るもんな」

 察しの良い小野正樹は高校生で一人暮らししていることを知られたらたまり場にされかれないと気が付き、嫌味に感じていないことを伝えてくれた。

 なんて良い奴なのだろうか。


「そういうことだ。家に入り浸られるのは少し厄介だしな」


「なるほど、まあたまには家に入れてくれよ?」


「たまにならな。でも、毎日のようには来るなよ」


「で、話は変わるけど。お前って普段何してんの田舎って遊ぶところってどうなんだ?」


「田舎には気軽に遊びに行ける所なんかないし、ゲームをして休日はよく過ごしてたな」

 自分の中学生までの記憶をさかのぼり休日に何をしていたのか思い返してみると、気軽に遊びに行くことのできない田舎。そんな環境なために家に居る時は日々ゲームをして過ごした日々のことが思い出される。

 って、思いっきり暗い日常だったな……。


「もしかして、ゲームはするけどゲームセンターとかも行ったことないのか?」


「いや、一度だけ行ったことはあるな遊んではいないけど」


「じゃあ、今度行こうぜ。せっかく都会に来たんだし田舎じゃできないことを体験させてやるよ」


「おう、それはありがたい。小野? もゲームはするのか?」


「正樹って呼んでくれていいぞ。ああ、俺もよくゲームはするぞ。ゲームをしない男子なんて今や全然いないだろ」


「そうか、話は変わるけど正樹は部活には入るのか?」

 こちらからも話題を振る。

 受動的ではだめだ。能動的に行かないのはもったいない。


「ああ、入るぜ。サッカー部にな」


「へー、俺はあんまり運動とか好きじゃないから入るとしても運動しないやつかな」 

 運動部は疲れるし、あんまり興味が……。

 でも、部活に興味がないというわけではない。文化系には入るつもりだ。


「俺的におすすめは写真部だな。この学園のマドンナが入っているし」


「へー、名前はなんて言うんだ?」


「確か、唐箕とうみ りんって名前だった気が……」

 

「げ、じゃあ、なしだな」

 『唐箕凛』という名前に反応してして苦い顔を浮かべてしまう。

 というか、あいつってやっぱりそう言う風に扱われてるんだな……。


「ん? まさか知り合いなのか」


「ああ、同郷の仲だ」

 唐箕 凜という人物はご近所に住んでいた人物である。近所といっても車で15分は離れているのだが、近所に同年代の子がいないということもあり、比較的年齢の近い俺と唐箕凛は学校に一緒に行っていたのだ。

 ちなみに、小学校中学年まではもう一人、一緒に通っていた子がいたりする。

 しかも、金髪美少女のハーフな子だ。


「なんでだ? お前の数少ない知り合いなんだろ?」


「ああ、そうだけど。よく、程度はそこまでじゃないけど、大層に言えば色々とからかわれてな。今もメールとかでされてるし」


「そうなのか? 実際どんなのを受けてんだ?」


「まあ、会うたびに俺に好きなやつはいるのか? とか。もし、私と付き合ったらなにしたい? とかいろいろとな」

 その瞬間、小野正樹は目を点にする。

 そんなに驚く要素ってあったか?


「なあ、それって。お前のことが好きなんじゃ……」


「は? そんなわけないだろ?」

 つい、強めの口調で即答してしまう。

 出会ったばかりなので強めな口調で言ってしまったのはダメだったな。


「他にはどんなやり取りをしてるんだ?」


「ああ、昨日はなんか面白い事あった? とかまあ、いわゆる世間話をしてたんだがな、親切に一日中ゲームをしてたって言うと、少しは外に出たら? とかおちょくってくるんだぜ。ひどいだろ?」


「うん。分かった。お前は写真部に入るべきということがな!」


「ええ……。なんで今の話でそんな風に言えるんだよ。絶対入ったらからかわれるし嫌だからな」


「お前、今話していたこの話、ほかのやつに言うなよ? それも熱心的な唐箕 凜ファンにな。後ろからぐさりと刺されてもおかしくないぜ」


「ああ、そうだな。俺みたいなやつが学園のマドンナとかかわりを持っている時点で嫉妬の対象になるもんな」

 はあ……やれやれと言った感じで正樹はこちらを見てくる。

 うーん。そんなに俺に対して凛が好意を持っているように見えるのだろうか?


「人も減ってきたし帰るか。また、明日じっくり話そうぜ」


「そうだな。軽い自己紹介もできたしな。帰るか」


「そういえば、お前どこら辺に住んでるんだ? この近くか?」


「一応、電車で二駅のところから徒歩10分くらいのところだな」


「へー、もっと近くに住もうとは思わなかったのか?」


「まあ、それもあったけど。いろいろ条件を付けると案外高校の近くに住むなんてできないんだよ。特に、家賃とかも駅から一駅二駅離れればその分の定期を買ったとしても、ここら辺の部屋よりもいいグレードの部屋に住めたりとか」

 家賃のわりに本当に良いところに住めたと思う。

 まだ、昨日着いたばかりで何も片付いてないけど……というか、ギリギリまで春休みを向こうで過ごすのは間違いだった。


「駅ということは俺は自転車通学だから方角は違うな。じゃ、先に帰るな」


 そういって正樹は本当に去っていてしまった。一人残された俺もこの場に残る必要もない。

 というわけで席を立ったのだが、


「ちょっと。待ちなさい!」

 後ろから一人の女の子に呼び止められてしまうのである。


「どうしたんだ?」


「さっき、小野君と話していたことは本当なの?」

 おそらく、凛と幼馴染と言える間柄と話していたことぐらいしか指摘されるようなことはないし。そのことなのだろう。

 ま、クラスメイトだし話に付き合うか……。


「そう。じゃあ、あなた私と一緒に写真部の見学に行ってくれない?」

 話しかけてきた女の子の発言は妙にとげとげしい。とっつきにくさを感じるものの、無視するわけにはいかず理由を聞く。


「なんでだ? 一人でいけないのか?」


「はあ? そんなわけないでしょ。実はね写真部って今年の一年生でかなり人気があるっぽいのよ。そこで、あんたがいれば必然的に凛様とお近づきになれるっていう寸法よ」


「様付けって凜ってなんかえらいのか?」


「はあ? 凜? なに呼び捨てにしてるのよ。あのお方は崇高な人なのよ」


「へー。じゃ、俺帰るね」

 本当にファンっているのかと内心思いながら、これ以上付き合う道理もないと思い、早々に切り捨てて帰ろうとするのだがそうはいかないようだ。


「って、で、一緒に来てくれるの?」

 帰ろうとするも後ろから話しかけられてしまう。


「いや、一人で行けよ」


「この私の誘いを断るの? ひどいことにあっても知らないわよ」


「俺、本当に悪気はないけどまだあんたのこと名前すら覚えてないんだけどなあ。そんな風に言われても……」


「はあ、もう一度自己紹介してあげる私の名前は坂井 衣里 (さかい えり)っていうわ。趣味は写真を撮ることね。以上よ」

 というか、よく見ると顔立ちは整ってるし鼻は高くてスタイルも良くて胸もそれなりにある。

 ただ、致命的に言えるのは黒髪が似合わない顔をしていることくらいだ……。


「なるほど、写真つながりでの凜のファンということか。坂井衣里どこかで聞いたことのあるような名前の気が……って一度は自己紹介で聞いたんだし当たり前か」


「そうよ。あのお方がとった写真はいいものよ。コンクールでは人の顔さえ撮っておけば大体入賞する中一人だけ風景を撮ってそれで入賞したお方よ」


「へえ、そうなんだ。じゃ、仲良くなれるように頑張れよ」


「っ、帰ろうとするんじゃなーい。お願い、一度だけでいいから一緒に見学に行っててば!」

 つんつんな態度なのが苦手であまりにも消極的な態度をとっていたせいか少しすね気味になってしまう。


「しつこいな。分かったよ。ちょっと待ってろ」


「え、なになに。お願いを聞いてくれるの?」


「あ、もしもし。俺だよ。俺。ちょっとお前の写真が好きなやつと同じクラスになっちまてさあ、お前を紹介してくれってうるさいから。ちょっとだけ話してやってくれないか?」

 取り出した携帯電話で凛と会話をし始める。

 ま、悪い奴じゃなさそうだし、間を取り持ってやるかっていうわけだ。


「え、もしかして……」

 行動に胸を躍らせている坂井 衣里は今か今かと待っている。

 そんな彼女に俺は自分の携帯を手渡した。


「もしもし、坂井衣里です。私、唐箕凛さんが取る写真が好きです。あの、風景は今見ても忘れられません。急にお話をして貰えるなんてありがたい話です」

 大事そうに俺の携帯電話を受け取った衣里は通話を始める。

 てか、口調が違くない? 俺の時とさ。


『あはは、そっか。うん、うん』

 携帯から漏れ出す音からは凛の声が聞こえて来る。

 あ、そう言えば風が強くてよく聞こえなかったときに音量を上げてそのままだった。後で、直しておこ。


「ところで、凛……先輩は覚えてますか? 私の事」


『もちろん。てか、そう言う聞き方っていう事は、まったく酷いね』


「本当です。酷い男だと思います』


『うんうん、後で私からも叱っておくよ。エリーちゃん。後、明日の部活見学の時に光史を絶対に引っ張て来てね。じゃあね!』

 凛は親しみをもってもらうためにエリーとあだ名みたいに呼んだ当たり、相当に気に入られたのか?

 プツンと電話は切れたにもかかわらず、今起こっていたことに現実味がないのか呆けて光史の携帯を手に握ったままであったのを光史はよく思わず、手から引きはがした。


「な、俺が行く必要ないだろ? じゃ、俺は帰るから」


「うん、明日絶対に連れてきてねって言われたからそういうわけにはいかないです……わ!」


「な、お前、恩人に対してそんなことをするのか…」


「ええ、凜さんのお願いは絶対なんだから」

 今度はさん? なんかキャラがぶれまくりだな。


「まあ、いいか。一緒に行く」

 どうせ、凛の事なら行かなければ向こう側から来るに決まってる。

 俺の人生はあいつに握られているのだろうか? 安寧であったのは凛と離れ離れになっていた去年だけか……。


「じゃ、また明日な」


「ええ、また明日です……わ」

 こうして新たなクラスメイトと別れた俺は家路につくのであった。



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