紅き夜
血がちょいちょい流れます。
休憩終えて、すぐさま俺達は馬に乗り出立した。野原を越え、再び木々の生える林道を駆ける。
長時間の移動によって、空は青く広がる晴天から漆喰のような黒に移り変わっている。
「坊っちゃん、もうすぐミルア隊長が居る村に着きますぜ!」
馬に騎乗しているので声を出さず、ムフムフと呻き声で返す事しか出来なかった。
道をかなり真っ直ぐ進むので村は見えていないがある方角は大体予想がついた。
もうすぐミルアに会えると思うと気が緩んでしまう。ゲイル達と一緒にいるからと安心はしていたと思うが、やはりどこか気を張っていたのかもしれない。
頼りなくは無いんだけど安心感が違うのよね。
思っていた事は私兵達も同じだったようで皆安堵しているように見える。実際、この人数で俺を護衛だもんな、負担かけてマジすみません。
でも、俺も結構戦えると思うのよ?人を殺せと言われたら出来るか分からないけどさ、、、
空気が穏和になりつつある時、
左右に展開していた私兵から奇妙な報告で空間が重く張り詰める。
「あの、薄く見えるのは、、、黒煙でしょうか?」
馬を止まらせ、私兵が告げた夜空を見上げる。
目を細めて視線を研ぎ澄ますと、確かに細く黒い煙が登っているのが分かる。
黒煙って事は火事?キャンプファイアーとかだったらそれはそれで良いんだけどさ。
黒い煙に悪い予感しかしない。
「ボヤ騒ぎ位だったら良いんだが、、、ミズキ様少々荒くなりますがしっかり捕まっててくだせえ」
「あ、うん大丈夫。何が起こってるか分からないけど、村が心配だ急ごう!」
「ハッ!」
掛け声を上げて先頭で止まっていた私兵が駆ける。続いてゲイル達も駆けるんだけど、さっきまでが何だったんだって思える程に早い。
競馬だったらかなり盛り上がるんじゃないだろうか、けど俺は乗ってるだけでかなりしんどいです。
大丈夫と言った事への後悔と村がどうなってるか心配で心がサンドイッチ状態。押し潰されそう、、、
心に重圧が掛かっているが、ペースを上げてからそう経たずして村を視界に納める事が出来た。
村の明かりにしては、やはり明る過ぎる!
村を赤白く照らしている原因は村近の民家や小屋が燃えているからか、、、煙の元はあれだな。
それに、風に血の匂いが混じっている。
舌を噛む恐れなんて、忘れてゲイルの腰に手を回した。
「ごめんゲイル、これ借りる」
「えっ、、坊っちゃ、、、」
声音が、変わったミズキの言葉にゲイル驚きながら下を向くがそこに主はいなかった。
~ミルア~
「待て!娘に手を出すな!」
後ろに庇っていた、村娘が下郎共に引きずられて連れ出される。
「おいおい、楽しみを奪うんじゃねえよ」
人質さえ居なければこんな奴ら、、、
この盗賊達がやって来たのはほんの数刻前。
まさか、ミズキ様を捜索するために拠点としていた村に押し入って来るとは思わなかった。
私の責任だ、、、この辺りには廃れた廃鉱を拠点としている盗賊団がいると情報を知っていながら、焦って各地に兵を分配し、ここの防衛を手薄にするなど、、、
それでも、襲われる前に発見し迎え伐つ為、村の教会に村人は集まって貰っていたが。
まさか逃げ遅れた少年がいるなんて。
「分かった、、、私を好きにしろ!だから、娘からその薄汚い手を離せ!」
汚らわしい目でなめ回す様に体を見られる。
「良いね~!その言葉がそそるぜ~。まずは自分で鎧を外して貰おうかぁ?」
私は、正直言って嫌だ、、、こんな下種共の言いなりになるなんて、今すぐに逃げ出してしまいたい。
けれども、ミズキ様だったらどうする?決まっている娘を助ける為に自分を犠牲になされる。
だからこそ、、、私は、震えながら鎧を外していった。
軽めに造られたはずの胸当てが地面に落ちた時、重い音がしたように感じられる。
「別嬪騎士さんが見してくれるってよ!鎧を脱いだんならその着衣も早く脱げってんだ!」
「ひゅーひゅー」
囃し立てる盗賊達がわらわらと円をつくるように集まってくる。
「ミルア隊長止めてください!」
部下の一人が声を上げるが、近くにいた盗賊に腹を殴られ意識を失う。
「部下に手を出すな!いいかお前たちは動かないでくれ、、私は平気だ、、、」
部下のルルが苦虫を噛み潰した表情に似た顔で、立ち上がろうとする自分を抑えてる。握り拳を作った手からは血が滴っていた。
「隊長、、、」
私には守るべき者達がいる。
肌を晒すくらいこの身で受けよう、汚されようと朽ちぬ意思を持てばいいのだ、、、
意思を固め、甲冑の下に来ていた薄着に手をかける。肩まで下ろしたところで私の意思とは裏腹に手が衣服をおろそうとしない。
ただ見せるだけだ。だから、動け、、、お願いだから動いてくれ、、、
頬を伝う何かが流れた気がした。
私が硬直すると、盗賊は露骨に顔をしかめてから、卑猥に満ちた表情で近づいてくる。
「おいおい、焦らしてんじゃねえよ!さっさとしねえと俺たちが、、ぶべぇ」
盗賊が全てを言い終える前に口は閉ざされた。激しい衝突音と衝撃が欲望に染まっていた盗賊を襲ったからだ。
そこには、この場にいるはずのない人物。
「ねえ、俺たちが何だって?」
殴った者は顔を歪ませ苛立たしくそう吐き捨てた。
盗賊を殴り、足で踏んづけて立っている者。それは、先日から行方がわからなくなっていたミズキ様だった。
目を引くのは、あの美しい金色の瞳では無く蒼色の瞳。手には半身程の剣を携えている。なにより、ミズキ様とは思えないかけ離れた気迫を纏っており、空間が重圧に飲まれたかに感じた。
「ミ、、ズキ、様、、?」
呟いた言葉は、私の声とは思えない程に小さく、、、当然のごとく盗賊達の声でかきけされた。
「かしら!おめぇらなにしてんだやっちまえ!」
何人かの盗賊が突然の乱入者を排除しようと、斧や小振りな短刀を振り回し、横凪ぎの一撃や頭上からのは一振りをかまそうと己の得物を持ってしてミズキ様に群がった。
「生かしはしない、、、だけど殺しもしない、、、ただ、、壊れろ」
ミズキ様の普段とは程遠い低い声と同時に盗賊達の首が切り落とされる。
何があった?今の一瞬で、、、
わけもわからず頭を失った首から血が、噴水が湧き出るように吹き出していた。
あまりの光景に、愕然とする盗賊達に対してミズキ様は顔を俯かせ静かに立ち続けていた。
呆けから我を取り戻し怒り狂った盗賊の一人が剣を震わせて、失った仲間に涙を流し叫ぶ。
「この化け物が!」
首から上が無くなった骸の中心でミズキ様が私兵に配付されている剣を紅く血で染めなに言ってるんだと首を傾げている。
「何を言ってるの?化け物なんて人に言っちゃいけないんだよ?それに、殺してないし」
的外れな事を起こるミズキ様の言葉にはおかしな部分があった。気がついた盗賊達は馬鹿にされたと思ったのか額に青筋をたてて怒り狂って騒ぐ。
「首が無くなって生きてる奴がいるものか!仇をとってやる」
「はぁ~もうすぐかな」
ミズキ様は一体なにを?
騒ぐ盗賊達と同様に、死んでいると私も思った。
骸と化した盗賊達が突如起き上がるまでは、、、
静まる辺りの事態は突然変わる。吹き出していた血が止まり傷口を光の陣が包むと頭が復元され始めた。
「これは一体、、、」
何が起こった!?あやつらはミズキ様に切り捨てられ確かに死んだはず
死人が蘇って皆が呆気にとられている間に、ミズキ様が剣を振りかざす。起き上がった盗賊の腕を何の迷いも無く切断した。
あまりの痛みに悲鳴を出して復活した盗賊が一人二人と又も倒れ伏す。
そして、光の陣によって息を吹き返した。
寸前の記憶を持った盗賊達は転けながら離れようと惨めに地面に這いつくばって逃げる。
背を向けた後ろから、流れる様に、刃で身体を切り裂かれていった。
「もう、、 や、、めてくれ!」
根を上げたのは、見ていた盗賊が先だった。武器を捨て、両手を挙げている。
広場に集まる盗賊が武器を捨ててもミズキ様の容赦ない攻撃は止まらない。
「お願いだ!これ以上は、止めてください!」
ミズキ様にすがる盗賊を見てミズキ様は呆れて、ため息を吐く。
「その建物の影で身を潜めてる盗賊さんが降参しない限り続けるよ」
建物から六人の盗賊が姿を現し、武器を地面にそっと置いた。出てきたのを確認するとミズキ様は地面をのたうちまわっていた盗賊に剣を刺し縫い止めて笑顔を作る。
「これで大丈夫。ミルア後は頼んだ、、よ、、、」
「ミズキ様!」
急いで体が傾き倒れるのを支えた。
ミズキ様が怪我をなされたのかと思えば、ただ小さく寝音をたてて寝ていらっしゃる。
とりあえず、盗賊達の戦意が戻る前に部下に指示を出し捕縛させた。抵抗無く大人しく捕まってくれるお陰で被害が出ず、無事纏めて縛る事が出来た。
「ミズキ様、一体どうなされたのですか?」
私の問いには、答える者はおらず、空気に溶けて静かに消えていった。




