再会と別れ
走ってきたゲイルに抱きすくめられた。涙やら鼻水やらが色々な液体が飛び散ってるし、ちょっとした怪力で体が軋む音が聞こえる。
「ちょっとゲイル痛い、痛いって!ぽっくり逝っちゃうよ!」
「へっ?ああ、すんません坊っちゃん。あまりにも坊っちゃんがご無事なのが嬉しくて。どっか怪我とかしてませんかい?」
ゲイルが俺の体を調べだした。
ペタペタと体の至るところを確かめてるのは分かる。触った所を何往復するのも分かる。けど、上着の中に手を入れるのは必要な事なの!?
「大丈夫!ちょちょっと!どこに、、ひゃ!くすぐったいし、恥ずかしいから!」
ゲイルを諌めつつ、乱れた服装、、、ぼろ布並みを整える。
ほら、列に並んでいた商隊や冒険者の方々が見てるじゃない。恥ずかしいったらありゃしないよ。でもどうしてお姉さん達は揃って目をそらしているんだ?
ああ!俺の身体なんて見たくないってか、、、なにそれ落ち込む。
「坊っちゃん?泣いてるですかい?」
「泣いてないし、めっ目にゴミが入ったの!それより、ゲイルがどうしてここにいるの?」
普段ならゲイルは公爵家で訓練に励んでいたり、街に遊びに行ったりしていた。
そんな、彼が公爵領とはいえガゼルまで来ている。
「坊っちゃんの捜索の為に来たんですぜぇ、今あっしら私兵は公爵領の街や村に兵を派遣してんでさぁ」
やはり俺が姿を消したのは大事になっていた。拐われてから二日ぐらいか。今回は、俺自身の意思で姿を隠した訳じゃないけど、今度から自分でどっか行く時は父様に言っておこう。
「あちゃー皆に心配かけちゃったね。これ以上皆に迷惑かけられないやゲイル、公爵家に帰ろうか」
とりあえず、帰って無事な姿を見せなきゃ。
ゲイルを回れ右させて馬の方へ行こうとしたら、困った感じでゲイルが動こうとしなかった。
「そうしたいんですがー、坊っちゃんの今の格好で公爵家に帰ると待女やミルア隊長にあっしが怒られちまうっすよ」
帰る事に頭が一杯ですっかり失念していた。このままルチルに会ったら、ぶっ倒れるかもしれない。
格好をどうにかするのに、さっきの優男さんから服を借りるのが先か。
「なら、さっき服を貸してくれるって人が一緒に居たんだけど、あれいない」
門近くまで、横に居てくれた優男の姿が見えない。
「ねえ、ゲイル、、、は分からないか。さっき一緒に居た男の人が何処に行ったか知らない?」
ゲイルの後に、馬を連れてやって来た。他の私兵の皆に聞いてみる。
申し訳なく首を横に振るう人が数人いたが、その中の一人が優男さんを見たらしい。
「先程の衛兵でしたら、ゲイルとミズキ様が抱き合いをなされていた時に、あちらの中へ入って行きました」
とってもありがたい情報なんだけど、ゲイルと抱き合いって、、、他にもっと言い方が、ね?あるじゃん?
その、、、情報をくれた私兵さんに申し訳ないから言わないけど。
「うっうん、ありがと。あそこに入ったのか。ちょっと待っててもらってもいいかな?大勢で行くと迷惑になっちゃうからさ」
「なら、護衛としてあっしがついて行きますぜ」
私兵があちらと言ったのは、門の近くにある扉だった。恐らく、衛兵専用の入り口なのだろう。
他の私兵をその場で待たせ、ゲイルと情報をくれた私兵を伴い扉の前まで来た。
「じゃあ、ノックするよ?」
「危険があるとは思いませんが、一応坊っちゃんはあっしらの後ろにいてくだせぇ」
ゲイルにそう言われ、一歩後方に下がる。そして、扉をノックしようとゲイルが手の甲で叩こうとしたら、扉にはぶつからず空を切る。
何故なら、扉が内側から開いたからだ。開いた間から、驚いている優男さんの顔が覗いていた。
「一声おかけした方が良かったですね。お待たせしてしまって申し訳ない。公爵家様が着てくださるには粗末ですが、良かったらこちらをどうぞ」
俺がゲイル達と話している隙に取りに行ってくれたのか優男さんの腕には、綺麗に折り畳まれた服がある。
それに、口調が子供にする話し方から公爵家にする話し方に変わっていた。
俺的に、そのままで良かったのに~。
「そんな粗末だなんて、とってもありがたいですよ!優男さん、、、じゃなくてえっと、、、」
ここにきて、ちゃんと名前を聞いていなかった事に気がつく。
「名乗っていなかったですね、私はビルと申します。ふふ、優男とは私に過ぎますがありがとうございます」
心の中での呼び方がばれて、なんだか恥ずかしい。
誤魔化す為にも渡された服に着替え始めた。
ぼろ布に成り果てた、上着を脱ぐ。最近筋肉が付き始めた上半身を晒しつつ、優男さんから渡された上着を着た。
服は、兵士が休暇を満喫するときに着るような、緩い中に軍服っぽさがある。着心地もなかなか良い。
次に、穴が開いたり、森の泥や土で裾が茶色になりかけているスボンを脱いで、黒色の長スボンを着た。
やっぱり、サイズが俺にピッタリだ。
裾がだぼっとしてる訳でもなく、短い訳でもない。
さらに、優男さん改めビルさんは、靴まで用意してくれていた。
方靴無くしていたから、とても助かる。
「何からなにまで、用意してくれてありがとうございます。サイズもピッタリですよ」
「その服は、昔私が着ていた物なんですよ。サイズが合ったようで良かったです」
通りで、落とし物にしては綺麗な訳だ。何かお礼しときたいな。お金は今持ってないし、後日届けるとしよう。
「お礼は、家に戻ったら届けさせます」
「お礼は結構ですよ、申し訳ないくらいです。公爵家に無事にお帰りできるよう願っております」
ビルさん、物凄くいい人。女だったら惚れてしまうよ。やっぱりお礼は送るのは決定だな。
とりあえず、この場は引き下がっておく。ビルさんに再度感謝を述べて、私兵を待たせていた場所まで戻ってきた。
「待たせてごめんね。服も着替えたし、帰ろっか。ゲイルー、馬に一緒に乗せてー」
急いで捜索するのに、馬は人数分しかなかった。だから、誰かに一緒に乗せてもらう必要がある。
わりと仲の良いゲイルが適任か。
「あい、坊っちゃん。なら前に乗ってくだせえ。しっかり捕まっててくださいよ?あっしが怪我させたんじゃ、袋叩きにされちまいます」
笑いながら言うゲイルに持ち上げて貰って、ゲイルが連れてきた馬に騎乗する。
「分かってるよ、ああ、手が滑って落っこちそうだなー」
馬に跨がって軽く冗談で呟いたら、ゲイルの顔から血の気が引いていた。
「ぼっ坊っちゃん!笑えませんで、その発言は笑えないです!」
「はは、冗談冗談。でも、そんなに皆怖いの?」
俺には、普段優しいルチルやミルアが怒ってゲイルを袋叩きにしている姿が想像できない。
問いながら見渡したら周りの騎乗した私兵の皆も、ゲイルに負けず劣らず顔色が揃って真っ青だった。
「あっうん、なんかごめん。帰ろっか」
「急ぎますから、舌を噛まないよう気を付けてくだせえ。ハッ!」
掛け声と共に手綱をしならせ、馬に合図を送る。ちょっとした助走の後、馬は馬脚を素早く動かし蹄を踏みしめて、かなりの速さで進む。
後ろに跨がるゲイルでガゼルは見えないけど、速さ的にもうちっちゃくなってるかな。




