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その四

「アイリス・ハーバリー。今日からの君の名前だ」

「はい」

「今は慣れないと思う。少しずつでいい。僕達の事を知っていってくれ」

「はい。これからご迷惑をかけることもしばしばあるかと思いますが、よろしくお願いします」

「ははっ。なんでそんな堅いんだ。僕達は家族になったんだ。もっと肩の力を抜きなさい」


 そう言ってギルシュさん――改め、お父様は私の頭に大きな手を置いたが、イケメンに耐性がついてない私はこの行動にさえ発狂しそうになる。

 えーと、この度、ギルシュ・ハーバリーの娘となった私、アイリス・ハーバリーなのだが、思ってもいなかった出来事に頭が追いついていないらしく、義父が喋ることに理解もしないままただ頷くだけの作業が続いている。


「さて、生活に必要なものを用意しなくちゃね。アイリスの部屋はどこにしようか」


 あれこれ使用人達に指示を出すお父様。やることがない私は、とりあえず状況整理は後でしようと、現実逃避の為使用人の顔を見ながらお父様に教えてもらった名前を心の中で復唱することにした。

 ハーバリー家の屋敷は貴族の中でも大きい方に部類するが、住んでいる人はお父様と使用人さんだけだ。使用人さんも本殿の方ではなく使用人専用の寮みたいな所に住んでいる為、実質お父様一人だ。まさかお父様、その美貌を持ちながらも独身なのかと思ったのだが、聞いてみたところ結婚はしてたらしい。だが、お父様の愛した、もしかしたらお母様になっていたかもしれないその人は流行り病にかかってしまい、若くして永い眠りについてしまったと。このことを聞いた時の私の顔はすごいことになっていたとお父様は言っていた。その後いけない事を聞いてしまったと慌てて土下座して、あまりにも勢いつけて頭を下げたもんだから床と頭ごっつんこしてしまったのは言うまでもない。痛かった。


「服も用意しなきゃね。仕立て屋を呼んでくれ」

「畏まりました」

「妻の私物の中にアイリスが使えそうな物あったかな」

「探してまいります」

「あっ、アイリス」

「はいお父様」

「ぐふぅ……! なんと良い響きなんだっ!」


 ……。お父様が若干違う人に見えたのはきっと幻覚。


「ごっほん。あー、アイリス。君に一応従者をつけようと思う」

「従者……ですか」

「屋敷の中は安全だと思うが、いつ君が追われていた奴らが襲いかかってくるかわからない」

「そう、ですね」


 そうだ。色々環境が変わってすっかり忘れていたが、現在進行形で私に危機が迫っていることに変わりはないんだった。うぬ、従者か。

 フワリと微笑んだお父様が、これから私の従者になるであろう人の名前を呼んだ。そして、その人がフッと隅の方から現れる。

 頭の方から、ドクッという音が聞こえた気がした。


「今日からこの子が君のことを護ってくれる。レヴィウスくん」

「レヴィウス・ドナーと申します。」


 お父様から紹介された人を見た時、私は脳が脈打つように揺れた感覚に襲われた。あれ、なんだこれ。"昔の記憶"が、何かを訴えかけているのか……?

 必死に頭が何かを訴えようとしているのは分かるのだが、それが何かはわからない。霧がかかったようにぼんやりとしている。数秒フル回転させて考えたが、思い出す気配がないのでこれもまた、後で考えることにしよう。

 しかしまあ、眩しい! またもやイケメンが登場か。ここの世界はイケメンを大量量産しすぎなのではないのか。そろそろ平凡をぶっ込んできてもいいんだぞ。私の目がそろそろ焼けてしまうから切実に。

 少しくすんだ金色の髪……。綺麗だなあ。美しい髪を鎖骨辺りまで伸ばして一つに纏めているから、清楚感が半端ないのである。ごちそうさまです。


「このレヴィウス・ドナーが命に替えてでもお嬢様をお守り致します」

「……えっと、アイリス・ハーバリーです。これから、よろしくお願いします」

 

 はい、よろしくお願い致します。そう言った彼の表情は、どこか懐かしげだったのは、何故だろう。


***


「アイリス。ここが君の部屋だ」

「はい」

「とりあえず最低限の物だけ用意させたが、何か必要なものがあれば言ってくれ」

「わかりました」


 お父様にもんのすごい豪華なお部屋を頂きました。これ本当に自室にして良いんですか。良いんですね。ありがとうございます。

 とにかく広い。広過ぎる。あと全ての家具の装飾はとてつもなく豪華。あとベッド大きい。私、この部屋使いこなせる自信がありません。


「お嬢様」

「あ、はい」

「旦那様から屋敷のご案内を命じられましたので、僭越ながら私がご案内させていただきたいと思います」

「はい、よろしくお願いします」


 レヴィウスさんの後ろに付いていきながら、屋敷のあらゆるところを教えてもらった。正直半分覚えられたかなぐらい部屋が多い。いや覚えられんわ。諦めるよね。


「あ、そうだレヴィウスさん」

「はい、いかが致しましたか」


 私の前を歩いていたレヴィウスさんがクルッと私の方を向いてくれる。


「その、お嬢様呼び恥ずかしいのでアイリスでいいですよ」

「アイリス様…ですか」

「様もいらないです。アイリスって呼んでください」

「ですが」

「堅苦しいの苦手なので喋り方も軽い感じで」

「か、軽い感じ…ですか」


 おうおう、レヴィウスさん困ってらっしゃるぜ。すまんなレヴィウスさん。でもやっぱりお嬢様って呼ばれるの恥ずかしいんだ。そして年上の人に敬語使われるのも恥ずかしいんだ。一応昨日までは庶民だったんだ。これぐらいは許して欲しい。切実に。


「……では、アイリス様もレヴィウスとお呼びください。敬語もなしで」


 なん…だと…?

 まさかそう来るとは。私のこの敬語を抜けと申すのかお主は。


「二人だけの時で良ければ、アイリスと呼んでも宜しいでしょうか」

「あ……うん。お願いします」


 はい、と言いながら微笑むレヴィウスさ……レヴィウスが美しすぎて口から涎が垂れるのは十秒後のことだった。

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