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その六

 算数の教科書をペラペラ捲って分かったことがいくつかある。

 まず、ここの世界は割り算と掛け算の概念がほとんど無いに等しいらしい。似たようなものはあったが、それもなんとも回りくどい感じのもので、一行で済みそうな計算が難しく解釈されていた。足し算と引き算はあったが、この世界はその名では呼んでいないとか。ではなんと呼んでいるか? 二つ合わせて『アデルの法則』というらしい。教科書によると、アデル・ミッドキラーさんという偉大な学者さんが見つけた法則だから、その名前が付いたそうな。かっこいいね、アデルの法則。ただの足し算と引き算なのに。

 次、どうやら"昔の世界"でいう中学校レベルの問題は、ここの世界では数少ない学者が今一生懸命研究している大きな壁として存在している、とのこと。マジで言ってる? と、つい頭を抱えたが、何回教科書を往復しても小学校レベルのものしか出てこない。しかもこの教科書は貴族の方々が通う都市学園で使用されているもの。最早真顔になるしか無かった。

 何故この世界はこんなにも未発達なのだろう。少し考えて、直ぐに答えが出た。それは、"魔法"で全て解決してしまうからだ。そう、わざわざ頭を動かさなくても、魔法があればお金の計算もしてくれるし建物の建設だってしてくれる。だから数学が発達しないのだ。いや、魔法万能すぎませんか。勿論、全ての人が魔法を使える訳では無い。もっというと、魔法を使う力が強いほど位が高くなる。だから庶民は大体魔力持ちなんて殆ど居ないし、逆に貴族は殆どが魔力持ちだ。偶に魔力を持って生まれる庶民もいるが、そういう場合は即座に貴族の養子として迎え入れるケースが多い。また、貴族で魔力を持っていない場合はどんなに上の階級だろうと底辺まで落とされる、そんな仕組みでこの世界は成り立っている。もし、魔力を持っていない人々でそれなりの発想力がある者がいたならば、もっと庶民層の暮らしも豊かなになっていたかもしれない。いや、実際にはそういう人もいたのだろう。だが、そもそも庶民には発言権はほぼ無いに等しい。いくら説を唱えても、耳を傾けてくれる心優しい貴族は、多分居ないだろう。


「なんと残酷な世界なのだろう……」

「アイリス?」

「あ、いや、ナンデモナイデス」


 おっといけない。思考が空彼方へと飛んでしまっていた。

 とりあえず現状を知った上で、普通だったらありえない解き方をレヴィウスに見せてしまったものだから、どう説明するかに頭を使うことにした。


「私の両親、結構頭が良かったの。この解き方も父が教えてくれてね。庶民層ではアデルの法則のことを足し算、引き算って呼んでいるの。あと他に掛け算と割り算っていうのもあるんだよ」


 秘技、うちの両親頭良かったんだー! 作戦。ネーミングセンスについては言及しないように。

 先程も言った通り、庶民の方々には一般的に説を提唱する許可が与えられていない。だからきっと庶民の間だけで広まっている数学の定理みたいなものだってあるだろう。ということで、庶民、実は頭いいんじゃね? 説が濃厚になればいいという切な願いをかけてみた。


「ほう……とても興味深いですね……」

「とっても簡単よ!」


 そういって私はレヴィウスに色んなことを教えた。掛け算と割り算の仕方とか、九九を使えばあっという間に計算ができること、なんならこの四則演算をどうやって社会に生かすかもペラペラ喋った。


「この四つさえ覚えておけば魔法道具無しでお金のやり取りが出来るし、もうちょっと高度な計算が出来れば物の設計図だって描けるんだよ」

「なるほど……庶民層の発想力はすごい……これはこちら側の世界でも何か役に立つことがあるかもしれませんね」

「魔法が使えない私たちは、貴方たちには想像出来ないような苦労がある。それをどうにか楽に出来ないかって考えた結果がこういう所に出ているって感じだね」

「我々は下の層の者達を、下に見すぎていたのかもしれないな……」


 お? レヴィウス、いいこと言った! こうやって少しでも、私たちに目を向けてくれる人が出来たらいいのに。……今度こそ無事に生き延びられたら、そういう人を生み出す職業に就きたいな。若しくは学者にでもなったら、私凄い偉大な人になれるのではないだろうか。

 今まで見えてこなかった、未来のことが少しずつ鮮明になっていって、どんよりしていた心の曇りが、少し晴れたような気がした。

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